銀の弾丸
私は吸血鬼だ。
ヴァンパイア様である。
どっちの呼び名もかっこいい。好きだ。
正直、自分がこの身になって一番よかったと思う点だ。
苦手なのは銀の弾丸だ。
これは本当にやめてほしい。まじで。
首切り落とされたり、心臓に杭を打たれるなんて相当な近距離戦だから逃げればいい話だ。
怪物が人間から逃げるのかよ、とかそういうツッコミは抜きにして、とりあえず逃げれば生き延びられる。
でも。でもさ。
銀の弾丸て。
銃弾ですよ。ばきゅーんですよ。
遠くでも当たるって。でも当たったらあれだし。
避けるにしたって私、ヒト型だから。吸血鬼って大体人の形してるから。
だから銃弾が避けにくいことは人である皆さんなら理解していただけると思います。
皆さんだって流石に避けるって難しいじゃないですか。あれ。うん。
そんな感じで、とにかく銀の弾丸だけは本当にだめ。
それ以外はなんとかまあ、がんばって回避すればいいけど。
たとえば日光なんて夜に行動すればいいしね。
あ、でも自分は日光割と平気だったりします。そこらへん個人差があるみたいだ。
まあ、とにかくここまで語ってまで私が言いたかったことは。
私が日本大好きってことです。
日本は本当に平和で助かります。銃とか結構無縁な国だもんね。
私は感謝の印として血を吸うのを遠慮しています。
許可をもらっている知り合いの血しか吸いません。
ここらへんの謙虚さも個人差があるので不用意に吸血鬼に近づかない方がいいです。
で、その知り合いなのだけれど。
恐ろしい勝気な娘だ。
最初に私が吸血鬼だとわかった時は、銀のフォーク(純銀)でめった刺しにしようとしてきた。
泣いて必死に土下座して一命を取り留めました。
その後彼女は純銀フォークを射出するクロスボウを作った。
彼女には専守防衛の精神がないように思います。
最近ではそのご自慢のクロスボウでおどして私にコンビニまで食べ物を買ってくるよう指示してきました。
ふざけるな。
私を誰だと思っている。
吸血鬼だぞ!ヴァンパイアだぞ!
基本的に不死身なんだ、血を吸うんだ、人から恐れられる存在なのだ。
まあ、素直に買いに行きました。お釣りは小遣いにもらえました。わーい。
そういうわけで彼女が主で私が従僕みたいな感じになっているので彼女の住まいに居候させていただいております。
大丈夫でも日光は避けたいし、これはこれでいいものかな、と思う。
私は家事手伝いヴァンパイアなのだ。
こんな生活になって洗濯とか得意になった。
人間的にレベルアップしてるけど、吸血鬼としてはレベル下がりまくりなんじゃないかなあって思う。
しかし。
しかし今日は立場逆転の日。
彼女は普段からそのクロスボウを持ち歩いている。
だが残念なことにそのクロスボウには欠点があるのだ。
持ち運びにちょっと不便。
普段は大きめのバッグで持ち歩くのだが、今日の彼女は友達と遊びに出かけている。
おしゃれで小型のバッグで出かけたのだ。
そしてクロスボウは家に置き去りであることは確認済み。
なので帰宅と同時に襲撃してやろうというささやかな復讐をもくろんでいるのだ。
そんなこんなでがちゃがちゃ、と音がした。
今ぞ!
私はドアが開くと同時に両腕を大きく開き叫んだ。
「お命頂戴!!」
その瞬間、私の顔の真横を何かが高速で通り過ぎて、壁に刺さった。
見る。
フォーク(純銀)。
「ぎゃああああああ!?」
悲鳴をあげる。
なぜ!?なぜ!?
クロスボウは持ってないはず!!
彼女を見る。
小型のハンドガンを持っていらっしゃった。
きっと単発でフォークを打ち出せたりするのだろう。
そして小型のバッグでも入れられるお手軽サイズ。
日本は専守防衛の国ではないのか。軍備拡張しすぎではないのか。
「ななな、何をするー!心臓とかに当たったら本当に洒落にならんですー!!」
泣き叫ぶ。死活問題だし。
「吸血鬼に遠慮はいらないから」
「へー、本当に吸血鬼なんだ、彼」
聞き慣れぬ声。
彼女のご友人であろうか。
お顔を拝見。
美人でいらっしゃる。
美人の友人は美人なのか?それとも都合がいいだけなのか?
それはともかく。
「本当に吸血鬼です。お嬢さん、ぜひとも血を吸わせていただきたく――」
喉元にフォークが突き付けられた。
サブウェポンッ!?
「すいません冗談です勘弁してくださいあなた以外の血は吸いません、はい」
「よろしい」
「あはは、面白いー」
で、ご友人を部屋に招き入れる。
彼女は自分の作ったクロスボウを披露した。
「これがクロスボウ」
「へー、こんなの作ったんだ。すごいねー」
「全く迷惑な話です」
命がデンジャーな武器だ。
「持ってみ」
「うん。へー、すごーい」
「ここで打ち出せる」
「ふーんふーん」
しかし武器に興味を示す女性というのも珍しいのではないだろうか。
てっきり、大して関心もなく安全な話題で談笑できると思っていたのに。
「狙ってみ」
「うん」
「いやあああああああ!!!」
「あははは、面白ーい」
もしかして武器に興味があったんじゃなくて。
私をいじめるためにですか。そうですか。
そういうの好きですよね、みんな。
この後もひたすらいじめられました。
にんにくとか十字架とか。
楽しかった、と大変爽快な笑顔を残してご友人は去っていきました。
それだけが唯一の救いです。
「一つ思ったことが」
「……何よ」
「吸血鬼になっていじめられっ子になるとは思ってなかった」
「きっと吸血鬼になる前からあなたはいじられっ子」
「うぐ」
確かに普通の人間だった時もいじりにいじられまくった記憶が。
「まあ、今日はお疲れ様。あの子も満足したみたいだし」
と、袖をまくって腕を差し出す彼女。
「さ、飲みなさい」
「いただきます」
こうして今日も吸血へとありつけたのだった。
おしまい。