1988
1988年、年末。
ブルーハーツが聞こえた。
アンコールと人々が叫ぶ中、甲本ヒロトはこう呟いた。
「マーシーの渋いイントロで幕が開けるでありましょう」と。
その「渋い」イントロは最高にクールで乾いた音楽だった。
「本当ならば、今頃、僕のベットにはあなたが・・・・・・いてほしい」
その「渋さ」は「渋く」なんてなく、ただただ、心を静かに揺さぶった。
言葉は変わっていく。
「渋い」にネガティブな意味が加わり、いつの間にか染まりきった。
美しい音楽、勇気を与える音楽、元気を与える音楽。
すべてのものは移ろい、いつか滅びる。
いま僕たちを支える音楽や小説、映画なんかの文化的な遺産だって、滅びるのだ。
誰にも本当のことなどわからない。
作りての投げたボールを受け取っていた僕ら。
そのボールは僕ら一人ひとりの拳の中で様々な姿に形を変える。
でも、いつかそのボールも届かなくなる。
移ろいは止めることはできない。
どんなすごい人間でもきっとそうなのだ。
だから、ただ、ただ、僕らは今この時を感じることしかできない。
未来にすべてが変わっても、ぼくらの心で感じたその時を変えることはできない。
それだけが、移ろいに抵抗することができる、僕らに許された唯一の戦い方なのだ。