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ガーゴイル、青年の前にて暴れる

戦闘描写に迷って遅れました。


「ガーゴイル……アルケイオン……!」


 杖を悪魔へと突きつけ、カトレアは声を絞り出した。魔王配下の強大な魔人。それと対峙するのだ。表情にも険しい皺が浮かぶ。


「あの時……騎士の一人に化けていた奴か」


 琥太郎も言葉をつづける。一度見たからこそ、知っている。あの狂気、怖さは……近くで見ただけでも知っている。


 ガーゴイルのアルケイオン。魔王の配下であり……公国に突然現れて恐怖を煽った悪魔である。そんな彼が今度は、黒き風を纏って。再び現れたのだ。


「久しい再会!それでいて知られているというのだ!!」


 両手を広げ、仰々しさ抜群の声を張り上げて……悪魔は言った。


「なんたる僥倖か! 我は悪魔であるゆえに、恐れを何よりも好む。魔王の配下としては……我が魔王にこそ恐れをなして欲しいと思わんものだが」


 そう嬉しそうにいったアルケイオンだが、すぐに手を顔に当てて悲しむそぶりを見せた。


「しかし……我は悲しさも覚える。我が予想が大きく外れてしまった。尸の山が築かれることもなく。貴様らは頑張りを続けている」

「えぇ、それは……お前自身が耐えろと言ったからです」

「だからこうして我が来てやったとのこと!!」


 アルケイオンは叫んだ。演劇の俳優のように、コロコロと表情を変えるその姿。一つ前ではおとなしかったのに、急におおきく声を荒げる。


 情緒不安定だ、と琥太郎は思った。悪魔がきっと、そんな感じなだけなのだと。


「そう、それに……我が来よう時にはすでに終わりかけていたのでな。故に勢いよく降り立っても、怒られる義理などあるまい」

「魔物がそれで吹き飛んだが」


 琥太郎が問いかけた。あの時アルケイオンが降り立ったその場所には、琥太郎が押さえていた魔物たちがいたのだ。今そこには、誰もいない。


 彼らは……間違いなく。


「その一撃で全て消えた。お前が降り立った瞬間に全て。お前自ら倒す必要はあったのか? 魔王軍の……部下だろう」

「使えなくなったやつを処理しただけだ」


 琥太郎の言葉に、アルケイオンはサラッと答えた。まるで当然であるかのように、はっきりと言い放つ。


「動けなくなったものはもはや不必要なゴミと同義よ。あの程度の雑魚は我が魔王ならすぐ作れるのでな。遠慮する必要はない」

「……それはとんでもない考えだ」

「だがそれは我が魔王のもとで許される! 雑魚にどう遠慮する必要がある。人間も結局、我に蹂躙されるだけの……」

「ホロ=フラム!」


 ゴオッ!!


「……む」


 叫び声に、アルケイオンが怪訝な表情を向けた。次の瞬間、音と共に放たれるは炎の鞭。


「話している間の拘束とは卑怯よなぁ。あぁ卑怯なり」

「勇者のパーティが聖人とでも?」


 鞭に引っ掛けられ、ぐるぐる巻きにされた状態で、アルケイオンは卑怯と謗る。その相手は……カトレア。杖から炎の鞭を放ちながら、相手を睨む。


「魔王やその配下を倒すためならば、どんな卑怯でも使いますが。お前たちの方がよっぽど卑怯ですので」


 カトレアは無表情で、そう言い放つ。


「か……カカカカァッ!! カーカッカッカ!」


 その言葉を聞いた瞬間に、ガーゴイルは甲高い声で笑い始めた。高笑いだ。それがあたり一面に響く。


「そうだ……あぁそうだなぁ、我ら魔王とその配下は……皆! 卑怯無惨残酷と言われてきた! そりゃあそうであるとも! 我らは魔であるが故に! 元よりその戦い方しかできぬ!」

「えぇ、ですので……このまま燃やすとしましょう。簡単に燃えれば……もはやそうとは言われまいでしょうから」


 カトレアが杖に力を込める。バチッ、ジュワッ……と音を立てて、炎がアルケイオンの身を焼こうとしていた。触れたところが赤く変色している。


 しかし、アルケイオンはただ、身じろぎも苦悶の声もあげずに、静かに立つ。


「これは……我を燃やそうとしているか」

「えぇ、これは簡単に消えぬ聖なる炎。悪魔のその身など簡単に燃えるでしょう。そこに魔力を込めれば!」


 ぐっと手を握り締め、カトレアは全力で叫ぶ。


 だがその時であった。


「……フンッ!!」


 アルケイオンが思い切り力を込めた瞬間、炎の鞭が破裂するように爆発した。鞭が千切れ、消えていく。


「悪魔の身を燃やす聖なる炎……しかと受け止めた。だがこれに我を燃やす価値などなし! 惰弱、貧弱、脆弱也! これで燃やそうなら呆れたものだ」


 千切れた炎の中で、悪魔がそういう。


「この程度、我が持つただの単純な力で解かれよう」


 アルケイオンが姿を見せた。筋骨隆々の姿。その力において、炎を吹き飛ばしたのだ。


「……難しいものですか」

「言ってる場合か! まずいだろコレ!」

「武器を構えよ! 敵は悪魔ぞ!!」

「分かってるさ!」


 カトレアが重々しく舌打ちをする。騎士の叫び声により、玲や琥太郎を含めた戦士たちが……その武器を構えた。


 弓矢、ナイフ、剣などの武装。それらが一体の悪魔に突きつけられた。


「カカ……ッ。そうでなくてはな、人間は我らを恐れる必要などなく! ただ向かってくればいいのだ!!」


 悪魔はその行動に愉悦を感じ……笑った。それは強者の余裕か、はたまた、悪魔の血が……そうさせるのか。


 そうしてひととおり叫んだ後、呼吸を一つ置いて、巨大な翼を折りたたむ。地面に足を完全につけて、悪魔は言った。


「全員でかかってくるといい。我は……ガーゴイル『鋼棘』。鋼の肉体と鋼の棘を持つガーゴイルよ!」


 黒く男々しく、激しく。迸る闘気と、鋼の肉体。それらを見せつける。


 その行動は、まさしく正々堂々。


「なればかかっていくことにしよう!」


 それに充てられたか。騎士が数人、歩み出る。


「我ら騎士……向かわせてもらう!!」

 

 白銀の剣。巨大な盾。それを持ち、彼らはアルケイオンへ剣を叩きつけにいく。


「うおおおおっっ!!」


 騎士が叫んだ。そうして剣による斬撃が、放たれる。


 ブオンっ!


「なにぃ!?」


 風切り音しか、聞こえなかった。放たれた斬撃は、宙を舞い、空振りに終わる。


 確かに目の前にいたはずだ。だが、目の前にいたアルケイオンが、どこにも見えない。


「どこを見ていよう、我はここにいる」

「なっ!!」


 背後から声が聞こえた。振り向くが……もう遅い。


「ふん!!」

「っが……!」


 アルケイオンが拳を振るう。鎧を貫通するほどの一撃が、騎士の体を通った。思いっきり吹き飛ばされ、沈黙する。


「よくも!!」


 もう二人の騎士は義憤に駆られた。怒りのまま、アルケイオンの体へと向かっていく。向きは二つ。一方から攻撃すると空振りしてしまうなら……余裕を与えなければいい。


 消える前に、叩けばいい。


「挟み撃ちよ、兄弟!!」

「おう!」


 息の合うコンビネーション。互いに声をかけ、二人の騎士は、アルケイオンを挟んでいく。


「とおおおおっ!」

「たあああっ!!」


 一撃が、入った。いや、二人からの攻撃だから、二撃だろうか。感触が、どんな攻撃が入ったかをしっかり確認してくれる。


 下を向く。力を加える。そのまま振り下ろそう。そう思わんばかり。


「他愛無い、挟み撃ちをすればそこまでよ!」

「目論見は正しい。だが、何を挟んでいる?」

「何って……そんな馬鹿なっ!!」


 しかし、それは悪魔の、あまりにも余裕な声によってかき消される。

 

 思わず顔を上げた。顔を、上げてしまった。


 そして彼は、叫ぶ。


「……なぜだ!」


 ぽた、ぽたと血が流れる中、目の前にいたのは。兄弟分の騎士。確かに挟んでいたはず。だがアルケイオンの姿がなく。


 気づけば、二人斬り合っていた。


「兄弟……しまった……っ」

「何が……悪かったか……っ、ぐ……」


 騎士は二人、崩れ落ちる。アルケイオンは無傷。


「ッハッハ……面白い娯楽、余興であった。人間たちが抵抗する様を見るのはこうも楽しいか」


 手を叩いて喜ぶように、アルケイオンは笑う。


「どうせ我に蹂躙されるのになァ! 面白き!」


 そう叫ぶ中で……何かが飛んだ。


 ザクッ!


「……!」


 それがアルケイオンの体を傷つける。それを眺めると、弓矢。


「隙は見せるべきじゃなかったんじゃねえか、魔王の眷属さんよ」


 白木の弓矢。それを構えて、少女は笑う。


「それに……あたしだけじゃねえぜ、その隙を見逃さなかったのは」


 少女……玲は言った。


 次の瞬間、アルケイオンは違和感を感じ、自らの腹を見る。


「これは……なるほど」


 じわっ……。と紫が広がっていた。腹を侵食するその色。違和感の正体はこれだったか。


「毒か……!」

「普通の毒だ。ダークエルフの師匠直々にもらった衰弱毒」


 毒の入った瓶。それを器用にしまい、琥太郎は言った。


「色々派手に叫ぶから、隙だらけだった。弓矢に毒をしかけたことさえわからないぐらいだからな」

「毒矢はファンタジーでは常套句だからな。あたし達はそれをよく知ってる!」


 矢は深々と刺さるのだ。だから貫通して、中にダメージを与えるのだ。中に何かが入っていたり、かかっていたりすると、尚更。


 じわり、じわりと体を紫の毒が侵食する。その様をアルケイオンは眺めていた。


「……毒。我の体で蠢くもの」


 アルケイオンはつぶやく。表情には小さな笑みが浮かんでいた。


「それで我の身体を止めようとしたか……だがァ!!」


 すぐにガーゴイルは動く。無言でスッと右腕を上げる。


 そして。


「うおおおおお!!」


 ズヌッ……!!


「っ!?」

「なんだと!?」


 尖らせた右腕で、一気に自分の腹を貫く。黒々とした血が吹き出した。その様を見た琥太郎と玲。恐ろしさのあまり、叫び声を上げる。


 だが悪魔はそれを意に介さない。ぽたぽた、血液を滴らせながら、眺めることせず、治すことすらせずにいた。


「ッ……チェリャアアアアァ!」


 そして叫び声と共に、その手が、アルケイオン自らを……抉った。絶叫。だがそこに痛みに苦痛を歪める姿はなかった。


「驚くなァ!!」


 アルケイオンは思い切り叫んだ。紫色に変色した、毒に侵された肉。それを自らの手で抉り取ったのである。


「人間と悪魔の違いよ! 一度刺されただけで動かなくなる弱き人間の常識で我ら悪魔を侮っては困るものだ!! この程度の痛みなど……我は超えてきた!!」


 そして肉を握りつぶす。毒が地面に流れて消えていく。


「マジかよ……!」

「麻酔なしでこれを実行する奴がいるとは。確かに……抉り取れば影響はないが」

「当たり前よ。痛みで退くような悪魔などおらぬ」


 琥太郎たちの言葉に、アルケイオンはしっかりと返す。それと同時にゆっくりと腕を伸ばし、目の前に手をかざした。


 そのかざした手が……形を変える。


「しかし……余興としては楽しかった。我も少しばかし、楽しみを覚えた。故に……教えてやろう。我の二つ名を。恐れられしその名は……『鋼棘』と呼ぶ」


 形を変えた手が、琥太郎たちに突きつけられる。それを見て琥太郎は思った。


「玲。あの形は……あれは……指鉄砲だ」

「バーンって打つやつか!」

「鋼鉄の体から放たれるものよ。とくと見るがいい!」


 そうアルケイオンが叫んだ。 それと同時に……指鉄砲の指を、何回か……上下に振るった。ちょうど銃弾を、一気に発射するかのように。


 その瞬間にはなられたのは真っ黒の棘。小さくも鋭く……それが一気に迫る。


「避けろ!」

「わかってるよ!」


 琥太郎の叫び声に玲が答えた。互いに横っ飛びして、その棘を回避する。棘が後ろの木に突き刺さり、貫くのを見た。


「恐ろしい威力だな」

「侮ってもらっては困る」


 琥太郎の言葉をサラッと流して、歩きながら指鉄砲を放った。遠くではなつよりも、近くで放った方が遥かに当てやすいという判断。


「アルケイオンが動き出しました……。皆様迎撃をお願いします」


 カトレアが、手を広げて指示を出す。


 それと同時に杖を振った。あたり一面に光が降り注ぐ。


「魔術により守りの力を上げました」


 杖を地面に突いて、カトレアは言った。


「簡単に膝をつかないようになっています。その力で攻撃を仕掛けるのです。鋼の棘を放たせてはいけない。あれは恐ろしいものですから」


「勇者の仲間がそこまでいうものなんですね」

「えぇ。喰らってはいけない。私でも恐れるものなのです」


 琥太郎の質問にカトレアはいう。


「避けてるだけじゃ意味がない……なっ!」

「応とも……!」


 防戦一方な騎士と冒険者の男たちが、歩き始めたアルケイオンへと、武器を構えて一気に近づく。


「近づけばその謎の棘は放てないだろう!」


 近づいた冒険者の男は、そう言い放つ。


「邪魔よ!」

「ぐあっ!」


 アルケイオンは騎士に右足を振るい、蹴り飛ばす。倒れる騎士。


「前に立つものにはそれなりの報酬を与えんとなぁ!」


 アルケイオンは今度は冒険者の方へと向かう。腕を黒く変色させた状態で……冒険者の男を殴りつけ……片手で掴む。


「っぐ……っ、がっ!」

「どうした、我はまだここにいるぞ?」


 男が苦悶する中、悪魔は彼を掴んだまま、そう告げる。そして、興味なさげに投げ捨てた。


「大丈夫か……!」

「大丈夫だ、防御があったから大丈夫だったのだろう」


 冒険者たちに駆け寄る。彼らは立ち上がると、再び対峙する。カトレアの魔法だ。それがあるから大丈夫なのだろう。


「前に立つか。尸の山を築かせるつもりなのだろう。ならば我も……」

「少しごめんよ! どいててくれ!」


 ヒュババババ!!


 叫び声が聞こえ、瞬間、複数のの矢が放たれた。的確に心臓を狙ったその矢をそれをアルケイオンは飛んで回避するしかなかった。


「鋼棘ってやつも、あたしの矢には敵わなそうかな!」


 矢を放った主が言う。玲だ。すでに新たな矢をセットしており、いつでも打てるといった模様だ。


「……ゥルルル……!」


 そして玲の前に控えるように、オークがしっかりと立つ。巨大な棍棒を携えて、悪魔を見つめる。


「今構えている普通の矢か毒の矢か。どっちだか当ててみるといいさ」


 琥太郎だ。革のベルトにくくりつけた、毒の粉を見せる。この毒はダークエルフ、パイの毒だ。彼女からたくさんの毒をもらってきた。


「ダークエルフ調合の毒。その効果は実感済みだろう」


 琥太郎が続けていい、ナイフを構えた。巨大なナイフ。近づいた時……切り裂けるように。


 だが、アルケイオンは立ったままだった。立ったまま、何も喋らずにいた。


「何も言わないならこっちが撃つぞ」


 玲が弦を構える。


「っふ……」

「……?」


 しかし次の瞬間、アルケイオンから放たれたのは小さな嘲笑の笑みであった。


「……いやな失敬。これは……思わずこぼれてしまった。息を漏らすように、笑いが出ただけのこと」

「……その様子だと……何か間違ってるな」


 琥太郎が言う。それは、自分たちの言い分がかなりおかしかったからと言う旨。


「いかにも。悪魔は意地悪なのでな……何かおかしなことが出るとつい笑いをこぼしてしまう」


 そういうアルケイオンは、顔を手に当てて、おかしさを隠しきれないといった様子だった。その様子が、あまりにも余裕かつ、大胆だったが故に、悪魔という相手ながら……あっぱれと思えてしまう。


「……貴様らはまだ何も見てはおらん」


 アルケイオンはそう告げた。その言葉に、多くの人間が沈黙する。疑問を抱かざるを得ない言葉。


「……まさか」


 ただ一人、カトレアだけが。その言葉に小さく驚愕していた。彼女は勇者のパーティメンバーだ。何かを……感じ取ったのだろう。


「……鋼の棘にしては、あまりにも威力が低いと思っていましたが……!」

「いかにも……今のは我にとっては、鍼を飛ばしただけにすぎぬ。……本物どころか……その半分以下もいいところよ」


 アルケイオンは右手をゆっくりと前に出した。今までとの違いは……その形が、手のひらを広げた形だということ。


「ぬううううん……!!」


 バチッ、バチイイィッ!!


 唸り声を上げるとともに、手のひらから静電気のような、電流の流れる音が聞こえる。真っ黒な波動が手のひらに広がる。


「なっ……」

「これは……まずいぞ」


 玲と琥太郎が、一斉に驚く。広げた手のひら。


 ズ、ズズズズ……ッ。


 音を立ててそこから現れるのは……今までより何倍も大きく、鋭く尖った……。巨大な棘。


 今までのが銃弾であったのなら。それはまさに砲弾と言えるものだった。


「これが我の……本当の鋼棘である」


 その全容はまさに、棘の砲弾。これは喰らってはいけないと、はっきり思わされる。


 だが、驚愕した冒険者たちは……逃げるのが、回避するのが遅れた。


「どうした、喰らいたいのなら……喰らわせてやろう」


 見下すような、そんな口調で。アルケイオンが言った。そして間髪を入れず……突き出した手のひらを、一瞬だけ閉じた。


 そして一気に……解放する。


「食らうがいい!!」


 ───ドオオオウッ!!


「っぐ、ああああっっ!!」

「なんだああっ!?」


 棘が放たれた瞬間に襲いかかるは、強烈な吹き飛ばしの風。アルケイオンの目前にいた騎士たちを吹き飛ばしながら、強烈に進む。


 その棘はスクリュー回転しつつ……ゆっくりと、ゆっくりと玲たちへと迫っていく。


「っべ……! これは逃げねえと……」

「ウウウッ!!」


 ギリィッ!!


「なっ……何して……!」


 かち合う音が聞こえた。それを見れば、玲を守るようにオークが棍棒をぶつけ、棘を止めようとしていたのだ。


「ばかっ、一緒に逃げるんだよ!! あんなもんに正面からぶつかったって勝てるわけないだろっての!」

「ウ、ウウウ……!」


 ギリギリと音を立てて、棍棒と鋼の棘がぶつかり合う。だが、誰の目から見てもその勝敗は明らかであり。


 バキッ、ミシィッ……!


 木の軋む音が聞こえる。それと同時に……大木もかくやと言わんばかりの、オークの棍棒が、砕け、切り裂かれていく。


 そして。


 バキッ!!


「ウ、ウウウウァァァァ!!」

「っ……くっそおおーーーっ!!」


 持ち手からばっきりと、真っ二つになった棍棒。そしてその衝撃を受けて……オークが宙に吹き上がる。運動エネルギーのぶつかり合いの結果、鋼棘が勝ったことで、砲弾によるエネルギーで吹き飛ばされたのだ……。


 勢い収まらぬまま、その砲弾は玲の方へと迫っていく。


 まずい。あの場所は……。城の前だ。突破されたあ、裏門をこじ開けて大きな被害をもたらす。


「……っ、うあああああっ!!」


 玲がが高速で弓の弦を引き、ありったけの矢を放つ。


 だが、当たったとしても、あの棘は止まらない。大砲から打ち出された弾がそんな簡単に止まるわけがないように、鋼の棘は、少しの弓矢では全くもって止まらないのだ。


「っ……玲!!」

「こた……っ!!」


 玲に迫ろうとしていた、鋼の砲弾。琥太郎が叫び、一気に飛び込む。


 当然そんなことで待ってくれるはずもないだろうが……。せめて玲を護ろうとして。


 着弾。大きな土煙が上がり……あたり一面を包む。


 アルケイオンは興味なさそうにそれを見つめていたが、だがしかし。その表情が変わる。


「……なるほど」


 静かに、静かにつぶやいた。


「やはり……我慢できなかったか」

「当然……。僕の目の前で、命を失わせたりはしない……!」

「眩い。だからこそ……貴様はそうなのだろうな、勇者よ!!」


 そして土煙が晴れる。その中には……。


 巨大な鋼の棘を剣の一撃で撃ち落として……。琥太郎たちを守護するように立ち上がった……。


「勇者様!」

「ごめん、いてもたってもいられなかった! 僕も戦うよ!」


 光の勇者……ハミルがそこにいた。


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