気を付けろブリ子
狙いはメウルのドテっ腹。そいだらメウルの腹回りがよ、グニャッと曲がって蹴り避けた。
そのままメウルの上半身だけ、滑る様に前に出て、抜き手をブリ子に突き出しやがる。
人には出来ねえ動きだけども、ブリ子は難なく払いのけて、パンチでメウルの顔面刺した。一瞬メウルの顔ひび割れて、こりゃあ効いたと思ったが、同時にブリ子の拳から、血が滴って落ちたよな。メウルはすぐに再生してよ、何もなかったみてえな態度。そのツラからはよ、棘が出てる。ブリ子の拳からの出血は、あの棘刺さったからだよなあ。
俺ならすぐに距離置くけども、ブリ子は全然退かずによ、パンチ連打の雨あられ。そいだらメウルは受けまくる。そのまま動きゃしねえからよ、見た目にゃブリ子の猛攻よ。だけども、実はメウルが有利よ。
曲がりなりにもメウルはよ、俺とパーティ組んでいたヤツ。それが魔物になっちまえば、当たり前に差は開く。だけど何だか気に入らねえな。素直に認めるのは癪だ。
「弱えなメウル、おめえはよ」
そいだら俺の口から出たのは、メウルを挑発する言葉。これで何かが変わるだなんて思っちゃいねえもんだけど、行動すりゃよ、何かあるかもしれねえからな。
なんて思いながら見てて、俺は不意に目を見張る。ブリ子の速度が上がってよ、パンチの威力も当然上がる。そしたら拳の怪我も増える。
ブリ子は大怪我してたけども、どこもかしこも傷塞がっててよ、大したもんだと思ってたがよ、拳はどうにもならねえらしい。拳はズタボロになってくのによ、ブリ子のヤツは躊躇がねえよ。さっきまではよ、メウルの言葉に、うちひしがれてた素振りがあった。だけど今は迷いがねえな。それどころか、拳をかたく握ったブリ子。こりゃあデカい一撃あるぞ。
……そう思った時だった。
「!?」
ブリ子が初めて退いたよな。そいだら胸に血が滲む。どうやら斜めに斬られたみてえで、ブリ子の顔が歪んだな。死角になってて見えなかったが、ありゃあ何かで斬られた痕よ。
あんな猛攻受けながらもよ、1発デカい斬撃出すとは、メウルの野郎もここに来て、やる時ゃやるって見せた形よ。
だけども俺は納得いかねえ。ズタボロなってくブリ子に対して、メウルの野郎は雰囲気変わらず。それにブリ子も気付いたな。
「危機感がかんじられないな」
「間に合ったからな」
不遜なメウルの返答は、何だか違和感ありやがる。不遜な態度は元からだけど、間に合ったって言い回しがよ、気になるところなんだよな。ブリ子も不気味に思ったはずよ。
だけどやるこたぁただ1つ。メウルを倒す為にはよ、ひたすら攻撃あるのみよ。
ブリ子はメウルの刺突をかわして、どんどん距離を詰めて行く。そんでツラをゼロ距離に捉えた。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そんで繰り出す拳撃は、過去最高の速度を誇る。全弾メウルに炸裂よ。だけどもメウルは顔色変えねえ。痛みをかんじてねえみたいによ、マジで全く無反応。そこで俺は気付いたな。
「気を付けろブリ子!!」
その瞬間、またもブリ子に斬撃通る。血しぶき上がりながらもよ、ブリ子が後ろに跳んでたな。メウルがニヤッと笑ったな。
「もはや何の痛みもない。 俺は麻酔を使っている。 時間はかかってしまったが、馴染んでしまえばこっちのものだ」
そう言うとメウルの野郎は、枝をビシッと尖らせたり、ゆるめてウネウネ曲げたりしてる。顔や体にゃブリ子のパンチで割れたところが無数にあるけど、ビシッと割れ目が閉じちまってよ、ブリ子が傷あと閉じたのをまるで真似したみてえだな。涼しい顔をしちゃいるが、口元ずっと笑っちまってて、イヤミなツラを隠せてねえな。
片やブリ子はガックリ膝つき、どうやらダメージでかそうだ。麻酔を使うべきなのは、ブリ子の方だぜ、全くよ。そいだらブリ子が言ったよな。
「全く、羨ましいことだ」
ブリ子の動きは止まっちまって、苦しそうに呼吸してる。急所はかろうじて外してるが、ダメージでかいのは変わらねえよ。こりゃあ選手交代、ってなもんで、俺は割って入ろうとしたが、ブリ子が手を出すなってジェスチャー見せたもんだから、動くのやめて続行させた。見届けるしかねえよなあ。ブリ子は呼吸するだけで、虫の息になってくな。やっぱここはよ、代わった方がいいんじゃねえか?
「ちっと俺に代わってみろよ」
「必要ない。 私はやれる」
「……そうかよ。 何か手だてはあんのか」
まぁよ、ブリ子本人がやれるって言うもんだから、一応任せちゃみるけども、危なかったら割って入るぞ。そいだらブリ子はゆっくり立って、拳を握って構えたな。
「手だてか。 あるとも言えるし、ないとも言える」
「どっちなのか、はっきりしろよ」
まぁよ、捨て身で何かやるしかないだろうなと思うわけよ。それが何かは分からねえが、何かやろうとはしてるよな。




