表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/64

魔王と勇者達の総力戦①

あけましておめでとうございます

全然間に合わなかったです。

2024年はもっと書きます。精進します。

「……我らの攻撃に耐えたか、面白い」


 暗い暗い闇。魔王の根城。その奥で、荘厳な椅子に座り魔王が一人ごちる。


 ラクシャーサ。黒刃の魔王。深淵のように低く深い声を鳴らしながら、杯を傾けていた。


「ガーゴイルのアルケイオン、ここに」


 その最中、目の前に悪魔が姿を現す。比類なき魔王の配下、魔王を真に尊ぶもの。アルケイオン。魔王に御目通りをしつつ、跪く。


「よもや決戦となりえるとは……。今までの生命より遥かに惰弱……そう評したこと。これは心底誤りでした……ここの人間は案外……」


 アルケイオンは己の判断を後悔する。あまりにも惰弱ですぐ屍の山を築けよう。それが考えだ。だが現実はどうだ。屍の山を築くどころか、耐えた。10日ずっと耐えたのだ。


 そうして決戦まで追い詰めたのは、人間の底力を感じて厭になる。


 悪魔であるアルケイオンにとって、魔王以外の存在などありえない。同族であるはずの魔物の存在さえ、目に入ってないが故に。


 人間という矮小な存在の敢闘など、アルケイオンにとっては一切合切あり得ないのだ。


「いや、考えるのはよそう」


 アルケイオンは考えるのをやめた。


「我は……ただ、戦うのみ! 抵抗の手がここまで続くのであるならば……此度の戦にて奴らの火を消す心算で!!」


 声を張り上げた。高らかに叫ぶように、悪魔は言う。


「そう、我は鋼棘のアルケイオンよ! 邪魔なもの、我が魔王の意にそぐわぬものなど!悉くを滅ぼしてきた! それは変わらぬ! 常に変わらぬのだ! 悪魔としての本能……。虐殺滅殺の本能! 己に深く巣食うそれが……昂って昂って仕方がない!」


 それは、己を奮い立たせる誓い(スペル)だった。ガーゴイル。悪魔の姿を持つ者。ただ己の本性に従うのみ。我が魔王の敵となるものは、全て滅せよ。鋼の棘、魔たる体。それらを持って……叩き潰してくれよう。


「我が魔王に捧げるのはただ唯一、完璧な蹂躙、完全的な勝利であると決まっている……。たとえ人間が武器を構えようと、法術を放とうと……我は止まらぬのだ」


 敵に顔を当てて笑いながら、アルケイオンは言った。


「大戦争だ! この場所を辺り一帯変えてしまってもかまわぬ! 全ての戦力をかき集め……! 励むのだ!!」


 後ろへ振り向きつつ……悪魔は叫んだ。


 背後より、大きな声が聞こえる。その声、いや声とは言えず。雄叫びは、魔物のもの。魔王の配下よりも下の。歪みより生まれた異物。


 けたたましい声を上げ、魔物共は叫ぶ。これが最後の戦いであるが故に、一人も多くの人間を道連れにしたい。それが故の感情。


「血祭りにあげて、差し上げましょう……。我は我が魔王に勝利をもたらすもの! ガーゴイル!ガーゴイルのアルケイオン! 我は敵対するもの、奴らの血に浸り、満たされるものなり! ふ、ふふふ……ははははは!!」


 アルケイオンはそう全力で叫びながら……ゆっくりとその姿を消した。姿を消すのが彼の能力のうちの一つ。おそらく、魔物の元へ行ったのだろう。最後の戦いに挑むが故に。魔王のために蹂躙を行いたいがために。


「血祭り、か。いい響きだ」


 たった一人残された魔王ラクシャータは、盃を傾けつつ、小さく言った。


「そう、これは血祭りよ。到底戦いとはいえぬ。我には策があり、その策は完璧である」


 その策を思い浮かべる。魔王が配下にさえ伝えずに、騙し騙し、続けてきたもの。


「人間は我には勝てぬ、勝てぬよ。そう、我は勝てる戦いしかしない……ハハハ」


 低い声で悪辣に。ラクシャーサは笑った。


 ──りぃん。


 小さく、小さく。どこかで鈴が鳴った。


 その音はどこまでも、綺麗で透明だった。




 城の裏門前。最後の戦いに挑む者たちが集まる場所。


 冒険者と騎士、そして勇者たちが。お互いの絆を確かめ合い、決意を新たにしていた。


「皆、よく頑張ったとおもう。魔王が提示した10日の戦い。皆で耐えきった。一人の犠牲者も出なかったのは、とってもすごいんだ。やっぱりみんなには、誰にも死んでもらいたくなかったから。素直に嬉しいよ」

「それも勇者の行動や皆の判断あってのことだろう。綜合的に全てがいい方向に作用したのだ」

「うんうん! ミミもそう思う! これはみんなが生んだ結果だよ!」


 雰囲気は和気藹々としていた。皆、ここまで耐えたのだ。頑張って作り上げた結果を共有し、かみしめる。最後の闘いには士気がものをいうのだ。その点で言えばこの雰囲気は、現状最もよい。戦いに挑むすべてが、一致団結。それが絆の力なのだ。


「それに……貴方方には助けてもらいました」


 ざっと音を立てて、何者かが姿を現す。


「カトレア! ちゃんとミミたちのもとへ戻ってきてくれた!」

「ええ。きちんと、戻ることができました」


 ミミットの言葉に小さく頷くと、赤の魔術師……カトレアはハミルの隣に立つ。


「まず皆様に謝罪を。私はこの前の言葉の通り。魔王ラクシャーサと密会し、勇者様や仲間の皆様とこのフラーレンを秤にかけ……。勇者様を選んだ。私の考えで、本当に守るべきものを切り捨てようとしていました。自分の命さえも、捧げることに抵抗がなかった」


 カトレアは話始める。その言葉を、皆しっかりと聞いていた。


「ですが、この国の皆様、ひいては女神様や、その他の方々……いろいろな方に救われ。私はその道を、選ばずに済んだといえるのです。勇者様さえ悲しませてしまうような……そんな道を。私は、とっても弱い人ですから。一人ではそれしか選べない人間ですから」

「カトレア……」


 そんなわけがない、と言いそうになるのを、仲間たちはこらえる。その言葉自体を、カトレアは否定するだろうから。みんなちがって、みんな弱い。だからこそ、自分たちは強くなる。それに立ち返ることを憶えたのは、彼女も、みんなも一緒なのだ。


「皆様に詫びなければいけない。それと同時に……皆様のおかげで、ようやくあの武器が完成できたことも。全部ひっくるめて。ありがとうございました」


 カトレアはそういうと大きく頭を下げた。謝罪と感謝を込めて。


 誰もそれに対して、不平や批判を上げるものなどいなかった。それは、彼女の謝罪の姿勢もそうだけれど。最後にみんなが行った、あの行動。魔王に対抗するための武器。闇を払う弓矢。作ることさえできなったそれを、昨日の夜になって、しっかり完成させることができたのだ。それで彼女の罪、罰が昇華されたことが大きいのだろう。


「皆様の分まで、私は全力でその矢を放ちます。それだけは保証させてください」

「私もその矢、放たせてください!」


 そう言って手を上げたのは輝美だった。眼鏡の裏に笑顔を見せつつ、そう言った。


「風と炎。私達の魔力を全力でぶつけます! きっとすごい力になると思いますよ、ばーんって! ばーんってなると思うのです!」

「ええ、私の計算は乱れてしまいましたが……。その計算を超える力が、そこにあると思います。よろしくお願いいたします」

「ええ、絶対!」


 そう言って頭を下げるカトレアに、満面の笑顔を見せる輝美。その雰囲気に当てられたのか、カトレアの表情が柔らかくなる。


「……ふふっ、安心しますね」

「あっ! カトレアが笑った! 雰囲気ちゃんと変わった!」


 ミミットが指を指してカトレアに言う。


「カトレアが笑うことってあんまないんだ。ミミだってあんまり見たことない!」

「……私だって笑います」

「じゃあミミたちやハミルの前でも見せてよ! そうじゃなきゃ柄になくやきもち焼いちゃうから!」

「……これから善処します。すぐにではできるかどうかわかりませんが……」

「むむむ……じゃあそれでいい!」


 カトレアと、ミミットと。二人の掛け合いも熱が入る。カトレアもミミットも、今までより、今の方が楽しいのは確か。


「とっても楽しいのは分かるけど……これからの戦いがあるからね」

「分かってます。勇者様に、この国に勝利をもたらす。それが私たちの戦いなのでしょう」

「うん、ミミも戦う!」

「わっちも、いろいろ手助けするの。戦いなどはあんまり得意ではないが……。色々役立つことは出来よう」


 勇者たちは、絆を確かめ合う。今までよりも、強いきずなでつながっている。


「そう、これが決戦だ。これが最後の戦いなんだ」


 皆の方へと目線を移し、そう語りかける。


「僕等が勝つか、魔王が勝つか。この戦いですべてが決まる。みんな……。全力で戦って! みんなでいきのころう!」


──うおおおおおおお!!


 勇者の言葉とともに、騎士も冒険者もすべてが奮い立った。決戦を前に。心が完全に、一つになったのである。


 そして彼らは、それぞれの場所へと、ゆっくりと歩き出していった。


 雨降って地固まるとは、きっとその光景を表すのだろう。


 もはや彼らは、心配などいらないのだ。




「さて……私もいろいろとやることにするわ」


 その少し遠くで、何かを弄りながら女神はそう呟いた。シエテが使用しているのは、オークの家にあった、あのPCだ。あのPCは現在、自分の機材が何一つなくなったシエテにとってのメインとなっている。そこそこの性能で、動画のクオリティも割と上げられる。シエテにとっての、ちゃんとした右腕。新しい相棒のようなもの。


「戻ったぞ、女神殿!」


 パタパタと音を立ててやってきたのはカザハナだ。そう、これからやろうとしていることは彼女の能力が役に立つ。


「ありがと、ちゃんとできた?」

「うむ。設置した『鏡』はちゃんと機能しておる。これでいいのかの?」

「上出来よ。これで色々流せる」


 カザハナと言葉を交わしながら、シエテはさらに設定を続ける。


「まさかこの戦い、物語をライブ映像にするとはのう……。女神殿の考えはわっちなどには理解できぬ」

「そうでもしなきゃ、アンタらの決意。絆は世界に届かないでしょう? これからのアンタらのためにもなるのよ」


 そのPCに映るのは、複数に分割された、真っ暗な画面。そして……Gotubeの文字。


 動画サイトであるGotube。そこで勇者たちの戦い。その映像を流す。天上天下ありとあらゆる世界に通じる動画サイト。そこで映像として残す。


 それがシエテがやろうとしていることだった。神は人々の戦い、奮闘を何より好む。それを利用しようと考えたのだ。


「勇者が神の使い走り扱いを受けるのは、勇者のことを何も知らないからよ」


 シエテはそう言った。


「神は自分たちのために戦う勇者のことを何も知らないし、神を慕う人間もまた、加護をもらっている人間のことを何一つ知らない。その意識の分断が、アンタらを傷つけたんだとおもうのよね」

「意識の分断。わっちらはそれに苦しめられてきた。加護を与えた神様は何も見とらんしの」

「その神が誰だかわからないけど無責任ね。昔の神らしいじゃない」


 カザハナと話しながらライブ動画の配信準備を徐々に整えていく。慣れたものだ。底辺だけど動画配信者。その体が覚えている。


「Gotuberと違って普通の神ってとっても頭が固いのよ。だから新しいものは理解できない。自分たちの力で立場を掴んできたから、頭が固くなるのは当然なんだけど。古き良き神ってやつだと思うわ。私はごめんこうむるけど」

「じゃからかのう。わっちらはお主に救われたようなものじゃ。お主のような……新しい女神様ってやつにの」

「あら、鞍替えするなら鞍替えしてもいいわよ? 私は女神だから信仰が欲しいし!」

「そこまでには至らないのう。信仰者に駄女神と言われている感じでは特に!」

「アイツらが女神で私のことを特別敬わないだけよ……っと。完了よ。アンタの『鏡』とPCがつながった。アンタの負担を、こっちも引き受けられる」


 ターン! と音を立てて、エンターキーを押す。黒だった複数の画面に、映像が映る。それは間違いなく、カザハナが今まで作り出した『鏡』に映る映像。


 彼女の『鏡』という便利な能力は、激しい集中力と脳への負担がネックだ。だけどこうしてGotube側で引き受ければ、その負担は著しく軽減される。


「おお、かなり楽になったの。これならわっちも途中で倒れずに済む」

「勇者と一緒に戦うのもいいし、『鏡』の細かいコントロールや妨害に集中するのもいい。少なくとも『鏡』ばかりでその場から動けない……ってことはないと思うわ」

「ふふ、どちらも魅力的じゃが……やっぱりわっちは、戦いには向かぬ。後ろから勇者殿を見やることにしよう。それに……こっちの方が楽しそうじゃ」


 目の前のPC画面を眺めながら、カザハナは笑った。


「どちらでも構わないわ。どうせPCは壊されることないし……」


 そうシエテが言った直後であった。


──ハハハハハ!!


 と、哄笑にもよく似た叫び声が響き渡った。カザハナとシエテは互いに顔を見合わせる。


「……! もしかして」

「とうとうお出ましじゃの……その雰囲気で分かる」

「了解……!」


 瞬間、シエテは笑った。カーソルを、ボタンに合わせる。


「なら開始よ。汝のその顔、暴かせてもらいましょうかしら!」


 それがチャンスと言わんばかりの行動だった。にいっと小さく笑顔を浮かべると。ライブ開始の映像を、しっかりと押した。




 何者かが、森の前に立つ。


 その力があふれ出し、真っ黒な何かを形作る。先にその場に立っていた勇者や冒険者たちが……。その力に、顔をこわばらせるほどだった。その異常なほどの存在感、異常なほどの力には覚えがある。


『よく耐えたな、人間共よ』


 低い声、叫び声……。それらで人間たちを攻め立てるように告げる。怒り、嘲り。唯我独尊、自分こそが最高という感情。それらが内包されていた。


「ハミル、これって!」

「間違いない、これは……!」


 ミミットとハミルが声を漏らす。普通の魔物とは違う。その存在は、その感情を持たせるものは一つしかない。


『如何にも。魔王ラクシャーサ、ここにあり』


 魔王ラクシャーサ。魔物の長、歪みの象徴。漸く初めて。外の世界へと姿を現した。


『我が指定したその範囲までよく戦ったものだ。人間とはこうもしぶといか』


 そう小さく言い放つ。目の前の勇者になど、目もくれない。魔王という自分を最上に於いているためか、他の種族には形だけの褒め言葉を残すけれど。そこから先には一切触れない。


「(お前がそういう性格なのは知ってるが)」


 そう感じるのは実際に見てきている琥太郎もそう。


『しかし、その抵抗もこれまでと言えよう。貴様ら人間は、勝てぬ。我ら魔王に勝てぬよ』


 ラクシャーサはそう静かに言った。


『人間はそうだ。醜く、意地ぎたなく。ただひたすらに。形だけの抵抗を続ける。無意味であることを知らずに、全力で戦うのだ。生きることに貪欲すぎて、吐き気がする。我という元人間が、嫌気がさすのもな』

『その言葉は嘘ね! 世界の歪み!』

「……はっ」


 琥太郎が、いや琥太郎を含む皆が。背後から聞こえてきた聞き覚えのある声に思わず振り向く。


「駄女神の声がする」

「……シエテ? あぁそうか」


 琥太郎はすぐに理解した。彼女はGotuber。こうやって、何かを配信するのが得意な女神様だ。特に今回のようなことならなおさら。


『……貴様は人間ではないな』

『ええ、私は女神! め、が、み! その名はシエテ! 憶えておくといいわ! 憶えて帰らせはしないけど!』

『……女神。あの人間の、我に対する知識はそこからか』

『ええ、ちゃんと教えたわ。あいつ……琥太郎はちゃんと理解してる。理解できたからすぐ帰れたのだし』


 シエテが琥太郎をほめた。あのシエテに褒められたとなると、なんかうれしさというより恐ろしさの方を感じるのが、琥太郎なのだが。


『……ま、私じゃないわよ。アンタと話したいのは』

『……』

『というわけで、スペシャルゲスト登場ってやつね!』


 そういうとシエテが押し黙る。それと同時に、別の画面より一人の女性が進み出る。


『ありがとうございます、女神様。そして久しいですね、魔王ラクシャーサ』


 それは、赤髪の魔術師だった。赤髪の魔術師、カトレア。彼女がその画面越しに魔王と対峙する。


 その姿を見て、魔王は硬直するが……。すぐにのどを鳴らした。


『フ、フフフフ……。ハハハハハ!!』


 蔑むような甲高い笑い声を響かせ、魔王は叫んだ。笑いが止まらない。


『これはこれは。同志の魔術師……。勇者のために、国や人間を切り捨てた、魔王よりもおぞましき者』

「……!」


 ハミルやミミットが、それに表情をゆがめようとした。目の前で仲間を馬鹿にした。全力で蔑んだのである。


『嘲るつもりで言ったのではない。むしろ感謝している。貴様の行動で我は必勝の体制を得ているのだから。そう、貴様の取った行動でな』


 魔王の語りは終わらない。


『魔物の攻勢など、我にとっては何一つどうでもいい』


 攻め立てるように、馬鹿にするように。その語りは加速する。


『そう、どうでもいいのだ。これまでは茶番よ。所詮全てを耐えきったとしても無駄なのだから』

 

 顔をゆがめ、手を広げ。仰々しく。言い放つ。この演技は、劇であるならば最高の演技力だ。だが魔王にとってのそれは、残念なことに。素であるのだろう。


『魔物の奮闘? 十日の猶予? 無駄なことなのだ! 結局最後は我が勝つ! 我を潰す手段などどこにもない! そう、人間は最後まで希望を捨てずとも……最後には絶望に苛まれて死ぬ!! これが! これが決定事項なのだ! ハハハハハハハ!!』


 高笑いして、べらべらと喋って。魔王の大芝居は終わる。すぐに調子を下げて。言い放つ。


『その助けになった、貴様には礼を言うしかない。既に我の勝利が決まっている。なんと心地よいことか』

『………』

『アルケイオンの行動など、魔物の攻めなど茶番よ。何をしても我は全て分かっている。勇者よ、人間。これは詰みだ。そう、すべて茶番よ。面白い劇よ……ハハ』

『……言いたいことは』


 瞬間、押し黙っていたカトレアが口を開く。魔王の言葉を遮るように、強い口調で言い放った。


『言いたいことはそれだけでしたか、魔王』


 そう言った次の瞬間、魔王は何かを感じた。


 さっきまで黙っていたあの魔術師の人間。その背後から。強烈な炎と風の魔力が立ち上っていたことを。


『……貴様! 貴様は……!!』

『最初はお前に従っていた……甘言を受け入れて従わされていた。それは事実です。ですが……それを否定し、私を引き戻してくれたものがいました。魔王であるお前と違って』

「……うん、うん……!」


 その言葉に嬉しくなって頷くは、勇者とその仲間たち。そして冒険者や騎士たちも同じ感情。


『女神様に勇者様。そしてここにいる皆様。私が持つには豊かすぎる者たち。それらが私を、きちんと変えたのです』

『はいはーい、そして私もいますよ!』

「その声は!」

「そしてそのハイテンションは……」


 続いて聞こえるは、やけに陽気で、間延びしたような声。間違いない。琥太郎や青葉、玲は確信する。


「永田先生はそこにいたのか!」

『どうも初めましてです魔王さん。いきなりですが、私はカトレアさんと同じ魔法使いでして~~。つまりは両雄並び立つ、って感じなのです』


 輝美とカトレア。この魔王戦において並び立つ二人の魔法使い。画面越しに魔王と対峙し、告げる。


『そう。完成しているのです。魔王の闇を撃ち抜く……炎と風の矢が』


 ──ギリィ!


 魔王の表情が初めて歪んだ。魔術師と魔法使いはそれを見逃すことはなく。


『すでに風の魔力、炎の魔力は柱に埋め込んである。あとは二人で……それを合わせる』

『ぶっつけ本番ですけど、やりましょうか~~』


 そういうと、カトレアと輝美は。二つの杖を重ねて……柱に合わせる。


 そして、風と炎が、大きく吹き上がる。


『焔嵐響いて、矢となりて。深き闇を打ち払わん』

『シルフリート・アロウ!!』


 そして、その詠唱と共に。炎と風の矢、魔力の奔流が一気に放たれ……鉱山の闇へと向かう。その魔力は、一つなれど。威力は絶大。


 ──カッッ!!


 一瞬の光。そしてすぐに……。


 カアアアァァァッ!!! 

 

 激しく揺れる、眩く。辺り一面を覆うような閃光で……その闇を世界ごと切り裂いていった。


『おお~~』


 着弾を確認したカトレアは、輝美と一緒に微笑む。


『確認しました。これが私達の答えです。これから向かいますので……』

「そうだ、僕らの答えだ。たとえ絶望と呼ばれても……希望と共に立ち向かう。魔王、お前の行動は……僕等の絆も強くした!」


 勇者ハミルは剣を構える。皆もそれに続き……武器を構えた。


「いざ、最後の決戦だ……いくぞおおお!!」


 ハミルが叫び、皆と一緒に。戦場へと駆け出していくのだった。

最後の戦いはそこまで長々と書かないと思います。

パッパッと書いて終わればいいかなと思っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ