光の勇者vs鋼棘のガーゴイル
戦闘描写をどう書こうか…。うーん。
勇者。まさしくそれは、神……Gotuberではない。より上位な神より加護を受けた存在。
神によって選ばれた、魔王を倒すための剣。
常に人々を動かし、人の心を掴んで離さない、偉大なるものであり……勇気、絆。その他プラスの感情の象徴。
それを人は……勇者と呼ぶ。
攻撃がやってこない。
疑問に思った琥太郎と玲が目線を上へと移した時、彼らの面前には剣があった。美しい白銀の剣。翻るマント。宝石をあしらった、煌びやかな服。
彼らの前に現れたのはまさに神からの使い、そう言えるものだった。
「いてもたってもいられなかった! 僕も戦うよ!」
「勇者様! ですが……!」
腰に刺した剣を構え、青年は言った。勇者ハミル。光の勇者、神の使い。加護を得たもの。彼が琥太郎たちを守り、鋼棘を吹き飛ばしたのである。
カトレアは驚愕した様子でハミルを見ながら、叫ぶ。
「勇者様のお手を煩わせることはありませんでした。
勇者様にもお体を大事にしてもらいたい……。そういう気持ちであるのですが」
そういうカトレアの表情は、驚愕もありながらも悔恨の方が大きかった。彼女は勇者たるハミルに特に敬意を表していたがため、やはりそれも含めてショックが大きいのだろう。
だが、ハミルはカトレアの言葉に小さく笑みを浮かべて言った。
「大丈夫。僕が独断で助けに来ただけだから。周りが傷つくのは辛いし」
「ですが……私は……」
「それに、僕は慣れっこさ。それが勇者なんだ」
その正義感をもって、ハミルはカトレアに言った。目の前には邪悪なガーゴイル。魔王の配下であるそれ。それが周りを傷つける。いてもたってもいられなかったというのは当然なのであった。
「勇者様……それは……」
カトレアが苦虫を噛み潰したような、そんな表情をする。しかし、ハミルに対し、彼女もそれ以上何も言えなかった。言えるわけがないのだ。彼は……そういう人物だということを、知っているからである。
「……驚いた」
そんな中でガーゴイル、アルケイオンは呟くように言った。
「知らぬ人間のために己の命を簡単に投げ出すか。そんな貴様は……ある意味で邪悪」
冷静な口調ながら、静かな怒りを内包している。口ぶりからもそれが見てとれた。
「最も相容れぬ者だ。考えも、力も。我らとは正反対よ。そう言ったものは心の底から唾棄するしかない」
「悲しいけれどそれが勇者だ」
抜いた剣をゆっくりと前へと突き出して、ハミルはアルケイオンに答えた。
アルケイオンは勇者ハミルに対し、邪悪な存在であり、相容れぬものだとはっきり語った。それはある意味で真実だと琥太郎は言った。
ハミルの自分を省みずにこうやって身を投げ出すその姿勢や、他人に対して敬意を持って接する性格が、アルケイオンに対して虫唾を走らせるのだろう。
彼は動けなくなった部下などどうでもいいと言わんばかりに、毒で傷ついた魔物たちを吹き飛ばした。それに魔王への忠誠を誓うが、その言葉は自分への愛に溢れ、自分に向けられているものばかりだ。
世界の歪みから生まれるのが魔王で、その配下が悪を謳う魔族だとしたら、世界の歪みに立ち向かう勇者の姿勢が純粋な善であるのは当然なわけで。
その姿勢はガーゴイルにとってはとにかく合わないもの。正反対の存在は、その正反対な心情を想像できなくて怒りや失望を抱かせるのだ。琥太郎自身もそれがよくわかっている。
「でも……たとえすべての人から唾棄されようと。たった一つの世界、たった一人を守るために命を差し出せてしまうのが勇者なんだ」
ハミルは剣を構えたまま言う。
「それがたとえ強大な敵であろうとも……全力で立ち向かう。それが勇者」
「……それが勇者」
琥太郎は小さく呟く。そう、それが勇者だ。アニメやゲームで見た勇者は……大体いつもそうだったと思う。
「本当にな!」
玲もそう答えた。
「我はハミル……光の神より加護を授かった勇者ハミル!」
青年はそう言い、一旦言葉を切る。
「一人の勇者として……”鋼棘のアルケイオン“。君を倒す!」
「勇者がその名前を……話すなあああ!!」
そして自己紹介を終えると、勇者は一気に、高速で走り出した。叫ぶアルケイオンもまた、筋骨隆々の体を一気に動かし……ぶつかり合う。
白銀の剣と鋼の腕が……接触する。勇者と悪魔、互いのプライドを賭けた戦いが始まった。
「怪我人も怪我していない方も一旦私の後ろへ離れてください! アルケイオンも勇者様も本気です」
カトレアが真剣な表情でそう言った。その言葉に押されるように、皆一斉に移動する。
「怪我している方はわっちにその旨を伝えよ。わっちの加護ならなんでも治せるからの」
「……カザハナさん!」
「やっ、カトレア。やってきたの」
その背後から、全身白の童女が姿を現した。カザハナ。彼女もまた勇者パーティの一人だ。
「『鏡』はどうしたのです?」
「魔物が道中におらん。あやつしかおらんからの。動かす必要がない。それに……今はもっと大変じゃろ」
「ハミルが一気に走ってきたから追っかけに来たんだ!」
「あなたまで!」
カトレアが思いっきり怒鳴った。ミミットもいたのだ。勇者が一気に駆け出したのを見て、いてもたってもいられなくなったのだ。
「カザハナさんはともかくミミさんは休みなさい! あなたは前日かなり戦ったでしょう!」
「いやだ! ミミはハミルのこと大事に思ってるもんさ! カトレアだって同じ立場だったら絶対飛び出すでしょ!」
ミミットが背後から近づいてカトレアに言う。カトレアは推し黙った。自分は間違いなくこうする。絶対こうする。
「お互い様じゃん。カトレアもハミルのために頑張ってるけど、それはミミだって、カザハナだってそうなの!」
「っ……それを言われたら……!」
「カトレアはいつもそうじゃないかっ! 軍師だかなんだか知らないんだけど、色々一人でやっちゃってさ!」
「……口を挟むようで申し訳ないが」
ミミットがカトレアへそう叫ぶ中で、琥太郎がおずおずと手を上げる。ちょうど後ろにいたのだ。彼女たちの喧嘩を見るのは、なかなか辛い。
「喧嘩はやめた方がいいと思った。戦っている勇者の前でそれは失礼だと……俺は思っていたのだが」
「言いたいことはわかるさ。勇者のことも。仲間のことも。どっちも心配、なんだろ?」
「……」
「あ……」
玲も続けた。その言葉に二人は押し黙り、しゅんとなる。
「二人とも若いし意固地じゃからのう」
そう淡々というのはカザハナだった。その手にお茶があったら啜ってそうな、そんな勢いで。
「どっちもどっちじゃ。わっちも含めて、みんな……互いのことが大好きなのじゃよ」
「いい関係性だなぁ……。あたしたちもそんな感じだけど、青葉がどう思ってるかわかんねえし」
玲はカザハナの言葉にじいんとしていた。カザハナはその言葉に嬉しそうにしつつ続ける。
「わっちらはずっとそうし続けてきた。勇者殿と出会って以降は四人で……いろんな世界を渡ってのう。その都度魔王に、世界の歪みや闇に立ち向かってきたわけじゃ」
「そのことなのですが」
「ほ?」
「……シエテは」
琥太郎はおずおずとそう問いかけた。真剣というか、かなり踏み入った内容。そう言った感じの時には、敬語を使う。
「シエテはそれを、神の使いっ走りと言っていました。その言葉にはいいイメージがなくて。それでもなお勇者たちが戦っているのは……」
沈黙。周りはみんなおしだまる。
「いや琥太郎……言わない方が良かったんじゃないのか?」
流石の玲でさえ琥太郎の言葉に軽く引いている。
「いんや、そういうわけではないの……。ただ。そんなことを聞かれることがなかったから固まっただけじゃ」
「魔王との戦い! 勇者がいて当然! って反応をずっとされてきたからね!」
「当然って……いやでもそうなのか」
「勇者だからですよ」
そう言ったのはカトレアだった。
「勇者だから頑張ってくれ、勇者は頑張って当然。勇者様や私たちは……そんな言葉をいろいろ聞いてきました」
「勇者は頑張って当然……」
「普通に考えればそう。でも……元はと言えば私たちも人間なのです」
カトレアは自分たちは元は人間であると言った。これを聞いて。琥太郎は思う。
勇者とは神より加護を得たものだと、女神であるシエテは言った。けれど、加護を得たとしても人間である。人間は、一人じゃないと生きていけない。と琥太郎は考えている。そう教えた人間がいるのだ。
だが、勇者は違う。加護を得ているが故に、人間を超えた力を持っている。
人間を超えた存在に縋ろうとした場合……彼らはどうしても完全を求めてしまうだろう。そうでなければ、自分たちは生きていけないかもしれないからだ。そしてそれは、勇者が最も自覚すること。
「私たちは力を得ただけの人間に過ぎません。ですがそれを……普通は理解できませんから」
「……つまりは……頼れなかった?」
「……恥ずかしながら」
カトレアは静かに言った。
「特に勇者様……ハミル様は自分は加護を受けているから、みんなを救わなければならないと仰います。自分の身を顧みずに、全力で戦うのです。私はそんな彼の方に追い付きたかったので……。ずっと、それに倣ってきました」
軍師は目を伏せていった。ふわりと風が舞う。綺麗な赤い髪は悲しみに暮れているように見えた。
「皆で戦えばいい。私の言葉を聞いたあなたはそう言うでしょう」
「……」
言葉を言い当てられた。そんな気分になった。
みんなで戦えばいい。琥太郎がずっと考えていたこと。仲がいいのなら、尚更みんなで戦えばいいのだ。
だって、自分はそうだ。
自分一人だけ安全圏にいるのも嫌だし、自分一人だけ置いてけぼりになって、最前線行きになるのも……正直ごめん被る。玲や青葉、輝美にシエテ。頭の中で考える仲間たちも。おそらくは。そう考えているのだろう。
玲はオークの頭領で仲間を大事にするし、輝美は教師。シエテはコミニュケーションの塊だ。青葉も……まあ友達にはかなり優しい。みんな、一人ではない。一人じゃないから……頑張れる。
「そう言いたがるのは山々なのですが……やはり、私には難しいような気がするのです。今まで頼れなかった分……」
「ミミはずっと頼れって言ってるよ!! でもそれを拒絶してるのはカトレア! 君じゃないか!」
「それは……っ。いやですが……私はカザハナさんやミミさんにも頼っているつもりではあります!」
「それはハミルとどう違うかなぁ……!」
「どーどー。お二方話し合いはそこまでじゃのう」
再びカトレアとミミットが舌戦を始めようとしていた。カザハナが自ら仲裁する。
「カトレアもミミットも。少しばかし落ち着くのじゃ。特にカトレアは……毎日一人で作業をやっているからの。大変なのはわかるのじゃ」
そう。カトレアは一人でいろいろやっている。魔王軍の攻撃も、カトレアの魔術で行うものだ。
だが、カトレアはその言葉に……答えなかった。押し黙ったままでいた。
「……カトレア?」
「……っ、申し訳ありませんカザハナさん、ミミさん」
一瞬だけ押し黙ったままでいたが……カザハナに問いかけられて少しだけ答える。だが……その姿は、どことなく真っ暗で、とっても……普通とは思えなかった。
それ故に琥太郎は……思い出す。
──彼女にはちょっとした裏を感じますわ。
エトワールの言葉。冗談とはどうしても思えなかったから……覚えていた。
「(その通りにならなければいいが)」
琥太郎がそう思うのも当然だった。
「醜いな、貴様の仲間は」
一方、戦いの中。勇者の剣と悪魔の腕がぶつかり合う。その中で叫び声がいろいろ耳に入ったのか……悪魔は嘲笑するように言った。
「人間のように蹂躙されるぐらい弱くなくとも。その心は人間よ。人間なら人間らしく蹂躙されていろと、それでも加護を持ち……強くあらんとする。その歪さが我は気に入らん。歪曲の極みで……気持ちが悪い!」
「僕はそうは思わない!」
叫び声に叫び声で返しながら、光の勇者は剣を振るった。ようやくアルケイオンの腕に傷を残す。
「カトレアもミミットも、カザハナも。僕のために集まってくれた。こんな僕を支えてくれたから……。それが気持ち悪いとは思わない!」
バチィッ!
剣に一瞬白い光が走った。そうなった剣を上に掲げて、ハミルは叫ぶ。
「メテオストーム!!」
ドオオオオン!!
「ぬうううううっ」
流れるは白い雷。詠唱と共に上空より降ってくる光の本流。星の瞬き。それが体に叩きつけられる。呻き声を上げるアルケイオン。
「舐めるなあっ!!」
しかしまだ負けは確信していないようだ。鋼鉄の腕をX字に構え、受け止めつつ……。一気に振るう。
受け止めていたメテオが、一瞬でバラバラになった。
しかしハミルは次の手に動いていた。
「(目の前にいない!!)」
目の前から完全に消えていた。その姿を捉えようと、指を鉄砲の形に変える。
だがそれも……勇者は許さなかった。
「ライトブリンガー!」
ハミルの声が上から聞こえた。思わずアルケイオンは上空を見上げる。
そこには手に持つ剣から白銀の光を放ち、それがレーザーとなって襲いかかる光景だった。避けられるわけもなく、アルケイオンは食らう。
「っぐ……ああああっ!!」
直撃。大きい一撃が入った。膝をつく。鋼の腕もそうだが、体に大きな傷がついた。
「すげえな……これが勇者の力だってのか!?」
「……みたいだな。ただ忘れちゃダメだが……あれは人間だ」
勇者の力。初めて見るがこれはとんでもない強さだ。騎士や冒険者たちが、大苦戦した悪魔を、簡単に追い込んでいる。
「これほどか……醜い勇者め!」
アルケイオンは虫の息。地面を素手で突きながらゆっくりと立ち上がる。吐き捨てた言葉は、まさに捨て台詞に近いもの。
「……どれだけ醜いと言われても。笑われても構わないさ」
ハミルはそう小さく告げる。そう言いつつ、剣を納め……胸に手を当てた。
「(なんだ……?)」
琥太郎は困惑する。剣をわざわざしまう理由がわからない。
「たった一つの世界、たった一人の人間……。そんな最小の単位でも、命を投げ出せるのが勇者なんだから! その勇者の名に誓い! 君を倒そう!」
──この僕だけに与えられた『剣』で!
ハミルはそう叫ぶ。手を当てた胸から、光が流れる。それが溢れて……全身に巡ろうとする。
「今振るおう、どこまでも光り輝く、剣なき『剣』!その名は……!」
溢れる光。直撃すれば一撃を持って……悪魔を葬るだろうもの。
しかし、それが振るわれることはなかった。
「勇者様……申し訳ありません!!」
「……えっ!」
その光が放たれる前に……姿勢が崩されたのだった。
他ならぬ……軍師の飛びかかりの手によって。
瞬間、光が完全に消え去る。
「……は、ハハハハハハハ!!!」
命拾いをしたのだろう、アルケイオンはそう高笑いしつつ……動く。
「愚か、どこまでも愚かよ、勇者よ!」
叫びながら……高速で動く。
「だから勇者というのは……勇者の仲間というのは。どこまでも吐き気を催す邪悪よ。悪魔よりもよっぽど歪……。その歪ゆえ、今回は命拾いした……。ああ、無様にも生き延びた! 我が魔王に報告できそうだ!」
そうしてアルケイオンは、勇者にも目もくれず、一直線に向かっていく。
「戦利品はもらっていくとしよう……。誰も予想し得なかったものがいい」
そう言い放つと、アルケイオンは鋼鉄の腕を伸ばす。
その手に掴まれたのは。
「なっ……」
「琥太郎!!」
その手に掴まれ、奪われたのは。琥太郎。琥太郎の体が、強引に掴まれ、引き上げられていく。
「あなや無念、口惜しやなァ! 予想外しなかったものを奪われる! 愉快痛快、なおかつ残念!」
琥太郎を強引に胸に抱き寄せながら、上空を舞うアルケイオン。その姿が消えていく。
「……心配はいらない」
当然腕に抱かれる琥太郎の姿も、消えていく。
「俺は大丈夫だ。もう死なないと思うさ。一度死んでるんだ。二度目はないだろう」
消えていく最中、琥太郎は玲に……そう言う。
「こやつは我が魔王へ献上しよう。人間をとりわけ好む。楽しいやな、楽しいやな! ハッハッハッハ!!」
「ちくしょう、いい加減にしろーーっ!!」
叫ぶ。叫びながら玲は弓矢を連射する。焼け石に水なそれが、何本かアルケイオンに刺さるも。もう気にしない。
「貴様らはこのまま耐えるのだな、我が魔王との約束だ……ッハッハッハ!!」
「っ……くそおおおおおっ!!」
そうして、笑い声と共に……アルケイオンの姿が完全に消滅する。今度は、人間を、琥太郎を連れ去っていった。
だが、今はそれどころではなかった。
「どうしてさ! どうして……」
「………」
「トドメをさせたんだよ、悪魔に……」
「…………」
「だけど……。だけど!! どうして邪魔したのさ、カトレア!!」
ミミットが……絶叫する。それはカトレアの謎の行動に対するものだった。
──私は、もはや……こうするしか……。
絶望の中。最後に、誰にも聞こえないような声で。
女性の声が。聞こえた気がしたのだった。
勇者はあれです。いいやつです。
ただ結構……うん。




