青年たち、早速生活に困る
うわあぁぁ下手こいた……
まだまだ未熟ですが頑張ります、よろしくお願いします。
『異世界生活一日目。偶然、偶然にも異世界アルヴィレアへとやってきてしまった、全知全能にして才色兼備なこの私、あるしえてチャンネルのシエテは、たまたま近くにいた、めちゃくちゃさえない高校生の男、相丘琥太郎と一緒にい世界を旅することになった。スライムに襲われて、魔法も一発使ったらエネルギー切れで、結局ボロボロになったからひたすら走りまくったけれど。たまたま大きな街に着いて、そこですっごくカッコいい武器を持ってる武器屋のおじさんとか、飲み屋の荒くれものの皆とか、色々な人が仲良くなってくれた。たまたま始まった異世界生活だけど、案外楽しいと思えた、そんな一瞬だった。動画はまだ送れないけど、色々面白いものが取れそうだから。多分Gotubeマンスリーアワードもいけるんじゃないかなーって思うんだよ! 楽しみ!』
───本日更新。あるしえてチャンネル公式ブログより。
「おおおぅ!? なんじゃこりゃーーー!!」
シエテと琥太郎。二人の異世界生活二日目は、そんなシエテの叫び声で始まった。
「……うるさいな。どうした?」
眠りについていた琥太郎も、女神の叫び声でゆっくりと起きる。そう小さく呟くように彼女へ問いかけた。
ここは街の小さな宿屋。扉の他には、床と布団しかない。二人……というかほとんどシエテ一人による暴走だったのだが……の街探索ののち、最後に訪れたこの旅館で、二人は最初の一夜を過ごした。とんでもなく安い宿だったが、結局そこしか行けなかった。
一夜といっても、特に何もない。しいて言うならば、寝ていたシエテがありえないくらいいびきがうるさかったということだろうか。
「ない、ないないないない!!」
そんなシエテは、琥太郎のリュックから何かを取り出してわめいていた。焦りがはっきりと表情に浮かんできてしまっている。
「……おい、勝手に弄るな。俺のリュックだし……って」
琥太郎はシエテに目線を移す。すぐに、シエテが今持っているものの正体がはっきりと分かった。正確には、分かったというか。分かってしまったというか。むしろ逆に言うと……。分からない方が逆に困ってしまうというか。目線をそれから離さずに、淡々と告げる。
「よく見たら持っているのは、俺の財布じゃないか。なんでお前が弄ってるんだよ」
さすがに財布に手を伸ばされたらまずい。シエテの喚き声を遮るように、琥太郎は手を伸ばす。
「だってだってだって! だって琥太郎!!」
しかしすぐにシエテは振り向いて叫んだ。その表情はあまりにも悲痛で。涙でぐしゃぐしゃになっている。
「お金、私が持ってきたお金がないの! アンタが欲しいからよこせって言ってた、ここで使えるお金! 一銭もなくなってて! 落とした!? 盗まれたのかしら!? 女神から盗むなんて何て最悪で罰当たりなのよ!」
めそめそとしながら、想いを、無念を。怒りを琥太郎へぶつける。女神である自分に対して、なんて不敬で罰当たりなことをするんだと、怒り心頭である。顔も真っ赤にして、喚き散らす。
その言葉を聞いた琥太郎はしかし。その表情を何一つ変えることがなかった。
むしろ、思いっきり盛り下がってしまっているような。がっかりや失望によく似た、そんな表情。
「……お金がないのは当たり前だ」
「……なんでよ! やっぱり盗まれたから!? ぎったんぎったんにするんだから、盗んだやつは!」
「盗まれたわけじゃない。なぜって……? たった一つだ」
シエテの聞き返しに、大きく息を吸い込んで、琥太郎は答えた。叩き付けるように、声を荒げて叫ぶ。
「お前があの酒場でほとんど全額使ったからだ!!」
話は一日前、街の探索の時にさかのぼる。
「そうそう姉ちゃん、この街に来たからには、ここで作ったお酒を呑まないと大きな損失やでぇ」
シエテが琥太郎と二人で寄った酒場。その中心にて、女神と冒険者の男が話をしていた。赤ら顔の男が手に持つのは、木でできたコップ。そこになみなみと、泡立つ何かが注がれている。
シエテはそれを興味ありげな面持ちで眺めた。
「へー。お酒ねえ……。飲まないわけじゃないわ。飲むときもあるわよ」
「ほー! ならば勧めざるを得ないなぁ。なんてたってここの地酒は最高よ! 多くの旅人がこの酒求めてやってくるほどだからのぉ」
「酒飲みがこいつを倒れるまで飲み続けるんや。そうやってこの場所は回っていくんや! それほどのものを用意してるんやで、ここは!」
「ほーほー……!」
酒飲み男の言葉にほだされるかのように、シエテの表情に輝きが増す。興味津々といった表情だ。
そして、その表情の意味を、会ってわずか数時間ながら琥太郎は理解していた。
その表情が意味するものは、興味。それと……女神というか彼女特有の、欲望。
「へーぇ、気になってきたわ! その酒を持ってきなさい! 言っとくけど私、かなりうるさいわよ!」
始まった。ガタン、と立ち上がって胸を張りながら、そうコールする。
「お、姉ちゃんノリいいやないの! おー、そこにいる姉ちゃん! あの金髪姉ちゃんに地酒注いでやってくれや!」
「はいはい。分かりましたよ」
男が指をさしたのは、一人の女性だった。茶色い簡素なエプロンを着た、清楚っぽい様子の女性。薄い紫色の髪の毛は、そういった感情を思い起こさせる。
彼女は、木でできたコップを手に取って、琥珀色の液体を注いだ。シエテが気になっていた液体が、初めて琥太郎の目にも触れる。
液体が木に触れると、すぐにきめ細やかな泡となった。
なるほど、と琥太郎は思った。確かに遠目で見ている自分でも、飲みたくなるものだ。見た目も鮮やかだから、目にもいい。自分は未成年だから、その液体は飲めないが。
「……ふぅ。はい、こちらになります。飲みすぎ注意ですよ。あなたたちもそこまで飲み過ぎるもんじゃありません。まったく……。冒険者というのはみんな……」
「あら、ありがと。えぇ、絶対のみすぎないようにするから……」
シエテがそんな言葉を女性に言いながら、両手でコップを持つ。
「それでは、いただきます」
そしてシエテはごくん、と喉を立てて。その液体を飲み干した。
「なにこれ……。すっ……っごく美味しい!」
飲み終えた女神はすぐに目を輝かせて、感想を述べる。すごくおいしい。それしか言えないものだったが。
「そうだろそうだろ? こんなうまいもん、一杯だけじゃもったいないべ。もっと飲んだ方がええ」
「えぇ、すっきりとして……。それでいてすごく濃厚で……! なんというか本当においしかったんだから! 一杯だけじゃ物足りないわ!」
「んだんだ、もっと持ってくるんじゃ! あそこの姉ちゃんにもっといっぱい!」
おだてられて乗せられて。女神は運ばれてくるお酒を飲み続ける。ひたすらに、飲み干すように。
去り際にすごく申し訳なさそうな表情を浮かべていた飲み屋の女の人が、すごく印象的で気の毒に思えたのだが。
そして、ひたすらに、大量に。運ばれてきた酒を浴びるように飲み続けたその結果。
「アッハッハッハ! 今日は祭よー! 女神が来た祭よー!」
完全に出来上がり、周りの男たちよりもはるかに顔を真っ赤にした駄女神は、そう言って甲高い声で笑いながら、木でできたコップを持って何度目かわからない酒を飲み続ける。周りの男も、乗りに乗りまくって、祭りというか、狂乱の宴のようだ。
「今日はすっごく楽しいの! あなたたちのおかげよっ! えぇ、この宴のお金は全部私が持つわ! 女神様が持つわ! だから女神様に感謝しなさいよねっ!」
「最高やあぁぁっ! 女神様あぁぁぁッ!!」
「おおおぉぉぉ!」
狂乱の中心でテーブルに立ち、そう鬨の声を上げるシエテと、それに従う群衆。腐っても女神なのだろう。カリスマ性が見て取れる……。
琥太郎はそのさまを冷めた目で見つめると、すぐに目線を横に映す。横には、紫色の髪の毛をしたあのお姉さんがいた。
「……あははは……。売れるのはうれしいんですけど、ね……」
ひきつったような乾いた笑いを浮かべて、目を細める。
「女神様! 女神様! 女神様!」
「あははははっ! もーっと褒めなさい、崇め奉りなさい! そうよ、私はシエテ。あるしえてチャンネルの女神様なのよ! 誰にも負けないのよー!」
酒飲み共の、甲高い声と野太い声が響き渡る。
狂乱の宴の中で、哀しみを浮かべたのはたった二人。そのたった二人だけが、その祭りから取り残されたままだった。
「……あっ……思い出した」
顔面蒼白。ホワイトアウト。そんな感じの表情になり、シエテはがくんと膝から崩れ落ちる。完全に自分のせいだ。自業自得だ。酒に飲まれまくったせいだ。
「あの後、自分が払うって言ってもお前がお金なんて持ってるわけがないから、俺が全額払ったんだ。酔いまくって床に倒れ込んで、うわごとを言いまくっているお前を尻目にな。それで払い終わった後、歩けないお前を連れてここに来たんだが……」
「……その宿屋のお金だけで、私が持ってきた全財産が無くなっちゃったってこと……」
「そういうことだ」
そういうことだった。膝から崩れ落ちたポーズのまま、シエテは琥太郎を見る。
自分のせいだったことがはっきりと分かって、申し訳ない気持ちになった。
「……ごめんなさい……こんな駄女神でごめんなさい……」
がっくりと意気消沈した感じで、彼女は呟くように謝罪した。
「大丈夫だ。そんな怒っていないからな」
「……ホント?」
「あぁ。正直駄女神に怒っても意味ないからな」
「何それヒド……くないです。はい」
何て言い草だと叫びたかったが、あきらめた。酷くもなんともなかったからだ。完全に土下座。女神のプライド何て捨ててやるわい。そんな気分。
「しかし……今日以降どうすればいいかだな」
「お金がなきゃ何もできないわよ……」
顎に手を当てて、琥太郎は考えた。ぽつりとつぶやく。
「……どうする? 私が春を売る?」
「却下。お前じゃ買い手がいない」
「ハァ!? すっごくぴちぴちですけどー!? 女神ですけどー!!」
シエテの提案をナチュラルに切り捨てた。駄女神が後ろで何か言っていたが、琥太郎は無視することにした。
正直、身体と顔だけはいい彼女だが……。性格がダメだろう。それ以前に、一人にさせられない。
「まず二人でできることから考えるべきだな……」
「二人でって……。あっ。もしかして……!」
「どうしたー駄女神」
「ふふーん。そんなこと言っていいのかしら琥太郎? もし私の意見を聞いたら駄女神だなんて言えなくなるわよー?」
「じゃあいい。無駄だ」
「あーん、そんなこといわなくていいじゃないのよー! 教えてあげるんだからー!」
いつものようにドヤ顔で切り出すシエテ。それを切り捨てたら、彼女は涙を流してすり寄ってきた。相当余裕がないようだ。余裕をなくしたのは、他ならぬ本人なのだが。
「昨日、酒飲みのおじさんから聞いた話なんだけど……。あの酒場って、酒場でやってるのは基本夜だけなんだって。じゃあ昼は何やってるのかって言うと。冒険者軍団。いわゆるギルドね。これ取ってほしいとか、これ倒してほしいとか。そういった仕事を募集して、張りだして解決してもらって、報酬を出す……。みたいなことを色々やってるらしいのよ。聞けば大きな街にはそういったものが必ずあって、常にメンバーを募集している……」
「……冒険者か」
異世界にくる前、世界の混乱を防ぐ勇者になってほしいというのが最初の目的だったことを、琥太郎は思い出した。
「これっていい話よね! 冒険者になれば、お金も手に入るし、アンタも勇者になるって目的が手に入るし、それに私のちゃんね……知名度も上がるし! 降ってわいたというか、ほんとに天の助けみたいなものよね!」
「……確かに。というか、それしか方法がない気がするな。そもそも金がないからな。商売を始めるにしても……」
結局、選択肢は一つしかなかった。琥太郎も首肯する。
「でしょ!? 正解よ正解! それこそが唯一の正解! そうと決まれば、有言実行! 早い方がいい! いっくわよーこたろー!」
バンっと跳ね起きて、シエテは一気に簡素な宿の扉を開いた。バンっと手でこじ開け、一気に走り出す。その姿を見て呆れたように立ち止まる琥太郎だったが、
「……行くか。結局その道しかないのだから」
結局それしかなくて、リュックを持って歩きだす。
ちゃりん、と最後の小銭を宿の受付へと渡して、宿屋へと歩き出していった。
「………」
その外で、シエテと琥太郎。二人を監視していた謎の鎧騎士がいた。 その鎧の目の前には、困った表情を浮かべる女性の姿がいた。
「……お客様? 気になるものはあるかもしれませんが当宿のお代……」
「……世話になった。あの二人についていく」
「あ、ありがとうございました……! まったく、優秀だからといって……」
大量の小銭を騎士から手渡され、奥へと引っ込む女性。
その女性の姿に目をくれないで、鎧はある方向へと歩き出す。行き先が決まっているかのように、迷いない足取りで……歩いていくのだった。
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