ファンタジアの招待状
こちらプロローグの後編となります。
「今回の祭典はどうなりますか? って? そりゃあ決まってるでしょ」
神界のスタジオ。今はオフでせわしく働く者もいない、真っ白な背景の場所で。男はインタビューを受けていた。
いつものアフロヘア―、赤い服はしっかりと決まっている。姿勢を崩して足を組んで座りながら、向けられたマイクにいつもの調子で答えていた。
「楽しくなるさ! 毎年のように最高の祭典になるに決まってんだ!」
笑顔で男は言い放った。断言したのは、それが自分の中で絶対的な事実になっていたからだ。確固たる考えを、柔らかくすることは難しい。
「最高なものが必ずやってくる」というものを既定している男は、どんな言葉にもこう答えることは明白だった。
「前回はウォーターパーク、前々回はスポーツ、色々なテーマで作り上げてきた祭り。そのどれも、俺にとっては最高さ。だから俺は思うんだよ、今年もそうさってな!」
「そ、そうですか……。すごい自信ですね、貴方は」
「自信がなきゃやってないさ。なんせ俺が関わってる!」
インタビュアーは辟易した表情でそういうも、男の絶対的自信を崩すことにはままならない。
「(もっと違うものが聞きたいんだよねえ、こっちは大型雑誌に載せるんだぞ)
そんなインタビュアーの不満と憤りの感情。心の中で毒づくことぐらい許されよう。そんな考えだ。
「俺は関わってるからなあ。あんまり詳しくは話せないんだ、ごめんな」
「……いえ、それは分かっておりますから」
男はその心を汲んだのか、インタビュアーに謝罪する。しまった。とんでもないことをしたと、インタビュアーは静かに言葉を告げ、謝意を示した。
「まあ今回も最高のやつになるってのは。はっきり言って本当さ。いろんなやつが来る。皆面白い奴等さ。運営も俺も太鼓判のやつがさ!」
そんな中で再び自信満々な表情を見せて男は言った。
「祭典……キントージェン・ファンタジアはGotuberの祭りですから。最高のGotuberが楽しみ、演じ、同じ時を共有する。それはすなわち……数日だけの祭典!」
「おうとも!剣聖も獣王も、なんならアイドルもいる! GotuberのGotuberによる祭典!それがキントージェン・ファンタジアってやつさ!」
男とインタビュアーは、二人その単語で盛り上がった。キントージェン・ファンタジア。Gotuberの中でも一握りの神しか選ばれない、極上の祭りである。それは祭典として評され、多くの世界で多くの民が視聴する。一度参加することさえ名誉とされる祭りなのだ。
「当然条件は厳しい……。だがその条件を潜り抜けた者だけがたどり着ける。今のGotubeが凝縮されている。そんなもんが楽しくないわけがないだろ?」
「は、はいっ! 期待でわくわくが止まらないのであります!」
もうインタビュアーは一人のファンと化していた。Gotubeに関わるものであれば、キントージェン・ファンタジアという名前は知っていて当然。それの話を目の前で行うのだから、心が奪われるのは当然である。
「正式発表はあと少しさ。俺と一緒に見ようぜ?」
「いいんですか!?」
「いいってことよ、楽しみは共有する! 素晴らしいもんだろ?」
「ぜ、ぜひ……! ぜひお願いしますっ!」
あのはじまりの男と共に一喜一憂していいのか。こんなの経験はこの世で二度とない。インタビュアーは今自分があまりにも自分が幸せ者であることを、全身で感じていた。
「それで、貴方の予想は?」
「まあ順当に剣聖、獣王……あとはえりにゃんこ。去年までいた奴は多くはいるだろうさ。ただスキャンダルで落ちていった奴もいる。ただ入れ替わりが激しいわけじゃない。順当な連中ってのはたくさんいるのさ」
「あなたが今あげたのはもう登録者数がとてつもない数ですからね。ただ私は……あの歌い手やギタリスト、それに有名人枠もあるでしょうし……きっとそこそこ新しい人は入るのではないかと思っていますが」
彼らは発表前から盛り上がっていた。予想にも熱が入る。
「ま、予想は予想さ。それだけでも楽しいさ」
アフロ男はそういうが、すぐに言葉を切って。
「ただ俺は……正式発表の前に。一つ予言をしたいと思っててね。一人、絶対来るんじゃないかと思っているやつがいるのさ」
「あなたがそこまで言うのですか?」
「ああ、そいつに俺はチャンネル登録した。すごいことをしている奴がいる。そいつは絶対……今年に入ってくるさ」
「た、楽しみです! それはいったい誰でしょう……!」
あの男がチャンネル登録までした逸材だ。どんな奴だろう。そう思いながら質問する。
だが、それに答えがつくことはなかった。
「今発表でました! 今年のキントージェン・ファンタジアに出場する者たちが!」
「本当ですか!? ぜひ見せてください!」
走り出してきたスタッフが発した言葉。それにインタビュアーが立ち上がって、彼の持っていたものを受け取って再び座る。それはポスターのようなもので、選ばれた一握りの神の名前が記載されている。
「剣聖や獣王、順当な神がたくさんいますが……」
目で神の名前を呼びながら、そう呟くインタビュアー。すると。
「はっ、ははははは!!」
「!? ど、どうされましたか!?」
同じように神を見ていたアフロ男が、急に笑い出す。慌てたインタビュアーはびっくりして彼の方へと振り向いた。
「いやあね、おもしろいことが起きちゃってなあ、さっきまで笑ってたのさ」
「なるほど? しかしそれは一体……」
「そうだなあ、俺がお前に言った言葉を借りるなら……」
そういうとアフロ男は、困惑するインタビュアーに小さく笑みを見せつつこう言い放った。
「予言通りってやつさ」
「……にゃーにゃーにゃーにゃー……」
一方。スタジオから遠く離れた御殿。その一室にて。不機嫌な声を漏らすものが一人。
彼女は速報で入ってきたキントージェン・ファンタジアに出場する神たち。その名前をしっかり見定めていた。自分の名前は当然、入っている。それで満足していたのだが……。
「来るとは思わなかったなあー! ほんとにっ!」
「荒れるのはよしてくださいよっ!」
「荒れてはないわ、それは大丈夫……」
アシスタントにそう言われて落ち着きを取り戻す。
「……しかし、そんなに驚くことがあったのです?」
「大驚き。ついでに不満。どんな魔術使ったのか、教えてほしいぐらいなんだけれど。はい、アンタも仕事に戻る。サムネイル、まだ終わってないでしょ?」
アシスタントに対してぶつくさ言い、元の場所へと帰してやった。そのまま彼女は指を滑らせる。目の前の何もないはずの場所が、急に下へとスクロールした。
全画面モニター。Gotuberの必需品であるパソコン。その中でもとっても高いモデルだ。それを使いこなせるのは、人気とお金があるからである。
「(ほんとに、どんな魔術使った? 底辺だったのに早すぎるんだけど)」
そう心の中でつぶやいた。あの相手に向けての言葉だった。
「(意味わかんないっての、ほんとに……いろいろぶつけてやる)」
彼女は目を瞑りながら……思い出す。
あの金髪女神の顔を。
「(シエテちゃん)」
「(ほんっとに、会った時が楽しみ……)」
そうして。女神……『えりにゃんこ』ことエリセは。
再開へと心を巡らせるのであった。
キントージェン・ファンタジア、豪華な祭典。そして再会。
神界での物語もどうやら、一筋縄ではいかなそうです。
そしてシエテにも秘密があるようですね。
まだ誰も知らないけれど。




