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女神、目標を達成する

長い体調不良から戻ってきました。

 Gotube。天上に住まう神が、己の個性を発揮する場所。それが生まれてから、何かを作り出すという神の力。その幅が大きく広がった。


 新しく生まれたGotuberという存在は、いわば動画を作る神。チャンネルを作り、いろいろな動画を撮り、公開し。その繰り返し。世界や生物の創造、破壊。それらの力を持つ昔ながらの神々と違う、新たなる世界の、新たなる創造神。


 そんなにとって一番嬉しいことは、動画を再生してもらうこと。そしてチャンネル登録をしてもらうこと。再生回数やチャンネル登録数の多さが、そのまま信仰に等しい力を手に入れることにつながるかもしれないからである。たとえ新しい形の信仰が、Gotuberである自分の自尊心を満たすことにしか使われないことだしても。その見られている、期待されていること自体が、彼らの力の源泉となるのである。


 それが一定数に達した時。その力は目に見えるものとなって現れ……相当な自信と嬉しさをもたらすのだ。


 登録者数10万人突破。それがその最初の指標なのである。




「ついに来たか! ちょっと見せてくれ!」

「やりましたねえ〜〜私ごとのように嬉しいですよ〜〜♪」


 自分のチャンネルの登録者数、10万人突破。その話をシエテ自身の口から聞いた時、真っ先に喜んだのは玲と輝美だった。二人は女神の背後に回り、まるで自分のもののようにはしゃいでいる。ずっと。それこそ朝から、ずっと。その時をシエテと一緒に待ち侘びていた二人だ。その感動もひとしおなのだろう。


「……玲も永田先生もテンション高い」

「まあ、あの二人はいろいろ見てたし仕方ないな……」


 青葉と琥太郎は少し引いたところから彼女たちを見る。テンションの高さには少し驚いてはいるけれど、確かにと思った。事実、二人とも少し嬉しい。嬉しくないわけがないのだ。


「………」

「あら、どうされましたシエテさん〜〜?」


 だがそんな中でも、ただ一人。シエテ当人だけが、ただ押し黙って震えていた。偉業の達成。それを見たらどんな反応を残すか。


 琥太郎も心の中で思った。予想していた反応ではない。あの目立ちたがりで、あの自分大好き女神だ。めちゃくちゃ喜ぶだろうし、めちゃくちゃ暴走すると思った故に。だからこそ、気になる。


「……ば」

「ば?」


 ぽつり。シエテが呟いた。その言葉に輝美が首を傾げる。次の瞬間、


「ばたーーんっ!!」

「わ、わぁっ……もしかしてもしかしてそういうことですか〜〜」


 机に突っ伏して、女神は叫んだ。まるで何か強い力に押されて、倒れるように。受け身も取れないような、不可逆な力によって突かれたかのように。


「ばたーん?」

「……多分、キャパシティオーバー」

「ああ……」

「予想はしてたけど、いざ到達したってなると違うんだと思う」


 琥太郎は反応に疑問を感じたが、その疑問は青葉の言葉によって霧散する。きっと、そういうことだったのだろう。シエテによって、受け止めきれない衝撃だった。ずっと予想はしていたし、到達を受け入れる準備もしていた。だがいくら予想したとしても、予想は予想であって……実際にそれが起きた時に、反応できないこともある。今の彼女の身に起きたことはまさにそれなのだ。


「しかしばたーんってな……」


 琥太郎は呆れる。あの女神が、どれだけそれに賭けていたか、どれだけ重要視しているかを知っているが故に。その反応はとてもかっこ悪く、みっともなく感じた。仕方ないことにしても。


「あばばばば……」


 隣のシエテは机に突っ伏したまま、壊れたかのような状態でいた。が、すぐに跳ね起きて、また言う。


「夢じゃない……わよね。確かに来るって予想してたけど……10万人って節目は、夢じゃないのよね」

「夢じゃないさ、ちゃんとあたしたちが証人さ。信じられないならほら、スマホスマホ! 自分のやつで撮ればいいじゃんかっ」

「せっかくだから一緒に写りませんか? 私もシエテさんのチャンネルを見てきた人として、これを分かち合いたいのです!」

「わかったわ、スマホ自体は……ある、から……。やるわ、記念撮影……!」


 スマートフォンのボタンを押して、パシャリ。画面のスクリーンショットに、10万人という数字がしっかりと映された。


 この記載は、記録は捏造できないものだ。燦然と画面に輝いている。


「……あ、改めて証拠として残したとなると……嬉しいと驚愕がぶつかり合って情緒がめちゃくちゃになるわ……!!」


 ぎゅっとスマートフォンを握りしめたシエテがそう呟く。声は、ずっと震えっぱなしだ。歓喜、興奮、驚愕、その他色々な感情がぶつかり合って、めちゃくちゃになっている。


「と、とりあえず一言だけ……。一言だけ……!」


 そんな中で彼女は行動を起こした。拳を握り、突き上げて……叫ぶ。


「よっしゃやったーーっ!!」


 それは歓喜の言葉だった。


 それに次いで……歓声が聞こえる。


「おめでとう、だなっ!!」

「ええ、はい!」

「ようやったのう、嬢ちゃん! あんましわからんが……嬢ちゃんがすごいことやったのは伝わってくるでぇ!!」

「宴じゃ宴じゃ、楽しまんと!!」

「みぃんな……!!」


 玲と輝美と。ついでにゴウスたち。彼らがよってたかって。シエテに言葉を交わす。その歓喜の輪の中で、笑顔を見せるシエテがそこにいた。夢が叶った瞬間なのだろう。


 底辺女神の一先ずの夢、目標。それが叶った瞬間。


「私ね、諦めないで良かったと思えるわけ! そりゃあ昔は全然再生数もなくて、登録者なんて一桁台だったし、色々言われててさー! でもさー! 色々好転してきちゃってさー!」


 歓喜の中で、ふわふわした感情を抱いているのか、自分を誇示するようないつもの言葉もどことなくキレがない。


「……駄女神、いつもと違う」

「仕方ないと言えるさ。青葉も剣道の全国大会で優勝した時はそうだったろうさ」

「……あの時はそう。何かを達成するとうれしいもの。つまり、言いたいことは」

「……つまり、そうだな」


 ふふ、と小さく笑みを浮かべつつ、琥太郎と青葉も、離れた位置で語る。


「……おめでとうってこと」

「めでたいことだよ。本当に」


 二人もまた、楽しくなって嬉しくなって。そう言う。


「なるほど……今日は嬉しい楽しい尽くしじゃないですか、琥太郎さん」

「……母さん。まあそれは……はい」


 そう声を聞けば、笑顔でそう言う撫子の姿。カウンターの奥。普段はエルメスがいるその場所に立って、包丁を持つ。


「琥太郎さんの友達は私の友達でもあります。そんな方の喜びは私の喜びでもありますから……」

「ありますから……?」


 ニコッと微笑みを浮かべると、撫子は言う。


「腕を奮いましょう。久しぶりに、私の手料理でも! 厨房を、お借りしたいと思いますね?」

「ええ、是非!」


 そうエルメスへと告げた。


 その言葉は、琥太郎にとっても嬉しい響きだった。だってそれは、琥太郎自身がよく知っている……。食べられないと思っていた。母の手料理だったから……。


「……素直に嬉しいです。俺も……久しぶりに母さんの料理を食べられるのは」


 だから自然と表情が綻んでしまうのは……当然のことだったかもしれない。


「え、なになに!? 琥太郎のお母さんの料理って!!?」

「楽しみやのう、宴や宴!! 仲間が増えた、嬢ちゃんにも嬉しいことがあったんや!!」

「っしゃあ、お皿もテーブルも並べるぞー!!」

「ウ、ウーー!!」


 シエテや玲、それにギルドの仲間たち。彼らも呼応して集まる。呼べば集まる。性別、年齢、種族。そんな友情で結ばれる……素晴らしい人たちだ。


「祭りよ、今日は祭りなの! 全て無礼講! 女神が全てを許す!」

「おおおおお! 流石やのう、女神様ってやつは!!」


 その中心で、女神が笑う。プライド高くて、アホみたいに煽てられやすくて、何よりも身勝手な女神。最近はあんまりないけれど……魔力切れも起こす。そんな底辺女神。


 だけれど、そんな女神だからこそ……勝手な荒くれどもたちの、中心に居座れるのだろう。


 どんなやつにもいいところはある。駄女神だって、そうなのだ。それを琥太郎たちは……ちゃんと理解できるようになっている。


「こたろーもアオバも!! こっちちゃんと来なさいよ! 私の宴で、私の無礼講なのよ!!」

「……今から向かうところだった」


 琥太郎と青葉と、二人もまた……女神の方へと向かっていく。なんだかんだいって、あの女神のもとより。離れたくないのは事実なのだから。




「……全く……。一体何なのかしらね」


 酒場から目と鼻の先にある宿屋。女神たちがいつも利用するそんな場所。


 そこを経営する女性は呆れたように呟いた。 


「……まあね。引き継ぐだけだけどさ」


 そうして彼女は背後に目線を映す。


 その声は風に消えていく。それと同時に聞こえてくるは、少女たちの楽しそうな声と足音。その主を確信する。今あの簡易な宿に泊まるのは、彼女たちしかいない。


「……っと、そろそろ戻ってくるか……」


 そう言って彼女は目線を戻した。


「いやー今日はすっごく楽しかった! 私の宴、私の祭りって奴!」

「ああ、色々はしゃいでたよな、あたし達」


 ややあってやってくるは、いつも泊まっている少女たち。女神だったかと、冒険者たち。


「次の目標もでっかくってやつね……ってあれ?」

「……ああ、戻ってきたね」


 女神は入り口に立つ女性を見て首を傾げた。いつもは奥に引っ込んでいるはずなのである。


「……戻ってきて早々、言うことじゃないんだけれどねえ」

「……え?」


 そう言うと、女性はゆっくりと後ろを振り向く。すぐに一歩、立ち塞がるようにやってくるものが一人。


 それは全身真っ黒で、丸っこくて。まるでたぬきだか、犬だか……よくわからないマスコットのような。とにかく人間じゃない何かで。


 そんな何かが……女神シエテに向けて手を伸ばす。


 その手に握られていたのは……黒い封筒。


「あんたにお届け物だってさ。全員揃った時……開けるようにって。大事なもんらしいよ」


 それを説明するように。そう宿屋の女性が言うのだった。

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