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青年たちはついにオークたちと出会う

戦闘をもう少しかけるようになりたいです。

三次元的な動きを考えるのはなかなか難しい……。

 白刃が、おもいっきりきらめいた。その刃の切っ先が狙うのは……。先頭にいた、全く持って無防

備なシエテ。


 狙われている。そんなこと露も思わない少女は、剣が近づくことも。まったく気づかなかった。


「───ッ!!」


 しかしそんな中で、キィン、と鋭い音が響いた。甲高い金属の接触音。頭を揺さぶり、耳障りになるような音が、辺りに響いた。


「っ!? な、なんなのかしら……?!」


 その音に導かれるように、シエテの目が先を見る。


 光もそこまでなく。暗くて冷たい土の領域。


 果たして。シエテの目の前にいたのは、背後にいた少女。剣士青葉だった。


「アオバ?」


 急接近、音もなく追い抜かれる。シエテはその行動に、軽く驚いて思わず目の前の少女に問いかけた。


 しかし、青葉は答えない。


 返事もせずに……。目の前の相手を見据えている。その両手に握られているものは、ツヴァイヘンダー。少女の手と実力なら、簡単に振り回せる。


「……先へ」

「へ?」

「先へ行って! こたろー! あと女神!」


 真剣な表情で、大声で叫んだ。その声音、顔からは余裕も何も感じられず。その雰囲気に飲まれそうになる。


「……了解したぞ、青葉」


「え、あ……ちょっと琥太郎!? あと女神って何よ! 私にはシエテという名前が……!」


 琥太郎が青葉の言葉にうなずくと、シエテの体をひょいっと持ち上げる。さすが女神、というべきかなんというか。その体は非常に軽い。人と似ているけど何か違うというか、何か入っていない……というとなんか失礼そうだけど。つくりからして、恐らく違うのだろうと思った。


 女神を持ち上げるという経験なんて琥太郎自身初めてなのだから、分からないのは当然なんだけど。


「というか、アオバ! アンタ一人で持ちこたえるなんて無茶でしょ! これ私の知ってる展開だと死亡フラグっていうかもだけど……!!」

「あとで追いつく。それに、死亡フラグというなら……私はそれをへし折る。だってそうでしょう」


 一旦言葉を切った。大剣を握る手に思い切り力が込められた。


 そして、言葉を言い放つ。


「せっかく。せっかくこたろーと会えたのに……またすぐに死ねないから。そうなったら───」

 ───後悔する!


 言葉を発せば発するほど……。勇気と力が湧いてくる。今の少女にとっての願い、望みは……これだ。


 その願いがあるからこそ強くなれるのであり……。いくらでも頑張れる。


「……あ……っ」


 その言葉に、圧倒された。圧倒されて、言葉が出なかったシエテだったが……。


「あ……そう、そう!!」


 すぐに笑顔になって、言葉を紡ぎ始める。


「そう! なら戻ってきなさいよ! 後悔しないように! 私が……女神が今のアンタについてるんだからね!! 負けたら承知しないからねコノヤロー!!」


 べらべらと言い連ねた。笑顔のまま、言葉を思いっきり叫ぶ。


 女神一柱、そして少女一人。ここで感情が一つになる。


(やっべ、私かっこいいじゃん!? 録画録画!!)


 邪な感情も、少しばかし見受けられたが。


「というわけで、先行くぞシエテ」

「……了解!」


 かっこいいところは見せ終えた。満足しつつ、女神の少女は青年に抱えられて……先へ行く。暗闇の中を、一気にかけていった。


「こたろーたちは大丈夫。それじゃあ」


 そうして、少女は……剣をさらに握りしめる。


 襲い掛かってきたのは。激しい圧だった。つばぜり合い状態の中に、強い重さが加わったのだ。


 完全なる力技。その力技を、ツヴァイヘンダ―は受け止める。


 だけど、このまま力を受けるつもりはない。


(このまま……引っ張り出す!)


 青葉は自らの両手を思いっきり……後ろへ引いた。それと同時にツヴァイヘンダ―の刀身が引っ張られ、後ろへと向かう。


『ウ……ッ!?』


 ドシィン! と音がして。何かが思いっきり、倒れた。地面が少し揺れる。


 その揺れの主を一瞥しながら……青葉は言う。


「ようやく、姿を現した。見た目通りに、凄い力持ち。だけど……負けない」


 声に呼応するかのように……何かがゆらり、立ち上がった。


 筋骨隆々の巨体。薄暗い中で、少し隠れて映る、濃い緑色の皮膚。永く伸びた牙。油のような、つんとした臭いが少し。全身からただよって。


 鋭い目つきが……少女を。青葉を一瞥する。


「さあ……。一本打ちあってくれる?」

『ウウウウウオオオオオオ!!!!』


 叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。その叫び声は、喜びかそれとも怒りか。どちらともつかない、猛り声をあげて。


 怪物と形容された種族、オークがその姿を現した。




 叫び声を一つ上げても、青葉は動じなかった。ただ動じず、目の前の相手を観察する。剣道部のエースだった少女。戦いは、ただ刀剣を打ち合うだけじゃない。その前から、始まっている。その巨躯、弱点になりえる部位。そして。


(武器は……何を持っている? 刃ということは……棍棒ではない)


 オークが何を持っているか。それを見据える。両の瞳が、彼の持っているそれを射抜いた。


 木と金属の刃でできた、斧だ。簡素ながら威力は、著しく高いだろう。あの巨腕で振りぬかれるものだ。一撃はとてつもなく重い。


 さっき受けたからわかる。今までにない重さだった。


 持っていた剣が、巨大で頑丈なツヴァイヘンダ―で良かった。普通の剣だったら、間違いなく折れていたから。


(力じゃ勝てないのは確実。なら……) 


 故に、戦い方は決まった。目の前の相手が、巨大で力持ちで。武器も重たいのなら。


 それならば。


(疾く。思い切り……疾く! 懐に入り込んで……切り飛ばす!)


 左足を軸足へと変える。右足を少し後ろへ下げる。バランスが崩れないように……。力を集中させる。

 そして。


「……やっ!!」


 ダンっと右足を離し……少女は走り出す。風となる。オークの目の前から……消える。


 薄暗くて、そこまで広くない入口。それでも、動き回れるくらいの広さはある。


 だからこそ少女は。オークの巨躯を。ぎろりと光る眼を翻弄するように……。駆けた。


 力無き者は、動きで翻弄するしかない。だから、青葉はそうした。


「……ええぃっ!」


 剣を振り被りながら回り込んで。横から剣を振るう。速度を乗せた横薙ぎ一閃。その一撃は、怪物を一撃で葬る威力が、間違いなくあった。


 ただしそれは……敵が本当に怪物なら、という話ではあるが。 


 ガギン!


 それに青葉が気付いたのは。鈍い大きな音が聞こえた時だった。皮膚も骨も断っていない、何かに当たった感触。それが聞こえて、一歩退いた。


(……まさか、いやけれど)


 青葉が心の中で呟く。驚愕は、思ったより少ない。


 分かってたからだ。目の前の相手が、ただの怪物ではない、というのは……。


 ツヴァイヘンダ―を斧で弾きかえすオークの姿を見て、青葉は確信した。このオーク、怪物などではない。むしろこれは……。


(訓練、されてる。そうするように指導されてる)


 指導者がいる。このオークは誰かに、そうするように訓練されたものだという事実。


 戦いというものを叩き込まれた存在、それが今戦っている、彼らだ。


『ォォン!』


 瞬間斧が風を切った。青葉の体めがけて、振り回される。


「だけど攻撃自体は単純!」


 ただの縦振りだった。真っ二つにしてしまいそうな大振り。それを青葉は簡単にいなして、再び近づく。


「一発じゃ勝てないなら……!」


 近づけば、そこには防御する斧はなく。がら空きな体があるだけ。


「やっ、はあぁっ! えいっ!」


 威勢のいい叫びを響かせ。少女は連撃を叩き込んだ。大剣で、剣道の打ち合いのように縦、横、再び縦。何発も、何発も撃ち込んでいく。


 剣士の戦いは接近戦だ、近づけば近づくほど、刃が届く。その刃が届くたび、ツヴァイヘンダ―に赤い色が付き、オークに傷がつく。


『ウゥゥォ……!』


 オークは呻くように叫んだ。ダメージは入っている。が、怪物が斃れる気配が全然しない。痛みを恐れて、逃げだすそぶりさえ見せない。ただ叫んで、近づく青葉を眺めて。たまに大振りなくらいの勢いで斧を振るって。


(本当に、怪物……?)


 そう、青葉は心で思った。それはもはや、怪物じゃないし。


 それ以前にそれは……戦いといえただろうか。


 心の中でそう考えて……油断した。念が、混じった。


(しまっ……!?)


 動きが止まった瞬間に……。オークの一撃が、がら空きの体に炸裂した。


「っ……きゃあ!」


 青葉が絶叫する。それと同時に体が軽く飛んだ。ちらと見えた攻撃方法は……正拳だ。斧を持っていない方の手で、思い切り腹を殴り飛ばされたのだ。


「っは……っ」


 地面へと叩きつれた体は壁の方へと滑り、軽くぶつかって止まった。


 上体を起こそうとする。ズキンと体が悲鳴を上げた。だけれどツヴァイヘンダ―も、持っている手も、無事。骨は折れてないし、剣も壊れていない。


「……思ったより、私頑丈みたい」


 そう言葉を発する。腕と脚に擦過傷。血が流れていた。動きは少し鈍くなる。それでも大きなケガではない。練習で負ったケガと同じ。そう思えばいい。


(……次の一撃、何が来るか)


 頭の中では、すぐに次の戦い方をシミュレートしていた。そのシミュレートの通りに、オークが近づいてくる。


 すぐに立ち上がらなければ。そう思った青葉であったが……。オークの様子のおかしさに気づく。


 その表情には、困惑の色。


 それと、心配の色。


 一体何なんだ、青葉がそう思った次の瞬間……。


『……ウッ』


 オークが声を鳴らして……。ゆっくりと手を差し伸べた。


「……は?」


 青葉はただ、困惑した表情をして、眺めるだけだった。




「かっこよく送り出してもらってなんだけど……アオバ大丈夫でしょうね!? ボコボコにされてない!?」


 琥太郎が日干し煉瓦でできた邸宅の中を走る。道なりに走る。


 シエテが琥太郎に抱えられたまま声を上げた。心配の言葉だった。


「幼馴染だ。俺は大丈夫だと思いたい」

「アンタが言うんだったら、私は信じるんだけどさ」


 青葉に送り出されて、建物の中へと進んで数分。入り口ほど暗くはなくなった。ろうそくのような炎が中を照らし、明るくしてくれているからだ。丁寧に作られたものだ。建物の壁も、そこそこきれいである。あの怪物が作り上げたものとは、到底思えないほど。


「ねえ琥太郎。私思ったんだけどさ……ホントにオークって怪物? そう思えなくなったんだけど」

「俺もその認識が揺らぎ始めている。噂はあくまで噂ということなのか?」


 琥太郎もシエテも、怪物という評判に揺らぎが出始めていた。疑問符がつく。


 少なくとも、ここにいるオークたちは。知性のない怪物ではなかった。


「あのクイズも、そうだった」

「クイズ? ……ああ、恋がなんだかってやつ!」

「ああ。あれは、俺や青葉のような人間なら分かるが、この世界の人間にはとけるかどうかわからない問題だった。答えを知っているというのは……。はっきりいって妙だ」

「妙だったらオークは一体何なのよ」

「答えは一つだ」


 そういって琥太郎は、念を押すようにゆっくりと告げた。


「答えの知っている人間が、上にいる。間違いなく。転生者や転移者のような」

「いや待ちなさいよ。転生者だとしたら神が関わってるわ。そいつが囚われてるかもしれないって……」


 シエテがぞっとした表情を浮かべる。神が一番恐れていることであるために。他世界の技術が、強引に奪われること。それは管理者の怠慢に他ならないからだ。


「囚われ云々はシエテがずっと言ってるだけのことだろ。あり得ないと俺は思っている」


 シエテの恐れるような言葉を切り捨てながら、琥太郎は進み続けた。


 その先には。


「……でかい扉。なんか隔ててるのかしら?」

「恐らくは部屋だな。入り口と廊下とくれば、あとは扉と部屋だ」

「そう。じゃあさっそく開けて……」

「待て。鍵がかかっている可能性の方が高いだろ。それに抱えられたままじゃ力も入らないな」


 手を伸ばそうとしたシエテを琥太郎が制する。どうやって力を加えるのか。今のシエテからは想像もつかなかったから。



「……とりあえず俺がやる。鍵がかかっていたら……恐らく門番と戦ってるだろう青葉を待つ」

「そうするしかないのが辛いわね……。私が降りればいい話だと思うけど」

「降りても構わないが歪んだ認識の結果問題を起こしそうだから却下だ。さて……扉を押すぞ」


 とっても軽い体重のシエテだ。片手で抱えるのも造作ない。自由に使えるようにして、ゆっくりと……扉を押す。


「……開いた!? すぐに開いた!」

「防犯意識が整ってないな」


 ギィィと音を立てて、大きく開いた扉。それが開ききるのを待って。琥太郎は歩きだしていく。


(……ちょっと動いたら奴等が襲ってくるとかいうんじゃないでしょうね)

(そうなら放り投げて戦闘だ。旗は持ってるか?)

(神の扱いじゃないわ……。旗はあるし、戦えるけど)

(そうだ、それでいい)


 ひそひそ声を上げつつ、慎重に進む。そうして少しだけ歩いたその先で。


『……ウ?』

「……あ」


 緑肌で牙が鋭くて。そしてとってもおっかない顔をしていて。


 そんなオークと、目があった。


「……ぴ……」

「やめろ、今はまず……」

「ぴぎゃあああーーーっ!!?」

「駄女神!!!」


 恐怖のあまり、駄女神が泣き叫ぶ。琥太郎が叫ぶが、時すでに遅し。


 わらわらわらわら、オークが近づいてくる。


(……これは、まずいか?)


 琥太郎の皮膚を、冷や汗が伝う。群れがゆっくりとやってくる恐怖。自分たちは二人、そして一人は役立たず。


 思考を止めてしまえば、何もできなくなる。それだけは避けたい。


 頭に余裕がなくなったのか。だからだったのか。


「おいおいお前ら、何してんだー? 人が来んのが珍しいからってさ」


 奥の方から聞こえる。女性の声に気づかなかった。


(……待て)


 その言葉で、何かを思い出す……。


 あれは、聞き覚えのある声であることを。


「って、さっきの声!! 聞き覚えが!? まさかだよな!? あたしにも見せてくれ!」


 相手も気づいたようだ、足音が近づいてくる。


 それと同時だった。


「こたろー……。やっぱり聞いていたものと何か違う……って」


 門番と戦っていたはずの青葉が、たどり着く。オークに手を引かれて。 そして、たどり着いた先で。青葉は目が合う。


 その少女の姿を認めた瞬間、少女は、高坂青葉は。憐れみを持った表情で、こう言い放つ。


「……ごめんなさい。私、あなたのことを誤解していたわ。まさか、その正体が山猿じゃなくて、オークキングだったなんて───」

「っっ……誰が山猿でオークキングってやつだああああああっ!!!」


 謝罪を受けて。少女は叫ぶ。部屋を揺らすほどの絶叫。その叫び声を直に受けた青葉の表情が、一気に緩んだ。


「……うん。何も変わってない。久しぶり、玲」

「お前がそんな優しい表情と言葉をすると怖いぜ……ああ、久しぶりだ。琥太郎、青葉」


 やれやれといった表情を浮かべながら。だけど安心したように。


 なぜだか怪物たちの頭領になっていた───。かつての親友の一人。宮川玲(みやがわあきら)がそう告げるのだった。

はい、というわけで元の世界のヒロイン二人目です。

なんとオークをまとめ上げる頭領ちゃんになっていました。しかしオークキングってなんだ……。



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