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頭領の少女と女神が笑う

見てくださる皆様ありがとうございます。

「始まりの街に青葉もいたからな。そうだろうとは思ってたけど」

 

 軽く息を吐きつつ、青年が複雑な表情で言葉を漏らす。幼馴染もいたんだ。親友という近しい立場の人間が、いないと決まったわけじゃない。目のまえに現れるとなると、複雑さもひとしおである。


 少なくとも感動はしなかった。そういう人間じゃないし。無為に喜ぶような性格もしていない。


「それで、オークの頭領か。俺や青葉が冒険者として活動していた中、すごいことやってるんだな」


 少女、玲の姿を見る。やや褐色に日焼けした健康的な肌色。茶色くて短い、二本のおさげ。白一色のスカートとレギンス、半袖のシャツ。所謂テニスウェア。見慣れたものだ。記憶の中にある、活発で動くことが好きな、少女と全く同じ姿。


 そしてややあって、一部分だけ違うところに目を移す。


「……して、その模様はなんだ?」

「あぁ。これか?」


 琥太郎が指を指したのは玲の右腕だった。綺麗に描かれた赤いライン。一部しか見えないが、まるで何かの模様に見える。本で見た、部族の模様みたいな。


「これはそう、あれだよ。仲間っていうか頭領になったっていうからさ、あいつらに描いてもらったっていうか。言うだろ? こういうのは、その場の雰囲気から入るってやつ。まああくまでペイントだし、入れ墨とかじゃないから平気だよ平気」


 ずいぶんと誇らしげにそう言う玲。行動が堂に入ってるということなのだろう。宮川玲。こう見えてドラマとかアニメとか好きな、年頃の少女である。


「頭領ってのはいわばリーダー。あたしがそうなるからには、本気で頑張らないとと思ってな。決意表明さ」


 にっと白い歯を見せて笑いながら、手を長机に叩きつける。


「周りをしっかり見て分かった。ここはリビング。オークと過ごす様にできてる」


 部屋を目を凝らして見ていた青葉が告げた。周りを見れば、大きな長机が3,4個と椅子。長方形のそれは、ぴったりとくっつきそうだ。くっつけばさらに大きなものになるだろう。


「そうだぜ。ここで色々とな。あいつ等自身で作った、生活の拠点ってやつだ。本来のオークとは、違うかもしれないけどな」

「本来のオークと違う?」

「あぁ、見てきたけど色々違うだろ?」

「そういえばっ!!」


 ばんばん、と叩いて言葉を挟んだのは、今までずっと蚊帳の外だった女神だ。


「なんかもう全然違ったのよ、みんなが言ってたオークの話と、ここのオーク! あ、私シエテね。琥太郎たちの女神にして最強の───」

「最強の駄女神か?」

「あらまあ、女神様に何て言い草かしら琥太郎?」

「私たちに+をもたらすことがあまりないのに?」

「わ、わたしだって気にしてるんだけど……」

「ははっ、神様ってやつか! いいな! あたしは宮川玲。気軽に玲って呼んでもらってもいいぜ、神様! あたしも気軽に呼ぶ!」


 シエテたちの掛け合いに玲は思わず笑顔をこぼした。笑顔をこぼしつつ、自己紹介。


「へ、へえ~~。神様、ねえ~~……」


 神様って呼ばれたことで、シエテが思いっきりにへらっていたことはあえて触れないでおく。


「そういやあたしも会ったみたいなんだぜ! 声だけ聞こえてきてよくわかんなかったけどな!」

「やっぱり神経由か」

「異世界転移、異世界転生なんて基本それしかないわよ。どっかの魔族とかは、魔法陣作ってやるかもしれないけど」


 方法が分かった。それと同時に、琥太郎は考えだす。玲も結局、神様に呼ばれてこの世界にやってきた。神様に呼ばれて、アルヴィレアで生きていくことになった。


 ということはつまり。彼女も青葉と一緒に一度……。


「そういうことかもしれないけどな」


 琥太郎の考えを遮る様に、玲は言う。その瞳は。表情は。芯が通っているように真剣だけど、どことなく安心感を与えるものだ。


「人生万事塞翁が馬、って奴さ。何か悪いことが起きても、それが原因でいいことが起こるかもしれないだろ? あたしは悪いようにではなく、良いように考えたいんだ」


 澄んだ瞳で、しっかりと前を見据えて。そう告げる。宮川玲の特徴。底なしの明るさ、そして。底なしのまっすぐ。


 ポジティブ思考の化身なのだ。彼女は基本。


「配られた手札で勝負。少なくともあたしはそうする。それで何か悪いことが起きたためし、あたしはないんだ。ほら、こうして琥太郎や青葉。それに……それを連れてきた女神様に会えたんだ。それって、十分いいことなんじゃないかって思うんだよあたし」


 それはまっすぐな言葉だった。嘘偽りのない、まっすぐな言葉。


「……っぐす。なんというか、良いこと言うじゃない。……っひ……私なんか心の奥、ジーンとしてきちゃったんだけど」


 シエテなんか、感動してしゃくりあげている。


「あのオークたちとの出会いだってそうさ。あたしにとっても、こいつらにとっても。いい出会いだったと、あたしは思うんだよ」

『ウゥ♪』


 そういう玲のもとへとオークが近づいてきた。彼らは皆玲の後ろにいて。それぞれ笑顔を見せている。白い牙をみせて、笑っている。


「こいつらは、オークはオークでも優しいオークって奴なんだ」

「優しいオーク?」

「そうそう。略奪したり、傷つけたりせず。他の種族と仲良くしたいっていう考えの持ち主。決して恐れられたいっていうわけじゃないんだ」

「……そういう考えが生まれるのも、一理ある。種族がどれも同じ考えがあるとは、私も思わないから」


 青葉が首肯する。どんな動物にも、違う考えを持つものは現れる。それは決して。人間だけの特権ではない。


「あたしが来る前にも頑張ってたらしいぜ。なるべく略奪はせずに自分で狩ったものを食べる、たまには外へ出てみる……」

「ずいぶんな試行錯誤だな。難しかっただろうと思う」

『……ゥ……』


 琥太郎はオークの苦労を考えずにはいられなかった。心なしか、オークたちの表情も、しおれてしまっているように見える。


「実際、だめだったんだろう。普段から怪物とか言われて、バケモン扱いさ」


 はぁ、と玲は深くため息をついた。リセット行動だ。そして、物語を語り始める。


「こいつらとあたしが出会ったのも。ちょうどそのうちの一人が怪物扱いされていた、そんな時のことだったのさ」




「そこであたしは言ってやったのさ。そこにいる奴はアンタの片割れがハンカチを落としたから、拾ってあげただけだってさ。そいつ目を丸くして。びっくりしながらハンカチ受け取って、ありがとうございますってお礼言ってさ。あの時のこいつの貌ったら、嬉しさと優しさと。そんな悪い顔じゃなかったんだ」

「なるほどねええぇ~~っ……! アンタもオークもいいやつじゃないぃ~~!!」

「女神、泣きすぎ」

「泣くしかないじゃない! こんなの!」


 シエテがぐすぐすと泣き始める。ハンカチに水が染み込む。その感動を隠そうとしない。


 玲が話した内容はこうだった。アルヴィレアにたどり着いて少し歩いてたら、剣を向けられているオークを見つけた。冒険者の一員だという彼らは、オークを見て自分を襲おうとしたらしい。けどそれは誤解で。一人がハンカチを落としたから。オークはそれを拾っただけだったと。



「……で、オークの言葉を通訳できるってのは、当然」

「そりゃあここに来る前に出来るわけないだろっ。恐らく、あたしが会った神様のおかげじゃないか?」

「千差万別よ、そんなの。人間の神もいれば、動物に対する神もいる……。玲が出会ったのは。動物関係の神ね。彼らなら動物の言葉を理解する力、与えるのも造作ないだろうから……。当の玲自身が、どんな神に会ったかなんて覚えてないらしいからわからないけど」

「いやあ寝てたからさ……。姿なんて見てないもなんの。見ればよかったなあ」


 照れるように手を頭に当てつつ、玲は苦笑する。


「……うん。普通人間が、神様に会うなんて滅多な経験ではないし」

「無宗教ではあるが……気にはなっていた。そのありがたさは薄れるが」

「神様って今見てもありがたいモノよ!?」


 青葉と琥太郎が言葉を返す。言葉に駄女神が突っ込んでいった。ありがたさを思いっきり薄めた原因が、自分であることには気づいていない。


「……とまあ、いろんなことがあって。あたしがこいつらの頭領になってさ。暫く経った。拠点として立てたここも気に入ってはいる。最近は、近くの村に行っても怖がられなくなった」


 真剣な表情になって、玲は言う。


「次のステップに進めるかなと思ってたところに……琥太郎たちが来た。一番信頼できる、お前たちが。だからあたしが、親友として。そしてこいつらの頭領として言う」


「……こいつらの居場所を、新しく作ってやってくれないか?」

「───」


 大きく頭を下げて、玲は、そしてオークたちが一斉に告げた。その姿に、琥太郎たちは圧倒される。


「こいつらすっげえいい奴なんだ。あたしが保証するし、責任も取る。中身を見てくれれば、きっとみんな理解すると思うんだ、だからさ!」


 玲の言葉は、理解できる。確かにいい奴ではあるかもしれない。


 だけれど、答えは。そうそう出せはしない。怪物という認識は、簡単にはがれはしない。怖がられるかもしれないし、前のように剣を向けられるかもしれない。


 その時、心が傷つかずにいられるだろうか。オークたちだけじゃなく。自分たちが。そう考えると、安易に口を開ける状況には……なれなかった。


「いいわ!!」


 ただし、ここには例外が存在する。例外というのは当然のごとく……。どこまでも無鉄砲で、考えもたずな、駄女神。


「琥太郎もアオバも。足踏みして進めないんだったら、私が進ませてやるわ。可能性の芽は潰させない。だって……。そのための女神よ私」

「……おまえ……!」

「えぇ! そうよ! みんなに聞こえるように! あえて言ってやるわ! 女神シエテ、人の未来に絡まずして何が女神かっ!! なーんて!!」


 手をバンっと長机に置いて。満面の笑みだった。少女を中心に、光が降り注ぐかのような。後光が差しているかのような。そんな感覚を、覚えた。


 誰とでも簡単に絡める。シエテの女神としての特徴。そうか、こういうときにはまさに……女神シエテ。

「ホントか!?」

「きゃあっ!? 当然よね。それに今私が拠点としているレッドヴィレの街にはいろいろルートがあるもの……みんないい人ばかり……。だから最悪、あの人たちに任せればいいわけで……」


 ぱあっと表情を輝かせて。玲がシエテの両手を握る。いきなりの行動に、思わず甲高い声を上げる。


「おまえっ……ホントにいいやつだな───!!」


 そのままぶんぶんと大きく手を振って。思いっきり喜びを表す。


「おまえらーーっ! 今日は宴だ―! お肉も野菜も用意して思いっきり騒ぐぞ――っ!」

「う、宴っ!? お肉!!」


 その姿に、きらきらした表情を見せる。女神っぽい姿はもう終わりのようだ。


(……今回ばかりは、良いか)


 琥太郎の表情も、大きく緩む。駄女神ではあるけど。ここぞとばかりに輝く。その姿に……素晴らしさを感じる。


「……初めて理解した」

「そういうことだ。彼女はな」

「……心読んだ?」

「幼馴染の勘だ」

「……ふふっ」

「ちょっとー! アンタらも準備しなさいよ琥太郎とアオバ!」


 琥太郎と青葉は……女神の姿を見て小さく微笑む。


 怪物退治にはならなかったけど。それでも、絆が強くなった。一瞬だった。

結局。宴は夜中までずっと続いたという。


「そういえば一つ質問があるんだけど。なんで恋が0なの?」

「あぁ、それか? なんてことない、ただの言葉。テニスで0のことをラブっていうんだ」

「女神シエテは最高です、はい復唱!」

「はい、女神シエテは最高です」

というわけで琥太郎たちにパーティが増えました。

オークってみんなからしたら悪い種族かもしれないんですけど、その中でもいい奴はいると思うんですよ。それが彼らです。

つまり悪いオークもいます。そんな悪いオークとも、彼らは戦うかもしれません。



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