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女神と教師と、単純な魔法使いと。

申し訳ない、大変遅れました……。

いろいろ事情が……。

 草原の中にて、二人が相対する。風が、互いの間を撫でる。惜しむらくは、その音や雰囲気でさえ、二人がしっかりと感じることはないということだった。


 これは真剣勝負なのだ。少なくとも、二人にとっては。


 対峙する二人。一人は金色の髪をなびかせ、巨大な旗を持つ少女。そしてもう一人は茶色いウエーブの女性。どちらも魔術師。魔法使い。二人とも魔法を使うもの。


「全力でやっちゃっていいのよね!」


 金髪の少女……シエテが叫ぶ。杖を突きつけて、真剣な表情で。


「えぇ、当然全力で。私もそれに応えようと思いますので~~!」


 女性がその言葉に答えた。その表情は真剣ではあったもの、言葉の節々からは、彼女が本来持つ優しさ、柔らかさが見て取れる。

 

 女性の名前は、永田輝美。異世界では魔術師をしている。宝石をあしらっている木の杖が、まさにその答えを表していた。


「ほんとに? 後悔しない?」

「はい! 後悔しませんから、私!」


 あまりにもすんなりだったからか、シエテは面を喰らったが、それでも調子を取り戻す。


「……分かったわ、だったら……」


 一旦言葉を切る。そしてドヤ顔で、叫んだ。


「あたしは女神シエテ、全力でいく! だから、食らって泣かないようにね!」

 

 それはあまりにもクサい言葉ではあったし、痛いセリフではあったけれど、それもまた本人の、はっきりとした意思表示であった。自分は女神で、魔術師として、魔力は最高値である。その力を……全力で叩き込むと。


「はい! 期待してますね、シエテさん!」


 それでもなお、輝美の言葉はやさしく、柔らかかったけれど。


「……こたろーもそうだったけど」


 その対峙している二人、その外野にて。青葉が呟いた。


「結構頑張ってる。駄女神も」

「頑張らないといけないと思ったのかもなぁ……。とくに琥太郎は、あたし達に迷惑かけらんねーってな」

「迷惑だなんて思ってないのだけれど」


 青葉と玲の言葉、それに向けられている感情は同じだ。琥太郎のことを重荷などとはちっとも思っていないという事実。青葉に至ってはむしろ逆で……。彼女が隠し持っているのは、琥太郎がここにいなければ、近くにいなければ。自分の意味がない、という感情。


「むしろ私には、こたろーがただいればいいだけ」


 彼女の言葉が、重い空気に乗って消え去る。


「それと。今回」


 すぐに空気を戻すように、青葉が再び口を開いた。


「今回の戦いで……私達は初めて目にすると思うし」

「だな。これは見たいもんだ」


 玲もうなずいて、ゆっくりと前に目を向けた。目を向けた先には、担任教師の姿。


それを見て、玲が嬉しそうにそういう。


「永田先生……あたし達の先生が覚えた魔法ってやつだな」




 戦いのきっかけは、朝の食事だった。


「いやぁ……この世界って、なかなか面白いというか……いいところですねえ」


 嬉しそうに口を開いたのは、輝美だった。木でできた皿。そこからパンを手にしながら。


 ここは冒険者ギルドの酒場……兼食事場のような場所だ。レッドヴィレの冒険者にとって食事は基本、ここで取ることになっている。ギルドに所属する冒険者には、料理が無料で振る舞われるためだ。体力が資本であるから、というのが理由。


 そんな場所に、なぜ輝美がいるのかというと、


「まさか私も冒険者という存在になってしまうとは~~」


 ということだった。あの後、彼女もここに行き、基本情報を登録した。つまりは、輝美自身もまた、冒険者になったということ。


 魔法学園の教師でありながら、冒険者。現在の彼女の状況はそう言ったものなのである。


「でも、それっていいのか? あたし達の世界じゃ、掛け持ちってなかなか難しいもんだろ。こっちの世界じゃよくわからないけど……」


 それに対して問いかけたのは玲だった。曲がりなりにも、担任教師なのにタメ口、という経緯を欠いた状態である。これも、輝美自身がそれを気にしないためだった。


 彼女自身、教え子と教師という立場ではあるけれど……。敬語で言い合うような硬い関係にしたくないとは、考えている。特にこの異世界では。


 ……と言いつつ当の本人自身の敬語が、抜けていないのだが。


「ああ、それなら大丈夫でしたよ~~。冒険者として登録した後、私はすぐに魔法学園に報告しました」

 

 にっこりと微笑みながら、彼女は答える。


「そしたらまあまあ、すぐに許可をいただきましたっ! まあ非常勤ではあったし、来て早々な私です。教壇に立った時間もそこまで長くなかったのですが、かなりすんなりだったので私自身も驚くほどだったのです。それに、こちらの世界では教師を専門にしている人の方が少ないらしいので、これはもう学校そのものが推奨してるんでしょうねえ」

「そっか……色々違うんだなあ」

「ところ変われば、色々ルールも変わるだろうしな」


 琥太郎が輝美の方へと目線を向ければ、きらりと光る半透明の宝石状のネックレス。


「(……これは)」


「(知ってるのかシエテ)」


「(知ってるも何も。魔法学園の教師に与えられるロザリオよ。これがあれば教師として認められるの。魔法で生成されるものだから、複製も改造も無理な代物ね)」


 シエテが耳打ちする。思い出せば彼女もまた、自称魔法学園出身者。魔法を使うだけあって、そこの知識はかなりある様子だ。 


「(魔法ってのは基本的に万能なのよ。だから私もここまで強いし……何てったって女神よ。駄女神じゃない、女神なんだから)」


 彼女の次の言葉についてはスルーすることにした。彼女の機嫌を損ねずに答える方法を、琥太郎は持っていない。


「あっ。そういえばですねえ~~」


 そんな中で、輝美がシエテの方を向いて、会話の口火を切る。


「私……あなた……シエテさんのことでちょっと気になることがございましてですねえ〜〜」

「……あによ」


 木でできた匙。それで粥のようなものをすくいながら、シエテは輝美の問いかけに応えた。その表情には不機嫌さがある。いきなり目線を向けられた挙句になんの呼び方もなく話しかけられれば、そう思うだろう。


 しかし、彼女は意に介さない。


「確かあなたと私は同じ魔法を使う、魔法使いだったかと思うのです」

「えぇ、魔法は使えるわ。魔法使いじゃなくて女神だけど」

「そうでしたら!!」


 返答が来た瞬間、きらきらした目をして、立ち上がって。


「仲良くしたいのですよ! ほら、魔法使いじゃないですか! 私達!」

「うるさ!? 何アンタ、熱烈仲良くしたいとか、そういうキャラなの!? いろんなことに全力なんだーってやつ!? 一番苦手!」


 そしてずいっと顔をシエテにちかづけて、思いっきり叫ぶのだった。当然のごとく、シエテは驚愕する。


「そうだ」

「ああ」

「先生の平常運転」

「そういうことなのね畜生!!」


 教え子である三人が、はっきりと答える。それは仕方ないことであると。


 彼女、永田輝美がそういう人物であると。


「今日は学園に行かない日ですのでねえ」


 輝美が言葉を切る。そしてにっこりと、満面の笑みを浮かべて。


「ちょうどご飯が食べ終わったら、自由な時間があるのです。食後にちょうどいいですし……魔法の見せあいでもしましょうか! 私教師なので、あなたの特徴とか分かるかもしれないです!」

「……わあったわよ」


 そんな勢いのある彼女に押されて。シエテはこういうことしかできなかった。




 そして食事をし終わって数分後。小休止を挟んで。


 シエテと輝美の二人が相対する、と言うことになったのである。琥太郎は離脱した。そのため、周りには青葉と玲の二人。


「あのダークエルフと一緒に特訓してるんだろ」


 玲はポツリと言う。琥太郎が離れる理由。それを彼女たちは知っている。きちんと理解している。理解はしているのだけど、やはり。二人にとっては、そこまでいいことではないこと。


「……さっきも言ったけど。迷惑だなんて思ってない」

「わあってるよ。お前だったらそう言うと思ってたさ」


 青葉なんて、その言葉を聞いて露骨に不機嫌になっている。


 否。不機嫌になっている理由はそれだけじゃない。


「そもそも私だって。こたろーのことをきちんと鍛えることだってできるはず。でもこたろーは……彼女。あのダークエルフを選んだ。それが嫌。不機嫌」

「……理解はしてるよ」


 琥太郎のこと、大好きだもんなあ。と心で思いながら、目線を逸らす。高坂青葉という少女が機嫌を悪くしているのは、琥太郎が離れたからに他ならない。しかも、選んだのはダークエルフの女性だったのだ。


 これで機嫌が悪くならないわけがない。琥太郎のこと、本当に大好きなら尚更。


「後で捕まえる。こたろーのこと。手伝って」

「マジかよ……わかったよ」

 

 怖いことをさらりと言う。黒いオーラが出てきそうだ。こりゃあしばらく機嫌が治るのは無理だろうな。玲は諦めた。こう言う時は諦めが肝心。青葉はかなり頑固者である。


「さて〜〜そろそろやりましょうか〜〜」

「いつでも準備はできてるわよ!」


 そんな二人のことなど知ってや知らずか。魔法使いは互いに言葉を交わす。シエテが旗を、輝美が杖を。互いに構える。


「はい〜〜。いざ、尋常に……ってやつですね♪」

「全力、見せるわ! 私!」


 杖と旗の色が変わる。旗より伝わるは黄色の光。バチ、バチィッ! と散るのは電気の流れ。そしてもう片方の杖。浮かび上がる魔法陣からは、強烈な魔力の渦。鋭い風の奔流。


「神の魔法、神的魔術。そのうちの一つ……」

「……参ります。風の魔術」

 

 二人の声が、重なる。


「『サンダーボルト・ストラーク!』」

「『ウィンドウェイブ!』」


 カッ……ドオオッ!!


「っ……きゃあっ」

「うわあっ?!」


 叫び声と共に。放たれる神の稲妻と風の波。それら二つが思い切りぶつかって、爆発。巨大な衝撃波となる。青葉と玲、二人は吹き飛ばされないように耐えるのが精一杯だ。


 間髪入れずに浮かび上がるは巨大な魔法陣。その魔法陣が、色を変えた。


 今度は、黄色。シエテのサンダーボルト・ストラークと、同じ色。


 つまりはこの属性は……雷!


「『サンダーボール!』」


 ギュン! 高速で現れる雷の球。杖でそれを振るい、突きつける。それが加速して、相手へと襲い掛かる。


「これは雷の初歩魔術……ですねっ。それでも結構威力は高い方ですけれど」

「それぐらい……分かるわ! 私、一応魔法学校の卒業生よ!」


 大きな声が聞こえた。女神の声だ。爆発の間からも、ふわり、大きく揺れる白い旗、その布地が見える。


 ぶわあっ……! 続いて響くは風切り音。その音によって、爆発の風、煙が空へと舞って消えていく。


「どーよ!! 旗をぶん回せば、魔法だって切れるものよ!」


 爆煙が消えた先では、シエテが立っていた。旗を構えつつ、どや顔をしている。旗を思い切り振り回し、魔法と煙を振り払ったのだ。


「あ、魔力切れしてない」

「当然! 私だって……一応レベルアップしてるんだからっ!」

「……常套句だと思ったのに」


 青葉に言われたことを返しつつ、シエテは旗をくるんと回した。自分の魔力はまだ切れてない。ぐったりすることもない。一発だけ打って魔力切れした最初の頃より、強くなってる。多分。


「さっきは偶然重なっちゃったけど、もう一発行くわよ! 受け止める準備はいーい!?」

「できてますよ〜〜!」

「余裕な表情、雰囲気……どう変えてやろうかしら! びっくりすると思うわ!」


 相変わらずの雰囲気を醸し出す輝美に、女神はそう告げる。ニヤリ、意地悪そうに笑みを浮かべて……旗の先端、竿頭を構えた。ばさっ……! と舞う白い布。その中心に、再び金色の光が走る。


 それと同時に、シエテがその旗へと力を込めた。光が拡がり、全体を覆う。


 バリィ!


「(伝わった!! これならいけそうな気がする!)」


 片手で持ちながら、シエテは心で自信を持って確信する。魔力は、ちゃんと伝わっている。


「今から撃つのは、一応の必殺技……と言いつつまだ撃ったことなんかないんだけど……! まあとにかく全力で……喰らいなさいよっ!!」


 そう叫ぶと、彼女は輝美へ向かって駆け出す。それと同時に、ダンっと地面を踏み締め、一気に跳んだ。


 右手に持っている旗。それをまっすぐ背後へ突き上げて……輝かせる。


 シエテは跳躍の最高点へ。あとは輝美の方向へと、落ちていくだけ。使う力は、その勢いと、遠心力。そして……旗から伝わる魔力。


 それが一気に解放され、彼女の旗を巨大な刃と化す。


「なんかすごい技が来るぞっ!!」


 興奮した様子で玲が言う。


「神的魔術の応用……そして私の必殺技!」


 そして。シエテは叫ぶ。


「『ライトニング……ソーーーードッッ!』」


 飛びかかった彼女が、輝美へと叩きつける、黄色へと変わった旗。それはまさしく、巨大な雷の刃。叩きつけられた先から発せられるは、魔力の本流。


 その巨大な一撃が、全力で振るわれた。


 ドォォォッッ!!


 巨大な斬撃。そして魔力の流れ。それが地面に、空気にぶつかる。発する音は、それを表す音。響き渡る、甚大な衝撃。


「……これは……すごい」

「さすが女神ってやつじゃねえか!? いやこれ!」


 二人も驚かざるを得ない。それと同時に、心配がよぎる。食らった相手は? 彼女、輝美はどうなっている?


「っは……はー……。ど、どーよ……私も初めて放つ奴だし、なかなか加減がわからないんだけど……」


 一方のシエテは、疲労困憊だった。杖で体を支えている。肩で息をしながら、そう言葉を紡ぐ。


「まあ、本気出しちゃったし、全力叩きつけたし。少し表情や雰囲気が変わったかしら……」

「ええ、とっても♪」

「そう言ってくれると嬉しいなあって……えぇ?!」


 ややあって、シエテの言葉に答える声がした。後ろから。思わず、彼女は思い切り振り向く。


 すると、そこには。


「『テレポーテーション』。いわゆる転移魔法と言うやつですね〜〜。防御魔法でも良かったのですが、一撃でも食らったらまずそうだったし、青葉さんや玲さんの手前。攻撃を受ける前に、シエテさんの背後に転移させてもらいました♪」

「……うそでしょ、まじ?」

「えぇ、一応……魔法の先生ですから♪」

「答えになってないじゃないのよ一ー……ふにゃん」


 そして、限界が来た。シエテの体が崩れ落ちる。魔力切れ。ぐったりとして、激しい虚脱感に苛まれる。


「魔力自体は質が良いですね。ただし、量がそれほど。はい、コントロールの方法を学べば、もっと強くなると思います! 学んでいきましょうね、シエテさん♪」

 

 体一つ動かすことのできない中で、輝美の優しい声が響き渡ったのだった。




近接職しかいないパーティに、新たに加わりそうな魔法使い。シエテと永田先生は通じ合うこともあるのではないでしょうか。

ただシエテにとって彼女は……グイグイ来られるとね……。

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