星空学園
最初はのんびりとした話で途中からのんびりじゃなくなります
目覚まし時計の音が鳴って、電子音に急かされた私の意識が少しずつ覚醒していく、目を開けると小さな窓がありそこからは綺麗な星空が見える、早起きの私はほんの少しだけ二度寝をしてから起きる事にした。・・・五分だけのつもりだったのに少しだけ寝過ぎてしまったのは内緒だ、少しだけ慌てて朝の準備をする事で帳尻を合わせる事にしよう、寮で一人暮らしなので朝ご飯が出てきてくれたりはしない、でも冷蔵庫の食材が無いので簡単な栄養食を食べてお終いだ
とは言えソレだけだと味気なさすぎるのでちょっとしたゼリーを付ける、コレも栄養満点が売り文句のゼリーなのだが私の好きなチョコ味なのでそれなり以上に満足できる、そして朝の雰囲気だけでも出す為にニュースを流してみた
『・・・以上の事から今回の新発見によってさらなる短縮が可能になり、いずれ来る開拓の時に向けて大きな飛躍を遂げた事になります』
テレビではそんなよくわからない事を言っていた、凄い技術の話をしてるんだろうけど理系に疎い私には何を言ってるのかさっぱりなんだよ、宇宙船を造るのが早まったらしいんだけど、どうせ一般人の私には関係のない話だしね
テレビを消して次は出来ればシャワーを浴びたいところだけど時間もないしそもそも今この量は節水強化月間なので朝はシャワーが使えない、仕方がないので着替えを終えて身支度を整えたら学校へ向かう、寮生活の一番の利点はやはり学校までの距離だね、わたしの量は学校まで徒歩3分という極めて近い所にある
【緊・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・す、D・・・・・・・・・・・・・、気・・・・・・・・ください】
学校へ向かっているとどこからか放送が聞こえた。私は最近良よく鳴っているこの放送があまり好きじゃない、特に理由も無くなんとなく焦燥感に駆られるからだ、嫌な気分をどこかへおいていくためにも少しだけ足を速めよう
「おはよう恵子」
学校に到着し友達に声をかける、彼女は朝霧 恵子、小さいころからずっと一緒でなんでも話せる親友だ
「おはようライム、なんか浮かない顔ね、何かあった?」
「別に何も、ただまたあの放送が流れてて」
「あ~ライムあの放送苦手だもんね」
ライムというのが私の名前、正確には礼夢と書いてライムと読む、キラキラした名前に抗議して両親と一度喧嘩になったのは今ではいい思い出・・・という程でもないか、やっぱりもうちょっと良い名前が欲しかったよ!
「別に苦手って程じゃ・・・でもなんか焦るっていうか、恵子にも似たようなの無い?」
「あるある、なんかテンポの速い曲とか聞いてると急がないとって感じになるよね」
「そう。それ、そんな感じなの。恵子はまた難しそうな本読んでるね」
恵子が持ってる本には催眠術大全集と書かれている、恵子は結構いろんな本を読む、前はリラクゼーションの本だったしその前は宇宙の神秘とかいうタイトルだった、なんというかジャンルに統一性が無いなぁ
「結構面白いのよ?役に立つし」
「催眠術なんて効くの?ちょっとやって見せてよ」
「無理よ、催眠術と言ってもテレビでやってるみたいに便利な物じゃないの、クスリを使ったうえで長い時間かけて少しずつ条件反射を刷り込んでいかないといけないのよ」
「なにそれ、役に立たないじゃん」
「そうでもないわよ?例えば心的外傷後ストレス障害、いわゆるトラウマの治療とか役に立つ場面はあるのよ。あるいは混乱した時に落ち着けるような催眠かしらね、一流のスポーツ選手達が試合前にちょっとした体操やストレッチをしてたりするのを聞いたことない?」
「そう言えばどこかで聞いたような」
「試合前に軽い準備運動っていう意味もあると思うのだけど、アレってリラックスと体操を条件付けで結び付けてるのよ、だから体操に限らないけどリラックスした状態と結び付けて条件付けした行動を行う事でいつでも落ち着く事が出来るのよ、大げさに言えばソレも催眠と同じようなものなのよ、要は使い方次第ね」
その後も恵子と取り止めのない話を続けていく、そうこうしているうちに授業が始まった、私はあまり勉強は得意な方じゃないが最近は予習してきた場所がばっちり的中している、まるで預言者にでもなった気分だ、今日も先生にあてられたが何の問題も無く正解出来た。普段私を馬鹿にしている生徒達よ見るがいい、特に西沢お前は特に見ろ、いつもいつも私の事を下から数えた方が速いだの、答えを知ってても間違える無敵の馬鹿だのと言ってくれたが、私だってやればできるのだ
「調子いいじゃん」
隣の席から恵子がそう褒めてくれる、恵子だけだよ私の事をわかってくれるのは
いや待て、答えられている今が調子が良いという事は普段は答えられないという風に思われている・・・いやいや恵子はあくまで褒めてくれただけ、変な風に思い込むのは私の悪い癖だね、直さないと
「予習してきたからね、次恵子が当てられたらこっそり答え教えてあげようか?」
「そうね、どうしてもわからなかったらお願い」
「任せといて」
その後恵子が一度先生に当てられ私が答えを教えてあげた、恵子は普段はしっかり者で私がドジをした時にフォローしてもらう事が多いけど、時々抜けてるところがあるからね、こういう時に私がフォローしてあげないと
学校が終わり私は家に帰る、恵子は弓道部があるけど私は帰宅部だ、何度か一緒に部活をやらないかと誘われたけど、私はあまり運動が得意じゃない、前にテニスをやった時など顔にボールが当たって痣ができた、それ以来スポーツはあまり好きじゃない、恵子はその一件以降テニスから弓道に変えた、多分こっちなら私を誘えると思ってるのだろうけど、そもそも運動自体が得意じゃないから私にやる気はない、仕方がない事なのだ
家までの道でまたあの放送が鳴った、一日に二度なるのは珍しいな。おまけに妙な人を見た、私と同じくらいの身長の人がバイクに乗る時のような顔を全部隠すようなヘルメットを付けている、暑くないのかなアレ
家に付いて携帯をチェックする、恵子とのラインにはこの前起きた事やドラマの事等がログに残っている一番新しいメッセージは今度遊びに行こうという内容だ、返事を返してもいいけどどうせ学校で会うし明日直接言おう、何処へ行こうか考えていると新着メッセージが届いた、ラインの送り主は夏雨ちゃん、夏の雨とかいてなつめ、最近できた友達。彼女は目からうろこが落ちる様な事をいくつも教えてくれる、そんな彼女との最近のブームは珍しい事メールで、何気ない日常の中から一つだけ出来事をピックアップするのだ
『ばんわ~(^^)』
『こん~(*゜▽゜)ノ 夏目ちゃん、今日も絶好調だったよ、私の読みがズバリ大当たりしたのだ、コレならきっと明日の授業も行けるよ(*^▽^)/★*☆』
『おお~(*´∇`*)それは良かった、アタシも鼻が高いよ、そう言えば今日は変わったことは無かった(o'ω'o)モキュ?』
『σ(´-ε-`)ウーン…しいて言うなら放送が二回あった事かな』
『Σ(゜∀゜ノ)ノ☆ 大丈夫だった?』
『ヾ(・ω・;)ォィォィ、平気だってそれくらい、夏雨ちゃんはいつもオーバーなんだよ』
夏雨ちゃんとのやり取りはこんな感じだ、私の事を心配してくれるのはありがたいけど苦手な放送が鳴ったくらいでオーバーだ、彼女が過保護なのは今に始まった事じゃないけど
『そう言えば、アタシも少し悩み事があるんだ、ちょっと相談に乗ってもらっていい?(人'д`o)』
夏雨ちゃんからの相談は珍しいけどたまにある、最もその相談の半分くらいは私じゃ役に立てそうにない内容だったけど
『( ‘-‘ )b私で良ければドンと来なさい!!』
『大怪我をしたAさんって人が居るとするよね、その人を助けたいんだけど、そうするとそのAさんにとって大事な人を死なせてしまわないといけないの、Aさんはソレを望まないかもしれない、どうしたらいいと思う?』
『( ;_; )話が重いよ~、・・・でも夏目ちゃんはその人の事を助けたいんだよね?』
『あくまでそういう状況だったらって話なんだけど』
『じゃあ私は夏目ちゃんを応援するよ、助けたらAさんに恨まれるかもしれないけど、それでも私は夏目ちゃんの味方だから!』
『うん、ありがと』
『ごめんね、私馬鹿だからあまり上手い事言えなくて』
『ううん、そんなことないわ、とっても参考になったもの(*´ー`*)ゞ』
夏雨ちゃんはこうして時々正解が無い問題を出してくる、夏雨ちゃんが困ってるから参考までに私が答えてるんだけど役に立ってるのか怪しい所だ
その後も多少の雑談をした後ラインでのやり取りを終えて今度は後教科書に目を通す、明日の分の予習だ、昨日はここまでだったから今日はこの辺かな
窓からはたくさんの星が見える、星座はわからないけどとても綺麗だ、テレビでは朝のニュースの続きがやっていた、なんでも地球に隕石が衝突する可能性があるらしい、とは言え確率は低いし偉い人達が色々調べてたりしている、その上科学が進んだ今は宇宙船だって作り始めている、今朝はその宇宙船のニュースはそのためのギジュツカクシンとやらだ、小難しい話は私にはわからないし想像もつかない、なのでチャンネルをドラマに変える。最近話題のドラマで、私はこの話が気に入っている
テレビを見ながら夕食を食べてシャワーを浴びて寝る、今日もいい一日だった
翌日目覚まし時計で目を覚まし、歯を磨いてご飯を食べる、早く節水強化月間が終わってほしい、テレビをつけるとまたニュースがやっていた
『どうしてくれるんですか!?無責任ですよ!』
『あの状況ではああ言うしかなかった、私の責任ではありません』
『そんな言葉で国民が納得すると思ってるんですか!?』
私はニュースを消した、どうやら偉い人達がスキャンダルでも起こしたみたいだ、偉い人達は何時だってそうだ、下の人たちの事なんて考えてない、苦労するのは何時だって私達なのに
なんて取り止めも無い事を考える、正直偉い人のスキャンダルやら不正やらの結果私に何が起きたかと言われても分からない、遠くの人がよく分からない事をしてどうやら私が損をしたらしいのだが実感がわかないのだ、もっと世間に目を向ければ野菜の値段が上がってたりオイルの値段が上がってたりするんだろうけど、私はそんな事よりも昼ごはんと勉強と恵子と遊ぶ計画の方がよっぽど大事なのだ、ただでさえ少ない私の頭のリソースを他の事なんかに廻してる暇はない
「おはよう恵子、今日は料理本か、私も何か新料理に挑戦しようかな」
学校につくと恵子が料理本を読んでいたので簡単電子レンジ料理のレパートリーを増やせないか考えてみるのだが
「やめときなよ、ライムの料理は時々爆発するんだから」
「ひど!卵が爆発したのは一回だけじゃない」
「一回で十分よ、私の目の前で作った料理は通算8回、そのうちの一回が爆発したのだから爆発する確率は12.5%十分高いわね」
「も~~そんな事どうでもいいじゃん、そんなことより昨日のドラマ見た?」
「随分強引な話題の変え方ね、まぁいいけど、そうねドラマだけど私的にあそこで告白は無いわね、ムードが無さすぎるわ」
「え~私はいいと思うけどな~」
「・・・そう言えばライム、この前の話なんだけど」
「あ~ラインにあったやつね、ちょっと待って今考えてるの、遊びに行くのはすっっっごく楽しみだけど、行く場所とか色々考えないと」
「大丈夫よライムがのんびり屋なのは知ってるから、ゆっくり考えて決まったらラインに返事ちょうだい、適当に決めて後悔するようなのはやっちゃ駄目よ?」
「そんな事あったっけ」
「昔ライムが適当に海に行くと言い出して溺れかけた時の話よ、もう忘れた?準備体操も無しにいきなり飛び込むから」
「ソレは言わないでよ!ソレにアレはちょっと失敗しただけで後悔は・・・少ししかしてない」
「ライム・・・アウトよ」
「そんな~」
恵子は私の肩を叩きながら可哀想なものを見る目で見てくる。やめて、その目はやめて!でも懐かしいな、恵子のこんな目は結構久しぶりだ、レア恵子だと思えば少しうれしくもなってくる
学校が終わり私は恵子と別れて帰路につく、
家に向かっているとまたあの変な人を見かけた、顔を全部ヘルメットで覆ったフルフェイスの人だ、横を通り過ぎようとしたら話しかけてきた
「ちょっといいですか?」
フルフェイスの人がいきなり話しかけてきた、どこかで聞いたような声だが思い出せない、多分知り合いじゃないと思うので私はそのまま通り過ぎようとしてみる
「良くないです帰っていいですか?帰りますね」
だがフルフェイスの人は通せんぼしてきた、何なの?通報しますよ!警察はすぐに来るんだから!
「もう時間が無い、どうするかは決めましたか?」
いきなり話しかけてきた上に意味不明な事を言ってきた、この人の言う時間が何の事かはわからないが確かに私には時間が無い、夕ご飯を食べてドラマを見ないといけないし、学校の予習も夏目ちゃんとのラインも私にとってはとても重要な事だ、どれ一つとして欠かせない
「何の事かわかりません、帰らせてください!」
思い切って横を通り過ぎようとした、少し怖かったがフルフェイスの人は私に何もしなかった、通り過ぎた後でチラッと振り返ってみるとすでにフルフェイスの人は居なくなっていた、まさか幽霊とかじゃなかろうか、私は幽霊はあんまり得意じゃないからそう言うのはやめてほしい
結局何事も無く寮に到着、シャワーを浴びてから携帯をチェックする、恵子とのやり取りに再度目を通して、どこへ遊びに行こうかと想像を膨らませる、楽しみだな。う~ん、でも返事はまた今度にしよう、どうせ学校でまた会えるし
そう考えてると夏雨ちゃんから新しいメッセージが来た、彼女とのやり取りは楽しい、恵子とのお話しは勿論楽しいけど、夏雨ちゃんとのやり取りはとても新鮮に感じてまた違った楽しさがある、夏雨ちゃんはどうやら今度寮に遊びに来れるそうだ、寮の周りは複雑に入り組んでいて行き止まりも結構多い、迷わずに来れるといいけど、寝る準備をしてたら外から放送が聞こえる、せっかく気分良く寝ようとしてたのに空気を読まない放送だよまったく
少し目が覚めてしまったので水を飲んで喉を潤す事にした、ついでにテレビをつけてみる
『皆様、本当に申し訳ございませんが、本日をもってこの放送を終了させてもらいます』
小さいころから何度も見ていた番組が終わってしまったら少し悲しくなるね、別にニュース番組だから思い入れがあるわけじゃないんだけど。さて、そろそろ寝よう、今日も良い一日だった
翌日学校で恵子とお話をして授業を受ける、今日は授業中に放送が聞こえてきた、本当に空気を読まない放送だね
「放送うるさいよね~」
私は恵子にそう告げる
「そうね・・・気にしない方が良いわよ、ライムは多少は頭いいけど考えすぎるところがあるから」
「多少って、ソレは酷くない?」
「そう思うんなら宿題を自分でできるようになりなさいな」
「最近は自分でやってるじゃん、私だってやればできるんだよ!昨日だって変な人を見かけたけど何とも無かったし」
「なにそれ?変質者?」
「分かんないヘルメットをかぶってて顔が見えなかったし」
「ふ~ん、でも危ない人には近づいちゃ駄目よ?さて、ソレはソレとしてやればできるっていうなら前に私が大事だって言った事覚えてる?」
「勿論だよ・・・えっと・・・D-3えりあ?」
「D-4エリアの第3ルームよ、危ないから近づかないでって何度も言ってるでしょ」
「ちょっと間違っただけじゃん、それに近づいてないからセーフでしょ」
「心配ね、飴玉とか出されても付いて行ったら駄目よ?」
「も~、子供じゃないんだから」
そうこうしている内に学校が終わり家に帰る、携帯を開き恵子とのラインに目を通す、うん、どうせ遊びに行くならまだ見てない映画があるからソレを一緒に見に行こう、返事は・・・まぁ、わざわざラインでしなくてもいいよね、明日学校で聞いてみよう、そして夏雨ちゃんとチャットをして今日を終える、今日も良い一日だった
翌日、テレビをつけると別のニュース番組がやっていた、そう言えば昔から見ていた奴は終了してしまったんだっけ
『つきましては来月末までに必要な書類を郵送、もしくはネットでの手続きをお願いします。完全なランダム抽選を行い10万人を選びたいと思います』
いつものニュースのお姉さんと違い、とてもお堅い雰囲気の人がそんな事を言っている、10万人に当たるとか凄い抽選だね、私も応募してみようかな、でも10万人となると景品は消しゴム一個とかよくて1000円分のギフト券とかになりそう。でもどうせだからと応募方法を確認しようとしたところ、急にめんどくさくなってやめてしまった、よくあるよね、少しの間だけその気になるけどやっぱりめんどくさくなる事って、私だけじゃないと信じたい。ソレに前に似た様なものに応募して後悔した事があったような気がするので猶更気が乗らないのだ
「この前の遊びに行く話なんだけどさ、映画を見に行かない?」
私は学校で恵子にそう話を持ち掛ける
「いいわね、何の映画?」
「少し前の作品だけどまだ見たことなかった奴があるの、一緒に見ようよ」
「そうね、じゃあ今度の休日にでも・・・」
恵子がそこまで言った時にまた放送が鳴りだした、いつもよりも音が大きく恵子の声が聞こえない、本当に空気を読まない放送だ、授業が始まる前のちょっとした話すら邪魔してくるとは
「も~~~、放送うるさい!」
私が大声を上げると先生に注意された、なんでもこれから避難訓練を始めるらしい、普段よりも音が大きい上に少し放送の内容が違うのはそういう事だったのか、私は先生やクラスの皆と歩いていく、私達の学校は少し変わっている、教室もそうだが廊下も狭い、その上窓が小さいのだ、でも自慢できることもある、窓の外にはいつも満点の星空が広がっている事だ、私が校長なら星空学園とでも改名するのに
皆と一緒に避難場所まで進んでいると道が行き止まりだった、最近こういうのが増えてきてるんだ、完全に壁でふさがれてしまっている。ただでさえこの辺の道は複雑に入り組んでいるのにこういう行き止まりはやめてほしいよね、ココが駄目となるとC3エリアから回り込むのが近いかな、先生も同じことを考えたみたいで、C3エリアから回り込んでD4エリアの第一ルームに到達できた、しばらくはここで待機だそうだ
「ねぇ恵子避難訓練が終わったら何しようか」
「何って・・・学校があるでしょ?」
「あ~そうだったそうだった、じゃあ学校が終わったら映画見に行こう」
うら若き乙女たちをこんなところに閉じ込めるのだ、今日の学校はこれくらいにして遊びに行きたい気分だ、学校が終わったら今日はとことん遊ぼう、しかしなかなか避難訓練が終わらない、また放送が流れ始めた、なんだか頭痛がする
不意に電気が消えて赤い非常灯が付いた、なかなか本格的な避難訓練で、なかなか解除されない、ふと携帯がなった、夏雨ちゃんからのラインだ、そう言えばもうそんな時間か、そろそろ終わってほしいな、いつまで続くんだろう
夏雨ちゃんとラインでチャットを行うと心配性の夏雨ちゃんはやはり私の身を案じてくれた、大丈夫だよ、ただの避難訓練だし私は風邪とか引いたことないんだから、でも今日は放送が多いすぎてなんだか頭痛がひどくなってきた
「ねぇ恵子避難訓練飽きちゃった、こっそり抜け出さない?」
「駄目よ、危ないでしょ」
「でもずっとここに居るんだよ?トイレもご飯も自由にって言われてるしこのままだと今夜ここで過ごすとか言い出しかねないよ」
私がそう言ってるとまた放送が流れてきた
【緊・・・・・・3、・・・圧力・・・・・います、C1・・・・・・・封・・・す、気・・・・・・・・ください】
なんだか頭が痛い
「ライム大丈夫?」
「平気、ちょっと頭が痛いだけ、放送がうるさいんだもん」
「そうねちょっと音が大きいかしら、ちゃんと聞き流しなよ?ライムはこの音嫌いだもんね」
また放送が鳴った
【・急・・・・・5、艦・・・力・低下・・・・・せん、・・・・・・減圧により・・・・・・・・・・・壁を下ろします、・・・・・・退・・・・さい】
なんだか頭痛がひどくなってきた、何か大切な事を忘れてるような気がする、慎重に少しだけ思い出してみよう、確か前にネットで応募した懸賞が当たってしまって・・・いやいや、なんで今更そんな事を考えてるんだ、いま大事なのはそこじゃない
恵子と一緒にココに遊びに来て、学校の寮に入ったのは良いけど父さんと母さんと別れて・・・もう会えなくなって。あれ?なんで会えないんだっけ家に帰ればいつでも会えるはず。・・・頭が痛い、コレは考えたら頭痛が酷くなる事だったか。えっと・・・そうだった、今大事なのは圧力センサーを確認して避難先を決める事だ
「頭痛いなぁ、恵子、圧力センサーを確認したらこっそりと抜け出そう、きっと今じゃないと先生の目を盗んで抜け出せなくなるよ・・・恵子?」
私が振り向くと恵子は居なかった
「先生恵子知りませんか?」
先生に聞いても知らないとの事、全くしょうがないな恵子は、きっと外に行って迷ったんだ、普段はしっかりしてるのにたまに抜けてるからな恵子は、私が居ないと駄目なんだから
先生の注意を他に向ける事に成功した私は外に出て周囲を探してみるが恵子が居ない
「恵子、どこーー、私はここだよーー」
私が大声を出すも恵子からの返事は無かった、でも遠くにフルフェイスの人が見える、恵子の事を知ってるかもしれない、あまり関わりたくないけど仕方ない
「すみません、恵子を見ませんでした?ショートボブの可愛い娘なんですけど」
私がそう声をかけるとフルフェイスの人はこちらを振り返る、ヘルメットのせいで顔は見えないが背格好は私と同じくらいだ、その人は私を見ながらゆっくりと答えた
「あっちに居るよ」
そう言って聞き覚えのある声をしたフルフェイスの人が指さしたのはD4エリアの第3ルーム。恵子が前々から近づくなと言っていた場所だ、あんまり近づきたくはないけれど恵子が居るか確認するだけだしいいよね
「恵子いる?」
ノックをしてみるが中からは返事が無かった、ボタンを押してドアを開けようとしたら中から声が聞こえた
「ライム、ソコに居るの?」
「恵子!良かった・・・もう!一人でこんなところに来たら危ないじゃん、早く戻ろうよ。いやそれよりも遊びに行こうよ、ココ開けるね!」
「待ってライム、ドアを開けないで」
「何で?ソレにココは危ないって言ったのは恵子だよ?早く別の所に行こう」
「少し事情があって、ライムは先に戻ってて、私もすぐに行くから」
恵子がこんな風に私を遠ざけるなんて初めてだ、きっと中では大変な事になっていて、私を危険な目に合わせないようにしてるに違いない
「大丈夫だよ、私を信じて!きっと恵子を連れて帰るから」
私は頭痛が酷くなっていくのを我慢してドアを開けた、しかしドアから見る限り中にはヘルメットをかぶった人形がいくつも転がっているだけで恵子の姿は見えなかった
いや、きっとこの人形の中に隠れているんだ、臭気が酷いが我慢して中を探索する事にした
「恵子ー、ココに居るんでしょ?かくれんぼなんてしてないで出てきてよ」
返事が無いが私が諦めずに探していると・・・居た、この前私があげたシールを服に張っている、ヘルメットをかぶっているけど私にはすぐわかるんだ
「いたいた、恵子ココに居たんだ、さぁ教室に戻ろ?ってそう言えば避難訓練の最中だったね、とりあえずココを出ようよ」
私が声をかけるが返事は無い、恵子の手元には本が落ちていた、表紙にはこう書いてある『有事の際の後催眠発動キーとその効果について』さすが恵子だ、難しそうな本を読んでるんだね
「恵子?」
私が何度声をかけても反応が無かった、何故か私の心臓がドンドン速くなっていく、頭痛もひどくなる一方だし、暑くも無いのに汗をかき始めた。胸がざわつく、なんだか凄く嫌な予感がする、私は意を決して恵子の頭にあるヘルメットを外してみた
しかしそこに恵子はいなかった
「アレ!?ごめんなさい、てっきり恵子だとばかり」
間違って勝手にヘルメットを取るなんて失礼な事をしてしまった、謝ってからヘルメットを戻して他の場所を探そうとして後ろを振り返ると、ソコには聞き覚えのある声をしたフルフェイスの人が居た
「どうする?」
「何言ってるの?それより恵子はどこ?ココに居るって言ったでしょ?」
「今更見て見ぬ振り?ソレならソレでいいけどそろそろ戻らないと」
フルフェイスの人はさっきからよくわからない事ばかり言って私を混乱させようとしている、やっぱりこんな変な人を当てにしたのが間違いだったんだ、こんな人なんてどうでもいいから早く恵子を探そう
そう思って見回してみると私の後ろに今度こそ恵子を見つけた、この前私があげたシールを服に張っている、ヘルメットをかぶっているけど私にはすぐわかるんだ
「恵子、今度こそ見つけたよ、さぁ帰ろう」
私は恵子に手を伸ばす、恵子は何故か動こうとしない、フルフェイスの人が私の横に歩いてきた
「コレが最後の警告だよ、本当にソレでいいんだね?」
頭が痛い、でも恵子を置いては帰れない、だから私は返事をしない恵子のヘルメットを取った、その中には恵子は居なかった
「アレ?ごめんなさい、てっきり恵子だとばかり・・・恵子?」
頭が痛い、恵子は居ない、でもヘルメットをかぶせたらソコに恵子は居た、ヘルメットを再度取ると恵子は居なくなった、どういう事だろう、そうかこの人は恵子の服を着てるのか、皆似たような服だし間違ったのかもしれない、私ったらこんな簡単な事に気付かなかったなんて・・・駄目だな、こんな事だから恵子や夏目ちゃんに心配させてしまうんだ
「ねぇ恵子がどこにいるか知らない?」
隣に居るヘルメットの人にそう聞く、あぁそれにしても頭が痛い
「そっちを選ぶんだね、じゃあそろそろちゃんと見なよ、私の目の前に居る恵子を」
「この人は恵子じゃないでしょ!何言ってるの!?」
いい加減私の我慢も限界を迎えフルフェイスの人の頭を叩いた、そんな簡単に跳ぶはずもないのにヘルメットが簡単に取れてしまった。ヘルメットが取れた後にあったのは凄く見慣れた顔だった、まるで鏡を見ているかのような・・・
「満足した?、そろそろちゃんと見なよ、私が選んだ事でしょ?」
「何いってるの?なんで私と同じ顔してるの?ドッペルゲンガーってやつ?それとも死神?それよりも恵子を出して、早く助けないと」
「後悔しないようにね」
「何言って・・・」
私がそう言いかけたところでフルフェイスの人が消えてしまった、頭が痛い、死神は去ったのだ、頭が痛い、なら恵子を助けないと、頭が割れそうに痛い・・・次の瞬間また放送が鳴った
【緊急コード306、艦内の圧力が低下しています、D4エリアの気密をチェックしてください】
「あ・・・ああああああ!!」
私は思い出した・・・思い出してしまった
そうだココは学校じゃない、宇宙船の中だ、地球に隕石が衝突するから宇宙船で逃げようって事になってこの国の1億を超える人口の中からたった10万人しか船に乗れないって、私と恵子はその10万人の中に入れた、それなのに宇宙船にも隕石が衝突してしまった
宇宙船は修復不可能になって、暴動が起きて、いつの間にか私しか居なくなっていた、怖い・・・怖いコワイこわいコワイこわいこわい、なんで私しか居ないの?一人ぼっちなの?恵子は?さっきのフルフェイスの人でもいい誰かいないの?
「誰かいませんか?」
私は大声を上げて部屋の外に出ようとスイッチを押して外に出る、さっきまで先生やほかの生徒がいたはずの部屋には誰もいなかった
「誰か・・・」
声がむなしく響く中船内では警告のためのアラート音が鳴り響いている、私はもう一度廊下に出ると再び放送が鳴り始めた
【D4エリアの気圧が危険域にまで下がっています、あと1分でD4エリアの封鎖を実行します、乗組員は退去してください】
もう私には時間さえ残されていない、全部嘘だった、何もかも私自身が作り上げた幻に過ぎなかった。何処に行けばいいんだろう、もう何処にも逃げ場なんて・・・私は宇宙服すらつけてないのに・・・
放送のカウントダウンが進む中私は第3ルームに入った、恵子が・・・恵子の死体がある場所だ
部屋に入るのとほぼ同時に私が居るこの付近は封鎖されてしまっていた、もう出ることは出来ない、この部屋は空気漏れが起きてないみたいだが、もう二度とココから出られない、他の人の宇宙服を借りれば外に出ることはできるかもしれないが、仮に出たとしても、何をする?逃げ場なんてどこにもない、助けてくれる人なんて居ない、舩は修理できない、私はただ死ぬのを待つことしかできない、嫌だいやだ嫌だイヤだいやだイヤダ、誰か助けて・・・
私が縋る思いで恵子のところに戻ると恵子の手元にあった本に目が留まった『有事の際の後催眠発動キーとその効果について』と書かれた本だ、恵子は死に際に私に後催眠をかけてくれた、事前に催眠をかけておくことで、必要な時にすぐさま催眠状態になるための方法、ソレが後催眠、そのお陰で鈍間な私でもパニックになる事なくスムーズに隠れる事が出来たんだ
この本があればまた学校へ戻れるかもしれない、連続して使うと効き目が悪くなるけどそれでもいい、せめてこんな気持ちのまま死にたくない
私はその本を開き後ろの方にある特緊急時用の催眠発動キー、そのパスワードを見た、後はコレを携帯に入力すれば携帯から音と映像で後催眠を発動してくれる、でも本当にコレを使っていいの?恵子は私の心だけでも助ける為にコレを使ってくれた、でもそれを私は台無しにしてしまった
私は本当に馬鹿だ、何時も手遅れになってから気付くんだ、でも今は・・・今だけはちゃんと考えよう、せめて今からだけでも
私は考える、助かる可能性は・・・無い、船はボロボロで修理の見込みは無い、私にできる事は死に方を考える事だけだ。後催眠を発動すればきっと心は楽になる、けど催眠は万能じゃない、都合の悪い事はある程度勝手に帳尻を合わせてくれるけど無理な事は無理だ、私が両親の事を思い出せなくなったようにあまりにも都合が悪い事は思い出せなくなる、そして無理に思い出そうとすると頭痛が発生する。私はコレを使った後にまた恵子に会えるだろうか、他の場所ならともかくここには恵子の死体がある、コレを無視して恵子と会える可能性は低いんじゃないだろうか
私にはわからない、けどわかる事もある、これから死ぬことと、それが凄く恐いという事だ、今も頭の芯まで恐怖が渦巻いている、だんだん恵子の事すら考えられなくなってきた、怖い死にたくないこわいコワイ恐いこわいコワイ
私は後催眠を・・・
不意に音が鳴った、携帯からだ
「夏雨ちゃんだ!、こんな時間にどうしたんだろう、ってもう朝じゃない、うわ徹夜だよまったく、アレ?なんで徹夜してたんだっけ、今日くらいは学校休みたいな、いやそもそも今は確か避難訓練だっけか、まだ終わってないの!?トホホだよ」
夏雨ちゃんのラインからメッセージが来た、もう学校の近くに来てるんだそうだ、ごめんね~避難訓練中で今は会えないんだよ、そう返事をして携帯を閉じる、早く避難訓練が終わらないかな、そう思って私は座って待つ、床には人形が大量においてあって座りずらい、隅っこのほうではシールを張った服を着た人形が置いてある、なんか見覚えがあるシールだな、私の好みにぴったりだよ、そう言えば恵子はどこだろう・・・なんか頭が痛いな
何時間も座っていてそろそろお尻が痛くなってきた、お腹もすいた、でもここにはトイレはあるけどご飯が無い
-ドンドンドン-
物音がした扉の向こうからだ
「誰?」
「やっと見つけた、アタシよ夏雨、ソコに居るのはライムちゃんよね?」
「夏雨ちゃん!うわ~嬉しい、本当に来てくれたんだ、道迷わなかった?」
「迷いかけたけど何とかなったわ、それよりココを開けて一緒に行きましょう、服は制服?私服?どちらでもいいわ、とにかく出てきて」
「うん!今開けるね」
私が開けようとするといつの間にか隣にヘルメットをかぶった人が居た、バイクに乗る時にかぶるようなフルフェイスのヘルメットをかぶった人だ、その人は聞き覚えのある声で私に話しかけて来た
「開けるの?」
「うん、だって夏雨ちゃんが来てるし」
「恵子のやってくれた事を無にして、その上恐怖に負けて、今度は死神と会いにでも行くの?」
「何言ってるの?夏雨ちゃんが来てるんだよ?」
「本当にソコに居るの?助けなんて来るわけ無いじゃない」
「何言ってるの?どういう意味?」
助けってどういう意味?もしかして避難訓練の事かな?だとしたら夏雨ちゃんは避難場所に現れた警察とか消防署員の役かな?役・・・?夏雨ちゃんは私に会いに来てくれたんだから避難訓練とは関係ないよね?私がそう考えていると夏雨ちゃんが話しかけてきた
「ライムちゃん、誰かソコに居るの?とにかく出てきて、こっちからだとドアが壊れてて開けられないの」
ドアが壊れちゃってるのか、うちの学校は微妙に古いからね、私はとりあえず外に出ようとスイッチを押す
【第3ルームの外は気圧の低下・・・封鎖・・・います、緊・・・・・は手動・・・開閉を・・・・・さい】
けど妙な放送が流れるだけでドアが開かない
「アレあかないよ、この場合どうやったら開くんだっけ」
確か手回し式のハンドルを回せばいいんだっけか、まったくうちの学校も妙な仕掛けを作らないでほしいよね
私がハンドルに手をかけると横に恵子が居た
「ライム、行っちゃうの?」
「恵子!良かった助かったんだね!?アレ助かる?」
よくわからない、なんで恵子が助かると良いんだっけ?理由もわからず涙が出てきた
「それよりもライム、携帯使うから画面が小さいけどあっちで一緒に映画でも見よ?まだ見てない映画あったんでしょ?」
「そうだったね、一緒に見ようか、でも夏雨ちゃんも来てるんだよね」
「ドアが開かないし向こうには誰も居ないわ、何も聞こえないもの、それにあっちは危ないわ、最後くらい一緒に楽しみましょ?」
「そう・・・だね最後くらいその方が良いよね・・・最後って何がサイゴなんだっけ?・・・まぁいいか」
私は恵子のところに向かう、ヘルメットで顔は見えないけど服に私のあげたシールが貼ってあるから私にはすぐわかるんだ、横に居る恵子と一緒に歩いて座っている恵子のところに行く、映画を見るのはきっと楽しい、だって前からラインで遊ぼうって相談してたんだもん、恵子が死んじゃってからラインに返事しちゃうと全部が終わってしまう気がして返事できなかったけど、こんな事ならもっと早くこうやっておけばよかった、アレ?何かがおかしい気がする
「ライムちゃんソコには誰も居ないわ、ねぇアタシのところに来て!もう大丈夫なのよ、苦しい事も悲しい事ももう全部終わりなの」
少しずつ部屋の空気が無くなり苦しくなっていくなか、ドアの外で夏目ちゃんがそう叫んでいた、そうだった、もうすぐ終わりなんだ、夏目ちゃんの所なら苦しく無くなるんだろうな
「夏雨ちゃん・・・でも恵子が」
恵子を置いていくなんて私に出来るわけが無い
「ライム、外には誰も居ないわ、外に出たら死んでしまうのよ、こっちへ」
恵子と夏雨ちゃんが私に話しかけてくる、どうしよう、きっと恵子の言う事が正しいんだ、私は何時だって鈍間で馬鹿な事ばっかりやって恵子に助けてもらっていた、ソレに外は真空状態だから人なんているわけがない、真空ってなんだっけ?とにかく外には誰も居ないんだ。でも夏雨ちゃんが来てるんだよね
私は悩み抜いた、きっと人生で一番悩んだに違いない、恵子は親友だけど夏雨ちゃんだってまだ会った事は無いけど立派な親友だ、せっかく会いに来てくれたんだから一度くらい会いたい、だから私はひらめいた、扉を開けて3人で仲良く映画を見ればいいのだ、こんな簡単な事に気付けないとは恵子も抜けてるね、まぁたまには私の方が賢い事もあるのだ
ハンドルを回していく、ハンドルは妙に重かったけど少しずつ回していくとガチャンと音がした、最後にレバーを引けばドアが横に開く、恵子はまだ私を止めているが、名案を思い付いた私は止まらない
そして私はドアを開けた
一応後日談?的なものはあるのでエピローグとして投稿します