責任
俺はほんとに絶句した。
確かに俺ぁそんなべらぼうに見た目がいいわけじゃあねえ。
だけれども、顔のパーツを見てみると、一つ一つの形は悪くねえし、配置されてる位置も変だとは思わねえ。
つまり、これといってブサイクな部分はねえというか、顔自体は割と整ってるぐれえで、若い頃は割とモテたんだぞ俺は。
今だって歳は食っても顔の造形自体は変わらねえもんだから、ニヒルで渋くて色気がある男前みてえなバランスになって、街に出りゃあ女共どうも、ってなもんで、女盛りごちそうさま、ってなもんでよ、悪くねえ一夜を過ごすことも少なくねえってえのに、アゴが割れちまったもんだから、今までの様には行かねえだろ、こんなんおめえ。
つーのも、キレイ好きの俺は銅の盾を調理に使ったらば、ピカピカの鏡面仕上げってなもんで磨き上げるから、顔なんかきれいに映りやがったわけよ。
じゃあってんで顔を映してみたらおめえ、もりっとしっかりアゴが割れてやがる。
こうなるとよ、顔全体のバランスが狂いに狂っていやがるからよ、俺はほんとにむかついた。
何がそんなに狂ってるかっていうと、もりっとしたアゴのインパクトがとにかくすげえ。
お陰でまず目線がアゴに行っちまって、何だこりゃってショックがデカいわけよ。
そんで目線をちょっと上にやったらば、口が見えるよな。
そしたらおめえ、口の形は変わらねえ。
口の形は変わらねえのに、全体像で見たらばよ、違うもんに見えやがる。
どう違うかっていうと、前はニヒルだった俺の口が、何だかくどく見えやがる。
こりゃあどうしたもんかなと、目線をも少し上にやったらば、次は鼻が見えるよな。
そしたらおめえ、鼻の形は変わらねえ。
鼻の形は変わらねえのに、全体像で見たらばよ、違うもんに見えやがる。
どう違うかっていうと、前は渋かった俺の鼻が、何だかくどく見えやがる。
おい、いよいよマズいぞこんなもん、ってなもんで、更に目線を上に動かしたらばよ、当然、目が見えるよな。
そしたらおめえ、目の形は変わらねえ。
目の形は変わらねえし、睫毛もキレイで色気があったのによ、全体像で見たらばよ、違うもんに見えやがる。
どう違うかっていうと、前は色気があった俺の目が、もう分かるよな?そう、何だかくどく見えやがる。
だからおめえ、もっかい言うとよ、目、鼻、口と、何も変わっていねえのによ、ここにもりっと割れたケツアゴが加わって、全部がくどく見えやがって、そいだら俺の説明も、こんな繰り返しになってきて、何だかくどくなってきた。
むかつくよな。
だからもうこの野郎と思って、「おめえふざけんなよ」「ごめん」「何だこのアゴはよ」「割れてるね」ってなもんで、割れてるって言われたくねえ俺は、当然否定するよな。そりゃあもう否定して、「割れてねえよ」ってなもんで、そいだらマオが「割れてるじゃん」なんつって、こっちの最強の盾を、あっちの最強のホコでパリンと貫くもんだから、いいかおめえら、ホコと盾ならホコが強え。攻撃は最大の防御っつーけども、防御は最大の何々って言わねえだろ?そりゃこういうことよ。攻撃の方が強えに決まってんのよ。ただ俺もよ、盾がいっこぐらい貫かれたからっつっておめえ、すぐに怯んだりはしねえ。ダメなら盾を重ねりゃいいんだ、防御は最大の攻撃よ、ってなもんで、「割れてねえよ」「割れてるよ」「割れてねえって」「割れてるよ」「割れてねえっつってんだろ」「ならいいじゃん」なんてことになりやがっておめえ、いいわけがねえ。
だからすかさず、「よくねえよ、割れてんじゃねえか」っつったらばよ、これまでの俺の魂の盾は台無しだけどよ、こうなったら割れた盾で攻撃よ。
アゴは割れるわ、盾は割れるわ、もうどうなってやがんだよ俺は。
だけどよ、そしたらばよ、マオの野郎がこれみよがしに「割れてるんじゃん」なんて笑いやがって、あっこの野郎、そうくるなら俺もいくぞ、ってなもんで、「割れてるよ」っつってもう真顔よ。
ガッチリ真顔よ。
そいだらマオも愕然としやがって、涙ぐみながら口を震わせやがって、「ごめん」なんて言いやがる。
そんで、この世の終わりみてえな顔しやがって、俺はほんとに傷ついた。
そっからはもう「うるせえよ」「うるさくないよ」「うるせえよ」「うるさくないよ」「うるせえよマジで」「何でそんなこと言うの」「おめえが謝らねえからだよ」「謝ってるよ」「もっと謝れよ」「ごめん」ってなるからよ、「ごめんじゃねえよ」「すみません」「言い方変えてもダメだってんだよ」「じゃあどうしたらいいの」「分かるかそんなもん」っつー流れで、それでもマオは、「ごめん、とにかく謝るよ、これに関してはほんとにごめん」ってなもんで、対する俺が、「お前うるせえんだよ」っつって、さすがにマオが黙ったけども、俺はもう止まらねえもんだから、「どうすんだよこれよ。 俺は結構モテんだぞ。 なのに、こんなお前、もう結婚とか出来ねえよ」っつったらばよ、マオの野郎がまた「ごめん」ってなもんで、「うるせえよ」「ごめん」「謝られてもしょうがねえ」「でも謝るしかないから、ごめん」っつって、らちがあかねえもんだから、「どう責任取るんだこの野郎」っつったらば、マオが「責任取るよ」なんて言うから「だからどう」ってところで、俺は唇を奪われて、マオの顔がどアップでそこにあった。そんで顔が離れると、マオは真っ赤になりながら「私と結婚したら」なんて言いやがるもんだから、俺はほんとにときめいた。