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目覚めの悪夢


 視界にはただただ暗い、黒よりも深い深淵の闇が広がっている。


 意識は確かにその闇を見つめている。闇を見つめる視界とそれを認知する意識は確かにここにある。


 しかし、存在するものはただそれだけだ。


 視界に広がる闇は闇としてそこに存在しているのだろうか?

 それともそこには何も存在しておらず、その状態を視界は闇だと認識しているのだろうか?

 時間すらここに存在するのかどうか、曖昧でつかめない。感じる事ができない。



 意識はふと疑問を感じる。



 なぜ動かない?



 意識は知っている。

 意識が入っていた「器」は、かつて間違いなく動いていた事を。


 何を根拠に知っていると断言できるのかは分からないが、そう……確かに「自分」は動いていたはずだ。動けていたはずだ。


「器」だけでなく、意識自身も自由に動いており、確かそれは「意思」と呼ばれるものではなかっただろうか。



 なぜ動かない?



 言葉ではなく、感覚。

 意識の揺らぎのその動き、かすかな位置のずれを生み出すその揺らぎは、間違いなくその疑問を抱いている。


 しかし知覚できるのは暗い闇。ただそれだけだ。



 なぜ動かない?



 暗い闇と意識だけだったそこへ、疑問が布へ落ちたワインの染みのようにじわじわと拡がっていく。


 そしてそれに呼応するかのように、一瞬のようにも、永遠のようにも思える暗い視界の中で、意識の揺らぎは徐々にその幅を大きくしていく。


 意識は少しずつ、それこそ知覚できないほどほんの少しづつだが、確かな輪郭を持ち始める。



 ふと気付くと、深淵の闇の中に、とても小さな光の粒がぽつぽつと、またたき始めていた。


 あれは一体なんだろう?


 意識は小さな光の粒へと興味を向ける。

 光の粒は少しづつその数を増やしているように感じられた。

 その中の一つを、意識は集中して凝視する。


 光の輝きには暖かさというものは感じられない。

 むしろその輝き、光のすじには、見つめれば見つめるほど怖気おぞけのするような怪しさがたたえられているように、そう意識には感じられる。


 そうして見つめているうちに、その光はますます数を増し、光の波長は共鳴し合い、徐々に深淵の闇をその輝きで侵食していく。



 そうして光が闇の半ばまで拡がったその瞬間。



 意識のそばで、何かがドクン!と跳ねた。


 一度だけでは終わらない。

 ドクン!ドクン!と続けざまに跳ねている。


 跳ねるたびにその音と振動は、しっかりと、確かなものになっていく。

 やがて音の大きさ、振動のリズムは安定して、一定の規則性を持ったビートを刻み始める。



 ……ああ、これは……心臓の鼓動だ。



 意識は思い出す。これは紛れもなく心臓の鼓動だ。



 なぜ忘れていたのだろう?



 動き始めることで思い出したのだろうか、そもそもなぜ動いていなかったのか?

 そんな言葉としての形を与えられる前のダイレクトな思考が意識の中に浮かび上がってくる。



 ……何か嫌な事を思い出しそうな予感がする。



 意識がそう感じたタイミングで、鼓動のリズムはその拍子を速め始める。



 ドクン!ドクン!だったリズムがドクンドクンドクンドクンと。


 いや、ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク……


 さらに加速してドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ……



 ……これはいかん、速すぎる。


 一体どうしたというのか、俺の心臓は。



 ふと気づけば呼吸も荒く、速くなっている。



 ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ……



 深淵の闇はすっかり怪しい光に覆い尽くされそうになっていた。


 このままでは心臓が破れる。肺が張り裂ける。


 加速し続ける心肺機能と、鮮明になっていく感覚の奔流ほんりゅうに飲み込まれていく自身の意識。



 不意に襲って来たのは確実な破壊と破綻はたんと破滅の予感。



 それによって世界の全てが恐怖で埋め尽くされた瞬間。





 意識はたまらずベッドから跳ね起きた。


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