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青年たちとギルドと感謝祭と

アイデアだけは浮かびます。

新作も。

改稿も。

「あ、おはようございます!」

「よお兄ちゃんに姉ちゃんたち。すまんなあ、こんな感じで」


 いつも足を運ぶギルド兼酒場。そこへ足を踏み入れる。看板娘でギルドマスターたるエルメスやゴウスなど、いつものメンバーがいつものように琥太郎たちを出迎えてくれた。ただ、彼らはいつもとはちょっとだけ違うところがあった。


「おはようございます。エルメスさんにゴウスさん。

いつもと変わらないとは思うのですけれど」

「そうね、なんか違和感が……」


 琥太郎とシエテと。二人してエルメスを見る。


「……服装。それに……髪型」

「そう、それ! 全然違う!」

「いつもの服装ではないな、それに……」


 青葉が指摘した言葉に、琥太郎も頷いた。


「あ、この服の私を見るのは初めてですよね、みなさん!」


 身に纏う服を見せながら、エルメスは笑顔で答える。


 服装。例えばいつものエルメスは、白い服にエプロン、ゴムでまとまった薄紫の長い髪がトレードマークだ。彼女らしい、質素な感じ。


 だけれど今のエルメスはどうか。赤いブラウスに長めのスカート。紫色の髪の毛の艶やかさも、何割増しか。なんと言うか、いつもよりも可憐で、豪華な姿。ゴウスの服装も、いつもの無骨な感じをやめて、ピシッとカッコよく決まっている。


 総じて、綺麗で豪華すぎる。冒険者らしかぬ感じな姿が、そこにあった。


「これは特別な衣装なのです!」


 くるん、ドレスを翻しながら、エルメスは言った。ふわり、と紫髪が舞う。笑顔もきらきらと光っている。


「特別な衣装……いつもの服も綺麗で似合ってはいるけれど」

「それとは違う感じの衣装なんだもんな。案外新鮮だよなぁ」


 琥太郎の言葉に玲が頷いた。琥太郎にとっても、今のエルメスは新鮮だ。いつもの服とは違う煌びやかさ。


「豪華な服、特別な手入れ。確かにスペシャルな感じですよね。この時だけは気が抜けない、って感じで!」


 輝美もそう言う。いつもより豪華な服は、確かに特別な日に着るものだろう。


「これは特別な日に着る服なんです」

「特別な日?」

「はい。一年に一度の『感謝祭』。その時に着る服なんです」

「『感謝祭』?」


 シエテが首を傾げた。


 感謝祭。その言葉を借りれば、一年のいろいろなものに感謝する日だ。例えば作物。たとえば動物。例えば、家族や恋人などを含めた、周りの人々。そう言ったものに感謝する日。


「『感謝祭』……と言うのも、そういえば初めてでしたか……。何度も経験している私たちと違って、コタロー様たちは……」

「ああ、まだきて間もないんだったな。案外何もしれないんだな、俺たち」


 何も知らないのも当たり前かもしれない。この世界に来て、レッドヴィルに来て。まだ一年生だ。わからないことはたくさんある。


「そうなんですよね。……ごほん、ではお教えしましょう!『感謝祭』、一年に一度のお祭り事について! これさえ聞けば、皆様もきっと、楽しみになるはです! あ、その前に着替えてきますね? いつもの服。お仕事もやらないと……」


 そういうとエルメスは建物の裏へと入っていく。エルメスによる久しぶりのご教授タイムが始まった。冒険者になる時も、任務も。ずっとエルメスに教わりっぱなしな気がする。


 最初っからそうだ。この世界にまつわるものは大抵彼女から教わったと言っても過言じゃない。


「……この人、人に何かを教えてる時が一番生き生きしていると思う」

「教師として、その気持ちは本当にわかりますよ〜〜♪」


 輝美の言葉はごもっともだろう。何かを教えることに喜びを感じる人だ。きっとそれは、エルメスも同じ。そうでなければギルドマスターとして、ここにいない。


「お待たせいたしましたっ」

「いつもの服だな」

「はい!」


 白服にエプロンといういつもの格好に身を包んで、エルメスが戻ってきた。よく見る格好で、新鮮味はないけれど……。見慣れている分魅力はちゃんとわかっている。


「それでは……『感謝祭』のことについて。と言っても、そこまで難しいものじゃないです。公国の祝日の一つで、一年に一度。家族や職場の仲間たちなど、みんなで集まって祝うんです」

「……なるほど、それはつまり……」

「サンクスギビングデイ、ですね。アメリカの祝日の一つ。本来は収穫祭なのですけれど、今はみんなでパーティをする日なのです」


 輝美がそう言ってくれた。実例を言ってくれるとわかりやすい。現実世界で似たようなものが行われていると知ったら、ああなるほど。と思い浮かぶ。


「あめりか……と言うのはわからないですけれど、概ねそんな感じです。私たちは冒険者で、収穫とかはしないのですけれど」


 エルメスもうんうんと頷く。


「その日は私たちもパーティをするんですよ」

「俺らギルドの奴らはみんな家族ってやつや。当然やろ?」

「そうなんです!」


 ゴウスが遠くで言った言葉。それに力強く答えられうのは、凄いと琥太郎は思った。そうだ。確かに仲間で……家族同士だ。このレッドヴィレの仲間たち。みんな強い絆で繋がっているようなものである。


「だいたいわかったぞ。あの赤いドレスは……」

「あのドレスはパーティで着るんですよ。一年に一度ですからみんなでお洒落して。これは皆様決定事項です。ゴウスさんだってこんな綺麗な服で纏めてるんですから!」

「俺がこんな小綺麗な服着てどうすんだって話なんやけどなァ……。動きづらくて動きづらくて。荒くれ者には荒くれ者の服装ってのがあるんや」


 そう言うゴウスの服は、いつものようなほつれ放題、荒れ放題のものではなく、綺麗に仕立てられた服だった。それに手を触れながら、困惑したような表情を浮かべている。


「この長い袖、思いっきり引きちぎったら動きやすくなるんやけど」

「だめですーっ! ちゃんとゴウスさんのために仕立てていただいたものなのですから」

「まあでも、いいんじゃないかな? 一日だけだし、それにすごく新鮮だしさ。カッコいいし!」


 玲がフォローするようにゴウスへ言う。確かに、いつも着ている服を考えれば……ゴウスにとっては困惑の材料になるのは確かだった。あの荒くれ者で碌でもない人間であることを自称する彼にとっては、ぴっちりと決められたこの服装は、たとえ一瞬であっても耐えられないものだろう。普段はワイルド、と言う感じだけど、今はクールと言ったところか。本人は嫌っぽいが。


「まあ、そう言うわけで。『感謝祭』はみんなでこうやって特別な服を着て、パーティをして……って、そんなすごく特別な日なんですよ!」


 キラキラした表情で、エルメスはそう言った。その表情はとっても楽しそうだった。面白そう、だと琥太郎も思った。


「『感謝祭』、か……。それって俺たちも出て……」

「当然ですコタロー様! だってあなたたちも家族と一緒なのですから!」

「せや! この街に住む奴らはみーんな家族と同義や! 小さい街やけれどのう、その繋がりはとっても大きいんや!」


 琥太郎が言うと、エルメスがぎゅっと手を取って言う。ゴウスもそう続けた。ギルドに入った仲間はみんな家族。レッドヴィレは小さな街だ。だからこそ……琥太郎たちも同じく家族なのだ。


「ですのでちゃんと特別な服を用意したいと思うのです、『感謝祭』はまだ少し時間はありますから」

「……ありがとう、ございます」

「ドレス、楽しみだよなぁ……」

「……うん。それはわかる」

「ですよね〜〜」


 琥太郎や青葉、玲に輝美。みんなみんなドレスやスーツに想いを馳せた。そんな中で琥太郎は、ふと思い出す。


「そういえばエルメスさん、俺たちがくる前に来た人がいま、せんでしたか?」

「ああ、あの方でしたか! その方は今……」

「書類、書き終わりました。こちらに渡すと言う形でよろしいでしょうか?」


 奥の方より聞こえるは、聞いたことのある鈴のような声。まあわかってはいたけれど、撫子だった。彼女によって書かれた文字は、まるで筆文字のような達筆さだ。


「あっ、ありがとうございます。それでは次は……」


 エルメスがそう言って撫子へ目線を映した。ギルドマスターで、酒場の店主で、一人でそれを行なっている。レッドヴィレがいくら小さな街だからと言って、それを両立できるのはすごいと言わざるを得ない。


 琥太郎は椅子に座って、周りを見やる。みんな重い思いに過ごしていた。ゴウスなんかは、仲間と腕相撲をやっている。いわゆる腕試しだ。


「祭り、ねえ……」

「楽しそうではある」


 隣の椅子に座って、シエテと青葉は言う。琥太郎はテーブルに置かれた水。それをゆっくりと飲みながら、思考する。その視界の傍でシエテはスマートフォンを開き、何かをぽちぽちと操作している。


 そんな中で、琥太郎の耳に。


「ふわっ!? マジで!?」

『えええーーっ!? すごいですっ!』


 シエテとエルメス。女神とギルドマスターの驚きの叫び声が飛び込んだ。水を吐きだしそうになりながらも、琥太郎は周りを見渡す。


「あ、はわ……はわわわ……っ。これは……」


 隣にはスマートフォンを見ながら震えているシエテ。それと同時に裏からパタパタという音が聞こえる。


「大変です、皆様!!」


 バーンっと音を鳴らしながら、エルメスが驚いたような、嬉しいようなそんな表情でやってきた。まるでさっき起きたことを全力で伝えなければならないと、そう思ったという表情。


「私達のギルドで、またAランクが出ちゃいました!! 二人目ですよー! びっくりですよー!」

「らんく、というのは私にはよくわからないのですが……いい気分です。琥太郎さん、見ていますか? ふふ♪」


 そう言い切ったエルメスのその背後から、撫子の声。Aランクというのは、最強レベルと聞いた。


「おお、きおったんやなぁ! 俺より強い奴ァ大歓迎やのう! なんせ戦うしか能のない男や、もっと強い相手がいるなら滾るってもんじゃ!」

「お前さんはそういうやつじゃもんなあ!」

「付き合い長いからわかるがじゃ」


 ゴウスが歓喜するように叫んだ。その言葉は本心だ。彼は本気で、自分より強い相手を望んでいた。それがあらわれたことに興奮している。


「……」


 その一方で、それが嫌だと思う人間も、少なくないわけで。


「……青葉」

「私だけで良かったのに。しかもなでしこさんだから。絶対くる。こたろーのとこ」

「ふふ、よくお分かりで。私はこたろーさんの騎士であり、配下ですから♪」

「やっぱりいや!」


 撫子の言葉に青葉はそう叫ぶ。それは紛れもない拒絶の意思だった。そんな意思を示したとて、撫子は、彼女は押し通すタイプで。それをはっきり知っているから、これ以上は言わないけれど。


「……聖域を侵された気分」


 青葉は小さく呟いた。聖域を侵された。そう感じるのは本心だろう。非常に恨めしく、聞こえた。


「ま、まあ仲良くしましょう? お二方は知り合い、らしいですから……あはは……」


 なだめすかせるエルメスは、割と哀れに見えてしまったが。


「……そしてシエテ、お前は……まだふるえてるのか」

「だ、だってよ、だって……」 


 琥太郎が女神に目線を映す。隣でまだふるえていた。そんな声で小さく呟くように言う。


「十万人……」

「十万人?」

「ええ! 十万人!」


 琥太郎が問いかける。その問いかけにしっかり答えると、そして、全ての震えを押し出すような、そんな感情を込めた声で。


 こう、つづけた。


「十万人超えてた……! あたしの、『あるしえてチャンネル』の登録者数……!」

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