浦島太郎は亀を放っておけない
浦島太郎は助けた亀に連れられて、竜宮城に行った。
結末はみんな知ってるよな?
つまりいじめられている亀は助けてはいけない。
そういう戒めだ。
戒めは秒で破った。
「ガキども、いじめカッコ悪い。な?」
「おじさん、うぜ」
「誰? あんた」
「ほっとけよ」
「何? キモ」
「いじめてないよ。お話ししているだけ」
最後に言ったやつ、こづいてたよな?
見てたよ、おじさん。
て、おじさんじゃない。
高校生だ。
制服着てるからわかるだろ!
学校帰りの夕方。まだ日は高い。
桜が散ってこれから暑くなる季節の、ある1日。
帰宅途中の、いい感じに寂れた児童公園だった。
「おい、お前」
俺はガキども男女間5人に囲まれて、うつむいている子供に声をかける。
ガキどもと言ったが、囲んでいるのは中学生だった。近所の中学校の制服着ているからわかる。俺の母校でもある。
うつむいていたのはわからん。私服だから。多分中学生。
まさか、小学生を中学生5人で絞めたりしないよな? いや、わからないか。
いじめられていた子供が、顔を上げ、すがるような目で俺を見る。そして驚いた顔をする。
何? 俺の顔を見て驚いたのか? 何で?
「お前、いじめられていたよな? 助けいるか?」
とりあえず本人の意思を確認する。これ、いろいろ大事。
首をたてに振る。
「ほら、いじめじゃん」俺は囲んでいたガキどもにそう言った。
「いじめじゃないです。話していただけです」さっき、こづいてたやつ。女の子。制服着てるからわかる。多分こいつがリーダー。
「関係ないのに、口出すなよ」
「おじさんは引っ込んでて」
おじさん、言うな。
お前ら小学生に、おじさん、おばさん言われて平気か?
「こいつ嘘つきなんだよ。幽霊が見えるとか言って、岸田くんの気を引こうとして」
岸田くん、誰よ?
「お祓いしないといけないとか、インチキ占い師かよ!」
「占い好きだろ? お前ら」女の子って占い好きだよね? 多分。
「幽霊に取り憑かれてるとか、岸田くんを怖がらせて」
だから岸田くんって誰だよ。
「やり方がせこいんだよね。そんなんで、岸田くんの気を引こうとか、ふざけてんの?」
「ああ、うん。お前、岸田くんが好きなの?」
「はあ?! 何言ってんのよ! キモっ!」
「ちがうなら、ほっとけよ。どうでもいいだろ?」
「ほっとけない! ほっとけない! ほっとけない!」
三回も繰り返すなよ。岸田くんのこと大好きすぎだろ。
「うん、わかった。人の恋路を邪魔する気はない。明日、告白しろ。嘘つき女を吊し上げるより、よっぽど有意義だ」
「だから、ちがうー!」
「じゃあ、話がまとまったところで解散な。岸田くんへの告白が成功することを、祈ってるよ」
「ちがうー!」
岸田くんに恋する女の子と、その取り巻きを追い払った。
いじめられていた亀だけが残った。
その子供は俺をずっと見ていた。
いや、お前も解散しろ。俺も解散していいか?
俺を見ていた子供の表情が崩れ、泣き顔になる。
そして俺に飛び付いてきた。
俺にしがみつくと、胸に顔をうずめて嗚咽をもらす。
そんなに怖かったのか。俺はそう思っていたがその子供は、
「会いたかったです。ご主人様……」と言った。
はい? 何て?
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前作、本日完結です。よろしければそちらも読んで欲しいです。
彼女の事象〜地味子に擬態してる美少女に告白したらチョロすぎてこわい件について