かつての仲間
「ディー・ヤー、貴様! 絶対許さん!」
そう言ったメウルがよ、手の指揃えて抜き手の形を取ったらば、指が全部木になって、ねじれ合って尖ったな。そんでザンザン走って来るな。それで俺を刺そうってのか?ムカつくな、ええ?メウルよお。
「そりゃあこっちのセリフだ、てめえ!!!」
結構デカい声が出た。自分じゃ冷静なつもりだけど、やっぱ気持ちは昂ってるな。俺は冒険者を引退して五年か六年か七年か八年、九年だったか?いや十年経つし、それからというもの、マオ以外とは組んでねえ。だから仲間ってのも少ねえわけで、そのぶん、マオの両親やメウルへの思い入れってのがそれなりに残ってる。だからメウルのヤツがよお、俺に逆恨みしてたなんてよ、結構嫌な気持ちだな。
「死ね、ディー・ヤー!」
俺は肩を落としながら、メウルの一撃難なくかわす。だってメウルは動きは遅えし、繰り出す攻めが心臓狙いの刺突だからよ、かわすのなんて簡単よ。そいでカウンター気味に、メウルの顔面殴ってやった。そしたらバァンといい音させて、首から上が弾け飛んだな。人に死ねって言っていいのは、死ぬ覚悟があるヤツだけなのよ。だから言わせてもらうとよ、俺は何にも悪くねえ。
「死んだのはオメエだったな。 ええ? メウル」
何もなきゃあよ、かつての仲間。だけど向かって来たんだからよ、そんなのただの敵なのよ。俺は首なしメウルに背を向けて、去ろうとしたわけなんだけども、そいだらメウルの声がした。
「誰が死んだというんだ」
さすがの俺も驚いて、振り返りつつ距離取った。そいだらズバンと間合いが開いた。見ると、メウルの首から上が、すっかり再生しちまってるな。頭なくして死なねえなんて、マジで人間やめてるな。そんじゃ次に狙うのは、とりあえずはよ、心臓だよな。図らずも狙う箇所がよお、メウルの野郎と被ったな。
「まだ死なねえのは残念だなあ、ええ? メウル」
死ねって言われたんだからよ、こんくれえは言ってもいいよな。俺はそう考えたけど、メウルの野郎は驚いたのか、目ん玉丸くしやがって、その後すぐに怒り顔。そんで怒鳴って来やがった。
「俺が貴様に何をした!」ってなもんで、どの口が言ってやがるんだ。殺そうとしたの忘れたのかよ?こういうところがムカつくな。
「そういうとこだぞ、バカメウル」
コイツ、自覚がねえのかよ?繰り返すけど、俺は引退して10年経つ。その間はよ、このバカを、仲間だなんて思ってた。だけどもメウルの野郎はよ、何かと突っかかってきた。そういや初対面からよ、俺への当たりは強かったな。ってことはよ、もしかして……?
「俺は一応おめえをよ、仲間と思ってたのによお、おめえは違ったんだろ? メウル」
「ああ。 お前を仲間だと思ったことは1度もないな」
「つまりテメエは最初っからよ、俺を憎んでたんだろう? そういうことだろ? ええ、メウル。 全くテメェは根暗でキモい」
俺の言葉は本音も本音。そいだらカチンと来たみてえでよ、メウルが俺を睨んだな。眼で殺そうぐらいの目つきでよ、しかもクソみてえなことを、堂々と言いやがる。
「貴様がこの世に存在したから、俺はこうなったのだ、ディー・ヤー! 俺は貴様を殺す為、殺す力を得る為に、人を捨てて進化したのだ!」
俺のせいかよコノヤロー。しかも進化だ?てめえコラ。マジでそういうとこだぞ、メウル。
「で? 俺を殺す力が、チンケな植物化ってかァ? そんなの進化じゃねえよバカ」
「チンケかどうか見せてやろう」
そう言ったメウルはよ、どんどん体が木になった。そんで俺の周りの地面がボコボコいって隆起して、うねる木がよ、生えてきた。そんで尖った枝がよお、俺に向かって四方八方、全方位から伸びてくる。こりゃあマジで殺りにきたな。だけど脅威は感じねえ。
「やっぱチンケじゃねえかよメウル。 数が増えただけだろが」




