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幕間、ヴァルソリオ城にて


 “お嬢様”は、その細い腕で、これまた細いとしか言いようが無い彼女自身の体をき抱いて、ぶるぶると震えている。

 その目はカッと見開かれて、視線はクリスタルモニターの画面に釘付けになっていた。


「す、凄い、凄いわ……。こんな事が起きるなんて。信じられない……。噂に聞いた“大攻勢ヴァイオレイター”を、この目で見る事ができるなんて……」


 レエモンはそんな彼女の様子を横目で盗み見ている。視界の端にぼんやりと映る彼女の発する声からは、抑えようとしても抑えきれない異様な興奮がれ出していた。


「これこそ“ダンジョンコンクエスト”フリーク冥利みょうりに尽きると言うものだわ‼︎ ああ、何という事でしょう‼︎ どうしましょう‼︎ 今から起きる事が楽しみ過ぎて、おかしくなってしまいそうよ!私‼︎」


 抑えられない興奮の矛先ほこさきがこちらに向いて来ませんように、レエモンは心の中で、神にともなく祈り始める。


「レエモン‼︎‼︎」


「は!はい……」


 無駄だったようだ。レエモンは慌てて返事をする。


「あなた、なんて幸運なのかしら⁉︎ 初めて観戦する大会で、“大攻勢ヴァイオレイター”に遭遇するなんて‼︎……いえ、もしかしたら不幸なのかしら?最初にこんなの見ちゃったら、これから観戦する大会が、どれもこれも物足りなくなるかも知れないわね」


 喜色満面きしょくまんめん、といった表情で“お嬢様”は話しかけてくる。

 これからも“ダンジョンコンクエスト”の大会を観戦するかどうかはともかく、彼女の上機嫌に水を差さないように何とか話をふくらませようと、レエモンは彼女に質問する。


「ええと、無知をさらすようでお恥ずかしいのですが、“大攻勢ヴァイオレイター”というのは、一体どのようなものなのでしょうか?」


 レエモンの質問を聞くや、「同好の士」になる可能性を持つ者から質問された事がよほど嬉しかったのか、“お嬢様”は興奮気味に、やや早口で説明し始めた。


脅威生物モンスターを相手にする冒険者たちの間で使われてる用語なんだけど、群れをなす脅威生物モンスターが何かのきっかけで集団で暴走するのが“大暴走スタンピード”。脅威生物モンスターの中でもある程度の知能を持つ種が、何らかの目的を持って対象を大きな集団で襲撃する事を“大攻勢ヴァイオレイター”と呼ぶらしいのね」


 非常に弁舌滑らかな説明だ。“お嬢様”の頭の回転の速さがうかがえる。


「大昔は“大攻勢ヴァイオレイター”によって、人間の兵士が守る城砦じょうさいや小規模な都市が陥落おとされる事もあったらしいわ。でもそれがダンジョン内で起きるなんて……そしてそれを迎え撃つのがランキング上位チームばかりだなんて、ああ‼︎ なんて贅沢なのかしら⁉︎ 庶民に観せるには、あまりにも勿体無いわ‼︎」


 そう言って“お嬢様”は目をキラキラさせながら、陶然とうぜんとした表情を浮かべる。

酒が入っているせいもあるのだろう。彼女の頬は朱色に染まり、元々の色からは随分と血色が良くなっていた。


 レエモンは椅子に座る執事に目をやる。薬を飲んでからの彼は、ぐったりとくたびれた様子で、力無く椅子にもたれかかってうつむいている。

 その足元では“道化”がこれまたゲンナリした表情で、視線を床に落として三角座りして小さくなっている。

 “お嬢様”の上機嫌とはあまりにも対照的な二人の様子に、レエモンは同情の念を禁じ得なかった。


 レエモンは彼らの痛ましい姿から目をらし、クリスタルモニターに視線を移す。

 四分割された大画面に映る映像のうちの一つに、冒険者たちの姿が映し出されている。

 どうやら彼らは大きな空間を目的地に決めて、そこへ集合し始めているようだった。


「“ちんちくりん”どもの大集団は着々と冒険者たちに近付いている。その大集団には例の“でかぶつ”たちもチラホラと混じってる。凄いわ、全部でどれくらいの数になるのかしら……。これじゃあ、緒戦でカリカリしてた私が、まるで馬鹿みたいじゃないの」


 うふふ、と上品に笑いながら、“お嬢様”は葡萄酒ワインが注がれたグラスを傾ける。グラスの細長い脚には精巧な細工が施されており、葡萄酒ワインが底に溜まっている丸いボディは驚くほど薄く造られていた。

 一見しただけでそれなりの値段がするであろうと予想できるそのグラスに注がれている葡萄酒ワインも、これまた一般には出回らないような高級品である事は疑いようが無い。

 “お嬢様”は客であるレエモンにも葡萄酒ワインを勧めてきたが、万が一グラスを割りでもしたらと考えた彼は、その気遣いを恐縮しつつ丁重にお断りした。


 そして、そんな至高の葡萄酒ワインを、非常に絵になる上品な姿で飲んでいる彼女は、間違い無く葡萄酒ワイン以上にクリスタルモニターの中の光景に酔っている。


 何とも不思議な光景だ。ヴァルスラッグ虹貨こうかを受け取った時にも感じたが、やはりヴァルソリオ城(ここ)は、浮世からはどうしようもなく隔絶した場所であるらしい。


「ああ、冒険者たちと、ヤツらの衝突が待ちきれないわ。早く、早く私を楽しませて頂戴ちょうだい‼︎おかしくなりそうよ‼︎」


 “お嬢様”の声を聞きながら、まるで現実感というものが感じられず、どうにも足が地につかないような奇妙な感覚の中、レエモンの意識はクリスタルモニターの映像へと戻っていくのだった。


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