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母性

 そんなこんなでマオと俺とボンボンどもは川沿いをとにかく下って行ったわけなんだが、マオがザンザン歩いて行っちまうから、おい、あんまり先行すんな、ってなもんで「そんなに遠くに行くんじゃねえチビ」っつって呼び止めたら、今度はこっちに向かってザンザン歩いて来て、俺の顔をギラリと睨んで、「うるさいな! 誰がチビでコンパクトだよ! 結構あるし!」とかギャンギャン言って俺ぁ鼓膜が破れるかと思ったけどよ、こういう時は黙ってるのがいいやってなもんで、無言でいると、フンッと鼻息、強気の一発短く噴いて、またザンザン歩いて行っちまいやがったから俺はまたむかついた。

 おい何だよおめえ、俺が何したってんだよってなもんで、マオのバカのこの野郎、てめえは可愛い顔してるってのにそゆとこ損してるぞっつって、小一時間説教してやろうと思ったが、そしたらそん時、俺の腹の虫がゴボンゴボボボっつって、凄まじい轟音が響き渡りやがる。

 そいだらボンボンどもが、一体全体、こりゃあ何事だよっつー事で俺を見やがるから、「何見てんだてめえら、見せもんじゃねえぞ」っつってゲンコツお見舞いしてやったらば、心もスッキリ、胃の中もスッキリってなもんで、俺はしみじみ「ああ腹減ったなあ」っつった。

 そんなわけで、「マオてめえ戻って来い、メシにすんぞ、ステーキだ」っつったらば、さっきまでわけ分かんねえ事ギャンギャン言いながらザンザン歩いてったくせに、腹は減ってたみたいで、ニッコニコで戻ってきやがった。

 子犬かおめえは。


 戻ってきたマオは「何食うの?」っつって目をキラッキラさせてやがるから、可愛いなコイツと思いながら、「コレだよ」っつってアゴをしゃくってミノタウロスをさしたらば、マオのヤツ、目の輝きがスッと消えて無表情になりやがった。

 どうしたんだよ、ってなもんで「うまそうだろ」「うまそうじゃないよ」「何言ってんだてめえ」「それはこっちのセリフだよ」「とにかく食おうぜ」「食わないよ」「食うんだよ」「誰が」「俺とおめえだよ」「無理だよ」「無理じゃねえよ」「グロいじゃん」「何がだよ」「コレ人型じゃん」「牛だろ」「頭はね」なんて事になりやがる。

 まあ確かに二足歩行だから人に似てるみてえなところはあるけども、んな事言われたらおめえ、俺も論破しちまうよってなもんで、俺ぁ容赦なく、「足もだよ」っつって(ひづめ)を指さした。

 ミノタウロスってのはおめえ、足が(ひづめ)になってやがんだから、こりゃ完全に牛だろって事で、俺はマオを見下ろして見下して「目の前の現実をしっかり見ろや、真実はいつも一つ」っつって、まるで眼鏡でもかけんばかりにインテリジェンスなキリリとりりしい表情で得意になったらば、マオはミノタウロスの手を指さして「手は人じゃん」ってなもんで、俺もつい「あれほんとだ」って言っちまったもんだから、マオが「目の前の現実をしっかり見てよ、真実はいつも一つ」なんて言いやがるから、まるで俺が論破されたみてえになっちまって、でも待てよ、ってなもんで、「頭と足は牛、手は人で、これおめえ、二対一で牛だろ」っつったらば、あの野郎、ボンボンたちを頭数にしやがって、「ちゃんとした多数決で決める?」とか言いやがるから、俺は残像を作り出して「こっちは十二人だ」っつったらば「不正選挙だ」なんて抜かしやがるから、「最後まで票を数えろよ」っつったらば「民主主義を破壊する行為だよ、それは」なんて言いやがる。

 めんどくせえなコイツと思って「うるせえんだよ、おめえよ」「うるさくないよ」「うるせえよ」「うるさくないよ」「うるせえよ」「何でそんな事言うの」「おめえがうるせえからだよ」っつって、らちがあかねえから、「じゃあ勝負して決めようぜ、俺とお前で年の数が多い方が勝ちな」っつってやった。

 俺は四十すぎてるし、マオは十六だか十七だかで俺の圧勝だから、こりゃいいやと思ったもんだけど、マオが「ただの年功序列じゃん、バカな老害が最後にしがみつく虚無の価値観、オッサンの極み」なんて言いやがって、俺はほんとに傷ついた。

 じゃあもうてめえにはやらねえからなっつって、ボンボンどもに「おい肉の解体すんぞ、手伝え」っつったらば、「いや~俺たちも人型はちょっと」なんて言いやがるから、この野郎ってなもんでゲンコツ食らわせてやって、「じゃあおめえ、頭は牛だから、美味くてしょうがねえ頬肉(ほほにく)食うのを指をくわえて見てやがれ」っつって俺一人で牛の頬肉の解体をして、あー肉を焼くかまどを作らなきゃな、と思ったら、マオが作り終えてて、そっぽ向きながら「これ、使ったら」なんて言いやがるから、おめえのそういうところが可愛いんだよ、って言いそうになったけども、今は意見が割れててそんな段じゃねえし、こんなこと恥ずかしくて言えたもんじゃねえから、「作っちまったのはしょうがねえから使ってやらあ」ってなもんで、銅の盾を設置して、そこにミノタウロスのほほ肉を乗せたらば、ジュウーっつって、食欲をそそるたまらねえ香りがしてきやがった。肉が新鮮だから、こりゃレアで行けんだろって事で「こんくれえが一番うめえだろ」ってなもんで、ミノタウロスのレアステーキを口いっぱいに頬張ったらば、これがもう美味えのなんの。

 「おめえら損したぜ、うめえ~、うめえ~」っつって存分に食った俺は、「いやぁ~満腹よ、ペタマックスよ」っつってどんだけ腹いっぱいか言ったらば、ボンボンどもがキョトンとしてやがる。

 だから、「何だおめえらペタ知らねえのか、メガよりギガよりテラよりデケえのがペタよ」っつったらば、マオが「こないだ焼きそば作ってやった時に私が教えたヤツじゃん。 最強の超大盛りペタマックスだよって」なんつって説明しやがるから、俺がてめえの受け売りをそのまま言った感じになったじゃねえかバカ野郎、ってんでゲンコツ食らわせてやろうと立ち上がったらば、腹がバゴォン!バゴォン!っつって鳴りやがって、どうにも腹が痛え。

 こりゃ汚えもんを垂れ流して来るわってなもんで、俺はマオたちから少し離れた岩かげで「はぁぁー!」っつって出したらば、俺の尻から、牛の頭した赤ん坊が産まれやがった。

 「は? どゆこと?」ってなもんで、一瞬驚いたが、とりあえず赤ん坊を川で綺麗に洗ってやったら、冷てえもんだから泣き出しちまって、「おーよちよち、ごめんごめん」ってなもんで、何だか可愛くなってきた。

 そんで体を拭いてやって、抱っこしながら俺の人肌で(あった)めてやったらば、気持ち良さそうにして泣き止んだから、「よちよち、あったかくて気持ちいいでちゅねー、グスマン」っつって、そのままマオたちのとこに戻ったら、マオもボンボンどもも目ぇまん丸にして驚いてやがる。

 「え? どゆこと?」「出産した」「誰が」「俺が」「え? 排便しに行ったんじゃないの」「しに行ったよ」「それで何で赤ちゃん産まれるの、ミノタウロスの赤ちゃんが」「うんこしたら一緒に産まれたんだよ」「ミノタウロスって排便で産まれるの」「排便じゃねえよ」「排便じゃん」「違えよ」「排便じゃん」「違えよ」「じゃあ何なの」「出産だろ」「違うじゃん」「違わねえよ。 結果的には出産だろ」「ガバガバ結果論やめなよ」「うるせえな」「うるさくないよ」「うるせえよ」「何がうるさいの」「てめえだよ。 あとグスマンのこと、ミノタウロスって言うな」「何で名前つけてんの、ミノタウロスに」「ミノタウロスじゃねえよ」「ミノタウロスじゃん」「違えよ」「ミノタウロスじゃん」「違えっつってんだろ」「じゃあ何」「人間だよ」「人間じゃないじゃん」「人間だよ」「牛じゃん」「頭はな」「足もじゃん」「手は人間なんだよ」「それミノタウロスじゃん」「てめえいい加減にしろよ」「何怒ってんの」「自分の子をそんな風に言われたら怒るだろうが」「もう完全に情わいてるじゃん」「当たりめえだろ、グスマンは腹を痛めて産んだ子だぞ」「何で母親気取りなの」「母親だからだろ」「オッサンじゃん」「うるせえよ」「うるさくないよ」「うるせえよ」「うるさくないって」「おめえ、うるせえんだよ」ってなもんで、らちがあかねえから、「グスマンは一人でも育てる」っつって、俺はシングルマザーになった。

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