青年たちは一旦否定する
「……へっ?」
シエテは耳を疑った。頭がどうにかなりそうだった。だから、素っ頓狂な反応を出すことしかできなかった。脳内へと入ってきた情報が、とんでもないものだったからに他ならない。
魔王。
その存在は、底辺女神であるシエテもしっかりとわかっている。神が支配している世界の真下。そこに存在する歪みであり、世界においての、恐怖の象徴。歪みであるが故に、その力は強大な場合が多く。例えばかつて復活した…とある魔王はとんでもない力を持つが故に、神々の力を結集してようやく倒せた。
そんな話を、彼女は知識で知っている。伝説などになっているやつだ。本を読めば、知識として叩き込まれる。自分たちGotuberでは想像つかないくらい、強大な力と、偉大な力を振るう神々。彼らによる最終戦争、そんな話。
そんな話を知ってるが故に、彼女はその報せを十二分に恐れた。
魔王が復活する可能性がある? 自分のところに現れるかもしれない? その場合、もしかして……? そんなバカなと思った。願わくばこれは……聞き間違いであって欲しいと思った。心の中で、その知らせ自体を拒絶したいとはっきり思った。だって怖いもん。
しかし。
「魔王復活ですか! いいですねいいですね、ファンタジーっぽくなってきましたねえ〜〜♪」
あまりにもうれしく聞こえた、後ろの女性の声が、否が応でも事実であると思わされる。声の主は……魔法使いの女、輝美だ。
「やっぱり、ファンタジーといえば冒険と魔法と、魔王様というところがありますよね、うんうん!」
「な、なななな……!!」
腕を組んで首肯しながら、嬉しそうにいう。あまりにも楽しんでるような、待ち侘びたような、そんな声が、シエテは信じられなかった。信じられるものかと、思った。だからこそ。
「バカじゃないのアンタ!?」
思わず叫ぶしかなかった。恐ろしいことしか知らないシエテにとっては、当然のこと。
「ほんと……バカじゃないの! 魔王ってのは幻想ですむ問題じゃなくてえーと……!」
こんな時、語彙力が全然無い自分を、シエテはとても悲しく感じた。目の前の相手に、どうやって脅威を伝えればいいか、そうかんがえても言葉が出ない。
「大丈夫ですよ、怖い存在ってのは伝わってます〜〜」
相変わらずの笑顔だ。笑顔で輝美はいう。
「ですけれど、私は私で。その魔王様との邂逅が楽しみなのです。怖い存在なのと、興味は両立するんですよ〜〜」
「何言ってんの!?」
「……まあ永田先生は、そういう人だしな」
琥太郎が諦めたようにそう告げる。そうだった! 出会って少ししか経ってないけど、わかってた。そういう女だった!
魔法使いになったことに対してかなり喜んでいた事からもわかる通り……。永田輝美はファンタジーに好奇心を。興味を。楽しみを感じる、そんな人物だ。周りの人物……例えば琥太郎や青葉、玲もそれははっきりと認めている。
「ほら、私は元々世界史の教師ですから」
輝美は言った。
「世界史って、暗記の科目じゃないのです。自分の生まれていない世界、生まれていない時代。それらに自分で飛び込んでいく、それが世界史なんだと、私は思っています。だから私は……いろんなものに興味を持って。そうやって生きてきた。それはこの世界でも変わりません。魔法もそうだし、神様もそう、魔王様も同じですっ」
「……確かにずっとそう言っていましたね、ずっと」
その言葉には異常なほど、確固たる信念があった。
だからこそだろう。シエテは琥太郎を呼び出す。
「……コタロー」
「なんだ?」
「前から思ってたこと言うわ」
すうっと息を吸って、言葉を話す準備を整える。そして。
「アンタの知り合いはみんな……異常な人間しかいないわけなのね!!」
思いっきり全力で、その言葉を叩きつけた。その声を琥太郎は無言で受け止めた。
受け止めるしか、できないわけなのだが。
「……寝ましょうか。どうせ場所が分かってないのだから……ここに出るわけがないわ。きっとそうに決まってる」
「だが、シエテ本人から聞いたが、アルヴィレアという場所は」
言葉を思い出したのか、琥太郎はシエテに問いかける。それは、かつて女神自身から聞いた言葉。
「アルヴィレアという場所は、大小様々な混乱が起きてると聞いていた。だったら魔王襲来もまた……混乱の一つではないかと思ったんだが」
「ああ、アレね……。私はそういう感じで言ったわけじゃないのだけど……」
琥太郎の言葉に不満を感じながら、シエテは答える。
「……前にも言ったでしょ、広すぎて神様でも世界全てを見ることができないって。混乱や災害、いろんなことが起きる場所。歪みって本来そんなもんよ。アンタらの住んでた世界だって、間違いなくそうでしょう? 魔王なんかいなかったけど、色々歪みはあったはず」
「……まあ、確かに」
琥太郎は頷いた。
「そういうことよ。神が住んでる神界やバッチリ見られる距離にある真下の世界ならともかく……。遥か下の世界よ。アルヴィレアって。神がしっかり見れるわけがない。普通に生活しても、マイナスな面は見えるもの。マイナス面は潰す。普通はそういうものだけど、目溢しはどうしてもあるわ。それを歪みと。そう言ったわけで」
「……」
「だから……そんな複雑に、深刻に捉えるものじゃないわ。あの時私が変に煽っただけよ。勇者とか言ったけど混沌とか言ったけど……今のアンタや私はただの冒険者じゃない。でもそれでいいのよ」
「そうか」
その言葉を言うと、シエテはパソコンを閉めた。琥太郎も、結局一言言うだけで精一杯で。
「だからきっと違う場所ね。そんなわけが無いと私は思うのよ。そう、思いたいわ」
ベッドに横たわって、シエテはポツリとつぶやく。
「私は寝るわ。明日も色々、やることがあるでしょうし。アンタもでしょ、コタロー!」
「確かに、色々と」
「でしょう? だったら寝ましょう。そんじゃ、おやすみ!」
そのまま、シエテは全てを打ち切るように眠りについた。後には琥太郎と輝美が残される。
「あの子の、シエテさんの言葉もちゃんとわかりますよ。女神様だからこそなんでしょうね」
「仮に魔王だとしたら……会いたくないのは当然だと、俺は思います」
「配慮不足でしたね。さて、私たちも寝ましょうか。学生の時の生活を忘れてたりしませんよね〜〜?」
「まさか。朝早く起きて夜も早く寝るは今でも実践してますよ。大体それは……身に叩き込まれてます」
「それだったらいいんですよ〜〜♪それじゃあ、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
琥太郎もまた、目を閉じる。
叩き込まれている理由は言うつもりはなかった。
……今言っても意味はあるのだろうか? そう思えて他ならないからかもしれなかった。
陽の光が辺りを照らせば、そこはもう翌日である。全ての人間が明るい空の下で活動を行う時期。シエテたち冒険者も、それは変わらない。いつもと同じように、歩きを進める……はずであった。
「……やっぱり何と言うかおかしい」
「ああ、静かだ」
異変に気付いたのは先に外に出ていた青葉だった。誰も彼もおらず、静かすぎるのに気がついたのだ。琥太郎たちと合流して、酒場の方へと歩く。
とりあえずあそこなら誰かいるかもしれない。そう考えながら。
先頭はシエテだ。立候補した。まあシエテのスキル、誰とも仲良く話せるはこう言う時にはかなり有能であるのは間違いないだろう。
その道筋など慣れたものだ。本当にすぐに、酒場に辿り着く。木の扉に手をかけて、シエテは言った。
「いい? 開けるわよ!」
皆して頷く。そして。思い切り扉を開く。
「おはよー! 誰もあんまいなかったわけだけど……ってあれ、皆バッチリ決めてどうしたの?」
「あ、シエテ様! 皆さま!」
そこにいたのは、冒険者たち。いつも通りの光景だ。武器や鎧で、がっちりと武装している点を除けば。
そんな中でエルメスが、シエテたちにちかづいて、身振り手振りで伝えようとする。
「皆さま、お着替えください! 色々一大事なのです!」
「え? まじで?」
「はい! えーとですね……」
「ここから先は、私が話そう」
「え、誰!?」
背後から声が聞こえて皆が振り向けば、見知らぬ人物。だがその存在感ははっきりと見て取れる。巨大な鋼の鎧に身を包んでいることからも、わかる。
「あの方はフラーレン公国……その騎士の方です」
「この街がある国の人か」
「ああ。第5騎士団所属……アイヴァン・カスケル。お前たちもまた、冒険者ギルドの人間か?」
「……ええ、そうよ」
「まあ、皆そうだ」
「それなら話は早い」
そう言うと騎士の男は琥太郎たちに聞こえる低い声で言った。
「はっきり言ってしまおう。国の一大事だ。緊急の話がしたいので……来てもらうぞ、王都へ」
頑張りパートです。
最近、コメディじゃなくなってる気がしますが……。
琥太郎やシエテや皆。真面目に、必死に頑張ってるんだと思ってぜひ。




