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青年達は魔王軍と対峙する

一週間は疲れますね。

 翌日。


 フラーレン公国エルノエル城。朝早くより集められた冒険者と騎士たち。彼らは真剣な様子でいた。


「それでは……。今回の魔王軍戦の行動を説明いたします」


 その前方に立つは、中軸を担う勇者パーティたち。そして話すのはその一人赤い髪の魔導師カトレア。彼女が手に持つのは白い紙だ。それに目を通しつつ、話し続ける。


「公国の近くに出現した魔王の場所は会議の時点では不透明でした。しかしあの後私たちは捜索を行い、その場所を突き止めました。ところが私たちには土地勘はありません。ですので……」

「私が同行したいうわけだ。公国の周りなら、私はよく知っている」


 そう言ったのはダークエルフの少女だった。


 パイ。彼女は頼りになる。特に土地勘がない相手の同行は得意中の得意だ。深い森の中を走ったり、飛んだり跳ねたりするのだ。天性の勘などで場所を理解できないと、それが活かせない。


「とりわけこの城は第七王女陛下がよく利用する。とっても元気な彼女の護衛を担当するから、特に知っているのさ。……それに私は悪の匂いにも鼻が効くしな」

「彼女には大変お世話になったよ。僕たちだけでは何もできなかったと思う」

「ミミたちだと絶対道に迷うよね!」

「うむ。いつも通りじゃ。わっち達は現地の人間に助けてもらわないといけぬ自信がある」

「そう言ってくれると嬉しいさ。あの私が人の役に立つというのは……むず痒いけどさ」


 褒められ慣れていないのか、パイは勇者の言葉にはずかしくなって、顔を赤くしつつ指で頬をかく。


「(過去から考えれば、当然か)」


 琥太郎は静かにそう思った。


──褒められるのに慣れていないのなら、これから慣れればいいのです!


 なんて、あの第七皇女ならそう言うかもしれない。


「はい。彼女の案内により、私たちの調査は十二分に達成されました。それはもうかなり鮮明に」


 カトレアもダークエルフの活躍を讃えながら、言葉を続ける。


「それでは、私たちが確認した、魔王の場所を公開します。カザハナさん、『鏡』の準備はできていますか?」


「準備はすでに完了している。抜かりはない……ほっ」


 呼ばれた白髪の童女が、両手を前に突き出す。両の親指と人差し指を、合わせる。ちょうど三角に見た形だ。


 その合図とともにカザハナの前に何かが現れた。おそらくこれは、液晶にもよく似た……。


「わっちはプリースト……。光の神様より色々なものを授かっておるのは……以前見せた真実の目からもわかる通りじゃろう」


 そう彼女は言う。


「これも神様より授かったものじゃ。通り道に『鏡』を配置することで、わっちはそれを確認することができるし、こうやって他者へと見せることができるのじゃ!」


 カザハナはそう自信満々に言った。


「一流の神様ってそんなものまで授けてくれるのか」

「格が違うわよ、そんなの。不本意だけど私が思うくらいなんだから」

「不本意なんだな」


 琥太郎が感心したように言った。シエテもそれは認めていた。不本意ではあるが、思ったのだろう、感じたのだろう。こういう神様には、勝てない。


「そろそろ映し出されることじゃろう。ほれっ」


 カザハナの言葉と共に。水晶体は、キラキラ光りながら、その映像を映し出す。


 おおっ!!


 騎士や冒険者が思わず声を上げた。


 何かを映し出す、と言うものを見たことがないのだろう。


「まあ、この世界だと……普通は紙に描いたりしたものを貼る感じだろうな」

「私の学校でも、基本は本ですね。プロジェクターみたいに、ここまで映せるのはほとんどないと思います」

「だから……俺たちもかなり驚いている」


 プロジェクターの事を知っている琥太郎達も、異世界でそれが見れたこと自体に驚いていた。魔法でもなかなかそう言ったことができないから、『鏡』が単純なオーパーツに感じられたのだ。


「魔王の反応が発生したのは、裏門の奥から歩いて数十分の、泉の先でした。『鏡』で映し出された……そう。この洞穴のような場所です」


 カトレアが再び話し出す。


 『鏡』越しに見えた場所は、真っ黒だった。闇のせいでもあるだろうが、そもそもが真っ暗な気がする。


「洞穴につながる道は明るかったのですが、中までは。おそらくそこに魔王の姿があると思われるのですが……」

「失礼する」


 それを見てすぐに手を挙げたのは、一人の青年だった。


「……あなたは、確か騎士の……」

「アイヴァンと言う。質問をしたい。この洞穴のような場所だが……。場所は山の麓だったか?」

「そうでしたね。標高は低めではありましたが、山のような場所が……」

「うむ、建物もあったな。誰かが使っていた痕跡があった。おそらくそこに……」

「礼を言う。そして確信した。魔王の根城はあそこしかあり得ない」


 そういうとアイヴァンは言葉を切る。


「南に廃鉱山がある。かつて鎧や武器を作るのに必要な鉱物を採掘していたが、質が悪く素材に使えなかったため廃棄された」

「鉱山……そうか」


 琥太郎が気づいた。


「……なるほど、そこしかないな」

「どう言うことよ」

「鉱山は暗く空気の悪い場所だ」


 シエテが問いかける。自分の考えを、琥太郎はぶつけにかかった。


「歴史において鉱山業は特に過酷な仕事の一つだが、その理由は環境からだ。周りはほとんど見えず、灯されるのは小さな灯りだけで、空気も粉塵で汚くて換気もままならない。そんな中で長い間働かされてきたんだ。

魔王がどういった感じなのかはわからないが……。そういった環境から闇を感じるのにいい場所だと思ってもおかしくない」

「それは……そうですね。闇がなければ歪みは生まれず。魔王は闇を、それも真っ暗で邪悪なものを好むのです」

「ふむふむ……」


 鉱山で働くものはその過酷な環境できつい力仕事を担わされてきた……。琥太郎はその知識を持っている。異世界でもそれは変わらないと思った。


「しかし、建物も関係あると言うのかえ?」

「それは彼の代わりに私が代弁しよう。その建物はおそらく、労働者用の宿舎や精錬所だ。炭鉱は大規模なものだった。国内の鉱物資源を担おうとするから当然だ。そういった目的のために建物を建てるから……」

「おお、色々揃っておる!」

「相当頭が良いな、その魔王。力も満たせる、準備も必要ない」


 琥太郎は首肯した。魔王がその場所を選んだこと。それに対して、一定の評価を下さねばならない。そう思った。


 だがしかし。真に評価すべきは、アイヴァンの頭の回転と、記憶力だ。廃鉱山という、忘れ去られてもおかしくない場所を、素早く弾き出した。


 カトレアとカザハナの回答。その回答だけで、アイヴァンは簡単に答えを出してみせたのだった。


「相当頭が良いのは……魔王だけではないようだ」


 アイヴァンがそう言って目線を向けたのは……。


「……俺?」

「はい。私もそう思っていました」


 琥太郎が声を漏らす中で、カトレアも首肯する。


「理由を導いた。廃鉱山を利用したのは立地と目で理解できた。しかし……その理由づけはできなかった。魔王ならどうするか、というものが分からないのでな」

「それは……俺は歴史の教科書で見たからです。教科書で見た、歴史から学んだ。鉱山と言えばこうだったよな……という知識から考えただけ」

「それだけでも素晴らしいことですよ。知っているということ自体が、大事なのですから」

「そうですよ〜〜。温故知新、最高ですよね!」


 カトレアがそう言って小さく笑みを浮かべた。ソレに輝美が笑顔で付け加える。歴史の教師だ、教え子が褒められていると自分が褒められた以上に、嬉しくなるのがその本能。


「誇っていい。お前には、皆を導く才能の片鱗が見えている」

「そうですか。そう言われたら嬉しい……ですね」


 まさか騎士に褒められるとは思わなかった。素直にその褒め言葉は受け取りたい琥太郎であった。


「はい! 質問です!戦いはどうなるのですか? 城から鉱山までかなり距離がありますよ!」


 一人の騎士が続けて手を挙げ、問いかけた。


「それについても、私はしっかりと考えています」


 カトレアはそうしっかりと告げた。


 そして言葉を切る。


「今回、魔王は十日間耐えろと言いました。ですので、まずは部下の侵攻。それを迎撃するのが重要です。

ということで、一日目は戦力を惜しまず全力を投入します。二日目からは、十数名に分けた軍団をその都度出していくという考えで」

「そうして戦力を温存しつつ、攻撃を受け止めていくと。そして十日経った時に全力で攻撃を……」

「その通りです」


 カトレアは頷きつつ、自らの作戦を告げる。その動きや考えは、とても堂々としていた。


 歴戦の軍師だ。間違いない。


「戦力は騎士様に冒険者様、そして勇者様に他の……カザハナさん、ミミさんとします」

「待ってください、肝心の貴方は……!」

「私には別の大きなものがあります」


 そういうと、カトレアは手に持っている巨大な杖で、地面を叩く。


 現れたのは、小さな……。


「砲台?」

「はい。魔力を装填して放つ、魔術の砲台。見た目は砲台というよりは矢ですが」

「これがどう言った役目を持つのか教えてもらいたい」

「いいでしょう」


 アイヴァンに言われて、カトレアは頷く。


「魔王の住む場所が、巨大な闇に包まれているのは見えましたね?」

「ああ、周りが見えないほどの大きさだった」

「実はそれによって、普通の種族は魔王の領域内に侵入できないようになっているのです。無理にでも近づけば、真っ暗。視覚や聴覚は完全に拒絶される」

「なるほど、完全に拒絶されるのなら……無理はできない」

「はい。そこでこの魔術なのです」


 数個並べられた小さな矢は、魔法陣と共に小さな光を放っている。


「この矢を十日間。私は作り続け、私の魔力を注ぎ続けます。そして魔力の矢を叩き込み、魔王の闇の境界を打ち払う。これは私の……魔術士としての役目なのです」


 凛とした口調で、カトレアは言った。


 大役だ。これは本当に間違いなく大役だ。それは……はっきり言って。頑張ってほしいと思う。


「……その役目は無碍にできないな。頑張ってほしい」

「えぇ。全力で」


 アイヴァンがそうエールを送る。カトレアは微笑んで答えた。


「おおっと。洞穴の外で動きが……」


 そんな中で、『鏡』を見ていたカザハナが言った。注意凝らしてそれを見れば……。


「のわっ!!」


 明らかな異形の何かが、列をなして出て行っていたのだ……。それは間違いなく……。


「間違いない、魔物だ!!」

「皆様!」

「そうか。……全員裏門へ出よ!」


 カトレアとアイヴァンの言葉により、城の中から人々は去っていく。


 ついに。始まるのだ。大規模な戦いが。




「……勇者様」


 全員が去ったあと。誰かが小さくこぼす。


「……私の行動は全て、貴方のために……ですが」


 その声は、どこか儚く、消えそうで……。


「それでも……私はやはり……」

 

 


ようやく。

ようやく。

魔王軍戦です。


琥太郎たちを含めてみんな活躍させたいと思います。

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