表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/34

真っ直ぐなヤツ

 まばゆい光の刃が振り下ろされる。いつどこで習ったのかとか、あのクソババアは元気なのかとか、聞きてえことは山ほどあるが、今はそんな段じゃねえ。っつーのも、今は俺一人でいるわけじゃねえ。俺の後ろにはマオもいるし、グスマンもいるし、ボンボンどももいる。俺がこいつらを守らなきゃいけねえ、ってなもんで、こんな危ねえ技をやるヤツはちっとばかしウゼーよな。ただまあ、俺の威厳を見せつけるチャンスか、とも思ったよな。どういうことかと言うと、俺はこのダンジョンに入ってからというもの、小さいミスやら読み違えやらが結構続いてる。こんなの賢人系の職でも割とよくあることで、何だったら今回の俺は識者に言わせたら、「全然イケてますよ」ぐらい言われるいい読みしてるんだが、無知な初心者は「この人、大したことないんだな」なんて思うだろ?ギルドの台帳に「ディー・ヤーは、強者感出す割にショボかったよ」とかレビュー書かれたらおめえ、俺は泣きながら書いたヤツ探し出して、「てめえレビュー書き直せコラ」って脅す……わけねえだろ。やだよ、めんどくせえ。いちいち構ってられるかよ、そんなもん。まあとにかくよ、さしあたっては、俺はコイツら守らなくちゃなんねえし、「ディーさん超カッコいいじゃん」「キャアー」「さすがっす!」「すげえっす!」「ハンパないっす!」って言われてえからよ、その為だったらちょっと頑張っちまうか、めんどくせえけども、ってなもんで、ゴブリンが足を振り下ろしきる前に、マオたち全員抱えて飛び退いて、カカト落としをかわしてやった。


 足が振り下ろされきると、光剣はしなりながら地面をバターの様にいとも簡単に切り裂いて、どこまで深く切り込んだんだか、底が見えやしねえ。バターといやあ嫌なことを思い出しちまったが、これは誰にも話すことはねえだろうな。まあいいや、そんなことより今は目の前のコイツよ。俺はてっきり、このゴブリンが、マオたちも巻き込む様な一撃ぶっぱなしやがったのかと思ったが、射程はマオたちがいたところまではなかったみてえだった。また読み違えっちゃあ読み違えで、取り越し苦労ではあったがよ、まあよ、念には念ってことでいいだろ。しかしこのゴブリン、俺や師匠に比べたら、光剣の射程はいくらか短え。これが全力だってんならいいが、制御してこの射程だとすると、まだ実力は計りきれねえもんだから、油断は出来ねえな。そんで光剣消えてゴブリン一言、「見事。 この技を避けるとは」なんつって、キリリと引き締まった顔の俺と睨み合う。実力未知数のゴブリンに対して、ちっとばかし警戒心もある俺は、ゴブリン睨んだまま、抱えたマオたちを降ろしたな。そんで、「おめえら、ちっと離れてろ。 ヘタしたら巻き添えくらって死ぬからよ」っつって、そしたらゴブリンも頷きやがった。マオたちはがく然として、何も言えやしねえ。そりゃあそうだよな。マオたちは、地の利を生かして戦う普通の冒険者レベル。俺たちみてえな、神話級のレベルを見たのは初めてだろうからな。ったくよお、こんなの駆け出しに見せるもんじゃねえ。マオたちがやる気なくすか、やる気になるか、どっちになるかは分からねえが、どっちにしても人生狂っちまうだろうが。やだね、やだやだ、めんどくせえ。まあよ、やる気なくした方が、マオに関しては幸せだよな。


 ……さて、俺はゴブリンと睨み合ったままで「ここからは人の領域じゃあねえ。 行け」っつって、そしたらばよ、マオたちがうつむきながら離れてく。こりゃあよ、やる気なくす方か?まあ、そう考えるとよ、ちょいと寂しい気もするな。ってことはよ、いつかこの領域に来れるまでにマオを育ててやりてえ気持ちが、俺にどっかしらあったってことだよな。けどよ、やっぱよ、赤ん坊の頃から知ってるマオをなるべくなら危険な目に合わせたくねえって気持ちもデケえもんだから、やっぱコレでよかったんだよな。マオを冒険者として育てるからには、いっぱしにはするつもりだがよ、なるべくなら村でのんびり育ってもらいてえのよ。親だって健在なんだし、娘らしいオシャレしたりよ、あーだこーだと小言言いに来たりしてよ、平和な世界で日常を生きてってほしいわけよ。ほんと俺って、実はこういうこと思ってる、カッコいいオジサンなわけよ。だからマジでよ、こういうところをレビューに書けよコノヤローぶっ殺すぞ。


 そんなこんなで、マオたちが充分遠ざかるまで、ゴブリンは動かなかった。俺がマオたちに「離れてろ」っつった時に、ヤツは頷いていたし、別に俺らに何の義理もねえんだから、さっさと攻めてくることも出来たろうに、それをしねえでいてくれた。そこは感謝だな、ってなもんで、礼を言うのも何だけどよ、ちょっと話しながら、何か情報も引き出せるかもしれねえな、なんて思うもんだから、「おめえ、よく待っててくれたな」っつったわけよ。そいだらゴブリン、「私は、貴様以外を傷つける気はない」なんつってやがる。最初いらんことジャンジャカ言い出した時は、コイツはバカだなと思いもしたが、芯が真っ直ぐなんだろうな。何だかんだ、コイツは結構、真っ直ぐなヤツだなってのが分かるもんだから、出会った場所が違えばよ、ダチになれたかもしれねえな。でもよ、現実は敵同士よ。そしたらば、倒すしか道はねえ。でもまあ、聞きてえことはあるよな。だからよ、まずは戦闘にも役に立つこと聞いちまうか、ってなもんで、「もしかしたらなんだけどよ、光剣の射程、アイツらに届かねえ様に、短くしたか」「そうだ。 私は、子どもの殺生は望まない」っつって、見たところ、おめえも若いだろ、マオやボンボンどもとそんな変わらねえだろ、って思ったが、まあそれはいいや。逆にコイツ、この若さで光剣の射程を調整するとは、結構な猛者で間違いねえよ。しかしだ、戦いの場においては、若さと真っ直ぐさはカモがネギしょってきた様なもんだから、オッサンをナメんなよ、ってなもんで、「耳が痛えな。 俺は障害は排除する主義なもんでよ、子どもだろうがモンスターは殺す」っつったんだけれども、これは挑発だよな。さあ敵意をむき出しにして突っ込んで来いよ、って狙いだったんだが、ゴブリンは、「ミノタウロスの赤ちゃんがいたぞ? あの子は殺さないのか?」なんつって、グスマンは俺の子なもんだから、「てめえ!」っつって俺の方が敵意むき出しで怒鳴っちまったよな。そんですかさず「あの子は人間だ!」っつった俺の剣幕に、ゴブリンは一瞬目を丸くして驚いた。けどすぐに「失礼を言った、謝る。 ……なるほど、どういう事情か察した。 あの子はお前の子か」っつって、コイツ悪いヤツじゃねえみてえだな、ってなもんで、俺の敵意はダダ下がりよ。そんで、「ああ、俺の子よ」「そうか。 可愛い子だったもんな」っつって、やっぱグスマンのあの可愛さじゃあよ、すぐに俺の子だって分かっちまうか、ってなもんで、何だか気分がいいな。コイツ、俺の子を「可愛い子だったもんな」って、こりゃあ、俺に似て可愛いって言ってるってことだからな。真っ直ぐなだけじゃなくて、見る目もありやがる。シリアスなシーンにもついて来れそうだし、コイツ、満点キャラだよな。でもよ、大麻畑が頭によぎったもんだから、やっぱ、敵であることに変わりはねえなと思い直したな。つーのも、コイツの性根が真っ直ぐで、根は悪いヤツじゃねえっつってもよ、この国じゃあ大麻はご法度で、その栽培に手を貸してやがるヤツなもんで、この国の貴族サマである俺としちゃあ、痛い目見してやんなきゃなんねえ立場よ。残念だな、更正しろよ、おめえはまだ若え、なんて俺が考えてると、コイツが「私には私の正義がある。 あの子には悪いが、貴様は倒す」っつったもんで、言ってることにちょっと引っかかる部分があるな。だから俺はよ、「てめえの正義? 何のことだよ」っつって、じゃあてめえに何の正義があるってんだ?大麻の栽培の片棒担ぐってのはどんな正義よ?って思う俺だが、ゴブリンは「貴様は、魔物狩りを生業とする人間だろう。 私はそんな人間から我が種族を守る為に戦っているのだ」っつって、神妙なツラをしやがるもんだから、何か変だな。コイツ、もしかして何も知らねえんじゃねえのか?ってなもんで、俺はその辺の話してみるつもりで、「てめえよ……」っつった時に、マオたちが行った反対方向からワラワラと無数のゴブリンが来やがった。ヤツらは「ギギッ!」「ニンゲン……! コロ……セッ!」なんつってよ、俺の目の前にいる真っ直ぐ性根のゴブリンと、ノリが全く違いやがる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ