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危険な賭け、その結果


「おいおい、爆薬を使うって?こんな地下で、大丈夫なのかよ?もしかすると異国人てのは、どいつもこいつも阿呆あほうなんじゃねえのか?」


 シュベルツは疑念をはらんだ口振りでそう言った。

 すでに彼に続いて《フーリガンズ・ストライク》の面々が、さらにしばらく時間を置いて、ヨーカーも橋の上の陣地に戻って来ている。

 コーネリアの説明を聞いたシュベルツには、彼女が爆薬の使用を許可した事が意外だった。いつも慎重な彼女らしくない。

 運営のチェックをすり抜けてダンジョンに爆薬を持ち込んだ《ハイカイ・メキシキーセ》にも、不信感を抱いていた。


「良いじゃねえか。まだまだ戦いは続くんだ。ここは景気付けに、ド派手にやってもらおうぜ‼︎」


 シュベルツとは対照的に、ヨーカーはご機嫌な様子で明るく言う。

カタナ」に付いた血糊ちのりぬぐっているヨーカーは、もはやほぼ全身と言って良いほどに返り血を浴びて、革鎧やその下に着用している戦闘服は元の色が分からないような有り様になっていた。

 その声の様子からも雰囲気からも、彼が戦闘に酔ってハイな状態になっている事は明白だった。



「コーネリア‼︎ 準備完了だ‼︎ ヤツら、“発破はっぱ”を使うぞ‼︎」


 離れた場所からコーネリアに声がかかる。


「前衛のメンバーは防御の態勢のまま、橋に寄って固まって‼︎合図があったら低い姿勢を取って爆発に備えるのよ‼︎」


 大声で指示を出し続けるコーネリアの声は、ややガサついている。戦闘前からずっと酷使されている彼女の喉は、徐々に荒れ始めていた。


 いよいよ爆薬を使用するのだろう。《ハイカイ・メキシキーセ》のメンバーたちが立ち上がった。まわりの冒険者たちに、身振り手振りで何かを投げる事を伝えようとしている。

 彼らの手には、警棒を短くしたような物が握られていた。煙幕弾のように、伸びた導火線の先で、火花がバチバチと散っている。


「投ゲるゾォ‼︎‼︎ あタまヲ、低クしロォ‼︎‼︎」


 メンバーの一人はカタコトの大声で叫ぶと、手に持った火花を散らすそれを、角鬼ゴブリンが固まっている場所に向けて放り投げた。それはくるくると回転して火花で輪を作りながら、大きな放物線を描いて飛んでいく。


「たーーまやーーーー!」


「バカッ‼︎ そんなのいいからしゃがんで伏せなさいってば‼︎ 爆発するわよ‼︎」


 立ち上がったまま呑気のんきに放物線を目で追っているヨーカーの戦闘服のすそを、コーネリアはつかんで引っ張る。

 たとえイカれた人格破綻者でも、今は貴重な戦力だ。つまらない事故で失うわけにはいかない。しかし彼女の力ではヨーカーをしゃがませる事ができなかった。


 するとどこから現れたのか、ボードゥアンが腕をヨーカーの肩に回したかと思うと、そのまま地面に引き倒した。そして自分たちを覆うようにカイトシールドを引き寄せて構える。



 その瞬間、轟音が大空間内に鳴り響く。空気がビリビリと振動し、地面である橋がわずかに揺れた。


 坑道の掘削くっさく目的で起こす爆発よりは確かに大人しい爆発なのだろうが、それでもその暴力的なエネルギーの発露はつろに、コーネリアの麻痺した恐怖心が頭をもたげる。


(お願いだから手元が狂って私たちの近くに投げる、なんてのはやめてよ。最期が爆死だなんて、冗談じゃないわ‼︎)


 さらに続けざまに何発も、あちこちで爆発が起きる。地面に伏せたまま横目で見ると、離れた場所に居る《ハイカイ・メキシキーセ》のメンバーたちは、まだ爆発物の投擲とうてきを続けていた。


(ちょっっ‼︎ ちょっと‼︎ いつまで続けるつもりなの⁉︎ アイツら‼︎ ……しまった‼︎ 止めるタイミングを指示してなかったわ‼︎)


 コーネリアの視界のほとんどを覆っている他の冒険者の、伏せた体。その輪郭から、爆発が起きるたびに吹き飛ばされた角鬼ゴブリンたちや、その体の一部がポンポンと飛び出して、宙を舞っているのが見える。

 “戦士ウォリアー”の巨体、その重そうな上半身さえも爆風に引き裂かれて、ちぎれて飛んで行く。爆発が起きるたび、細かい砂利や角鬼ゴブリンたちの血飛沫ちしぶきがパラパラと、まるで雨のようにコーネリアたちが伏せている場所まで飛んで来て、降り注いでいた。


「ひゃはははは‼︎ すっげえ‼︎ 牛のクソに爆竹突っ込んで破裂させた時みてえだ‼︎ ひゃはははは‼︎ すっげえ‼︎ たーーまやーーーー‼︎ ひゃはははは‼︎」


 その声につられて見てみれば、コーネリアの横に倒れているヨーカーが、首だけを起こして爆発の様子を眺めていた。何が面白いのか、吹き飛ぶ角鬼ゴブリンたちの様子を見て、ゲラゲラと笑っている。


 なんとも現実感のとぼしい今の状況に、コーネリアは自分が何か悪い夢でも見ているのではないかと、ふとそう思う。


(ああもう‼︎ いくらなんでも、こんなに無茶苦茶するとは思わないじゃない‼︎ 何なの⁉︎ これ。ワケがわからないわ‼︎)


 そうやって大空間が崩落したりしないように祈りながらコーネリアが小さくなっていると、激しく連続する爆発が、ふっと止んだ。

 鳴り響く爆音、轟音から打って変わって、大空間内は重くくすんだような静寂で満たされていく。


「終わった?…………よし、みんな立ちなさい‼︎ 前衛は持ち場に戻って防御を固めて‼︎ 最優先でそれぞれ周囲の状況を確認するのよ‼︎」


 コーネリアは弾かれたようにガバッと立ち上がると、周囲の冒険者たちに指示を出す。その声で冒険者たちは続けて次々と起き上がり、わちゃわちゃと慌てたように動き始める。



 見渡せば、橋の周囲の景観は一変していた。

 爆発で巻き上がった粉塵の“もや”が薄れていくとともに、段々とまわりの状況が見えてくる。


 “発破はっぱ”を使用する前、大空間内の床はその面積のほぼ全体を群れなす角鬼ゴブリンたちで埋め尽くされていたのだが、ぽっかりと空いたスペースがところどころにできていた。

 爆薬が爆発する際の熱で焦げたのか、それともススの色なのか、空いたスペースの床は黒く変色している。

 そしてその周辺には、原型を留めていない角鬼ゴブリンたちの死体がゴロゴロと転がっていた。爆発に吹き飛ばされ、体のあちこちが欠けた無惨な状態の肉塊へと変わり果てている。


 驚くのは、連続する爆発に晒されながら、大空間内の壁も、柱も、黒ずんだ床も、ほとんどダメージを受けたようには見えない事だった。あれほど恐れた落盤や崩落の危険は、まるで感じられない。

 


 角鬼ゴブリンたちは何が起きたのか理解できていないのだろう。どの角鬼ゴブリンも動きを止めて呆然としており、その様子は混乱しているようにも、恐怖ですくんでいるようにも見える。

 “発破はっぱ”の効果は、間違いなく角鬼ゴブリンの軍勢に大きな衝撃を与えていた。



「見たか角鬼ゴブリンども‼︎ これが冒険者サマの恐ろしさだぁぁ‼︎ ……さらに‼︎ 追い討ちをかけるように俺様という恐怖がてめえらを襲う‼︎ どいつもこいつも、俺様に斬られるのを大人しく震えて待ちやがれ‼︎ ッくぜぇ‼︎ ひゃははははははは‼︎」


 狂気じみた声をあげながら駆け出していくヨーカーに続いて、シュベルツ、そして《フーリガンズ・ストライク》も陣地を飛び出していく。

 さらには今が反撃のチャンスと見たのか、前衛のメンバーの何人かが持ち場を離れると、恐慌状態に陥った角鬼ゴブリンたちを一方的に攻撃し始めた。

 射手や弓手たちも、射撃を再開する。


(私は、賭けに…………勝った‼︎ 勝ったわ‼︎ 完全に逆転した‼︎ 形勢逆転よ‼︎ これなら……これならこの戦い、絶対に勝てる‼︎‼︎)


 見事に賭けに勝利し、この「死闘」に勝ち筋を見出みいだしたコーネリアは、角鬼ゴブリンを攻撃する味方を援護するべく魔術発動のため、精神集中の詠唱を開始する。

 他の魔術師たちも、ここぞとばかりにハイペースで魔術を撃ち続けている。中には高価な精神高揚の効果を持つ水薬ポーションを、大盤振る舞いと言えるような勢いであおっている者もいた。


 逆転の勢いに乗った冒険者たちの攻撃の前に、角鬼ゴブリンの軍勢は総崩れとも言うべき状態になっている。“発破はっぱ”を使う前の、荒ぶる波濤はとうを思わせる攻撃の勢いは、見る影もなく消え失せていた。

 ギリギリだった攻防が嘘のように、冒険者側有利の、一方的な展開になっている。角鬼ゴブリンたちは、次々と冒険者の攻撃の餌食えじきとなり、その数をじわじわと減らしていく。


(押し切る‼︎ この勢いのまま、押し切って見せるわ‼︎ 私は冒険者組合の記録に、“大攻勢ヴァイオレイター”を跳ね返した冒険者たちの指揮官として、その名を刻むのよ‼︎)


 コーネリアが勝利を確信したその時だった。

 大空間内に突然、やかましく大きな、角笛の音が鳴り響いた。


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