走れ冒険者
ダンジョンの入り口から続く一本道の通路に、人間の集団が走る足音が響き渡っている。
冒険者チーム《ゴールデン・ラット》の面々は、先行した2チームを追って通路を駆けていた。
通路は天井の水晶が放つ光に照らされているので、走るのに不都合はまったく無い。
チームの全員が、転倒したりしないギリギリのスピードで走っている。
もちろんリーダーの作戦に従ってそうしているのだが、それにしても彼らは何をそんなに急いでいるのだろうか?
“ダンジョンコンクエスト”では、ダンジョンに冒険者チームが一斉に突入していくなどという事は無い。一定の時間を置いて、1チームずつ順次スタートしてダンジョンへ入っていく。
“ダンジョンコンクエスト”に出場しているチームには、各大会の結果、実績に応じてポイントが与えられ、そのポイントによってランキングが作られる。
スタートの順番については、「ランキングが低いチームから順にスタートしていく」というシンプルなルールが採用されていた。
そして大会中にさまざまな特定の条件をクリアする事で得られる得点のうち、「目標地点に一番乗りする」という条件のものが、他の条件に比べると群を抜いて高得点なのだ。
つまり後発のチームは先行するチームが攻略を諦めてリタイアしたりしない限り、追い付かなければほぼ確実に負けてしまう事になる。
先行チームを追いかけ、捕捉し、さらには追い抜いて先へ進む。それが“ダンジョンコンクエスト”で勝利する必須条件と言えた。
彼らがこれほどまでに急いでいるのはそれが理由だった。
「急げ‼︎急げ‼︎あの部屋だ‼︎とにかくあの部屋まで止まらずに走るんだ‼︎」
おそらくリーダーを務めているであろう男がメンバーに発破をかける。
メンバーの一人は額に幅の細いサークレットを装着している。それにはごく小さな水晶の玉がはめ込まれており、水晶には「視覚共有」と「聴覚共有」の魔導術式の両方が内蔵されていた。
このサークレットは大会の運営側から、出場するすべてのチームに小型の「公示人の口」とセットで一つずつ配られ、必ずチーム内でそれを装着する担当者を決めなければならない。
このサークレットを装着した者の視界に映る物とその耳で聞いた音は、術式の効果によって街の広場のクリスタルモニターと「公示人の口」に転送され、観客はあたかも自分がダンジョン内を探検しているかのような臨場感で大会を観戦する事ができるのだった。
さらには大会前に先遣隊がダンジョン内に設置した「隠者の眼」と「隠者の耳」からも視覚、音声情報を転送できる。
戦闘やアクシデントが発生した状況に応じて、各チームの担当メンバーからの視点と設置された魔導具の定点観測的な視点、その両方を運営の技術者が切り替えて放映できるという仕組みだった。
《ゴールデン・ラット》の面々の視界に目的の部屋の入り口が見えて来た。その途端にリーダーらしき男は手でメンバーたちに止まるように指示した。
メンバーたちは部屋の入り口から少し離れた位置で、部屋の中の様子を伺いながら息を整える。部屋の中からは明らかに戦闘音と思われる音が響いて来る。
中央に一本の柱が立っているドーム状の部屋の中では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
先行していた2チームともが、とんでもない数の角鬼と戦っていた。
想像を遥かに超える角鬼たちの数に、メンバーたち全員に緊張が走る。
リーダーらしき男は一瞬戸惑った。彼の作戦では、先行チームが角鬼たちの相手をしているうちに追い抜いて先へ進むつもりだった。
しかし角鬼の数があまりにも多い。これではこの部屋をすんなりと通過することはまずできそうもない。よしんば上手く通過して先頭に躍り出る事ができたとして、その先に後続の角鬼の集団がいた場合、それらとこの部屋の角鬼たちとで挟撃を受ける事になる可能性が高い。
さらに今まさに角鬼と戦っている2チームは見るからに苦戦している。戦況は圧倒的に角鬼たち有利に傾いている。
このままでは2チームともあっさりとリタイアしてしまうどころか、下手すれば“全滅”の可能性すらあった。もしそうなればこの数の角鬼を、後続チームが追いついてくるまでの間、自分たちだけで相手にしなくてはいけなくなってしまう。
頭の中の損得の天秤で測った結果、答えを出したリーダーらしき男はメンバーたちに指示を出す。
「先行するチームと共闘するぞ‼︎今はとにかく角鬼どもをなんとかしないと、俺たちまでやられてしまう‼︎突入して手当たり次第に攻撃しまくれ‼︎」
その指示を受けたメンバーたちの考えも同じなのだろう。異論を唱える事なく全員が部屋に突入していった。




