青年たちと黒の手紙と
また間が空きました。
がんばります。
「……ソウ、ゼンインソロッタラアケルトイイ」
黒きマスコットのような何かは、封筒を突きつけながら改めて言った。その声音にも、表情にも。一切の感情が見られない。
まるでこれは影のようじゃないか、琥太郎は心の中で思った。全身が真っ黒、表情も見えず、感情の抑揚も見えず。そんな姿をしているもの。物言わぬ影。それが具現化している、そう感じる。そんな影が何をしているかというと、しっかりと琥太郎たちを見据えて…封筒を渡すこと。まるでそれしか意味のないように。それをするようにインプットされているかのように感じられる。
「ああ、こいつは……」
「知ってる……か。そりゃあそうか」
「当たり前よ、女神だしね!」
その真っ黒な何かを見据えて、シエテは言った。ざっ、ざっ。と足音を立てて黒の方へと向かっていく。
「まあそれはさておいて。あんまり怖くないわよ、こいつ。機械みたいなものですもの。これはGotube運営の回し者……大事なものを渡すメッセンジャーなのよ」
「カンシャスル」
そう言って彼女は手から封筒を取った。黒はまたしても抑揚のない声でそう言った。
「なるほど、機械みたいなもの」
「言われてみれば……。機械っぽい声してたよな、こいつ」
「うん、自動音声」
琥太郎と玲はそう言われてうんうんと頷いた。機械音声。そういったものを使うような物を、見たことがあるし聞いたことがある。自動音声。人工知能による会話ツール。それによく似た声を、黒いマスコットは発していた。
「いわゆるメール。ショートメッセ―ジ、SNS……。みたいなもんと思って構わないわ。まあ、Gotuberは基本神だから、こうやってそれ専用の特別な命を作るのがやり口みたいなもんなんだけど」
「要件を伝えるために命を創造するのか」
「そりゃあできるんだったらそうするでしょ。確実だし」
そのためだけに命を生成する。さすが神だと琥太郎は思った。機械だらけ、テクノロジーだらけの現代人ではあるものの、流石に人智を超えたものには勝てるわけがない。神は信じてはいないが、その技術は純粋にすごいと思う。
「で、これなんだけどさ」
シエテは渡された真っ黒の封筒を振る。
「紙ね。一見普通の封筒なんだけど……」
ぱさぱさ、と紙が擦れる音。ゆっくりと縦に上下する。
「私も良くやりますよ~~。紙を下に落とす奴ですね」
輝美が言う。これは紙を落として、開けやすく、開けた時に破けないようにする行為だ。こういうのをやるのは人も神も変わらないのだろう。大事なものかもしれない。切れたら大変なのである。
「まあ……いつもの癖よ。でも封筒とか宅急便の袋とか、強引にがーっと開けちゃったせいでボロボロになった過去があったりなかったり……」
「……駄女神はそっちの方が多い気がする」
「うっさい。確かにそうだけど」
青葉にそう返されて、肯定するシエテ。口には出さないが琥太郎もそう考えた。シエテの性格上、考えることは同じである。
「一番下に行ったわね……それじゃあ開けるわよ」
「……鋏、お使いになられます?」
「結構! ここまできたら、失敗しないでしょ、きっと!」
撫子の提案にそう返しつつ、女神は黒の封筒に手をかけ、思いっきり手を動かす。
──ビリィッ!
大きな音を立てて、封が破られる音が響き渡った。彼女の手から生み出される動きは非常に綺麗で、尚且つ鋏で切る以上に綺麗である。大成功と言ってもいい。
「大成功ね、ちゃんとすっぱり切ることができたわ……」
「ちゃんとすごく切れていると思います。余計な心配だったようですね」
「母さんの心配は間違ってないですし、いいじゃないでしょうか」
しゅんとなる撫子に、琥太郎はそう答えた。琥太郎も失敗すると思っていただけに。予想外な結果だ。その予想外で母親を責めるわけにはいかないと、息子の言葉。
「まあ、まあまあ! 琥太郎さんにそう言ってくれると私は……! 昂ってしまいそうになります! いいですよね? 合意と見て……!」
「待ってください、ちょっと抱き寄せ、ないで!」
「撫子さん、うぇいと! うぇいと!!」
すると撫子は琥太郎を抱きしめようとしてきた。両手を伸ばして引っ張り込んで、ぎゅっと胸へと抱き寄せて行こうとする。予想内とはいえ、唐突なこと。抵抗するように自らの肩を抱く琥太郎。そしてついでに青葉。間に割って入り、撫子の邪魔をしようとする。
「ちょっと待てよ! 今シエテが確認してるだろ!」
「玲さん? 私にとっては今の琥太郎さんの行動の方が大事なのですが……」
「それはさておいてだ!! あたしらは今シエテの話をしにきてんだしさっ!」
玲が介入する。なんだかんだ言って非常に真面目な彼女がいなければ、脱線は続く。何せ相手は琥太郎大好きな二人である。こうやって入らなければずっと琥太郎の話で盛り上がることになる。そうなる前に止めなければならない。大事な話を行なっているのであれば、なおさら。
「……色々感じるのは琥太郎なんだし、ここは引いた方がいいんじゃないかな」
「……それは正論。しかし……言いますね玲さんも」
「割と長い付き合いだしな、あたしたちも。元の場所ではあまり関わったことはないけど……この世界ではずっといるわけだし。遠慮はいらない。そうだろ?」
「まあ、まあまあ! 確かにそうです、えぇ!」
ぱあっと表情を輝かせて撫子は叫んだ。琥太郎が一番な彼女、だけれどなんだかんだ言って、琥太郎だけいればいい、というな性格はしていない。青葉も玲も。何なら会ってまもないシエテや輝美など……。色々な相手でさえ。まとめて抱きしめて包み込みたいと。そう思うのが撫子なのだ。
だからこそその掛け合いが、彼女にとっては一番大事なこと。日々の愛情友情、その他諸々は会話から作られる。相丘撫子はそう考えるのだ。
「っと……まずはこっちか……どうだシエテー? 何が入ってたかわかるか?」
玲が女神に目線を移す。まずは彼女の方だと思った。その言葉と同じくして皆がシエテに目を向ける。
「大事なものなのはわかるわよ。振ってもなんも出ないけど……」
パサパサと紙の音が聞こえるだけで、降っても何も落ちてこない。シエテはそのまま指を突き出して封筒の中へと入れた。
「よっと……っていた!? 紙で手切った!」
しゃっ。と音が聞こえれば、封筒より紙が現れる。すぐにシエテは痛みを訴え、軽く手を振る。反対の手に持ち替えて切った指を咥えながら、彼女はその手紙を改めて見た。
「……真っ黒」
「何も文字が書いてないように見えるのだが」
青葉がそれを見てそう呟いた。琥太郎も抱いた感想を告げる。何も書いていない、何も記されていない。黒塗りの紙。それが一枚。シエテの手の中にある。人差し指と中指で挟んでいる。ただただ異様なものにしか、見えない。
「不思議だな……神様って奴はそんな真っ黒な手紙を寄越すのか?」
「言いたい気持ちはわかるけど」
不思議な思いを人間たちが抱く中、女神はさも当然のように言った。
「私を含めて神ってのはどんなものにも意味を感じるものなのよ。多分今回の紙も、やり方次第は間違っちゃいないと思うわ」
「そういうもんか?」
「じゃなきゃどっかの偉大な神だって創世神話、国作りなんかしないでしょ。私は会ったことないけど……って、ちょっと!」
「ちょっと待て!」
「あらあら?」
瞬間、シエテに玲、輝美が驚愕する。琥太郎たちもその姿に、一気に怪訝な表情を浮かべた。
一人でに黒の紙がシエテの手を離れ、ふわり、ふわりと宙を舞う。まるでそれは、誰かの意思が介在しているかのように。
「……やっぱりなんかに意味があったのよ……!」
そうはっきり言うシエテ。その言葉を言い切った後だった。
『ハロー、テステス。こちらの手紙の受取人はあるしえてチャンネル、ですかねえ』
「!!」
軽薄そうな男の声が、手紙より聞こえた。若々しく、元気っぽく。そんな感じの声。
「……誰だ?」
「いきなり来たな!?」
琥太郎たちは知らぬ声に困惑する。だがそれに胃を介さずに、男は言葉を言い始めた。
『この手紙が届いた、開いたってことは、準備が整ったってことだ。この言葉は基本手紙が届いた全員に送っている』
手紙の主、らしい男はそう言って言葉を切る。それと同時に……シエテが口を開いた。
「これ、まさかとは思ったけど!」
「知ってるのかシエテ!?」
「まさかとは思った、思ったのよ!」
玲が言う。返したシエテの感情は……困惑、そして感動。
「その声、その手紙……思い出したけど……私に来るなんて思わなかったから!」
その言葉の直後、ふたたび男の声が聞こえる。それと同時に……シエテたちが、琥太郎たちの体が、きらりとした光に包まれ……。
「わわわっ、ちょっと待てよ! あたしたちこれからどこへ連れてかれるんだ!?」
「……駄女神、後でちゃんと説明をして」
「琥太郎さんたちとならどこへでも……ふふっ」
その言葉を知ってや知らずか、男の声が響き渡る。
『神界へようこそってやつだ。楽しめよウェルカムトゥ・神の祭典……』
──キントージェン・ファンタジア!
その声と共に……女神とその連れ添いの人間たちは。
一旦この異世界から、姿を消すのであった。




