青年たちは少女と再会する
最近ご無沙汰になっていた本を読む頻度が上がりました。
色々知識になっています。
馬車がゆっくりと走る。二頭の馬が大きくわななきながら、レッドヴィルの街から冒険者を運ぶためにやってくる。
「馬車かぁ……やっぱ王都はちゃうなァ」
後ろの方で男たちの声が聞こえる。琥太郎たちが振り向けば、聞き慣れた声に、見慣れた姿。ゴウスたちだ。彼らにとっては、馬車の移動も旅行になるかもしれない。興奮する様子が伺えるのであった。
「レッドヴィルだといつも歩きやからのう! 俺ァこの動き、久しぶりやのうて。いつ乗ってもガッタガタなってる。案外楽しいもんやでぇ!」
「ガッタガタして、途中で吐きそうになるのに何言ってんじゃ!」
「あんさんも! 最初は楽しくても最後は無言になるっぺ」
「そんなもんおたがいさまやないか、はっはぁ! 俺たち荒くれのいなかもんやからのう! ゲーゲーするのも慣れない奴らの楽しみってもんや」
「ったく、そんなもの無しにしたいもんがじゃ」
ゴウスたちが楽しそうに声を上げる。いつもの掛け合いだ。それが嫌味や怒りに満ちたものではないのは、彼らの信頼関係がなせる技なのだろう。
「彼が、我がフラーレン公国が認めるBランクの冒険者、ゴウス」
彼らの声を聞きつつ……鎧の騎士、アイヴァンは言った。とっても低い声だ。声質は似ているかもしれないが、がなりたてるようなゴウスの声と違って。威厳があり、荘厳だ。姿勢を正して聞かなきゃいけない感じがする。
「それとその仲間達。ランクからわかる通り、強大だ。彼らと相対して、立っていられるものは……騎士の中にさえそこまでいないかもしれないが」
その言葉は賞賛だった。相手に対するはっきりとした尊敬の念。
「しかしやはり……強さと威厳、身なりに心持ち。それらは別物として考えなければならないと思わざるを得ない」
しかし続けて彼はこうとも言った。
琥太郎や青葉、シエテにみんな。いつもお世話になっている、とっても親身になってくれているものたちだ。彼らは優しくて優秀な冒険者である。それは認める。だけど、それと同じくらい、大きな口で笑い、叫び、人生を楽しむ荒くれ者である。酒場でよく飲むものたちだ。
それは、少しばかしアイヴァンの心に新鮮な何かをもたらしたのかもしれない。
「そりゃあ冒険者と騎士だからでしょ、当然じゃない?」
「……! ばか!」
「駄女神!」
「……ほう。かなり馴れ馴れしく」
そんな中でアイヴァンの言葉に、タメ口で話すは、やはりというかなんというか、金髪女神だった。琥太郎に青葉が、目線を飛ばして突っ込む。それに続けて、再びアイヴァン。その言葉は、シエテたちに向けられている。
言いたいことはわかる。冒険者と騎士。二つの職には違いがある。同じ戦いに挑むものではあるけど、その身なりや心持ちは正反対だ。
ただ……それをストレートに言ってしまうシエテというのが、やはり怖い存在と思わざるを得ないのであった。彼女は空気も読めないし、相手にはタメで……。相対するにはとても骨がある人物であると、はっきり感じている。
だがアイヴァンは。その言葉を切るとすぐに、相変わらずの低い声で言った。声音は変わっていない。
「心配も謙遜も、この場において不要だ。私は馴れ馴れしいからと言って怒りはしない。寧ろ……レッドヴィレ的には、そちらの方が却って都合がいいのだろう? その上下関係のなさは尊重しよう」
「(………)」
「(……は?)」
飛び出してきたのは、そんな言葉。
(……なんかズレてるのか? 彼は)」
心の中で琥太郎は言った。そう言った話はしていないはずである。そう捉えるのは、キャッチボールの仕方がズレていると言って差し支えがない。
あの騎士もなかなか、天然っぽい様子だ……琥太郎はそう思うことにした。口に出すことはしないが。
「面白い、これからはどんどん馴れ馴れしくいうことにしてみよう。我々も導入するべきか」
「(それは……どうなんだろうか)」
鎧の中からでも分かる、その天然さに、自然と心の中で疑問が浮かんだ。
「もうじき、この地の全冒険者を運ぶ馬車が到着する」
そんな琥太郎たちの感情を知らないで、アイヴァンは続けた。
「お前達は今回それに乗って王都へ行くことになる」
「……はい」
「王都は普段は冒険者に門戸を開かないが、今回ばかりは特別と言わざるを得ない。しばらくの長い旅だ。楽しむといいだろう。ああそうだ、彼らのように。彼らは楽しそうだ」
彼ら……と言うのはゴウス達のことだろう。なるほど、彼らは楽しく笑っている。
「あの人たちは特殊だと思いますが」
「特殊だろう。だからこそ素晴らしいと感じる。騎士は皆硬いからな、私も含めて。柔らかくしようとしているが、金属はなかなかに柔らかくならん」
アイヴァンは例え話をする。言い得て妙だと思った。彼の着ている銀の鎧。剣撃を通さないだろうその頑丈なそれは、よっぽどのことがなければ柔らかくなることはないだろう。それは騎士が騎士らしくあり続けるための証明であり、またそうするための一種の資格なんだろう、そう思って。
「……私も色々頑張ってはいるのだが……そろそろか」
アイヴァンがそう言って目線を奥へ送る。するとシエテが反応する。
「あ、あれじゃない?!」
彼女が指差した先から、響き渡るは甲高い音と、ガタガタと言ったノイズ。蹄が地面を鳴らす音と、台が運ばれる音だ。
馬車だ、馬車が数台やってきた。
「よっしゃあ! 心が躍るのう!」
ゴウスのテンション高めの声が聞こえる。
琥太郎たちの目にもはっきり見えた馬車は、何回かの音を響かせると、レッドヴィレの入り口へと到着した。
「この馬車に乗って向かう。ついてこい」
そう言葉を残し、先導するようにアイヴァンは歩き出す。琥太郎たちも、すぐについていくことにした。
「遠目から見えたけど、この前乗ったものより豪華じゃないかしら?」
「……王都からのものだからだと思う。この前のは、多分お忍び」
「内容が内容だしな」
琥太郎はシエテと青葉の言葉で思い出す。以前乗った馬車は大きな荷馬車だったものの、木でできていた武骨で頑丈なものだ。ただそれも仕方ないことかもしれなかった。それは物資を運ぶためという目的以外にも……大きな理由が一つ。
まさか、王女がその場所で行われていた不正、腐敗、反乱の予兆を捜査するためのものだった……なんて。
そんなもの、任務を受けた当初は知る由もなかったわけで。
そう考えると今回はその任務がない分、乗り物に対しては幾分か融通が利いてもおかしくない……かもしれない。
「ほら見なさいよ琥太郎! 黒よ黒! 黒塗り! なんかすごく高級じゃない!」
「……本当だ」
シエテの言う通りだった。目にしたその馬車は武骨なものでは決してなく、外壁全てを黒で塗られた特別仕様のもので。きっとこれが本当に送迎用のものなんだろう、そう思わせるに十分だった。
「黒は昔から高級感を出すのに使われてきた」
「そうですね。特に中世では、黒色は権力者の色でしたから」
青葉と輝美の追記もわかりやすい。
黒、紫、朱色。高級な色と一般的に想像できるのはこれらの色。それはここでも変わらないのだろう。
「早く乗りましょう! ねえ、いいでしょう?」
「乗るといいだろう。すぐに出発したい」
「了解!」
アイヴァンの言葉に頷くとすぐにシエテは馬車へと乗り込む。慌てて琥太郎たちも続く。そしてすぐに、レッドヴィレの冒険者全員が、数台の馬車へと乗り込んでいった。
それら全てを見届けると、アイヴァンは一人歩き出す。
そうして向かう先は、先頭にいる騎馬。鎧の騎士でありながら、軽やかにそれにまたがる。
そして、指先で指示を出すと、声を張り上げる。
「これから城へ向かうとしよう……快適とはいえないが、城への旅を楽しんで欲しい」
その合図とともに、ゆっくりと車輪が動き出し……。騎馬を先頭に、馬車の列が始まったのだった。
馬車は安定した足取りで、平坦な道を進む。小川が流れる土の道を、車輪が駆動して走っていくのだ。
「馬車の旅は二度目だけど、今回はそこまで波乱は起こらそうね」
「……波乱がまた起きたら困る」
「確かにな……ま、そのための安全な運びなんだろう」
見れば馬車の列はかなり厳重だ。一番前には騎士のまたがる騎馬がいて、見れば馬車の運転手も、武装している。何かあった時の戦力なのだろう。
「そこまでしないとやっぱり難しいもんなのかねえ」
「……国の沽券じゃない?」
「そっかあ。あたしはこういうのよくわからんしなあ」
玲は両腕を首に当て、もたれかかる。彼女はスポーツは得意だが、勉強はそこまでである。
「そういえば玲、あいつら……オークはどうなってる?」
「ああ、あいつらは……こう見えてレッドヴィレの冒険者だしな。断る理由がないだろって、ゴウスのおっちゃんにエルメス。みんなが騎士に色々嘆願しらしくてさ……」
「……馬車に乗ってるのか」
「みたいだぜ?」
馬車に乗っているオーク達を想像すると、一瞬驚きそうになる……だが彼らの優しさ、陽気さ、そして健気さは自分達がよく知ってる。
「分け隔てなくって、認めてくれたってよ。でも私達は何もしてない、おっちゃん達も認めさせたりはしたけど……。それはあいつらが勝ち取ったもんだ」
「……彼らが優しかったから?」
「優しかったからだし、それにいいやつだからだよ。だからちゃんと認められてるのは嬉しくなるのさ、あいつらを見初めたものとして、頭領としてさ」
そうだった。彼らオークを最初に見初めて、頭領になったのは玲だった。彼女は……オークたちが最初から良心ある優しきものであると思って、頭領として接してきた。それにオークたちも応えて……その積み重ねこそが……今の状況。
「これからも仲良くしてやって欲しいのさ。今のあたしはそれが一番。ま、当然……琥太郎にこうやってまた会えたことも同じく一番、嬉しいことだけどさ」
「ああ、ちゃんと仲良くする」
「当然ね、女神の加護……はないけど」
「……協力する」
「私は、もともとそういうファンタジー系に興味がありましたので〜〜。それはオーク君たちも同じです」
「ありがとなっ! 持つべきもんは友であり教師、それに仲間……だよな!」
改めて友情を、感情を共有して。
彼らはそうやって、一つの世界で集まったのだから。何があっても離れるつもりはもうないのだと。
そしてそうやって……話を咲かせて、数十分。馬車をゆく道の風景が変わり始めた頃。
「そろそろ城だ。目的地だ」
「マジで!? 見てみたい!」
運転手の声にシエテが反応し、身を乗り出すように外を見る。そして、
「あ、わあーーっ!!」
彼女が感嘆の声を上げた。驚く琥太郎がそれに合わせてシエテの方を見ると……。
「これは……すごいな」
琥太郎も軽く驚嘆せざるを得ない、そんな光景が広がっていた。
土でできた道の先に、巨大な門。そして……その裏で雄大に聳える……白色と朱色の洋風城。
まさにファンタジーだ。ファンタジーに出てくる……お城そのもの。それが、はっきりと見えた。
当然のことながら、馬車は門を目指して走っていく。
先頭の騎馬が近づくにつれて、ひとりでに開く門。ゆっくりと、壮大に音を立てて……馬車を迎え入れていく。
アイヴァンの馬が入って数秒、先頭の馬車……琥太郎たちの馬車が入り、後ろの馬車たちも、しっかりと続く。誰も離脱することなく、すべての馬車が目的地へと辿り着いた。
「ついたーーっ!!」
城の中庭に降り立ち、そう声を上げるシエテ。
「……みなさま!」
「は、アンタは……!」
それに合わせるかのように。声が聞こえてきた。シエテや琥太郎。青葉や玲に輝美。みんなが聞き覚えのある声だ。聞き覚えのある声の主は、すぐに駆け寄って、笑顔を見せる。
「みなさま、ようこそおいでくださいました! そして……お久しぶりなのでございます!! 冒険者さま!」
駆け寄ってきたフラーレン公国第七王女、シュルツェン・ファン・ヘルガフロウスト・フラーレンは……そう言って冒険者を出迎えた。
再会でございます。
ここから王都編。色々動き出します。




