表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/117

不覚


 ヒャクリキは閉じていた目を開けた。彼のまわりには光の無い、真っ暗な世界が広がっている。


 そのまま息をひそめてじっとしていると、徐々に目が闇に慣れてきた。彼のまわりの様子がぼんやりと見えてくる。


 彼はダンジョンの通路の壁面にできた窪みに身をひそめて仮眠を取っていた。


 胡座あぐらをかいて座っていた状態を崩すと、低い姿勢のまま前方に進み、警報用として通路に仕掛けていた鳴子なるこを回収する。

 周囲の安全を確認して腰に着けた魔煌まこうランタンのスイッチをいれると、それはすぐにぼんやりと青白い光を放ち始めた。


 結局鳴子(なるこ)を鳴らすような脅威生物モンスターは現れなかったようだが、そのおかげで充分な時間、眠る事ができた。心なしか眠る前よりも体が軽い。


(とは言えもう一日以上は潜っている。地上へ戻る時間も考えたら、残った時間は良くて一日分くらいか……)


 ヒャクリキは自分の感覚を頼りに残り時間を計算する。

 実際のところ彼は少し焦っていた。今回は彼が想定していたよりも、脅威生物モンスターに遭遇する回数が圧倒的に少ない。そのせいか丸一日ダンジョンの深部をうろついても、今のところろくな収穫が得られていなかった。


 脅威生物モンスターについて考えた彼の脳裏に、先ほど眠っている間に見ていた夢の内容が蘇ってくる。


(本当に最近多いな、あの頃の夢が。一体なんだと言うんだ?……しかし、いくら脅威生物モンスターに出て来て欲しいとは言っても、あんなのが出てきたらひとたまりもないだろうな)


 ヒャクリキはかつて遭遇したとてつもなく凶悪な脅威生物モンスターの事を思い出す。それと同時に苦い思い出が蘇りそうな気配を察して、彼はそれについて考えるのをやめようと、自分が置かれた状況の整理を頭の中で始めた。


(鞄の中に入っている収穫物はレッドムーンストーンの原石が少しとジャコウダヌキの毛皮と臭腺しゅうせん。あとは祭壇のようなものに置かれていた、かし彫りが施された盃と装飾品が少々……話にならんな。少なすぎる……)


 これでは正直、潜った意味がまるで無い。


 それにしても、なぜ今回はこれほどまでに脅威生物モンスターに遭遇しないのだろうか?

 前回と今回で、一体何が違うのだろう……?


 そこまで考えた時に、ヒャクリキの頭の中で何かが噛み合ったような感覚がした。


(…………まさか!まさか……いや……その“まさか”の可能性がかなり高い‼︎しまった‼︎どうして今まで気付かなかったのか⁉︎)


 前回と何が違うのか?思い返せば気になる点がいくつかあった。


 入り口まわりに張られていた、いくつかの無人のテント。

 これは今回と同じく前回も張られていた。しかし今回は前回よりもかなりテントの数が多かった。


 次に入り口から入ってダンジョン深部へ差しかかるまでの間、ダンジョン上層のところどころに仕掛けられていた、魔導具らしい怪しい物体。

 数えてはいないが結構な数が仕掛けられていた。一体あれは何だったのか?


 そして何より、前回襲撃してきた大勢の角鬼ゴブリンたちを“つぶし”て血の海に変えたあの部屋が、まるで血溜まりなど無かったかのように掃除してあった事。

 なぜ忘れていたのだろう?角鬼ゴブリンたちは仲間の死体を片付けても、掃除などしない。


 つまり確実に前回と今回の間に誰かがこのダンジョンに潜っている。


 そこまで思い至ったヒャクリキの脳裏に、街の広場で見たクリスタルモニターの映像が蘇る。


(そういう事か‼︎この、今まさに潜っているダンジョンが、例の大会の攻略対象だったという事か‼︎)


 その結論に辿たどり着いたヒャクリキは、大会に関する情報を「興味無い」という理由で遮断しゃだんしていた自分を呪った。街であの映像を見ていたのも、ほんのしばらくの時間だった。

 脅威生物モンスターに遭遇しないのも、おそらくそれが関係しているのであろう。


(であれば、こんな事をしている場合ではない。すぐにでもダンジョンから出なくては!)


 ヒャクリキがしているのは立派な密猟行為だ。もし潜ってきた冒険者たちに見つかって万が一捕縛でもされようものなら、冒険者名簿に名前が無い彼は間違いなく執行官の前に突き出される事になり、厳罰は免れようがない。

 最悪、一発で「縛り首」も有り得る。そんな死に方をするのは御免だった。


 そんなわけだから、一刻も早くダンジョンから脱出しなければいけない。とはいえ、脱出するにも問題があった。


 おそらく大会はすでに始まってしまっている。という事は大会に出場する冒険者チームは、今頃ダンジョン上層をうろついているに違いない。

 何も考えずにただ入り口まで道を引き返せば、間違いなく鉢合わせする事になる。警戒しながら入り口へと向かい、場合によってはルートを迂回うかいする必要があるだろう。


 そしてレエモンが街に滞在できる時間というタイムリミットがある。それゆえダンジョン深部で大会が終わるまで息を潜めるという選択はできない。たとえ少ない収穫であってもいくらの査定額がつくかは未知数だ。無駄にはできない。

 何より幾らかでも前払いの報酬を受け取らない事には、早晩手持ちの金が尽きて、確実に干上がってしまう。



 前回と今回の計二回しか潜っていないダンジョンだが、大体の構造は把握できている。

 冒険者たちよりも先に相手を発見し、見つからないようにやり過ごしつつ入り口へ向かい、脱出する。これしか無い。


 作戦は決まった。ヒャクリキは腰につけていた魔煌まこうランタンをベルトから外して片手に持ってかかげると、その場から駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ