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青年の騎士、本物と剣を交える①

「よおっしゃあ!」


 開口一番、ゴウスが腕を突き上げた。剣を交えると聞いた時から、彼のテンションは非常に高い。冒険者としてずっと戦い続けてきた人物だ。今も実力は高い。


 普段はただの酒浸りだけど、冒険者のランクは非常に高い。エルメスやアイヴァンから聞いた。それもまた自信の表れか。


「お前はずっとこうじゃ……騎士サマとひたすらに戦いたがるのは普通考えられんのじゃ」

「ガッハッハ! そりゃあ当然……それが楽しいからのう! 命の奪い合いじゃない、単純な力と技のぶつけ合い! 俺にとっちゃ酒と同じくらい好きなものよ!」


 高らかに笑いながらゴウスは言った。


 そういう性格だ。伊達に冒険者をやっていない。そしてそれ以上に、命というものを大事にしている。


「戦や殺し合いはごめんやがのう、単純な剣戟だったら大歓迎ってやつや!」

「確かに、お前はずっとそうだったな。最初から闘いたがり、力を見せたがりだった」


 低く唸るように、荘厳な鎧に身を包んだ騎士は言った。先ほどの会議の時はアイヴァンに任せていたようであまり話していなかったが、ここに来てよく喋る。


「同じ騎士では剣戟の相手も見つからない。故に冒険者と、別の立場の人間と戦うことになった。それは大きな刺激を生み出している」

「それはこっちも同じや。俺がここまで強くなったのはアンタのおかげでもある」


 通じるものは当然あるようで、二人の男はうんうんと頷いた。


「戦馬鹿はなんというか、そう言ったものがお好きなんですわね……」

「なんでおるんじゃ」

「いても構わないでしょう。私はギルド側。貴族ではありませんもの?」

 

 そんな中呟くように言ったのはエトワール。扇子をばさっと広げて、口元に当てながら小さく笑う。


「それで! もうそろそろ戦うんか! 俺はいつでも構わへんで!」

「いや、今回は違う。お前ではない」

「なんやと……?!」


 騎士の男は首を横に振った。ゴウスは驚愕してのけぞる。

 

「お前とは戦いすぎた。今更分かりすぎる相手と戦うのは余計すぎる」


 それを無視して、男は続けた。


「……冒険者ランク」

「冒険者のランク?」


 琥太郎たちは一斉に首を傾げた。ランクについて騎士が知っているのは当然ではある。公国に属する人間、中心である王都に住むのなら、情報が届いて然るべきなのだ。


「レッドヴィル。この町における冒険者ランクの頂点は、長らくお前が担ってきたな」

「俺ァランクなんてモンそんな気にしてなかったんやけどなぁ……あぁ。ランクの頂点という肩書きはついてきてまう」

「当然だ。Bランク。それでも冒険者として上澄み。そこに属する人間など、そんなに多くない」

「(そこまで強かったのか……)」


 と琥太郎は思う。でもよく考えてみれば、冒険者としてずっと生還した。生き続けてきたというのは、並大抵の実力じゃ不可能である。今この場にいるというのが、その実力の証明。


「だが。それが最近塗り替えられた」


 そういうと男は言葉を一旦切り、一息をつく。


「塗り替えられたというのは文字通りである。そう。誰かがお前を超えたのだ。お前のような存在をな」


 誰かがお前を超えた。信じられないと言ったような彼の言葉を聞いて、しかし言われた主であるゴウスは。


「おう、俺を超えた奴なら……近くにおるでぇ。ばっちりおるで。……なぁ、嬢ちゃん」

「……?」


 まるで待ってましたとばかりに不敵に笑って。声をかけた。その相手は……黒髪のおかっぱ少女。


「……青葉」


 紛れもない。琥太郎の幼馴染である……高坂青葉その人だった。


 ゴウスが言うのを聞いて、そういえば、そうだった。琥太郎も思い出す。青葉は冒険者ギルドにおいて、かなり高い実力を持っていたと……。


「はっきり言おう! 認めるしかないのう! この嬢ちゃんは俺より上や! 俺を超えた奴がいるとするなら……この子しかいないって奴や」

「……ほう」


 騎士の男。その表情が変わった。大男であるゴウスから出された人物。それが年端の行かない少女であったとしても、否定することはしなかった。


 相手の姿を偏見なく見れることが、騎士の騎士たる所以なのかもしれない。これが別の立場の人物であったら、どうだっただろうか。侮りや嘲りはあっただろうか……。


「まあ! 高坂さん、剣道は強かったですけどそこまでなんですか〜〜」

「先生はあんまり見てなかったな……そうだよ。本気で、あたし達の中じゃ一番強いかも」

「まあね! 見てきたし! なんかすごい剣士なのは見てきたしね! ……それに神の加護もある」


 輝美が疑問に思う中、玲もシエテも急いでうんうんと頷く。


 琥太郎自身も、この幼馴染の剣の強さはよく知っている。この異世界に出会ってから、ずっと。


「強いなんてもんじゃありませんよ」


 何度も助けられてきた……と。琥太郎はそう小さく続けた。


 そう。強い弱いの価値観で図ることはできないのだ。助けられてきた、特別な存在。これが高崎青葉、その人である。


「………」


 その言葉を聞きながら、騎士の男は思案するように、沈黙する。彼らの言葉、見てきた相手の言葉。それらを脳内で吟味するように。


「……名を」

「?」

「名を語ってもらおう、少女よ」


 そして口を開いた。彼の厳かな言葉は、目の前の少女に……その名前を問いただすものだった。


 認めた。彼らの言葉が正しいことを。


 この少女が……ゴウスや周りの人間が言うに相応しい。そう言った存在かもしれないと言うことを。


「貴殿の名を、騎士の前で名乗ってもらう」


 そう告げられた直後、少女は。青年の後ろへとゆっくり振り向いた。


 青年は、何かを伝えるように。小さく頷く。


 そして、少女は向かい立つ。


「……青葉」


 向かい立って……自らの言葉で告げた。


「高坂青葉。私の名前は高坂青葉」

「……アオバ」


 男は少女の名を呼んだ。小さく、しかし芯の通っている声で。


「……鍛錬場へ向かう」


 その言葉を最後に、騎士は踵を返す。


 しかし、その意味は誰もがわかっていた。


「我が名がビルヘス。古参の騎士である。アオバ=タカサカ。我と剣を交えよ。すぐに戦えるよう、現地にて待つ」


 男……ビルヘスは静かに、しかし敬意を持って。青葉にそう言い放つのだった。


キリのいいところなのでここまで!

次回、青葉とビルヘスが本当に剣を交えます。

琥太郎が見てるならいっぱい頑張れそうな……

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