青年たち、馬車を走らす
お待たせしました。体調不良から戻りました。
またコンスタントに書き記していきたいと思います。
「コンロンね。コンロン……と」
シエテがコンロンと言う名前を繰り返す。覚えるようにしっかりと繰り返した。琥太郎たちもまた、心の中で暗唱する。
コンロン。中国古代の伝説上の山岳……ではあるけれど、その名前は恐らく少女とはかかわりがないのだろう。もしそうならこんな異世界でも関係があるのかと思って、びっくりすると思う。
「よし、覚えたわ! 私が名前を覚えたなら、アンタはもう私の加護の中ってわけ!」
「いや早いな。いやある意味いつも通りか」
そして数秒後。女神が自らの手をパンっと叩いた。この女神、決断があまりにも早いし、打ち解けるのも溶け込むのも非常に早い。冒険者ギルドの時といい、オークの時といい。初対面の存在……たとえそれが人間でも人間でなくとも、そういった存在と出会えば、必ず打ち解けることができる。それこそが、女神の能力かもしれないと思った。
「きっとそれが女神を女神たらしめる能力なんだろうな」
玲がうんうんと頷いて、琥太郎の言葉に続く。そう、きっとそれが……女神シエテの能力。
「ではその加護、ありがたくいただきますね! 私達の旅路にそれが輝きますように……」
コンロンは目を輝かせて、そうシエテに答えた。
「そうしましょうか、私めもまた、その加護に答えなきゃいけませんので!」
そして男が声を張り上げる。いつの間にか。男は馬車馬に乗っていた。自分たちが任務で乗るつもりだった、まさにその馬車だ。
ヒヒィィン!!
ウマも高らかにわななく。軽快に、軽やかに。
「すげえ、元気があふれてるんだなコイツ」
玲が馬に目をやって、ぽつりとつぶやく。男が目を点にして問いかけた。
「こいつのこと、分かるんですかい?」
「ああ……。少しはな。いや、見て分かるわけじゃないよ。毛の艶とか筋肉云々とか……あたしは素人だしわかんね。だけど……」
「だけど、なんです?」
「だけどさ、声を聞いたらわかるんだよ。あたしにはそういう力があるみたいだからな」
問いかけに、玲はしっかり答えた。
「驚きですわ。確かにうちが持ってる中でも、飛び切り元気な奴を連れてきたんですがねえ。しっかり当てられちまった」
「当然! 伊達に頭領やってないさ」
褒められた玲は、ふふんと胸を張った。青葉は琥太郎に耳打ちする。
「……あれがあの山猿の能力というか、神様の加護だと思う」
「動物と会話する能力か。オークの言葉が分かるというのは、そういう感じか」
動物会話。金太郎が確かやっていたような気がする。なるほど、神話やおとぎ話の英雄に備わっているだろう能力の一つだ。神様が与える加護としては、普通にあり得る。
「……多分。だから玲は山猿だしボスオーク……」
「そこ! ばっちし聞こえてるからな!」
玲がそうツッコむが、青葉は聞こえてるように言ってるかもしれなかった。少なくとも、そう感じる。
「まあそれはそれとして!」
そんな中で、少女が手を叩く。コンロンだ。その音によって、少女たちの瞳が一斉に向けられる。
「冒険者様の仲がよさそうなところが見受けられたところで!」
「どこがだっ」
玲が噛みつくが、少女は止まらない。
「旅路へと向かいましょう! 話すのは楽しいですが、私たちにこれ以上の会話は不要だと思いますのでっ」
「……まあそう、ではあるな」
このままだと時間ばかりが消費されていきそうだ。琥太郎はコンロンの言葉に心の中で頷く。
「それでも話したいのなら、旅路の中で致しましょう。私も、離したいこと、聞きたいことが山ほどあるのです!」
「すごい好奇心ね。物事にいろいろ関心をもつのはいいことだと思うわ。特に女神のこととか!」
「それはそこまでではない? 少なくとも私は興味ない」
「あによー。アンタには言ってないわ」
「そうですね。いやそれ以前に私が興味あるのは人個人ではなく……」
「個人ではなく?」
「個人ではなく皆様のこと全体なのです。えぇ、何かの一部ではなく全体を見たくてですね」
「アンタ、ずいぶん大人なんだな。その見た目でな……」
「準備はとっくにできましたですねえ、皆様! そろそろ乗っちゃってくだせえ!」
玲の疑問は、男の声でかき消された。蹄が地面に食い込んでいる。玲が言ったばかりだけど、元気があふれているというのはこれこのことなのだろう。
「忘れてたわけじゃない、です。それじゃ、馬車に乗って……任務開始と行こうか」
「了解したわ! 完璧に護衛して見せようじゃないの!」
「……ん。こたろーのためなら」
「冒険者として初の任務だからな。あたしも全力でっ」
琥太郎が皆に言って、すぐに馬車へと乗り込む。二列のシートは琥太郎たちともう一人分。しっかり座れそうなほどに、広かった。
「全員乗りましたかねえ。そんじゃ行きますよ! っはーー!!」
「(あの人、ずいぶん性格変わってないか?)」
「(手綱を持つと性格が変わるんだろうよ、きっと、多分)」
男が一気に馬に鞭をいれる。その勢いのまま……馬車は森へとかけていくのだった。
見えなくなる馬車。その姿を、何かがじっと見つめていた。両の瞳は……陰に隠れて見えなかったが。
「……これが標的か」
気だるげそうなその声は、落ち着いた女性のような、アルトボイス。
「……ふぅ。気を落ち着かせた」
その声と同じような吐息で、ため息を吐く。まるで何かを、落ち着かせるかのように。さらに結審するかのように。
「それじゃ、往くぞ」
そして息を吐き出すように、小さな言葉をつぶやいて。何かの影が、姿を消す。それと同時に……。
ガサガサッ。
それに呼応するかのような擦過音も、小さく辺り一面に響くのだった。
「……さて、文字通り何もないが」
森を少しばかし切り開いて作り上げられた狭い道。そこを馬車が軽快に走る。周りの風景は木ばかりで、そこを見ても何も面白みがない。
最初窓の外を眺めていた琥太郎は、小さく呟くようにして、外を見るのをやめた。外を見るのをやめて、前へと視線を移す。
一人の少女の姿が、目に入った。コンロンだ。
「どうされましたか~?」
すぐにコンロンが気付く。首を傾げて、琥太郎に問うた。
「あ、いや。特に何もないのだけども……」
「だけども、なんです?」
「少しだけ不思議だと思った。服装がきれいだなと思って」
言葉を選ぶように、琥太郎は解答する。そう、コンロンの姿は、服装は。やけにきれいだなと感じたものだった。目の前の少女が着こなしているのは、白と水色のドレス。髪の上には、同じく白いカチューシャ。
絵本で見た令嬢か、はたまたお人形か。そんな雰囲気がするのだった。
「そうなんですそうなんです!」
コンロンは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出して答えた。
「服はいつもきれいにしているんです。真新しいような、そんな清潔な服を着こなすのが好きですので!」
「ひょっとしたらさ」
隣に座っていたシエテが呼応するように言った。
「コンロンってすごい金持ち? なんか雰囲気とかそんな感じするしさ……」
「あっ!」
そうシエテが言った途端に、彼女の空気が一瞬変わった。凍結して固まったような、そんな沈黙。
しかしすぐにその空気は収まって。
「お金持ち……ではあると思いますよ? はいっ」
うんうんと頷くように。そう告げた。
(一瞬だけ、雰囲気が変わったな?)
琥太郎はその回答を聞きつつも、心の中でその変化に疑問を感じて思案した。
「……それよりもこたろー」
そんな中で声が聞こえた。明らかに不満げのある声だ。
「……はっきり言わせてもらう。私は……この状況は短い旅としても嫌」
声の持ち主は青葉だった。
彼女がここまで不満を口にして、それを隠さない理由。
それは馬車の中の椅子の座り方にあった。椅子に座る彼らの中で、琥太郎は一番端っこ。その隣にシエテ。そう。琥太郎の隣が、自分じゃないのだ。隣にいるのは駄女神であって、自分ではないのである。
「ふぅん、こういうのは早いもの勝ちだっての。椅子の奪い合いに負けた。そういうもんじゃない?」
勝ち誇るようにシエテはそう告げる。
だがしかし。そう告げるシエテの姿が、少女の心のスイッチを入れる。
「だからといって……っ」
そして、言葉を言い放つ。
「だからといって、こたろーのとなりで思い切りくつろぐなっ」
青葉が不満に思うのも当然だった。
何故ならば琥太郎の隣にいるシエテのその姿は、琥太郎の体にくっつけて横たわって、身体を投げ出している。完全なるくつろぎ状態だったからだ。
「それが二人分の特権って奴よ。悔しいでしょうね。三人じゃ足が伸ばせないから……ふああ」
「……そういうわけじゃないんだけど」
足を伸ばして、あくびをして。すごくゆったりとだらけている駄女神。琥太郎は注意するつもりもなかった。こういう状態の彼女に注意をしたって、どうせ話を聞くような雰囲気じゃないのだから。だらけ切っている人間に話を切り出したって、返答が返ってくるかどうかは不透明だ。機嫌を損ねたり、雰囲気がおかしくなってしまうよりは、自由にさせておいた方がいいと、琥太郎は思う。
「……まあいい。行きは仕方ない。けど帰りは代わってもらう」
「あいあい」
恨み節を言うかのように、念を押すように。青葉はシエテに告げた。その言葉をシエテがちゃんと聞いていたかは、分からないけれど。
「そういえば玲」
「ん、どした琥太郎?」
いたたまれなくなって。琥太郎は目線をもう一人の親友の方へと向けた。
玲は思ったよりもスムーズに、琥太郎へと問いかける。
「武器のことだ。意外だなと思ってな……」
「あぁ、これのことか? まあ、こいつは少なくともあたしのイメージじゃあ、ないよなあ……うん」
琥太郎にそういわれた玲がおずおずと、何かを取り出す。背につけていたものがカラン、と音を立てた。
そうして琥太郎の前に姿を現したのは、なんてことはない。ただの木でできた弓矢だった。茶色の木の枝は、よくしなっていて。ぴんと張られた糸は綺麗に張り詰められている。
「あたしも最初は苦戦したもんさ。だってこんなもん、生まれて初めて使ったしな」
「ん。確かに」
シエテから目線をずらした青葉も話に加わって、武器トークの開始だ。
「そもそもの話。私は剣道の心得があるから、武器には困らなかったけど。玲は違う。貴女はそもそもテニス部だったし、弓は難しいから……。テニスの腕を活かせるものでよかったんじゃないか……とは思っていた。例えば斧とか鉈とか」
青葉の言葉も一理ある。
そもそもこの宮川玲という少女。テニス部の部長を務めていた。人をまとめる腕というのも、そこから生み出されたものなのはわかるし、全国に名をとどろかす青葉ほどではないけれど、スポーツにおいてはかなりの実力者なのである。
小兵とて侮るなかれ。決してただの山猿ではないのだ。
そしてだからこそ、青葉の言葉……自分の腕を活かせるもので良かったのでは? という言葉が効く。
だが玲はそれに「いやそういうわけじゃないんだよなあ」と前置きで否定しつつ、
「そういうわけにはいかなかったのさ。あたしには、あたしの役割ってのがあってな……。あたしの役割、知ってるだろ」
「ん。ボスオーク……もといオークの頭領」
「OK。最初の言葉だけで頭にチョップ入れたくなったけど許してやる。そういうことさ。頭領というのはまとめ役……。周りをちゃんと把握する必要がある」
「そういえばオークたちの武器は」
「正解だ琥太郎。斧や剣や。あいつらは近接武器が多かったのさ。だからあたしはこれにした。これなら遠くからあいつらを見つつも、ちゃんと攻撃できるしな」
そういって玲は弓矢を手で撫でる。
「まあ、最初は難しかったけど慣れれば簡単になるさ。今は野を走る子ウサギも一発で射抜ける。今のあたしなら弓道部に入っても通じるだろうな!」
「……それは」
玲の声に。青葉が重々しい声で答えた。
「それはその行動を何年もやってる弓道部の人に謝罪した方がいいと思う。それこそ。何年もやっている人たちに。一朝一夕が超えていい理由にはならない」
そうして青葉は意見をスパッと切り捨てた。弓道も剣道も、武道の一種で基本は同じ。その道に常に居続けてきた青葉にとっては、我慢ならない言葉なのだろう。
「ま、まぁそうだろうな……。それは言いすぎたよ」
プロからの言葉だ。玲は食い下がらずに引き下がる。
「皆様中々に強そうなのですねえ」
「……まあ、俺はそこまでじゃないけど」
その姿を眺めながらコンロンは嬉しそうに言った。琥太郎はすぐに否定する。周りの者たちがなかなかに強いせいで、自分が活躍できてない。それは自覚している。
「ん、大丈夫。琥太郎もあなたも護る」
青葉は嬉しそうにそういう。
感じるのは。ゆったりとした、実に暖かな空気だった。それが流れていた……。ちょうど、その時だった。
「うおおあああ!!」
「!!」
───キキィィ!!
男の叫び声と共に、車輪がスキール音を立てた。馬車が動きを止める。
「……見てくる!!」
「待て、あたしも!」
青葉が剣を持って、外に出る。玲や琥太郎が、それに続いた。
馬車から出た先は、変わらず森の中。それでも切り開かれて、少しばかり広くなった、道の途中。
そこに、彼らがいた。
彼ら……。馬車を囲むように……魔物が数体。
「ここを通すわけにはいかないからな」
そしてその先頭には。一人の女性。外套に隠れていて、姿かたち、一切が不明。声だけで、女性であることがかろうじてわかる。
その女性は、馬車を、そして琥太郎たちを視認して武器を構える。鋭く磨かれた、数本のナイフ。それを広げるようにして、手のひらで挟んで見せつけた。
「お前たちに恨みつらみは全くないが、これは我々の仕事である。そう、ここは盗賊団アル=アピドの縄張りである。故に……」
きらりと光った。手のひらのナイフ。その中から一本だけ持ち替えて、さらに一言。言い放つ。
───貴様らにはきれいさっぱり全部奪われてもらう!
その言葉を合図にして。謎の盗賊団との。戦闘が始まったのである。
はい。次もまた戦闘シーンです。
頑張ります。
追記:多忙でした。
もう少ししたらあげられると思います。




