厄介だぞ、こいつはよ
「ってか、あのですね、ディーさんは武器を作ったり出来るんですか?」なんて言いやがるのはコッシの野郎。痩せっぽちのヒョロガリが、誰に物を言ってやがる。俺は鍛冶専門じゃあねえが、そっちの腕前もそれなりのもんだから、これはほんとにカチンときて、ゲンコツ食らわせてやろうとしたら、マオが割って入りやがって、グスマンを俺に見せてきた。そんで、「ディーさん、暴力は教育によくないよ」なんて言うもんだから、「そうか、そうだな」ってなもんで、グスマン受け取った俺は、両手も塞がって、ゲンコツをふるえねえ。こりゃあもう、俺の怒りの拳は、国の政治にぶつけるしかねえな、なんてわけの分かんねえことをぼんやり思ったりしたんだけども、俺も何だかんだで成金で、貴族の階級に一応いるもんだから、どっちかっつーと国民から搾取する側よ。でもよ、俺一人なら気ままな独身貴族でいいが、今は子どもがいるもんだから、今の地位や財産を、ゆくゆくは全部この子にやりてえし、恨みを買うとグスマンが、危ねえ目に遭うかもしれねえ。そんなのはよくねえもんだから、俺はおとなしくならなきゃいけねえよなあ。だからこれからは気軽にゲンコツ振るえねえ。そうなると、いよいよもってストレスの矛先がねえもんだから、じゃあどうするかっつーと、マオやボンボンをイジり倒すのが手近なストレス解消法だろうよ。若手にいちゃもんつけてストレス発散する先輩なんて、老害以外の何者でもねえけども、それを言っちゃあおしめえよ。全く、歳は取りたくねえな。でもよ、俺にゃあ、ただの老害と一味違うところがある。それが何かっつーと、したり顔で、「ボンボンどものためを思って言ってんだ」なんて言ってよお、いい先輩ぶってネチネチイジメ……イジるつもりってところよ。全く、老獪な策士だよな。そうと決まったら、思い立ったが吉日、ってなもんで、俺は早速、難度が高えゴブリン強襲による教習を提案した。こりゃあもちろん、『強襲で教習』って言いたいヤツなんだけども、これを俺が大喜びで言ったらば、マオの目から光がスッと消えて、「くそしょうもな」なんて言われるのは目に見えてやがる。そうなったらばよ、そうなったらば、俺はほんとに傷つくし、イジるどころか、俺がスベり芸ぶちかました、っつって、マオにとことんイジメられて、泣いちまうに決まってる。だからグッと我慢して、「ゴブリン退治で、お前らの教習をする」なんて無難な文言にして言い切ったもんだから、自分をほめてやりてえ。しかしだよ、そしたらマオが、あのアホがよ、「ゴブリン強襲で教習」って言いやがったもんだから、俺はほんとにむかついて「それ俺が考えたヤツ!」って言ったよな。そしたらばマオの野郎、鼻で笑って「くそしょうもな」なんて言いやがって、途端に俺がスベったみたいになっちまったもんだから、俺はマオからグスマンを引ったくって、抱きしめながら先頭を歩いて、ぽたりと涙が落ちたよな。だけども無垢なグスマンが、「まーま、まっま」なんつって、これはどう見ても俺を慰めてくれてるんだよな。こうなると、母親としてしっかりせねばとハッとした俺は、気持ちを持ち直したし、泣いたせいか、頭がスッキリしているもんだから、今の状況をしっかり考えてみた。それってえのは、何だか胸騒ぎもしたからで、俺は、「何だ? この違和感は」なんて思わず口走った。それを見たマオは、最初は「何カッコつけてんの」なんてニヤニヤしてやがったが、俺が普段みてえに最高に面白いナイスギャグの一つも言わねえもんだから、こりゃあ真剣だぞ、って気付いたみてえで、喋りながら歩いてたボンボンどもを黙らせて、俺の言葉を待ってたな。それで俺もザッとまとめて、今思ってることを言ったのよ。「いいかてめえら、ゴブリンは、普通は群れるもんなのよ」ってなもんで、そいだらマオが、「さっきみたいにね」って返しで、俺はコクリと頷いて、「ダンジョン入口付近をうろついてたはぐれゴブリンは、ボンボンどもに倒された。思えばこれがおかしいわけよ」「何がおかしいの」「あんなところにいるのがよ」「普通じゃないの」「普通じゃねえよ」「何で」「臭くねえんだよ」「あっ、縄張りのひどいニオイもなかった」ってなもんで、どうやらマオも気付いたよな。っつーのもゴブリンは、頭が悪いもんだから、便所なんて作らねえし、作れねえのよどうしても。どこでも糞尿垂れ流しで、シモを洗いもしねえのが当たり前。つまり、臭え汚え気持ち悪い、不潔なのがゴブリンよ。なのにはぐれゴブリンからは、そんなに臭さは感じなかった。年季の入った糞尿の、臭いがしねえってえのはよ、これは俺も初めてよ。あり得ねえってぐれえなもんで、俺はも一つ気付いたな。「ゴブリンどもが痩せてねえ」これに気付くと、今ある状況、まるっとひっくり返るよな。「知恵のあるヤツ、支配者が、いねえとこうはならねえな。教育管理されていて、厄介だぞ、こいつはよ」