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青年たちは魔王の脅威を知る

新作と並行して書いていきます。

どっちも頑張りますのでよろしくお願いします。

「ゆ……勇者ですってえ!? 本物の!?」


 勇者。その言葉を聞いた直後……当然の如く絶叫したのはシエテだった。立ち上がったまま、相手の方向を見て大きなリアクションをとる。


 それだけで大広間を大きく注目させてしまう反応だった。その鈴のような声はよく通るから当然なのだが。


「駄女神。いつもの数割り増しでうるさい」

「まあまあ、知ってるんだろうからさあ。だってシエテ、お前さんは女神なんだもんな。知ってることを叩きつけられたら我慢できなくなったんだろ」

「私もそういうところありますから〜〜。興味あることにはついつい……」

「まあそういうことよ。私は知ってる……!」


 すう、はあ……と息を吐いて、感情を整えるようにして。シエテは言った。琥太郎も口にはしなかったが……その感情は分かる。


 彼女は間違いなく世界について知っていたし、歪みについても知っていた。確信を持って言おうとした。その確信の前に……それを知っている相手が別に現れてしまった。驚かざるを得ないのだろう。


 しかもそれが。


「(世界に呼ばれた、なんてな)」


 そう。彼らは世界に呼ばれたと言ったのだ。世界に呼ばれて、何かしらの行動を起こすために現れた存在。そんな彼らなら。それは間違いなく、自分たちや、女神と関係あるものだと思える。


「……なるほど、失礼しましたわ」


 巨大な長帽子を指で上げながら、一人の女性がシエテを見た。見れば見れるほど、魔法使い然とした姿をしている。


 赤い長帽子、赤いローブ。そして巨大な杖。ファンタジー世界から飛び出してきたような、そんな姿。彼女が、シエテを。女神を見据える。


「何よアンタ。あれを言おうとしたことは私謝らないわよ……。私は全て知ってて、言おうとしたわけだし」

「アンタではなく、カトレアと。まあ、言おうとしたこと自体はそれはそれで構わないのです。止めてしまったのは私の方ですから。それに……あなたは本物の女神様なのでしょうから」


 本物の女神様、サラッと告げて。反応を見ずにカトレアはこう続けた。


「女神様なら、この闇の反応がなんなのかはっきりと分かる。いつものように勇者様と私たちだけだったら、その内容自体を伝えるのは割と難易度が高いものでしたが……今回は杞憂に終わりそうですね。頼もしい限りです」

「そ、そこまで言われると嬉しさというよりはねぇ……! 複雑な感情があるわよ!」

「照れる必要はないでしょう。だって事実なのですから」


 琥太郎たちの目から見ても分かるくらい、てれてれしていた。いつもはドヤ顔で答えるはずのシエテだが、許容量があるらしい。


「それで……アンタはカトレアと言ったわね。で、そっちはカザハナとミミットと……光の勇者。確か……」

「えぇ。このお方が光の勇者、ハミル様。ですが……忘れないように」


 そう言って言葉を切ると、カトレアは念を押すように言い放った。


「私たちのことはどうだっていいのです。私たちはただの臣下であり、一番大きい存在なのは勇者たるハミル様。勇者様より臣下を先に呼ぶことなきよう。本来ならその行為は決して赦されるものではないのです。女神様だからこそ赦されたことなので……そのつもりで」

「そこまで、そこまで言わなくていいからねカトレア……。カザハナもミミットも、僕もそう言ったことは気にしてないし……。そもそも……」

「カトレア殿は一際勇者殿への愛に溢れておるからのう。あっつあつなのじゃ。とろっとろなのじゃ」

「チーズ! ってことだよね! ミミも勇者様好きだけどねー!」

「あなた達こそ勇者様の臣下としての自覚がですね……」

「まあ、言いたいことは分かったわ。一女神として、勇者やそのパーティには何も言わないわ私。一定の配慮は行いましょう。でも何というかすごい関係性ね」

「そこまでなのか、シエテ」

 

 ここまできて、琥太郎が口を挟んだ。シエテに対して問いかける。彼女の口より、そんな言葉が出るとは思わなかったのである。


「お前がそこまでいうほどに、重要な感じなのか?」

「あぁ、そっか。女神としての私はよく出して、色々と話してたけど。こいつら勇者のことを話すのはまだだったわね……。だって会わないと思ってたし。そうよ、本来なら会うことないのよど畜生が」


 明らかに最後不満げだったが、シエテは琥太郎に答える。彼女は色々ダメだけど女神で、ちゃんとした天上の人物だ。故に彼女の意見には耳を傾けた方がいいことは、よく知っている。


「この世界は人間がいて色々な生物がいて……。その上に神がいるっていうのは前話したわよね?」

「聞いた」

「その天上の神より力や加護を受け賜るもの……その中でも最も強くて重要視される存在を勇者と呼ぶわ」

「それってあたしたちと同じことか?」

「……私も神の加護があったりするけど」

「いいえ、それは違うわ。アオバや玲たちの加護とは全く違うものがある。剣聖とかそういうのじゃない。もっと上……光や闇、炎に海とか……。正直言って不本意だけど私なんかより遥かに及ばないような、そんな神様がいて、そいつらがしっかりと宿ってんのよ。超絶不本意だけど」

「……不本意なのはすぐに伝わった」


 自分が一番な女神が、言わざるを得ないこと。それ即ち不本意という。琥太郎もハッキリ理解できた。


「そこの勇者サマはまさにそれね。光の勇者って言ってたのよね。神の中でも特に強力な一つ。光の神の加護を持つもの」

「えぇ。さすが女神様。褒めてあげましょう。光の勇者とはすなわち、光の神様より加護を得たもの。公平で公正で、だからこそ私たちはハミル様と共にいたいと、そう思えるのです」


 シエテの回答に手を軽く叩きながら、カトレアは微笑む。


「それで勇者は神様のために世界中で戦いを行なってて、それが現れる条件は……。そう、だからこそ私は叫んだのよ!」

「ちょっと待てよ!」


 シエテに重なるように、とある男が叫んだ。とても身なりのいい、貴族の男だ。


「勇者と、女神様と……。よくわからねえけど! こいつらの意見を総合すると……その闇の反応って……割ととんでも無い事にならねえか!?」

「ご明察。ハミル様を含め、私たちがこの場所にいるということ。即ち本当にこの国の危機」


 そういうとカトレアは、すぐに言葉を切って……。


「まさにとんでもないことですわ。あの闇の反応は……間違いなく、世界の歪み。その名は……魔王。これはその反応です」


「……ま」

「ま……!」

「まままままままおうううう!?」


 彼女がそう言い放った瞬間。


 一瞬遅れて、大広間に叫び声が聞こえた。




「静かに! 静かに! 冷静になさってください! アイヴァン様、しかしこれは……。魔王なんて伝説に過ぎないと思ってましたが!」

「興味深さがある。強大なわけだ。魔の王かもしれないとは。冷静になれないのも、無理はないかもしれない」


 阿鼻叫喚の大広間。青年は彼らに冷静になるよう叫びながらも、当の本人でさえも狼狽えを隠せずにいた。


 傍の騎士へと声をかける。尊敬する騎士アイヴァンでさえも、神妙な面持ちをしていた。


「……どうするのだアイヴァンよ」


 その隣で黙って聞いていた騎士の一人が、彼に声をかけた。


「魔王伝説は確かにフラーレンにあるが。実際に現れる可能性を考えるとなかなか厳しいものがあるぞ。優秀な騎士であるお前であっても」

「それでもやるしかないのです。騎士は国を守らなければならない」


 アイヴァンは静かにこう返した。そして目の前の相手を見る。


「私たちは…。幸いにして仲間に恵まれたようですので」

「勇者と名乗るものに女神と名乗るものか」

「えぇ。彼らに立ち回ってもらえましょう。勇者は分かりませぬが、女神と名乗るものには会ったことがありますゆえ」


 彼らは近くだけに聞こえるように会話をする。騎士同士、同じ職業、同じ方向を向くものだ。序列内の敬意はあるが、ある意味言葉は選ばなくていい。このように算段を出す時には便利である。


 目の前の民に聞かせられない話をするときには、さらに便利であるのだが。


「……そこの奥の人物。勇者に女神と言ったか。それに……女神の仲間たちか」

 

 ややあって、アイヴァンはそう告げた。呼んだのはシエテたちだ。


「呼ばれた! やっぱりあの騎士よね!?」

「落ち着け、ここはアウェーだぞ。……はい、確かに」


 代表して琥太郎がアイヴァンへと告げた。


「勇者はともかくとし、お前たちとは話したな。レッドヴィルでのことだ」

「はい」

「あの場所において、お前たちとの会話で互いを尊重することを覚えられた。そしてこの件だ。お前たちは驚くことをしなかった。知っていたのかと思うぐらいに」

「いえ……俺はそこまでじゃないです」


 謙遜するように琥太郎は否定して、こう続けた。


「そこの女神シエテは一応女神だから。知識として知っていたのでしょうが……。俺たちはそれが魔王かもしれないと彼女から聞いていただけです。確信は取れていなかった。それはシエテも同じだったと記憶しています」


 初めて魔王の話を聞いたのは、確かレッドヴィレの宿で聞いたGotubeだった。その時はシエテも否定していたが……。それでも、少しだけ予感はしていた。


「知っていたとしても、そこまでではなかった。それは言えると思います」

「……そうか」


 琥太郎の言葉にアイヴァンは押し黙る。するとすぐに勇者のパーティを向き、問いかける。


「そして。お前たちは勇者とその仲間たちと名乗った。それは尊重する。お前たちが現れたのなら、その正体は確かに魔王なのだろう」

「はい。ですから倒しに来たとはっきり言えます」


 勇者の青年はしっかりと答えた。


「では、素人である騎士たちは、従う必要がある。勇者たちに、対処を任せなければならないが」

「少し待ってくれるかの? その対処の前に、な」


 勇者と騎士の間に割って入ったのは、全身白に包んだ童女だった。


 カザハナだ。真剣な様子で、目の前を見る。


「わっちはプリースト、回復術師であると同時に……光の神様より授かっているものがある」


 まあ、ちょっとしたものじゃがの……と告げながら、続けた。


「そのうちの一つに、真実の目。その身に隠れた魔を見通す力というものがあるのじゃが……。その目がとある人物にしっかりと反応しておる。つまりは……そう言うことじゃ」


 そうしてカザハナは、言い放つ。


「この中にいるのじゃ! 魔に属する人物が! そして、その目星はしっかりとついておる」


 ぴしゃんとした大声が、当たり一面を打った。その直後に……続ける。 


「お主!」

「!!」

「……何と!!」


 カザハナの向けた目線に、アイヴァンが驚愕する。


 その目が見透かしたのは、三人の騎士の一人。アイヴァンと隣の騎士との話に加わらず……押し黙っていた一人だった。


「魔に属するものには擬態することができるものが存在する。魔物というのはそういうものと思ってもらっていい」


 まあ、完璧にはおそらくならんじゃろうの……カザハナは言う。相手を追い詰める、探偵のように。


 騎士はおしだまる。いや、ただ黙っているわけではないのだろう。黙っているしかないのかも、しれない。


「……本当か? 確証は私は持てないが」

「しゃべらせてみれば……わかることじゃ。さあ、黙っていても始まらぬ。話してみせよ! 本物であれば!」

 

 張り詰めた糸のような、押し黙る一瞬。


 しかし、その均衡が破れたのはすぐだった。


「……ハッ……ハハッ」

「!!」


 アイヴァンが、動いた。鞘から抜いた剣が……同族の騎士だったものを捉える。神速の一撃。


 だが、その剣が敵を捉えることはなかった。


「ははははは……バレてしまったかァ!」


 剣をその手で止めて、騎士だったものは笑う。その笑いは、表情は、闇に染まっていた。


 アイヴァンが睨みつける。騎士のそれを凌駕する……。

 

 まさに魔物、悪魔と言える表情だった。


「だがこの狼狽えよう! 公国の騎士も、貴族もこの程度! この簡単さ! それを知ったら我が魔王はさぞ喜びであろうと!」


 仰々しく話す芝居のように、人の身を借りた悪魔は続ける。


「御託は語らず。だが聞きたいことは一つ」

「なんだ?」

「……お前は誰だ。私の友の姿を借りて何をしている」

「これはこれは……友だったか。だが、安心するといいだろう。我は姿のみ借りるもの。お前の友は無事だ。だが我と出逢ったのだ。眠っているのは間違いない」

 

 姿が変わっていく。表情だけではなく、姿が、黒の、姿に。まるでこれは……二足歩行であるが、忌々しい異形の悪魔……ガーゴイル。


「改めて名乗ろうか。我が名は我が魔王に使える大悪魔の一人、ガーゴイルの“アルケイオン”。貴様ら公国に託を告げにきたものだ」

「告げにきた?」

「応!」


 アイヴァンの言葉に反応するように、悪魔……アルケイオンは仰々しく翼を広げ……大広間に叫ぶ。


「我は我が魔王より伝言を預かっている!」

「……よしみだ、言うべきである」

「まあ待て、今すぐ言う。そう、我が魔王はすぐの攻撃をお望みでないと言うことだ」

「何?」


 魔王の部下はアイヴァンへと告げた。剣を止めながら。不敵に笑ってそう告げた。


「1日。1日の猶予の後。我が魔王の命を受け……我ら戦力を小出しにして攻めていく……」

「信用できるとでも?」

「できるとも。なぜなら我らは人間とは違う! こんな芸当もできる!」

「……あれは!」


 言いながら、剣を掴むアルケイオンの姿が、透けていくのが琥太郎たちに見てとれた。余裕の姿で、消え去っていくのだ。


「一度した約束は違えん。我ら約束を守り、一気に攻めることはせぬ。故に人間どもは、十日耐えよ。十日後に耐えることができたのなら……我が魔王とその臣下。我らと戦う権利があると判断する」

「……」

「十日耐えれば良いのだ。我が魔王の眷属どもを正々堂々と迎え撃ち、耐えればいい。魔王は約束を破らん! 安心してのちに攻めるといい。もっとも、人間共にそれが守れるとは思ってはいないが……。約束を破ることあれば、怒りと災いが降りかかることになろう! そうならぬことを……我が魔王とその眷属は祈っている!」


 そうして、アルケイオンと名乗る悪魔は姿を消した。


 そしてその場所には、大広間の人物だけが残されたのであった。


「……皆に問う。もう遅いと言ってもいいだろうか」

「遅れてすいませんでした! 急に眠気が……ってあれ?」


 アイヴァンはそう小さく呟くように言う。遅れて一人の騎士が大広間に入室しても、誰もそれに応えることも、咎めることもしなかった。


 誰も……その言葉を疑うことはなく。魔王の脅威が、大きくのしかかった事が明らかになったのである。

とうとう魔王軍と邂逅します。


追記:割と修正しました。

つまり、今までを忘れよということです。

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