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エンカウント


 その部屋は球を上下半分に割った上の部分のような形、つまりはドーム状に広がっていた。

 驚くのは今まで歩いてきた通路と同様に床には石畳が敷き詰められ、滑らかに弧を描いて繋がって一体化している天井と壁も、大きな加工された石が積み上げられてできている事だ。

 ランタンをかざして部屋を観察していた僕はさらに驚いた。

 部屋の中央に天井まで伸びている太い一本を除いて、柱が立っていない。これでよく天井が崩れて来ないもんだと感心する。


 建築技術もさることながら、一体どのくらいの労力がかかっているんだろうか?


 皆もこの部屋に足を踏み入れた途端とたん、立ち尽くして部屋の中を見回している。


「本当に凄いわね、このダンジョン。一体何の目的で建造されたのかしら?」


 感心した様子でセリエが呟く。


「なあなあ、この柱にある紋章、入口にもあったよな。何なんだろうな、これ」


 柱の前に立っているキドルがこちらを振り向きながら言う。


「ちょっ!不用意に触らない方が良いよ……って、ひゃあっ‼︎」


 カーラの制止も虚しくキドルが柱の紋章に触れた瞬間、急に部屋の中が明るくなった。


 これは目眩めくらましだろうか?

 もしかしてトラップのスイッチだったのか?

 僕達は反射的に一箇所に固まって、あたりを警戒する。


 そのまま緊張の中で時間が過ぎていく。…………しばらくして何も起きないことを確認した僕達は一人、また一人と警戒を解き始める。


 目眩めくらましかと思われた明るい光に目が慣れていく。

 光源は天井から突き出ていた水晶のような物体だ。通路の天井にあったものと同じ形をしているが、多分それよりもサイズが大きいと思われる。


「もしかして、明かりを点けるスイッチだった……?」


 ルーシアの呟きで皆が状況を理解する。

 と言う事は、入口にあった同じ紋章に触れていれば、通路の天井に突き出ていたあの水晶も明かりをともしていたんだろうか。


「凄い!凄いわ!このダンジョン‼︎私たち大発見をしたんじゃないかしら?こんなの、“ダンジョンコンクエスト”でも観た事無い‼︎これを報告したら、組合だってきっと驚くわよ‼︎」


 セリエの声には驚きと興奮がハッキリと表れている。

 確かにこんな仕掛けは僕も初めて見る。一体何なんだろう、このダンジョンは。


「あれは多分……、魔煌まこうランタンと同じ原理で光ってるんだろうけど、光の強さが段違いね。それに、スイッチもトラップとかでよく有る踏み込み式とかじゃなくて紋章に触れるだけ?一体どんな仕組みで作動してるのかしら」


 セリエは観察と分析を続けながらブツブツと独り言を呟いている。


 それにしても、キドルの行動は軽率だったかも知れないが、おかげで探索は少し楽になったと言える。松明たいまつや普通のランタンに使う油が必要無くなった。

 それに、それらの光よりも天井の水晶の光は強く、これならダンジョン内の様子がよく見える。


 ドーム状の部屋には、僕達が歩いてきた通路とは反対側になる壁に三つ、ある程度の間隔を空けて奥へと向かう通路の入り口が見える。

 その入り口の奥に続く通路の天井にもあの水晶が付いているらしく、それが光っているので奥の様子がここからでも確認できた。


 どうやら通路の入り口を入ってすぐにくだりの階段か、もしくは坂になっているらしく、それに合わせて通路の天井も奥に向かって傾斜しているようだった。


 気付けばよく見えるようになった部屋の中を、カーラはあちこち移動して見て回っている。トラップの気配がないか確認しているのだろう。


「ここに中継キャンプを張っても良いかもな。寝るときはもう一回紋章を触れば明かりは消えるんだろ?多分…………‼︎‼︎」


「「‼︎」」


 キドルがそう言ったその時だった。移動する集団の足音のようなものが遠くから聞こえてきた。


 足音は少しづつ大きくなっているようで、皆にもその音は聞こえている。

 僕達はもう一度、部屋の中央にある柱の近くに固まって、周囲を警戒する。あの足音は人間が立てるものじゃない、間違いなく脅威生物モンスターだ‼︎


「そう来なくっちゃな!俺らはここに観光に来たんじゃねえからなあ‼︎」


 そう言いながらバスタードソードを抜き放って構えるベランは嬉しそうだ。

 探索に退屈していたであろう彼は、能力を思い切り発揮して活躍できる戦闘への期待をふくらませているんだろう。表情から彼の興奮と高揚が見て取れる。


 そんな彼を横目に見ながら、僕は恐怖や焦りに飲まれないように、無意識のうちに呼吸を整え始めていた。


 クロスボウにボルトを装填し、予備のボルトをトリガーを引く右手とは反対の左手の指の間に挟む。


(どこだ?どこから現れる?)


 僕達は歩いてきた通路、そしてその反対側の三つの通路、それらの入り口に次々と視線を移動させながら敵の登場を待つ。


 足音はすぐ近くまで来ていた。僕は嫌な予感を覚える。

 響いてくる足音から予測できる敵の数は、思っていたよりも多い。


 ジリジリと神経を焼いて来るような焦燥感を抑えながら警戒を続けていると、近くまで来ていた足音が、いきなりピタッと止んだ。


(…………どう言う事だ?向こうもこちらを警戒しているのか?)


 そう思ったその時、三つの通路の真ん中の入り口から、何かが転がってきた。


「…………?」


皆の視線がその何かに集中する。僕らからそう離れてないところまで転がってきたそれは、僕も見覚えのある物だった。短くなった導火線の先端で、バチバチと火花が散っている。


「煙幕弾⁉︎」


 ルーシアの声が聞こえたと思ったその瞬間、転がってきた煙幕弾は破裂した。

 一瞬であたり一面が煙に包まれる。


「ゲホッ、どうなってんだ?何だよこれ⁉︎」


「えっ⁉︎どう言う事?戦闘道具を使って来るなんて、まさか“キラー”なの?」


 完全に混乱し、動揺する僕達に向かって、



 敵は一斉に襲いかかってきた。



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