青年たち、レベルアップする
オーク編が終わって新シリーズです。
今回はどこへ向かうことになるのでしょうか……。
「たっだいまーっ!! 今日も依頼終わらせてきたわよー!」
ばーんっと木製の扉を開けて、女神が笑顔で飛び込んでくる。冒険者というのは、生きて帰るのが仕事だ。それは常に口酸っぱく言われていることであって、それができなくなったら残されたものは悲しみを背負う。だからこそ、悲しまないように、悲しませないようにするのが大事なのだ。
「おぉ姉ちゃん! 待っとったで!! 帰った後で飲む酒というのは最高やからのう!」
ゴウスが満面の笑みでシエテにそう叫ぶ。彼もまた仕事、依頼帰りなのだろうか。服はやけにきれいで、水で体を洗い流したような。そんな痕跡が見える。
「シエテ。まずはエルメスさんに報告だろう。今回の依頼で得たものは……」
「それはアンタたちが行ってきて。私はお酒飲むから! 思いっきり! かっくらう!」
「そればかりしてるとまた金なくすぞ」
「大丈夫よ最近好調だし―!」
「……呑気」
「行くか。もう飲んべえになってる。そういうやつには何言っても無駄だ」
後ろからやってきた琥太郎と青葉がそういって駄女神から離れる。酒におぼれた女神なんかほおっておいて。向かっていくのは酒場奥のカウンター。
果たして。そこには紫髪の女性の姿があった。
「あ、おかえりなさいませ! お疲れ様です!」
エルメスは琥太郎たちの姿に気づき、思い切り声をかけた。
「報告をしに来ました。今回の依頼で得たのは、シャインバードの羽100枚。これを依頼主に渡していただければ依頼は完遂されます」
「かしこまりましたっ。引継ぎを承りますね。あとはこちらにお任せください! こちらです! お仕事お願いしまーす!」
琥太郎がエルメスに渡したのは、白い布袋だ。羽が100枚も入ってると、さすがに重たい。それを受け取ったエルメスは、後ろへ振り向いて何者かへ指示を出す。
『ウウッ!』
大きく返事をして、裏から現れたのは、図体のでかい、人とは言えない何か。
「今回もよろしくお願いしますねっ。あ、あとで皆様でパーティでもしましょう! またですけど……」
『ウッ、ウゥーッ♪』
ぶんぶん手を振りながら嬉しそうなそぶり。袋を受け取って、裏口から外へと離れていく。
そう、彼らはオーク。数日前にシエテたちが遭遇した、少女……宮川玲を頭領とした、怪物としてはあまりにも優しすぎるオークたち。
あの後、玲ともどもレッドヴィレにやってきて、結果冒険者たちに受け入れられたのだった。
見た目から怖がるようなものも、少しはいたようなのだけれど……。彼らもまた、少ししたら慣れて気にならなくなったようで。今や、オークたちと共に、レッドヴィレの街はぐるぐると回るようになっていった。
「俺ぁ……オークのこと、怪物だと思ってたんや。ただ襲うだけの、そんな怪物だって」
ゴウスがコップ一杯のビールを飲みながら、そうぽつりとつぶやいた。シエテにもそう紹介している。オークは、何も考えずに人を襲う、怪物みたいなもんだと。
「コイツらの事見たら、思えなくなる。荒くれもんが多い街やけどなあ、すぐ馴染んだもんや全く」
「下手したらゴウスよりまともがじゃなあ!? 礼儀正しくて、素直に喜んで!」
「バカ言えそんな……いや、あり得るかもわからんわ」
がっはっは! と雄々しく笑いながら、酒を飲む。その後ろから近づいてくるは、さっきとは違うオーク。
『……ゥ』
「あ、おかわりさんきゅうな! それとあんたもこれ、たべえやたべえや!」
オークが樽を置く。酒樽だ。それに躊躇なく小さな刃を叩き込んで、穴をあける。
この酒樽には大量の酒が入っている。それに穴を開ければ、簡単にサーバーができるというわけだ。酒飲み共の必需品。レッドヴィレの暴れん坊にはこれが一番喜ばれる。
「おいちょっと待て!」
そんな中で、叫び声が響いた。そしてパタパタと音を立てて、ゴウスの方へと走ってくる。
「つまみは駄目だ! こいつらに塩気の強いもんは与えるなっ。中毒起こしてぶっ倒れるかもしれないんだぞ!」
玲だった。白と赤のディアンドル。レッドヴィレの街で仕立てた一級品だ……それに身を包んでいる。オークにつまみを渡そうとした、酒飲みの男たちに対しそう怒鳴る。
「人間とオークは体のつくり違うし、人間より頑丈といっても弱点はあるんだ……。やめてくれ全く!」
「すまんすまん、悪気はなかったんやがなぁ」
「倒れたら大変ぞなもし」
「人やオークに迷惑かける酒飲みは酒飲み失格。常に言ってらあな」
「でもなぁんか難儀よね……。干し肉が食えないなんて」
酒飲みたちは口々に謝罪する。一名違う言葉をしゃべってはいるけど。
「干し肉は塩使って干すだろ。そんなしょっぱいもん食ったら、一瞬でバタンキューだ。生か焼いた肉と、ゆでた卵と、あとは生野菜と。あたしがオークに食べさせたのはそんぐらい。味はつけてない」
「そう。分かったわ。私もそういったもんしか食べさせないようにする」
「あぁ、そうさせてくれ。こいつらも食べ物をもらうと喜ぶんだ。人に感謝されてるって気分になるからな」
『ウー……♪』
玲がオークの体を撫でる。オークが嬉しそうな表情を見せた。
「はい……はいっ。それでは! 依頼の完遂を確認しました!」
近くでそんな声が響いた。エルメスだ。琥太郎たちの依頼の報告が……終わったことを示していた。
その言葉に、ニヤッと笑った玲は、
「終わったな。ということで……まっつりだー!」
叫んで料理を並べた。焼いて切った肉や、トウモロコシを菜っ葉と炒めたものなど、色々。
「そうこなくっちゃ! 琥太郎もアオバもあんま乗ってこないけど、私、ノリがいいからアンタのこと大好きよ、アキラ!!」
「そういってくれると嬉しいねえ! あたしが作った料理だっ、目いっぱい味わえ! 琥太郎たちが来るまでになくなっても構わねえからな!」
酒飲みたちと、混ざり合って、思いっきり盛り上がる玲。彼女はそういう、活発で明るいところがある。だからこそ、周りとすぐ仲良くなれるかもしれないし、オークの頭領にだってなれるポテンシャルを持つに至った。圧倒的な+属性。潤滑油的な存在。それが、宮川玲なのだ。
「……食われる前に、向かう」
「対抗意識を燃やすんじゃない」
そして青葉たちも、彼女たちの方へと向かいだす。
こうして、レッドヴィレの街の日々は……過ぎていく。
そして深夜になった。琥太郎を含め、青年たちは簡易的な宿で眠りにつくことになった。琥太郎とシエテにとっては、初日からお世話になっているものだ。一つの部屋で、川の字になって眠る。
そんな中で、小さな何かが蠢いた。そのまま、立ち上がって歩く。
歩いた先には、一つしかない長机。その前にペタンと座って。何かを開いた。
「さあて……今日も編集……そして投稿……」
強い光が、少女、シエテの顔を照らす。その何かは、機械のように見えた。それは、データを共有する、いわゆるパソコン。
シエテを含むGotuberにおける必需品だ。
この通信機器は、なんとオークの邸宅にあったものだ。宝の持ち腐れになっていたものを、玲たちを説得して使わせてもらえることになった。元々いた神界の自宅にて自分が使っていた物より、よっぽど高性能である。スムーズに通信するし、ボードも叩きやすい。
(ボードなしで直接入力するタイプがホントは欲しいんだけど……ありゃ私には無理よ。高いもん)
どっかの女なら、恐らく持ってるだろう、夢の近未来タイプ。それを想像して舌打ちしながら、動画を出力する。今回の冒険の動画だ。
シエテは本来Gotuber。動画を挙げなきゃ価値のない神様。少し前まで、動画を上げることさえできなかった。今は、この機器があるから、ちゃんと動画を上げられる。上げたところで、見る人がいるかわからないけど。
(いいもん、いつか努力が実を結ぶかもしれないじゃん)
そう心の中でつぶやきながら、サムネイルを作り上げる。
イメージするのは常に、最高の自分だ。
「よしっ、完成♪ そんじゃ、投稿!」
その最高の自分になるために、少女は……動画をネットの海へと放りこんだ。
「これで、みてもらえれば、うれしいんだけど……」
言いながらふああと大きくあくび。ぱたんと機器を閉じて、体を前傾させて突っ伏す。
そのまま少女は、夢の中へと落ちていった。
「……シエテ様、琥太郎様。貴方方に報告があります」
翌日。酒場兼冒険者ギルドへとやってきた琥太郎たちを待っていたのは、真剣な表情のエルメスだった。
ゴクリ、思い切り息を呑む。だけど真剣な表情も一瞬。ぱあっと表情を華やかなものへと変えた。
「貴方がたの頑張りにより、冒険者ランクがROOKIEランクからEランクへと昇格することになりましたっ!」
その言葉と一緒に、花が舞う。周りの冒険者たちが、祝福するように飛ばしたものだ。
「えっ、うそうそ!? やったー!! 琥太郎!! 私達!!」
「ああ、間違ってはないな。俺たちがやった」
感動を共有するように飛びつくシエテ。琥太郎自身もまんざらではないような表情で、そう答える。
「Eランクへの昇格の結果、より多くの依頼を受けることができるようになりましたっ。以前シエテ様が言っていたことを憶えてますか? 何かを退治したいとか、そういった依頼」
「あ、言ってたわねそういえば」
「それも今回から受けることができます。そして何よりもですね……。国からの依頼、つまり任務を受けることができるようになるんです」
「え、良いじゃないそれ!」
それは、シエテにとって嬉しいことだった。有名になりたい。活躍したい。それがシエテの行動原理。だから彼女は、そういったものに手を伸ばしたい。
「国の一部を背負うことになりますから、責任は重大です。けれど、その分得られる信頼とお金は大きいんです。それでなんですが」
そういいながら、エルメスは再び真剣な表情に変わる。相変わらずの変化力。表情がころころと変わる。
「……こういった話をするのには当然、訳があります」
そうして、言葉を切った。次に発した言葉は、琥太郎もシエテも、想像することができた。
「先日、任務が届きました。ギルドの責任者として……。ぜひあなたたちに行っていただきたいのです」
当然、シエテのライバルであるエリセは近未来チックなものを持っています。
彼女はいくらでも稼げますから。




