謎の少女、仲間に加わる
色々守れませんでした。自分の至らなさです。
PCに向かうとあまり書けなくなるの何とかしたいですね……
「……は?」
困惑。思考停止とはこのことだったのだろうか。シエテの表情筋や頭の中がフリーズする。天井に住む女神であったとしても、そこが人の入る場所ではないことは分かる。Gotubeの動画で見た。馬車の荷台は、人の入るところじゃない。そこは荷物を持って行く場所だ。
たまにわざわざ荷台に入って変に大騒ぎしたりするGotuberも、いたりはするのだが。
まあ。そんな迷惑系やネタ系Gotuberの話は捨ておくとしても、少なくともシエテは。面白さを基に自分を捨てるような芸を行ったことがない。頑張ってはいるけれども。自分を捨てきれない。故に……。
「っ……!? 周りが明るくなったと思ったのです、まさか気づかれてしまって……」
「ちょっと琥太郎!? みんなー!? こっちきてー!」
少女の姿に思いっきり絶叫するのだった。叫び声を聞きつけて、琥太郎たちが寄ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってほしいんです冒険者様、それは!!」
琥太郎を追うように、男が慌てた様子で走ってきた。表情には焦りの顔がはっきりと見える。
「それは……とは言うけれど」
青葉が男の姿を視認して、じっと見つめた。表情のあまり見えないその姿が、今は少し怖い。
「何が違うのか、説明してもらいたいもの。私たちは任務として受けた。国から受ける依頼として……。でもその任務は、魔法学園に物資を輸送せよという内容の筈」
「物資はあるみたいだけど、こんなやばいものまで隠していたとは知らなかったなあ」
青葉の言葉に、玲も続ける。
「あたし達の言葉には、ちゃんと答えてほしいぜ。場合によっちゃアンタも依頼も信じられなくなる」
「だから今すぐ答えてほしい。これは、一体何?」
青葉と玲が問いかけて相手を詰め始めた。底抜けのプレッシャーが、男へと襲い掛かる。
そのプレッシャーが向かうのを見ながら、だが琥太郎は冷静だった。
いろいろ危ないことになる前に、止めなければ。
(……同じ気分ではあるが、もし相手が相手な場合……)
危ないことになるかもしれない、琥太郎はそう考える。しかしそんな中で。
「いったい何をしているのです? 気づかれたのなら話せばよいのでしょう!」
「!!」
風穴を開けたのは少女の言葉だった。琥太郎は、その言葉に疑問を憶える。
この少女。荷台に自分を詰めたかもしれない相手が、目の前で詰められていて、その相手に……。そう言い放ったのだから。そして。その相手の反応も、気になった。そう、それはまるで、見知った相手同士が、何か互い違いをしているかのような。そんな反応。
「ちょ……。ちょっと失礼しますねぇ!」
「あ、こら!?」
瞬間、男がとった反応は、走り出すことだった。不意打ちを受けて玲が叫ぶ。
そして、男はシエテの目の前にいた少女の手を引いて、近くへと逃げる。近くというか……。ただの物陰だ。
「このっ……本性表したわね!?」
シエテが自らの手へと旗を出す。旗の柄をギュッと握りしめて、思い切り叫んだ。
「待て。ストップだ」
「いやだけどさこれって!!」
「いやストップだ。任務のために、魔法を使って体力を消滅させるのはやめろ。それに……」
「それに、何よ?」
「……こたろー。もしかして」
「あぁ、きっとお前が思う以上のことは、ならないと思うしな」
「……そう」
琥太郎がそう告げても、シエテの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。しかし少なくとも旗を向けることは、なくなったようだった。琥太郎とシエテ、二人の間はそこそこ。少なくとも勝手に魔法ぶっぱするような彼女を止めることなら、できるくらいの関係。
物陰からは、とてつもなく小さな声だが、声が聞こえる。途切れ途切れで、音質もあまりよくなくて、詳しく聞き分けることができるようなものではないけれど。
「な……です……私……」
「……あな……が……たら……」
「でも……」
「そう……こと……」
人目もはばかるような、あまりにも小さなひそひそ声だ。ひそひそし過ぎて、逆に怪しくなくなるような。そういった会話が少しの間続いた中で、
「皆々様!!」
「きゃっ!?」
バサアッ!!
叫び声と共に物影から姿を現したのは男たちだった。隣には少女。勢いがあまりにも強すぎる。それにシエテが驚いた。
「申しわけございませんで!」
すぐに男は頭を下げた。腰を90度ほど、ほぼ垂直に傾けるような、そんな角度の大きさで。
「冒険者の皆々様に対しては、説明の不足がありましたもんで! 護送してもらいたいものは荷物もそうなのですが……! お願いしたいものがもう一つございましたゆえに!」
低頭。その言葉がよく当てはまるような勢いで言葉を発する。
「わけあって隠しておきたかったのです、この者のことは……。ですがこちら、わけあってのこと。任務に偽りはございませんし、国も冒険者の皆々様さえも害するおつもりもまたございません! 改めて依頼します、物資とこの者を……この少女を! 魔法学園に護送する任務を受けてもらえはしないでしょうか!!」
頭を下げたまま、男は思いっきり叫んだ。恥も外聞もなく、真摯に、全力で。
「私共に関してはこちら、大変大事なことなのでございまして……」
大事なこと、という念押しのような言葉。そして全力の懇願。その言葉に、青年は。琥太郎は口を開く。
「改めて。改めて受けようと思う」
「本当でありますか!?」
「え、まじで!?」
男は頭を上げて歓喜の声を上げた。シエテが思いっきり突っ込むが、あえて無視をする。
「えぇ。俺もいろいろ言いたいことはあったけど。全部消えたといいますか。ああ、あえて一つ。言葉をつけるとすれば……」
琥太郎は一旦言葉を切る。
「彼女もまた一緒の馬車へ。荷台ではなく。荷台のままでは、肝心な時に守れなくなる」
「えぇ、えぇ。もう荷台へ隠す必要もございませんので!」
「あ、ありがとうございますっ!」
男の言葉に呼応するかのように。少女もまた告げた。そこにあったのは、安心と嬉しさと、両方の感情。
「ったく、変わってねえ。やっぱりお前はそういうやつだよ」
隣に立った玲が、そう茶化すように言う。だけどその表情は、笑っていた。
「お前は子供を助けて逝ったんだもんな。そうすると思ってたさ」
「まあな。色々、そうしなきゃなって思っただけさ。男として教えを受けた身としては」
「……撫子さん」
「そういうことだ」
思い浮かんだのは、息子である自分を果てしなく愛した母親のこと。母親、撫子からいろいろ教えを受けている。今回そうしたのは。その教えの一つからだった。
「『他ではなく己に従え』。言われ続けてきた言葉はずうっと、感情に残るものだったんだなって」
「……でも私はそんなこたろーが好き」
「あ、こら!? 大事な時にのろけるんじゃない!」
ふふっと小さく微笑んで、青葉は体をくっつけた。玲はすぐに思いっきり突っ込む。青葉と違って、玲は押しが強くないというか、そういったところがある。青葉の行動にツッコミを入れて。そこで二人ぶつかるという。日常茶飯事だ。だけれどどちらも、琥太郎が大事なのは変わらない。
「ずいぶんと仲が良くていらっしゃいますね! 仲良きことは美しいものとはこういうことを言うのですね!」
言葉が降りかかってきた。男の隣にいた少女からだった。シエテは「ん!!」と思いきり咳払いして、
「……まあ、琥太郎が私達のパーティの決定権を持っているようなもんだし、私もまた任務を受けることを認めるわよ。どうせこいつらも、同じなんだろうし」
「当然。こたろーと一緒」
「あたしも受ける。結局なんだかんだ言って、決めるのはいつも琥太郎だもんな」
言葉と一緒に、青葉と玲も首肯した。
「だけど、大事なこと聞きたかったわ……。アンタは誰なの?」
「あ、申し遅れましたね。えーとですね……」
すると少女は一瞬だけ考えるそぶりをしながら、されどすぐに。シエテたちにその名前を言い放った。
「はい! 私の名前は……。コンロン。コンロンとおよびくださいっ」
そりゃああんなお母さんと一緒にいたらね、言葉とか考えとかおもいっきり染みつきますよね……。




