殺戮者たち
俺はついつい声あげて、たぶん怒りの顔したけども、メウルの野郎は見ちゃいねえ。何コノヤローと思ってよ、目線を追ったらブリ子を見てた。
メウルはいつでも態度がデカくていけすかねえヤツだけれども、こん時の目には弱さと惑いがハッキリ見えて、一瞬同情しちまったなあ。つっても隙だらけなもんで、俺はメウルをサクッと殺すつもりでよ、一歩踏み出すとこだったけど、そいだらメウルの野郎がよ、「俺は同じことをしていたのか」っつって、ブリ子が悲しそうなよう、同時にどこかで安堵した様な顔をしたのが見えたよな。
だから俺は踏み止まって、ゆっくり周りを見てみたら、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ってなもんで、折り重なった死体の山よ。そいだらメウルも周りを見てる。コイツ自分のやったことにやっと気付いたかと思ってよ、そんならちょっと間を置くか、そんで話してみるか、なんて思ったもんで俺はよお、そのまましばらくメウルを見てた。そいだらメウルは浮かない顔で、こりゃあ故郷の裏の顔なんて微塵も知らなかったんだなあ。だからこそよ、何の因果か、メウルが1人で麻薬作りに辿り着いたのが怖えよなあ。ゴブリンたちは麻薬作りやらされてよお、俺の親父みてえに、虫ケラ同然の扱いで殺されてるんだから、業が深いったらねえよ。だから俺はよ、「そうよ、オメーは酷いヤツなのよ。 俺の殺しにゃ大義があるが、オメーの殺しにゃそれがねえ。 俺ぁ別によ、分かってほしいわけじゃねえ。 だけどテメーにゃ分からせてやる。 いい歳こいてペラッペラの殺戮者、テメー風情が、俺の何を許さねえんだ?」っつって、ナマの感情ぶちまけた。ほんとは穏やか穏便に、諭すつもりだったのに、大人げねえよな全くよ。そいだらメウルは声を殺した溜め息ついて、悲痛な顔で目を瞑ったな。こりゃあ戦意喪失だよなと思ったけどもメウルはよ、そっから目開けてみたらばよ、闘志が滾ってやがったからよ、いけねえ、と俺が思う前によ、地面から出た尖った木の根がよ、ブリ子の腹を貫いた。痛みで歪むブリ子の顔。カッときたから俺がよお、「てめえメウル! 腐りやがったな!」っつって睨んだら、メウルも睨み返してきてよ、ギラついた目して叫んだな。「だからどうした!!! 俺はこの道だけを行く!!!」っつって、野郎、嫌なかんじの笑み浮かべてよ、みるみるうちに目が濁ってよ、俺の知らねえ顔したな。そしてそのまま笑いながらよ、「殺しに差なんてあるものか。 しかし種族の差はあるんだよ。 ディー・ヤー、貴様は人殺し。 俺がしたのはゴブリン殺し。 この国の法をかざすなら、大義があるのは俺の方だ」なんて言いやがったから、コイツ1秒でも速く殺す、そう思って構えた俺だが、そいだらすげえ殺気をかんじた。何だと思って見てみたら、木の根が刺さったままのブリ子がゆらりと立ち上がったよな。そんで「ならば私は魔物として、貴様を蹂躙してやろう。 覚悟はいいか、外道メウル」ってなもんで、決別の意を表明したブリ子の手刀が木の根を切った。腹には穴が開いてるが、木の根で栓して腹をギッと締めてやがって、出血ぜんぜんしやがらねえな。何なら木の根が潰されて、腹の穴が塞がるかもな、なんて思えるくらいなのよ。ブリ子の足取りしっかりしてて、顔には怒りが見て取れる。




