誰?
「ご主人様、会いたかったです……」
学校の帰り道。通学路途中の児童公園。
いじめられていた亀を助けた俺は、その亀に抱きつかれていた。
「ご主人様。おまちしてましたよー」
俺は抱きついている子供を見下ろす。
「誰?」いや、知り合いじゃない。そもそもご主人って何?
中学生ぐらいとは思う。男か女かは、よくわからなかった。
「私ですよ!」抱きついたまま、俺を見上げてくる。涙ぐんだ目をキラキラさせている。
「だから、誰?」
「久しぶりなのです!」
「人違いじゃないか?」
「ご主人様を見間違えるわけ無いじゃないですか」
「全く見覚えがないのだけど?」
「え?」ショックを受けた、て顔をする。
「わるい。お前、俺を誰だと思ってるの?」
「ご主人様です!」
うーん、困った。会話が進まない。
「お前が思ってる人の名前は? 俺の名前を言ってみろ」
「えーと……」その子供は困った顔をする。
「今の名前は知りません」
「今の名前って何だよ。名前ってそんな簡単に変えられないだろ。そもそも何で名前変える必要があるんだよ」
婚姻や養子縁組みで名字が変わることあっても、名前はそんな簡単には変えられない。
子供は困った顔のまま、黙ってしまった。
「じゃあ、前の名前は?」
子供はそれにも答えず、困惑したまま黙りこむ。
「わからないなら、人違いかどうかも確かめられないじゃないか」
「うぅ……」
「名前も覚えてないような人が、どうして俺だと思えるんだ?」
「昔すぎて、忘れました……」
あー、小学校の低学年とかの時の事だろうか。
「小さい頃の記憶なんてあてにならないだろ。人違いだ」
「小さい頃の話ではないのです」
「お前、いくつ?」
「13歳です」
「中学生?」
「2年生です」
「昔なら、小さい頃だよな」
「おとなの時です」
中学生でも、おとなと主張したいお年頃なのか。
「何年前の話? 2、3年前でも小学生だよな」
「違うのです」大きく首を横にふった。
「前世の話です!」
……、ん。
ヤバイ。
ヤバイヤバイ。ヤバイやつにからまれてる。
俺は子供の肩を押して、引き離した。
背丈は俺の胸位。髪はショートカット。服装も短パンにTシャツとパーカー。
服装からは性別はよく分からない。胸もお尻も目立って出ていないし、腰もくびれもない。男の子だろうか?
いや、そんなことはどうでもいいか。
もう会うことも無いだろうし。
「悪いけど、俺に前世は無いので、人違いだな。じゃ」
俺は背を向けて立ち去ろうとした。
「待ってください。ご主人様!」
叫んで、俺の腕をつかむ。
「その呼び方やめろ。何の嫌がらせ?」
振り返った俺に、子供が抱きついてくる。
「もう離さないのです」
今度は静かに言った。本気度が増して、こわい。
あ、胸が少し当たる。女の子か?
気のせいかな?