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魔王と勇者達の総力戦③

「来た。こっちでやることがあると思ったからな」


 ワイヤーを飛ばして高速移動。それを自分でベルトへ収めつつ、琥太郎が勇者のところへと跳んだ。


「君は! コタロー、だったっけ。そうだね。力を貸してもらえたらなって思うんだ」


 勇者ハミルはやってきた青年に目線を向けると、真剣な表情で言った。


「目の前にいた魔物をいっぱい倒した。でも、すぐに復活すると思ってる」

「ここまでたくさん倒したのもすごいな」

「ただ、復活して大群になったら、いずれジリ貧になるだろう。魔物に命はなくて、無限に生まれるから。その魔物を生み出してる大元。闇を絶たないと戦いは終わらないんだ。その為に君の力がいる」

「……俺か。そう言われると」

「そう言われるとむず痒いって? そうだろうけどね……」


 小さく笑いつつも、ハミルは至極当然かのように言った。勇者の剣を構えた彼の目は、この激戦区を超えた先を見据えている。


「魔王と戦う為に必要なんだ」


 ハミルはそう切り出した。


「君はガーゴイルに連れ去られて、その先で魔王と会っている。それに、廃鉱山を拠点に使用していることなど、色々知ってる。魔王と戦う為の手助けになると思って」


 ハミルは言った。そう、琥太郎はカトレア以外では唯一。魔王に接見した人物だ。能力や性格などの詳細な情報を、しっかりと持っている。


「確かにそれができるのは俺だけだな。魔王の詳細を知ってるのは俺ぐらいなもんだから」

「だろう? だから君の情報がかなり役に立つ。それに君の推測や、判断力とかは、あのカトレアも認めてるんだ。軍師としての素質は素晴らしい。磨けば光る原石のような人物だと」

「……そこまでか」

「そこまでなんだ」


 ハミルは嬉しそうに答えた。そこまで認められていたのかと、琥太郎は軽く驚く。


 ただそれと同時に、確かに。とも琥太郎は思った。自分がこの場所でやることと言ったら、魔物を倒すことじゃない。

 

 魔王に対して色々告げることだろう。自分が持つ情報をしっかりと伝える。魔王に出会った数少ない人物である、琥太郎自身が。


「了解した。勇者のために情報を共有しよう。役立つことができるなら、それが一番いい」

「ありがとう! 一人じゃない、君がいれば大丈夫さ!」


 二人は手を伸ばして握手する。硬く結ばれた手は、友情の証だった。


 青葉も玲も、輝美も。もちろんシエテも頑張っている。だったらこっちも頑張らなければ。琥太郎はそう思った。


『なればわっちらにもその情報、伝えてもらうとするかの?』

「わあ!? 急に声が響いた!」

「落ち着け。急襲じゃない」


 急に背後よりから声が聞こえた。びくうっと体を跳ねさせたハミルへツッコミを入れ、琥太郎たちはその声の方へ顔を向ける。


「『鏡』だ。ちゃんと映ってる」

「『鏡』って、カザハナ? カザハナなの?!」

『いかにも。随分とびっくりして……何か怖いものでもみたのか? わっちのことだとしたら悲しくなってしまうの……ふふっ』


 四角の鏡。それがふわふわと浮いて、琥太郎たちのことを見ていた。それからカザハナの声が聞こえている。


「ずいぶんびっくりしてるんだ。あの『鏡』を動かしてるのは、初めて見るから。負担は大丈夫? 結構危なかったりしない?」

『勇者殿は心配性じゃのう。心配無用じゃ。そうじゃなかったらやらぬしの』


 くっくっく、と笑いながらカザハナはいう。


 琥太郎はそれを成した方法に覚えがあった。


「シエテのGotubeか。それを可能にしたのは」

『正解よ! あんたならわかると思ってたわ!』


 琥太郎がそう告げると、すぐに女神が答えた。


『そういうことじゃ。わっちの負担をこの“ごーちゅーぶ”とやらに肩代わりしてもらってるの……効果は抜群。頭もかなりスッキリして、脳も不必要に使わなくて済む……。だからこんなことをする余裕もできとるの』


 カザハナはふふんと小さく笑みを漏らした。


「なるほど。もとより『鏡』をあれだけ出して、維持するのもできてしまうから、コストが減ればその分違う機能に挑戦できるというわけか」

『ご明察じゃ! わっちも色々成長しとるというものじゃのう。勇者殿。まさか違う女神様に助けられるとは思わなかったけどの……』

『女神ですもの! 少しでも信仰してもいいのよ? 信仰の分だけ、信頼の分だけ動画再生も増えるし人気も出るから』


 カザハナが言う隣でシエテが叫ぶ。彼女の満面のドヤ顔まで見えてきそうだ。褒められておだてられるとあの女神がどうなるかは、琥太郎はよく知っている。


『まあそう言うのが欲しくて。女神様は“らいぶ”?というものをやってるようじゃし』

「待て。この戦いをGotubeに流してるのか?」


 カザハナの言葉に琥太郎が強く反応した。


 魔王と悪魔、魔物たち対勇者、冒険者に騎士。その総力戦は、確かに動画としてはかなり強い、と思う。だが流石にスルーできるものではなかった。


「かなり際どいと思うぞ。戦いというのは傷つき、倒れるものだから、それをしかも配信で流すというのは、色々倫理がおかしいだろう」

『……そうだけども』


 その言葉を受け止めながら、シエテは言う。


『確かにセンセーショナルなライブで再生数や登録者数を増やしたい! ってのが本音ではあるけど。勇者のためでもあるのよ』

「勇者のため?」

『神の使いっ走りよ』

「それは……勇者の蔑称だ」


 神の使いっ走り。神の加護を得て世界を救い続ける使命を持つ勇者を、非常にバカにした感じで呼ぶ言葉。その言葉を勇者は、あらゆる者から甘んじて受け入れなければならなかった。


 それを看過することができなかったから。あのカトレアは魔王との交渉に及んだわけで。


 聞き入れられない言葉、と言うのがこの世の中には存在する。神の使いっ走りという言葉が、カトレアにとって著しい地雷だった。それを除いても……確かに聞き入れられない言葉ではあったりする。


『神にも民にもそんな言葉をぶつけられるのは辛いでしょうよ。でもそれは、誰も勇者のことについて知らないから。神は人間でありながら神の力を得た紛い物と言うし、民は偉大なる神の力をもらったボランティア……と言うかパシリ扱い。どっちからも針の筵にされてるのよ』

「……それを変えたいと。勇者とはこういうもんだと言うのを見せたいと」

『そう言うこと。世界のために頑張ってるんだってのを伝えるのよ。ま、目の前にいる勇者が、よくいる自分のことしか考えないようにクズ勇者だったらそんなことするつもりはなかったけど』


 シエテはそうさらっという。彼女は女神としては底辺もいいところである。それがいい意味で左右したのかもしれない。


『そうじゃなかったから乗ろうと思ったわけよ。それに、どっちみち魔王は勇者じゃないと倒せなさそうだし?』

『痛み入ります。女神様の言葉と行動あってこそ、今があると思いますので』

「それは僕もちゃんと理解できてる。心の底から……ありがとうございます」

『でしょう!? 見る目のあるやつがいれば私のことはちゃんとわかってくれるのよねー!』

「おい。評価下げていいのか?」


 勇者たちに褒められ、有頂天になって叫ぶ。呆れたような表情で突っ込む琥太郎だが、すぐにその表情を変えて。


「ま、ただ……そういうことを考えられるのは、ある意味でシエテらしいと思った」

『……アンタに褒められるとは思ってなかったわ。とっても嬉しいけど』

「ちゃんと本心で褒めてる」


 琥太郎の言葉。それに少し動揺しつつも礼を言う。そう、今回のシエテはかなりやっていた。よくやっていた。女神として、わりと大きなことをやっていた。だから、琥太郎も素直に褒められるのだ。


 今の彼女を、駄女神と誰が形容できようか。


『っと、そろそろやらないといけないことに戻るべきじゃの』

「あ、そうだった」


 そんな中で話を切り裂くように、カザハナが言った。


「魔王を倒さなきゃ……みんなが頑張っている。話している場合じゃない」

「……そうだな。魔王に対しては道中で伝えよう」

『その意気じゃ、勇者殿たち……ふふっ。大丈夫じゃ。鏡で見ておる』

『琥太郎、それに勇者も!負けたら承知しないからね!』

「……ありがとう、行ってくる!」


 声が聞こえる。魔物を皆が止めている。戦いの鼓動を感じる。ならばその戦いを、すぐに終わらせていこう。二人の青年は。その言葉と共に……一気に道を走り出す。


「いろいろ先導しようか。連れ去られて道は覚えている」


 森を走る。道を走る。そうして琥太郎たちは、魔王の場所を目指して、一直線に駆け抜けていくのであった。




「まず悪魔のアルケイオンは多分倒された。青葉と戦ってたから、恐らく青葉が自分でやったと」

「そっか。それなら後詰めされない」


 深き森を抜けていく。直線、曲線の狭い道。敵に襲われたら逃げ場がなさそうなそこは、幸いにも敵はいなかった。


「魔王の性格に関しては大いに疑問がある」


 琥太郎はそう話を切り出した。


「悪魔も魔物も、何一つ信じちゃいない。それはすなわち付け入るスキがかなり大きいということだ」


 自分の配下や部下をどうでもいいと言えてしまう。その根性に軽く驚いているのだ。だからこそ、魔王は孤高の存在でいられたのだろう。ただそれは人間たちにとって意味ないことだ。琥太郎はそう考えている。


「勇者なら簡単に勝てる……とは思わないが、仲間の応援一つで何とか出来るのが俺たち人間だ」

「うん。それは知ってる」


 その言葉にハミルが頷いた。仲間の強さ。勇者がそれを一番よく分かっている。


「だからこそ、道中に俺が見聞きした情報を勇者にすべてを託す。まず……黒の刃は簡単に首を斬れそうだ」


 そこから道中で、色々話す。嘘も搦め手もだいぶ使うこと。言葉はかなり支離滅裂かつ、人の話を聞かないこと。色々なことを告げた。


「あの魔王の一番の特色は驕りだ」


 琥太郎はそう言い、とある話を切り出した。


「俺が魔王に対して話そうとした時のこと。口答えされるのが大嫌いだったのか、魔王は俺の首に刃を突きつけてきた」

「! それで、君は生きてこれたんだね」

「ああ。たまたま機嫌がよくなっただけだろう。次に同じことになったら、間違いなく。俺の首が胴体と永遠の別れをするのだろうさ」

「……うん。そうならないようにしないとね」


 ぞっとした経験。琥太郎にとっては、死が一番近づいた経験かもしれなかった。


 まあ一度。死が近づいたどころか、直撃したことがあるけど。とは言わなかった。


「という感じだ。一番の長所は、人の話を聞かない傲慢さ。自分の判断だけで、全てを動かせるからな。だがそれは一番の短所となりえる」

「一番の短所。そうだね」


 ハミルは、小さく頷いた。あの魔王の考えには、はっきりとした驕りが垣間見える。そこを突けばいいと考える。


 どうやってそこを突けばいいのだろう。問題はそこなのだが。


「それとこれは、あまり関係ないことだが……実は俺は……もう」

「もう?」


 そして、さらっと琥太郎がそう言った直後だった。


『おお、開けたところに来たの!』


 カザハナの声が聞こえて、思わず我に返って前を見る。


「廃鉱山だ……。ここに……魔王がいる!」


 歩いてるうちにたどり着いてしまった。鉱山だ。


『ちゃんと鏡も残っておるの』

「話は後でしよう。とりあえず今は……」


 そう言って一言話した瞬間だった。


 ドォン!


 激しい衝撃が辺りを襲った。土煙で見えない。


 ッザアアアアア!!


 その土煙より。襲い掛かってくるのが黒い斬撃だった。その斬撃が、一直線に地面を這う。


「逃げて!」

「ちゃんとワイヤーがある!」


 そう叫ぶと、琥太郎はそれに答えた。ベルトにかかっているワイヤー。それを投げる。その栓たが目についた柱にあたる。


「せえええのっ!」


 そのままジャンプすると、勢いよくその柱へ向かうのだった。


「(柱に飛びついた。その場所がどこだかわからないが……)」


 そう考えながらも、まずは足手まといになるのを控えなければ。と考え……。


「勇者、ここは任せる。もう一つの懸念は俺に任せろ」

「分かった。僕は目の前に集中する。目の前には、あれがいるんだ!」

 

 そう言葉をかける。


 そう言われた勇者は頷き、前を見た。


「……勇者。ここで倒れればよかったものを」

「倒れるわけにはいかないからね。皆のために、立ち続けるのが僕だ」

「皆のためだと? 下らぬ、とことん下らぬ」


 勇者は剣を抜く。目の前の相手を、見定める。


「……どうせ我に倒されるのだ。遅くも早くもない……そうだろう」


 土煙が消え、姿があらわれた。


「そう、愚かな勇者よ。貴様は『黒刃』に斬られて……ここで死ぬのだ」


 黒い刃をもって、低い声で相手の心を射抜く。冷酷で慈悲無き歪みの王。


 魔王ラクシャーサが、勇者の前に現れたのだった──。




「黒刃を……こうして叩き付ける!」

「っ……!」


 ドォン!


 地面に叩きつけられる黒の刃。それが土をえぐり、穴をあけるのを、ハミルはよけながら見た。その一撃はとんでもないものだ。黒の刃、やはり魔王の力は強い。


『勇者殿!』


 カザハナが『鏡』越しに叫んだ。


「大丈夫、危なかったけれど……!」


 抜いた剣をしっかりと持って、たったと走る。回り込むように勇者は行く。


「ライトブリンガー!」


 魔王の背後に回り込んで、光のレーザーを剣から放った。光の集約。それが相手を焼くために迫る。魔王はそれを、かわそうとさえしなかった。


「ふん!」


 振り向かず、叫び声を絞り出す。その直後、バッッ!! と音が響いた。


 空間が歪む。魔王の周りが、一瞬だけ融けるような感じがした、それに触れた瞬間、レーザーが消える。


「この程度、避けなくても受け止められるわ!」


 その言葉の通りだった。光のレーザーは、叫び声によってできた空間の歪みによって受け止められたのだ。


「我と貴様では種族が違う!」


 魔王が一瞬で近づき、右手に持った刃を振るった。勇者は自分の剣とかち合わせる。黒に染まった刃。それは、勇者の剣のような形をしている。恐らくそれは、闇の形を変えて、模倣しているものだろうけれど。それでも威力は本物だった。


「光の勇者! 勇者と言った! だが勇者といえど、所詮人間!」

「人間だ。僕等はちゃんと人間なんだ!」


 剣を交える。大きな音を響かせながら、闇と光が重なりあう。高速の剣戟。縦、横、斜め。それら全ての攻撃を、互いにちゃんとタイミングを合わせている。魔王も勇者も。力を持っているのだ。その力をどう使うのか。それだけの違いだ。


「そう、ちゃんと人間なのだから……対応などできぬ!」


 そう叫ぶや否や、闇の剣が形を変えた。ぐにぐにと音を立てつつ、勇者の剣だったそれは……アックス。大きな斧へと変化した。


 それはまるで剣を振るうのとは違う。早さよりは、重さを重視したもの……。


「!!」


 ハミルがそれに驚いた。一瞬だけ。その一瞬を、魔王が見過ごすわけがないのである。


 ガィン!


「ぐぁっ!」


 勇者は地に臥せた。斧と剣がぶつかり合う、激しい衝撃。それに耐えきれず、身体を崩した。


 脅威なるは、魔王の体幹か。その衝撃を持っても、何一つ動かずにいたのである。


 どさっと音を立てて、魔王の目の前で無防備な姿をさらす。


『勇者殿!』

『ああもう、何やってんのよ!』


 カザハナとシエテ。二人が声を出す。目の前で勇者が倒れる。それを見たのだ。


『居ても経ってもいられずに来ました、カザハナさん、女神様……!』


 そんな中で、『鏡』の背後から音が聞こえる。急いで走る足音と、焦ったかのような叫び声。


『カトレアかの!! 持ち場は……!』

『私達の方はもともと魔物は来ませんでした、どうでもよかったのでしょう……。それで、勇者様は……!』

『芳しくないの。難しいのは分かっておる』

『勇者様っ。私も向かえれば……!』


 カトレアが悔しそうな声を漏らしつつ、『鏡』越しに勇者を見る。勇者一人対魔王一体。その戦いは、たとえ勇者が決めたことであろうとも……。彼女達にはただ見ていることしかできないのが辛かった。


 今まさに前線で戦っているミミットだって、同じ考えの筈。彼女がここにいないで良かった。とカトレアは思う。


『ミミットさんだったら、間違いなく向かうでしょうけれど……』


 カトレアはそう小さく呟きながら、不安を訴えるように胸の方で手をギュッと握りしめた。


「……悲惨だ。貴様のような勇者は」


 闇の刃を斧から変えて、魔王は言った。闇の塊が彼の手で、グニグニと動く。刃は次に、長い刃の鎌へと変わっていた。相手の首を狩る、死神の鎌。


「人間ごときが、魔王へ歯向かう。それが間違いなのだ。貴様らは我に抵抗などせずに、潰されるべき存在なのだ」


 魔王は鎌を勇者の首へと当てて……侮蔑するように言う。


「そう、我は全てにおいての至高。そこに並ぶものなど、いるはずもない」

「その考えで、自らの配下も……切り捨てたのか」

「配下? ……ああ、あれか。あれは……一体何だったか。我にはどうでもいいものだ」

「!!」


 少し考えたそぶりを見せつつも……そう言い切った。

 

 魔王は、配下の献身についても、何も考えることはなかったのだ


「そもそもだな、我の配下は簡単に作れるのだ。狂信の考えをもった。我のみに従う生命体など、闇より簡単に作れる。貴様を象って作ってみせようか?」


 そう言って笑いながら、魔王は手を突き出す。


 その手から闇があらわれ、剣をもった勇者とうり二つの姿へと変わっていった。


「簡単だろう? そう、全ての生命には意味がない。我にとっては簡単に作れるが故に……。人間も、配下の悪魔もまた意味がないのだ」


 闇より作られた勇者は、黙ったまま。剣を本物の勇者へ突きつける。そして魔王の鎌は、勇者の首へ触れたまま。


 その鎌の刃が、すっ……。とひかれた。


「お別れとしよう、愚かな命よ。貴様の体と力は、我が使っていこうとしよう」


 魔王は笑いを隠せず、静かに言う。


『鏡』越しに見ている者たちも、その瞬間を悲しい表情で見ていた。勇者などは、黙って話もしない。


「見ているといい、人間共。これが希望の末路よ!」


 そしてその頸に……刃が振られた。それと同時に、闇まで叩き込まれて……辺り一面。目の前が見えなくなる。


『ッッ……。勇者様──ッッ!』


『鏡』の中で、絶叫が響く。


「……フ、フフフフハハハハハハハ! 当たり前の帰結、帰結よ! 勇者は死んだ、伝えよ……っ!」


 勝ち誇る魔王。だがその闇を晴らしたとき。目の前の異変に、気づく。


 勇者の死体がない。


「……やっぱり彼の言う通り……傲慢だった。その傲慢が……僕の命を救った」


 背後で声が響く。その声の正体は、間違いなく。


「……その声は!?」

「すぐ倒せばよかったんだ。お前は僕のことを……全力で斬ればよかった!」

 

 魔王は振り向いた。


 その目の前には、バチッ、バチィと光の波動を響かせながら、しっかりと両の足で立っている。勇者の姿がいたのだった。


「『ライトニングレイ』。光を纏い、闇の向こうへと移動する高速移動。お前が鎌を引いた瞬間に、動き出したんだ。僕は光の勇者、光にまつわるものなら、なんだって使える!」


 そう告げる。目の前の相手が闇から、歪みから現れるものなら。彼は。勇者ハミルは。その闇を断つために生まれた……光の勇者なのだ!


「僕は逃げない。その光とと共に。仲間と共に。人間と共に……闇を払う。お前が、改めて僕に……勇者のすばらしさ、命のすばらしさを教えてくれたんだ!」


 そういうと、彼は胸に手を当てる。


 ひときわ大きな光が、全身を包み込んだ。


「使っていいよね、カトレア……みんな。使うなって言われたけど、今回は……。いや、これからも!」

『……!』


 ハッとしたカトレア。彼がやろうとしていることは、はっきりと分かった。だからこそ。


『ええ。私ももう……何も申しません。それを使ってどうなるかは、理解していますが……もう何も言われても動じません。だからこそ!』


『魔王に振るって差し上げましょう……貴方様が持つ、光の()を!』

()って……マジで!? もしかして、勇者ってやっぱりあれもってるの!?」


 女神シエテは、その言葉に驚く。


『ええ。()。勇者様の切り札にして……神より与えられた力。神さえ倒せるほどの。鞘なき()。事情が事情で……使わせたくなかったのですが。もう大丈夫です』


 カトレアの言葉にシエテは息を呑んだ。その名前は、知っている。それを振るう。そりゃあ周りに、誰かいたら大変だ。


『(琥太郎だって近くにいてあんなの喰らったら間違いなく死んでしまうっつーの!!)』


 女神はそれゆえに、それを恐れた。


 それが今。振るわれようとしている。


「魔王ラクシャーサよ……今ここで、お前を倒すための剣を振るおう!」

「愚か者が……! 闇に、歪みに勝てると思うか!!」


 吐き捨てるように叫ぶ魔王は、闇の鎌を振り上げ……地面に叩き付ける。闇の斬撃が襲う。


 そして。勇者は胸に手を当てた。全身を駆けのぼるその光が……。一直線に集まる。


 その奔流が、あふれる。勇者の一番上、頭頂部より。


「これが光の勇者の切り札。光そのものを剣として振るう!」


──光輝剣、スターライト──ッッ!!


 その叫びとともに振るわれたのは……。全身を光の柱と変えて。頭蓋を光の剣へと変えて放たれる。超巨大な光の奔流。


 その波が闇を喰らい、飲み込み……全てを消し去って魔王へと飛び込んでいく。


「わ、我の……歪み、闇を。やみをおおおおお……!」


 魔王ラクシャーサは。その光に飲み込まれた瞬間、うめき声を残すがそれも直ぐに聞こえなくなって……。


 その光が晴れた時には。


 闇の魔王は。きれいさっぱり姿を消していた──。


『……素晴らしい()でした、勇者様』


『鏡』越しに見ていた、勇者一番の仲間たる赤の魔導士は。その姿に涙を一筋こぼしながら……。


 貴方様は、さすがの勇者様です──。


 そう小さく呟いたのであった。

勇者vs魔王戦です。

やりたいこと。書きたいことを全て詰め込みました。


そして次で、総力戦は終了となります。

琥太郎が何を見るか。

それは割と、深刻じゃないかもしれない。

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