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故郷

 俺はメウルと距離取って、だけど自分の間合いはキープ。それはメウルも分かった様で、嫌そうな顔をしてやがってよ、俺に向かって言いやがる。


「化け物め。 こちらは人を捨てているのに、貴様の方が上を行くか」


 この物言いはムカつくもんで、すかさず俺は言い返す。「化け物に、化け物なんて言われたくねえな」俺は人間なんだから、当然の感想だよな。でもよ、そいだらメウルは仏頂面で、「貴様も充分化け物だろう」なんて言いやがったから、俺はほんとにムカついた。何をそんなツラしやがる、気に入らねえよと思った俺は、ぷんすか怒って、「おめえさっき見なかったのかよ! おめえが出した何かの毒で、俺が一瞬鈍ったのをよ! すぐに解毒したけども」っつって人間らしさをアピったけども、メウルはほんとに嫌そうに「何の毒かも分からないのに解毒出来る人間なんて、この世にいるわけないのだよ」ときたもんだから、こうなったら俺もいよいよコイツが許せなくなって、もうコイツの言うこと全部否定してやりたいもんで、ここからは俺の煽りタイムのつもりで、泣くまでやってやるって思ったな。そっからの俺は、「大体おめえは態度が悪い、俺に対する態度がよ」っつって、ほんと小姑みたいによ、ネチネチいびり始めたけども、そしたらメウルの目が据わったな。まるで「何言ってるんですかお義母さん」みたいな、息子の嫁が開き直った時の目をしやがる。俺の息子のグスマンはてめえなんかにやらねえからな、シングルマザーなめんなよ、なんて思っていたらばよ、メウルの野郎は目が据わったまま、ゆっくりゆっくり語り出した。


「ある山の中腹に、かつて、アラド村という村があった。 覚えているだろう」


 メウルは何かを抑えてる様な、静かな声で俺に問う。俺はメウルを見据えてよ、しばらく何も答えないまま。アラド村のことはよお、忘れることは一生ないな。そいだらメウルが「答えろ」ってなもんで、しょうがねえからしらばっくれた。


「覚えてねえな、そんなもん」


 これが大人のよくねえとこよ。大人なりに思うことあってはぐらかすと大抵よ、若手からすりゃ誠意がねえのよ。メウルにとってもそうみてえでよ、これがほんとに激怒して、俺を罵倒してきたな。


「貴様、よくもぬけぬけと! 覚えてないとは言わせんぞ! アラド村は俺の故郷だ! そして、貴様の故郷でもある!」


 マジかよ、メウルおめえはよ、俺と地元が一緒なのかよ。だけども俺は口をつぐむぜ。アラド村についてはな。だから俺はよ、無言でよ、やり過ごそうとしたけども、それは許さねえってなもんで、メウルがあのこと言って来た。


「ディー・ヤー、貴様は人殺しだ。 罪もないみんなをよくも」


 ……地元ならよ、あの事件のこと知ってるってえこともよお、当然っちゃあ当然かもな。殺ったか殺ってねえかで言えば、俺は確かに村長たちをこの手にかけた、間違いなくな。そこんところは認めるよ。だけどもヤツらは大罪人。罪もないってえのはよ、あったことを知らねえだけよ。


「確かに俺は殺したよ。 全く、間抜けな話だな」


 そいだらメウルは怪訝な顔した。どうやらこりゃあ、何があったか、ホントに何も知らねえな。まあよ、それならそれでいいよ。だってよ、俺のやることは、戦うことだけだからよお。今も昔も変わらねえ。そうと決まりゃあやることは、メウルの野郎の首狩るだけよ。だから俺はよ、口元に、薄ら笑いを浮かべてよ、メウルの野郎を煽ったな。


「アイツら、オマエの知り合いか。 まあ肝心の俺はよお、アイツら一人たりともよ、顔も名前も覚えてねえが」


 そいだらメウルが雄叫び上げて、怒りの顔で駆けたよな。

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