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人外の戦闘

「誰が人を捨てたって? 何言ってんだ、おめえはよ」


 そう言いながら俺はよお、メウルの視線を読んでみる。そいだらこのバカ、見てる場所がよ、どうしようもなく俺のアゴ。確かにちょっと?まあまあ?かなり?アゴの形は変わったけども、これで人を捨てたとか、失礼にも程があるな。とはいえ俺もいい大人。極めて冷静、淡々と、注意喚起の言葉を言おうと、口を開いてみたけども、「あったま来た!てめえメウル!てめえ!今ここで俺が殺す!てめえ!絶対に許さねえ!」っつってこの野郎、俺ったらばよ、全然冷静じゃねえでやんの。怒り狂った俺はよお、頭ん中でシンプルに、メウルのアゴを割ってやる、アゴを割り殺してやる、ってなもんで、アゴが割れて死んだってヤツを聞いたことはねえけども、じゃあアゴから真っ二つにしてやらあ、ってなもんで、憎しみ込めてオモクソ睨み付けた。正義の英雄っつったらよ、敵をも愛す聖人だとか、しゃらくせえイメージがつきまとうけども、俺が正義だ、ってなもんで、怒りも憎しみも全力でぶつける英雄がいてもいいだろうが。マジで絶対に許さねえ。突き刺す様にえぐる様に、殺気を放ってやったらよ、メウルもいうてナマクラじゃねえ。ヤバさを察知したんだろうな、ギョッとした顔になってよ、一気に雰囲気変わりやがった。暴れまわってた木々の群れがよ、ゴブリン襲撃一斉にやめて、四方八方、全方位から、俺に向かって伸びて来た。大小様々な枝が尖って、だけども柔軟にうねりながら、俺を刺そうとしたわけよ。つっても俺は余裕だわ。常人にとってはよ、かなりのスピードだろうがよ、俺に言わせりゃのろすぎる。だから難なく避けながら、枝の上にトンと乗って、伝って走る俺カッケーな。向かうはメウルの首一つ。そいだらメウルが身構えてやがる。俺は「フン」なんつって、軽く鼻で笑って跳んだ。そいだら頭上に木々がある。俺は体をひねってよ、逆さまみてえな体勢で、頭上の太い枝によお、両の足裏ついたのよ。そんですかさず踏み切って、メウルの背後に着地した。メウルは動きについて来れずに、俺が走った枝まだ見てる。だけど俺はメウルの背後。「よお」っつったらメウルがよ、振り返ったもんだけど、俺は降りる時すでに、手刀でメウルの下腕を斬ってる。いーや、加減はしたつもり。だけどメウルの両腕は、スパッと斬れて、取れたのよ。全くもってグロいよな。


 メウルの遅さに俺はよお、正直ガッカリしたけども、しょうがねえとも思ったな。どんな十年過ごしたかなんて想像もつかねえが、メウルに俺と同じレベルを求めちまうのは酷だよな。とはいえやっぱり肩すかしでよ、俺は溜め息つきながら、「メウル、おめえはそんなもんか」なんて言ったもんだけど、メウルの野郎も涼しい顔で、「貴様はさすがと言うべきか、衰えなどは微塵もないな」なんて言ってよ、落ちた両手をチラッと見てよ、「やってくれる」ってなもんで、この状況で冷静とはよ、何か違和感かんじたな。だから俺はよ、素早く退いて、距離を取りつつ警戒したな。反応速度は速くねえから、スパッと殺れた気もするが、この野郎はさっきよお、「お前も人を捨てたのか」なんて言ってやがったよなあ。そんで腕斬り落としても、慌てず騒がずこの態度だから、ここは様子を見るべきだよな。


「……」


 俺が神経研ぎ澄ませりゃよ、針を落とした音だって聞き取れるぜ、ってなもんで、そしたら遠くの方からよ、馴染みの気配がしてきたな。マオとボンボンたちだなあ。しっかしマオが消耗してて、息が乱れてやがるから、修羅場にゃ近付けたくねえな。メウルの得体も知れねえし、俺はデッカい声あげた。


「止まれてめえら! こっちに来るな!」


 そいだらマオの気配が消えて、ボンボンたちも息を潜めた。そんでゆっくり後退してる。これはマオの指示だろな。すかさずメウルが口開く。


「人質は取れない、か」


「人質取るつもりだったのかよ。 メウル、おめえ腐ったな。 全く、ロクなもんじゃねえ」


 メウルは何の動きも見せず、変わらず涼しい顔してやがる。それにカチンと来たもんだから、俺はちっとイジワル気分で、ヤツの状況イジったな。


「まあよ、そんな腕じゃあよ、人質なんて取れねえけどな」


「こんなものは問題ないさ」


 相も変わらずメウルはよ、涼しい顔で言いやがる。焦る様子は微塵もねえな。こりゃあ妙だと思った俺は、とあることに気が付いた。


「おめえ、どういうことだよそれは」


 普通は両腕斬られたらよお、ドバドバ流血するもんよ。だけどそれが全くねえな。斬った両腕転がっててよ、断面チラリと見えたんだけど、人の肉質してねえな。まるで枯れ木の断面で、カラッカラに乾いてやがる。だけどもウネウネ動くわけよ。メウルが一体何者なのか、何になっちまったのかをよ、俺はこの時、理解した。


「おめえ、禁呪を使ったな。 木なんかになってどうすんだ」


「お前は理解出来ぬだろうよ」


「そうかよ」


「そうさ」


「そうかよ」


「そうさ」


 瞬間、俺は首を狙って、蹴りを繰り出したけども、落ちてる腕の断面からよ、蠢く木の幹伸びてきて、俺の胴に巻きついた。すかさず輪切りにしたけども、切った断面同士がよ、うねりながらくっついて、あっという間に元通り。メウルの両腕とも繋がって、涼しい顔のままでよお、「どうだ、理解出来たろう」


 次の瞬間、俺は駆けて、手刀でメウルを真っぷたつ。顔の正中線によお、真っ直ぐ切れ目がはしったな。アゴも当然真っぷたつ。だけどもブワッと粉吹いて、そんでニチャッとくっついて、切れ目がすぐに消えやがった。


「斬った瞬間、治ってやがる」


「俺は誰にも倒されないさ。 それどころか、お前を倒す」


「やってみるろ……ろ……るろろ」


 やってみろよと言うはずが、何だか呂律が回らねえし、膝が一瞬カクンと折れた。こりゃあやべえと思った俺は、素早く後ろに跳んでよお、もっかい距離を取ったよな。吹いた粉がよ、毒なんだろな。俺の体がすぐ解毒して、呂律は難なく戻るんだがよ、こりゃあ迂闊に飛び込めねえな。膝がカクンとなったらよ、一瞬、隙が出来ちまう。


「やるじゃねえかよ、ええ? メウル」


 俺は素直にほめたよな。人を捨てただけあって、こりゃあちっと厄介だよな。何しろこっちはただの人なのよ。

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