青年たちは幼き弟へと会う
(……よかった。ちゃんと伝わった)
少女は心の中でつぶやいた。その表情は穏やかではあった。それはまるで、自分の行動が正しいことであるとしっかり自認しているように感じられた。
(あの青年たちは、ちゃんと去っただろう。狙われることはないさ)
心の中で考えていたことは、さっきまで目の前にいた青年達のことだった。そう、彼女はその目の前の青年たちへと、言葉じゃない行動で、しっかりと告げてやった。ここから逃げろと。少女は決して、その行動を、後悔しない。否定もしなかった。
だけれども。その行動自体は、少女の所属しているものにたいしては、確実に失態と呼べるようなものであった。
「どう言うつもりだァ、パイ……」
深く、唸るような低い声で、男は少女の名前を呼んだ。少女……パイの穏やかだった表情がこわばる。
「お前、俺たちのやろうとしていることを邪魔してるのか? お前がそれをできる存在だと思ってるのか?」
立派な鬣に、深く皴を寄せた渋面。威圧感のある声。それら全てを持って、男はパイを追求する。
男は強盗の頭領でもあった。相手を顎で使える、簡単にいうことを聞かせる。そういったことができる人物であった。筋骨隆々の体に獅子の貌。それがあれば、相手に威圧を駆けることなどたやすい。それをしっかり理解している。
「……邪魔をしているわけではない」
パイが口を開いた。一言喋るだけでも、少しの勇気がいる。喉が渇く。水を飲みたい気分になる。正気じゃいられなく、なりそうになる。
「この森の中で最後まで奪って何になる、ということだ。特に今回は……重要なんだろう? 依頼人もいる……」
カラカラになったその口で、そう言葉を紡いだ。相手は何も言わない。その沈黙が、棘になってパイを攻めるようだ。
「私は、私の考えを貫きたい。そう考えた結果のことだ。そうでなければ私は……」
「私は私は言ってもなあ……」
そう考えを告げた瞬間だった。
「っが……!?」
腹へと鈍い痛みが走った。男が、腹を蹴り上げたのだ。痛みとともに、臓器を吐き出しかねないほどの強い吐き気が襲い掛かる。体が大きく震える。言葉も考えも、中断される。
「お前のようなクズにちゃんと考えを出せると思ってるのか、なァ!!」
「っぐあ、っぁが……!! ブッカー……っ」
「お前は俺に使われる、俺はお前に指示する……そういう立場で成り立ってんだろ!! いつから偉くなった? いつからだ!!」
言葉とともに、ブッカーはパイの腹へと膝を何度も叩き込む。弱弱しい言葉を発すだけになっていたパイは、痛みに耐えかねてそのまま体を這わせた。
「なあ、パイ」
痛みに震えながら体を伏せたパイの髪を掴んで、ブッカーは言う。
「お前は優秀だと思ってるよ。その身のこなし、毒の知識、技術は最高だ。だからこそ……。俺はお前を買った」
女は何も答えない。頭が痛みによって完全に支配されている証拠だ。
「お前は俺に逆らわない。それが契約だった。そうだろう? これからもずっとそうしていてもらうぜ」
男は髪を掴み引き寄せる。女の顔が恐怖に歪んでいるのを見て、笑みを浮かべる。
「いい子だ。きっとこれからも大儲けできる……。今回の仕事は特にな。それじゃあ……もどるとすっか。待たせちゃいけねえからな」
「……」
沈黙するパイを尻目に、ブッカーはその体を引きずって森へと進む。
痛みの残る体を引きずられながら、パイは、
(……すまない、クーナ……。私は……私は……とても……無力だ)
脳裏に浮かぶ少年へと、心の中で謝り続けるのであった。
「……もうすぐだ。そのまま、そのまままっすぐ……。そこだ」
馬車がゆっくりと走る。それに指示を出すのは、運転席に座る少年だ。さっきから、恐ろしく深刻そうな表情をしている。その瞳は鋭くとがって、険しい皴が眉間に刻まれて。激しい苦悩、苦悶がそこに隠れているかのようだった。
少年の美貌を、その苦悩が台無しにしている。そう感じられそうだ。
(……なんだなんだなんだけど)
琥太郎の隣に座るシエテが、彼の脇腹を叩く。青年は振り向いて聞く態度を見せた。
(あいつ……なんかいきなり現れてさ……。案内するよとか、道中でもぶつぶつ言ってて怖いのなんの……)
(言いたいことは分かるが)
琥太郎は小さく答えつつも、思案する。あの少年が一体何を見せたいのか、何をしたいのか。
姉ちゃん、と彼は言っていた。その姉ちゃんとは恐らく、彼女……あの盗賊のことなのだろう。今この場において、現地人は数少ない。自分も幼馴染も当然そうではないし、隣の女神もそうだ。だとしたら、自然と答えは限られよう。
(言いたいことは分かるが、とりあえずは身を任せる。俺たちには何もできないことだとしても……。今のところはそれが最善だろう)
(まあ強引に奪わないだけ、マシかもしれないわ)
シエテは小さく頷いてみせる。強引に奪うことだってできただろう。だけど、彼はしなかった。その行動自体が、盗賊でない何よりの証だ。
(でも正直言ってなんか怖いのよね……顔だって険しくてびくびくしてるし、雰囲気も……)
少なくとも、簡単に話しかけられない雰囲気だ。琥太郎やシエテだって、ビシビシとそれを感じる。
ややあって、ゆっくり走っていた馬がその動きを止めた。荷車も、遅れて静止する。
「ここだ。ここが俺の家だ」
少年がそう小さく告げた。それと同時に、礼も言わずに運転席より飛び降りる。
「降りるしかなさそうだな」
「……ん」
琥太郎がそういうと、青葉達は頷いた。荷馬車から体を出す。
果たして、琥太郎たちの目の前には小さな小屋のようなものがあった。
木を組み立てただけの、簡素な小屋。確かにこれは、一人あるいは二人が棲むのに対しては……都合がいいかもしれない。
「……今みすぼらしいと思っただろ」
「いや、そんなことなど」
少年が睨み付けてきた。琥太郎は即答する形で否定する。
「いいさ。いくらでも言ってくれても。他の奴等からしたら酷いのは確かだ」
悪態をつくように、少年は歩きだした。小さな木の家の、小さな扉を開けて、中へと入る。
だが、入って早々動きを止めた。振り向くと招くように手を伸ばす。それはまるで隠れ家に人を誘うように、秘密の会合をするように映った。
「……入れ。あんまり人は入れないけど。特別だ」
「……なら入るわよ。琥太郎。いーい?」
「そこまで言われたらな」
シエテは問いかけ、琥太郎もすぐに頷く。さらにそこに他の少女たちも続いた。
「それじゃ、失礼するわよ! あとで追いだすとか言っても駄目だからね!」
「失礼だな!俺はそういうことしない!」
その頷きを合図にして。青年たちは、小さな小屋の中へと、導かれるように入っていくのだった。
「……ほら、水だ。特に何もないけど、水だけはある」
小さな円卓。そこに水の入った木の器を置いて、少年は告げた。
「ありがと! いやぁ、喉乾いてたのよねぇ。いっぱい動いたし」
「はやっ!? いやはええな!」
「なによ。喉からっからだもの私」
人数分の器。そのうちの一つをひょいっと手にもって、シエテはこくこくと喉を鳴らして飲み干す。
「っ、かーっ! 生き返るってやつねーっ!」
「……下品」
「いくら駄目でも神ってやつだ。俺たちとはなんか違うんだろう」
その姿を横目で見ながら、琥太郎たちもまた器を持つ。見ず知らずのうちに、駄女神が毒見役になったようだ。その水に問題はない。恐らく。
「それは俺も使う水の一部だ。そんな大事なものに毒なんか入れるか」
「それは失礼しました……だな」
少年がそう告げる。生活水なら。そんな大事なものならさすがに毒を盛るといった真似はしない。自分を危険にさらす真似なんて、意味がない。
配慮が足りなかったことに謝罪して、琥太郎は器を傾け、少しのどを潤した。
「……水なのに甘い」
少し飲んで、琥太郎はそう小さく呟いた。普通の水なのに、何故だか甘く感じる。名水を口に含んで、飲んだらまさにこんな感想だ。水自体に味があって、それが舌の上に響いている。そんな感じ。
「ほんとだ。すごくおいしい」
「たしかにな! 相当な名水さ。多分……森の中だからだろうな!」
「えぇ! とってもとっても美味しいです!」
他の皆も口々に言う。
「毎日飲んでるんだよ。言われなくても分かってるさ」
少年もまた器を手にとって、水を飲み干す。資源を消費するのに躊躇がない。そういった感じなのが見て取れる。
「ふぅ。水を飲んで少し落ち着いた……。そうだ。たまに心を落ち着かせないとやっていけなくなる」
「そ、そこまで不安定なのね……」
シエテが軽くドン引きする。それを気にせずに、少年は続けた。
「ここに連れ込んだのは悪いと思ってるよ。でも俺も必死だった。それだけは分かってほしいんだ……」
「それは、貴方のお姉さま……のことですか?」
「っ!!」
口を開いたのはコンロンだった。両の瞳が少年を見つめる。ぽわぽわした雰囲気の彼女からは決して考えられない、鋭さと真剣さ。それでいて剣呑さや怖さはまるでない。
「貴方のお姉さまと思われる方と会いました。その方が、ずいぶん焦っていたことも……」
「そうだよ! 分かってるじゃないかっ!」
コンロンがそう告げると、すぐに反応を残した。手を軽く木の円卓に触れつつ、声を荒げる。図星といった態度だった。
「貴方もあれだけ頑張っていたのです。それぐらいわからない私ではありません」
「ちょ、ちょっとコンロン……? ……こ、こたろー!」
シエテが困惑した様子で問いかけつつ、琥太郎を呼んだ。すぐに耳打ちする。
(……なんかさ、雰囲気違わない? こんな、ずばーって切り込むような子じゃないと思って……)
(分かってるさ。俺も少し困惑している)
しっかりとした口調だ。しゃべり方からして、全然違う。
(えぇい、喧嘩になりそうじゃないのよっ、これじゃあ)
(なれば止めてこい、女神)
(よっしゃやってやるわよえぇ。これでも私は空気変えのシエテと呼ばれていたりいなかったり……)
二人で小さく会話すると、すぐ。
「と、取り込み中ごめんだけどさ? は、話をいただける……?」
手を挙げて、そんなことをいうシエテだ。
「そりゃあまあ、あいつはすぐわかったかもしれないけど、だからといって周りの空気もあるし、二人だけの世界じゃなかなか……」
いい意味で空気を読まない割り込み。その姿を見て、少年ははあ、とため息をつく。
「どうせ知られることだ。気づくやつがいてもおかしくはないけど」
そう前置きしたうえで、水を木の器へばしゃっと注ぐ。それをもう一度飲み干した。
そして、言葉を選ぶように紡ぎだす。
「……お察しの通りだ。姉ちゃんは、焦ってるんだ。いや、焦らされてるんだ……」
そういうと一旦言葉を切ったが、すぐに少年は震える声で続けた。それは……分かっちゃいたけど。残酷な事実だった。
「盗賊団。いただろ。アンタらを襲った……。俺の姉ちゃん……パイはあいつらに、強制的に使役されている」
「俺はクーナっていうんだ。姉ちゃんとは、ちょっとばかし年が離れてるけど、弟なんだ」
クーナと名乗った少年は、ぽつり、ぽつりと静かに、だけれど言葉を選ばずに話し始めた。
「俺を産んだ両親は物心ついた時からいなくて、全く記憶がない。なんも知らない。姉ちゃんは知ってるんだろうけど、俺には何も……。ずうっと姉ちゃんとこの森で二人暮らしだったんだ。こんな森の中だからさ、市場とかもなくてさ。住んでる奴等といったら、小さな草食動物か魔物ぐらいさ。そんな場所だから、特にお金もなくって」
「それでこの小屋だったか」
今琥太郎たちのいる小さな小屋。木でできた粗末なそれ。市場とかはなくても、材料ならたくさんある。森の中の木を、いくらか斬って、形作ればいい。
「別に、不満があるわけじゃない」
「……無神経だったか」
クーナが睨んでいるのが見えた。琥太郎は謝罪の意を示すように答える。
「怒っちゃいねえよ。ともかく……。お金もなくて、本当に簡単なしょぼい暮らしだったのは事実だ。毎日毎日木の実かじって、たまに動物の肉を食べる。その日暮らしさ。アンタらからしたら、絶対楽しくない」
そう悪態をつくように告げたクーナ。だがそれを話すときの表情は、前とは比べ物にならないくらい、光にあふれているように見えた。いや、今までがそもそも、弱弱しく、あまりにも暗いだけだったから、そう見えるだけかもしれない。だけれど、とっても明るいから。本当にその生活が、好きだったように感じられる。
「むしろ……俺はそれでよかった。お金がなくても、ちゃんと生きてるってなってるこの生活が好きだった。それに……」
そういうと、クーナは言葉を切る。思いをため込むかのように。その思いを、すぐに吐き出す。
「姉ちゃんが笑顔だったんだ。ちゃんと姉ちゃんが、笑ってたんだ、楽しそうに。だからこれが好きだったんだ! そりゃあそうだろ! 今も昔も……俺と姉ちゃん、二人しかいないんだから。姉ちゃんが笑ってる。それだけで良かったんだ!!」
「……分かります。笑顔はとっても大事なものです。心の栄養って言いますからね」
「面白ければ、楽しければ笑う。そういうもんよね、人って!」
その言葉を受け止めて、コンロンが頷く。シエテもそう告げた。琥太郎も。皆も同じ意見だ。
「けれど、今のあなたを見れば想像がつきます。この後……」
「……あぁ」
そう呟いたクーナは、すっかり前と同じように暗い表情へと変わっていってしまった。
「……ある日のことだよ。家に帰ってきた姉ちゃんが、いつにもないような笑顔で、見たことないお金の袋を突きつけて。俺にこう言ったんだ」
『クーナ! 私な、ちゃんとした仕事を見つけた! これで私達が……特にお前が苦しまなくて済む!』
『辛い思いをさせてすまなかった! でももう大丈夫だ!』
「って。俺……びっくりしてさ。本当に、この生活が好きだった。けどあんないい笑顔してるとさ……なんも言えなかったから。そっか、としか言えなかったし、お金を受け取るしかなかった。それから数日は……なんにも気づくことなかったさ。でも……」
「でも……。あなたの口ぶりからすると。何かあったのは間違いないですね?」
「……あぁ。あれは……数日たってだよ。いつも通り帰ってきた姉ちゃん……。その姉ちゃんの顔に、おっきな痣があってさ。それを見ちまったんだ。姉ちゃんすぐにはっとして、何でもない、なんでもないって言うけど。なんでもないわけねえじゃん。だから、次の日。黙って、姉ちゃんの後をつけたんだ。俺だって走るのには自信ある。姉ちゃんほどじゃないけど、動物とか魔物とか、色々追ってきたんだ」
「いつの間に馬車にいたのはびっくりしたわよ。それくらい運動神経あるのよね」
「アレは跳び乗ったんだよ。それはいいだろ。それで……。黙って姉ちゃんの後をつけた俺は……見ちゃったんだ」
「お姉さまが」
その続きを……コンロンが代弁する。
「貴方のお姉さま。パイさんが……盗賊稼業をしている姿を」
「そうさ!」
どんっと円卓を叩いて、クーナは叫んだ。
「ちゃんとした仕事っていうから! 信じたのに! 俺は、あんなこと、しなくても……! ちゃんと幸せだったんだ……」
「それがお姉さまに、届かなかった……」
「そうだよ……。あんなことで得たお金なんて、怖くて使えない……。それに。姉ちゃんが信用できなくなって。だから逃げた。そして、俺は埋めた。一枚たりとも使ってない……そしたらさ……。遠くで音が聞こえたんだよ」
「音?」
「鈍い音さ。肉を叩くような、そんな音。どむっという低い音……」
「……それってまさか!?」
「そのまさかだよ。その音に振り向いて。見たのは……。姉ちゃんが殴られてる姿だった。獅子頭の男に……。顔を思いっきり。ぶん殴られて……地面に倒れ込む姿」
「ひっでぇ……!」
「……最低」
クーナの言葉に、青葉と玲が怒りをあらわにする。琥太郎も、同じ気分だ。聞いていて、いい気分になる話なんかじゃない。
人が殴られている話なんて、どんな顔して聞けばいいのか。
「最低なのは俺もさ。俺は……逃げたんだ。姉ちゃんから……。見てみぬふりをした。怒りに身を任せて、俺は逃げたんだっ!」
ギュッと手を握り締め、クーナはそう重々しく呻いた。
「……それからだよ。こうして……姉ちゃんのことを助け出そうと考えるようになったのは。けど……今まで怖くてできなかった。獅子頭の野郎なんて強いに決まってる! それに、たくさんいるだろうから……怖くて戦えなかった。けど」
「けれど、勇気を出して……私たちに言った。私たちに……声をかけた」
コンロンはクーナの目を見て。真剣な表情で告げた。
「その方法は間違っていたかもしれないけど。あなたは確かに……助けを求めたのでしょう。他ならぬ私たちへ」
「………」
クーナは押し黙る。核心を突かれたのか。何も言えない様子だ。
「行きましょう! 私は貴方の、クーナ様のお姉さまを……助けに行きたいと存じます!」
円卓に手をついて。コンロンは全力で立ち上がる。そして彼女は琥太郎側へと振り向いて。
「ごめんなさい皆様。私が勝手に話を進めてしまって……。でも、この話を聞いて。やっぱり……」
「何も言わなくていいわよ、コンロン」
そう告げたのは、シエテだった。隣で立ち上がって、こう告げる。
「私は何があっても、頭突っ込むタイプの女神……楽しければそれでいい、それが私の真骨頂なのよ! アンタ、よく分かってんじゃないの!」
「シエテ様……!」
「それに、先に手を出してきたのはあいつらでしょ! 女神相手に攻撃って、それもう敬われてないと同義じゃない! 喧嘩売られてるのと一緒なのよ、だからムカつくわけ!!」
「シエテ様!!」
「あ、雰囲気戻った」
嬉しそうな表情を浮かべて、コンロンはシエテを見つめる。青葉がそう小さく呟いた。
「アンタらもいいわね! これより私達は……もう一つの依頼を遂行するわ!」
「……仕方ない」
「どっちみち、こんな話聞いたら戻れねえしな」
「やれやれだ。だが……それでいい」
旗を構えて叫び、笑う。シエテの笑顔に、琥太郎を含め皆……肯定する。
その流れに、クーナは困惑する。
「お前ら……馬鹿じゃねえの! 馬鹿馬鹿馬鹿野郎だ!!」
「馬鹿って言った方が、馬鹿なのよ。ばーか」
気づけば、想いがあふれて。全力で叫んでいた。それをシエテは……受け止めて。言い放つ。
「それに、馬鹿で結構だっての。次馬鹿っていったら承知しないけど」
「大馬鹿野郎……!!」
「言葉は決まったようですねぇ!」
外から声が響いた。馬車に乗っていた……運転手の男の声だ。
「こんな言葉が聞こえたら、行かざるを得ないのが我々でしょう! ウマも体力をしっかり蓄えて絶好調! 行くなら今しか!」
「了解しましたわ! ほら貴方も!」
「い、いや俺はさ……」
そういってコンロンは、クーナへ手を伸ばす。だが、彼は躊躇していた。
「君も来い。来るんだ」
その躊躇している手を、琥太郎は引っ張って歩きだす。
「……君がいなきゃ。何も終わらないさ」
「……分かったよ」
こうして。彼らは小さな小屋の中にて。新たな因縁と、新たな依頼を得て……。歩を進めるのだった。
「……あ、貴方に聞きたいことが一つだけ」
「なんだ?」
その中途。コンロンがクーナへと問いかける。
「私たちは、これから魔法学園に向かうのですが。その荷物の流れが……。盗賊団へと筒抜けになっている可能性があるのです」
「それは……。とんでもないことだな」
「とんでもないことなのです。そして、この任務と同時に、盗賊団が動き出しました」
「お姉さまの弟である、貴方に聞きます」
「今回お姉さまの盗賊団へ依頼を出したのは……どなたです?」
思い思いのまま、初めての任務は、決戦へ。
さあ、どうなることか……。




