実況!《ドラセルオード・チャンピオンシップ》
「ああーーーっと‼︎ここで3チーム目の《ゴールデン・ラット》が合流‼︎先に潜った2チームと角鬼軍団との死闘に、新たな援軍の到着です‼︎どうでしょうか、解説のビクターさん。これで戦況は大きく変化するのではないでしょうか⁉︎」
実況席に座っている女性実況者が隣に座る解説者に話を振る。彼女は出場チーム発表会見で司会を務めていた女性だ。
「ええ、先行していたチームのメンバーはとても勇気づけられたでしょうね。先ほどから角鬼たちの増援も止まっています。この援軍の登場の効果はかなり大きいと思いますよ」
解説をしているのは中年の、どこか学者然とした雰囲気をした男だった。彼の解説は続く。
「《ゴールデン・ラット》としては先行チームが戦っている隙に追い抜いてしまう、いわゆる“漁夫の利”を狙いたかったのでしょうが、さすがにこの角鬼の数を見てしまうと、そういうわけにはいかないでしょうね」
ビクターと呼ばれた解説の男は、かけている者など滅多に居ない「希少品」である“眼鏡”を中指でクイっと押し上げる。
「ということは、ビクターさんは《ゴールデン・ラット》のメンバーたちは“救助点”のために加勢したわけではないとお考えでしょうか?」
「十中八九、“救助点”目的ではないでしょう。《ゴールデン・ラット》にしてみれば、
他の2チームがリタイアしてしまえば、自分たちだけで角鬼軍団の相手をするほか無くなってしまう。さすがにそれは避けたいところでしょう」
「なるほどなるほど。単純に先に進めば良いというものでもない、場合によっては他のチームと共闘も必要と、ビクターさんはそうお考えなのですね」
「攻略序盤からこれほどの数の脅威生物に遭遇する事などそうそうある事ではありません。今戦っているチームのメンバーたちは、想定していたダンジョンの難易度をかなり上方に修正し始めているのではないでしょうか?」
「おおっと‼︎そんなお話を聞いている間に《ファイナル・ピリオド》のメンバーが一人、負傷によって戦闘不能になった模様‼︎負傷した彼女を庇って、他のメンバーが円になって守っています‼︎」
実況の言葉に観客が反応してどよめく。
放映会場である広場の6つあるクリスタルモニターには「隠者の眼」の俯瞰的視点と、冒険者の主観的視点の両方が映し出されている。
俯瞰的視点で全体の戦況を確認しつつ、主観的視点で冒険者の戦いぶりを一体となって体感できるというわけだ。
会場の盛り上がりは早くもかなりの熱気を帯びたものになっていた。
「これは早くもリタイアが出てしまうのか?様子を見る限りはそれほど重症ではないようですが……さあこうなると《ファイナル・ピリオド》は防戦一方!他の2チームの負担が少々大きいか?」
「おそらくは3チームとも守りに徹して消耗を抑え、後続チームの到着を待つ作戦に切り替えるでしょうね。このまま角鬼の増援が現れず、持ちこたえる事ができればの話ですが……おっと⁉︎」
クリスタルモニターの一つ、俯瞰的視点の映像に映った《ファイナル・ピリオド》の近くで大きな煙が巻き上がる。
「おおっと!ここで煙幕弾‼︎《ファイナル・ピリオド》が戦闘道具を使用‼︎これは苦し紛れの行動でしょうか⁉︎」
「いや、これは良い位置に煙幕を張っていますよ。視界を塞がれて角鬼たちがあの方向からの攻撃を躊躇しています。かなり守りやすくなったと言えるでしょう」
「なるほど‼︎ナイス煙幕ですね‼︎」
「ええ、他の2チームにも多少のアシストにはなるでしょう。これで時間もかなり
稼げるはずです。煙幕弾など戦闘道具は“こちらが使う”か“相手に使われる”かで大きく状況が変わりますからね」
ビクターと呼ばれる解説役の説明からは、冷静かつ的確な分析に裏打ちされた説得力が感じられる。実況役の女性もやりやすそうだ。
「そして今、入り口から4チーム目、《ドラセル・パンツァーズ》が突入したとの情報が入ってきました。冒険者側に新たな援軍が到着すれば、戦況は好転するでしょうか⁉︎ビクターさん?」
「ええ、間違いなくそうなるでしょう。《ドラセル・パンツァーズ》は、多少の攻撃はものともしない強靭さと高い攻撃力に定評がありますから」
「それは戦闘中の3チームにとっては明るいニュースですね!どうやら序盤でのリタイアは避けられそうです」
実況役の女性の声が少し明るくなったように思える。《ゴールデン・ラット》が到着するまでは張り詰めた緊張感が感じられる実況だった。彼女の状況に合わせた実況も、会場の空気を盛り上げる。
「それはそうと、解説のビクターさん。私、ずっと気になってる事があるんですけど……」
「何でしょう?」
「冒険者の皆さんが今戦ってるのが角鬼だという事は分かるんですが、角鬼たちが皆仮面のようなものをかぶっているのはどういう事なのでしょう?私は“ダンジョンコンクエスト”の実況をそれなりにやらせて頂いてますが、あんな角鬼は初めて見ます」
実況役の女性は、おそらく観客の大多数も抱えているであろう疑問をビクターにぶつける。
「ああ、それはですね…………」
ビクターの目つきに光が疾る。
彼の説明前のクセなのか、中指で眼鏡をクイっと押し上げた。




