最終回▼落ちるだけの役ですが
今回、2927字あります
私達が最初に試したのは、仲良くする事だ。悪夢の大階段まで、まだ半年ある。
階段後のレティシアさんは、悲惨だ。毎回処刑。例外なし。
レティシアさんによると、王太子さんは、エルシーが好きだった。恋していた。だから、レティシアさんが嫉妬して犯行に及んだと決めつけた。
2回目以降は、エルシー死亡までは、王太子さんと仲が良かった。ところが、大階段事件後、豹変した。乱暴な裁判で殺人罪。
初回は卒業パーティーで断罪、婚約破棄、処刑。
「あれ、なんか、引っ掛かるな?」
何かを忘れている。現場に入る前に、軽く作品の全体像くらいは頭に入れている。その記憶は朧気でありながらも、レティシアさんの話には、微かな違和感を感じる。
うーん。
「どうかした?」
「あっ」
私は、重要な事を思い出した。
「これ、主役レティシアさんだ」
「へえっ??」
「悪役に仕立てあげられた令嬢が、死に戻りループで奮闘する話」
「まさかあ。私、粗筋読んだよ?」
「私、参加作品の全体像は、予習しとく主義なんだ」
「ええー」
つまり、だ。
ループの発生源は、レティシアさんである。
映画版が原作と大きく異なるなんて、良くある話。レティシアさんが、毎回処刑されてループしている事を考えると、ここは、ゲームではなく映画の物語世界。ほぼ決定だ。
私達は、同じ作品に関わり、同じタイミングで死を拒んだ。物語世界のレティシアも、死を拒んで巻き戻る。
ここまで来たら、信じるしかない。
私と林梢さんと映画のレティシアが、奇妙に響き合い引き寄せあったのだ。
「じゃあ、映画の結末教えて?スタッフでしょ」
「なんやかんやあって、ハッピーエンド」
「具体的に!」
「そこまで覚えてないや。ごめん」
あたしは、大階段落ちるだけの役だしね。
「ループ回避出来ると思ったのにー」
「ごめんて」
とりあえずは、仲良しアピールを始めた。階段落ちで直接の原因を作った、ご令嬢軍団への牽制である。レティシアさんの名は、悪用させない。冤罪回避の第一歩だ。
王太子さんは、程よく懐柔する。浮気して処刑するような本性を隠した人物など信用ならないが、放置も危険だ。
処刑の捏造証拠に暗躍したというご学友達も、同様である。
しかし、これ迄と違って、彼等とあまり出くわさなくなった。向こうから声を掛けてくる事も、殆ど無い。わざわざ探して、レティシアさんと2人で声をかける。それでも、会話が日に日に減っているように感じる。むしろ避けられているんじゃないかな。
運命の日。
たっぷりの睡眠をとり、早朝訓練をこなし、万全の体調で、登校した。レティシアさんとは、寄宿舎から一緒に行く。クラスが違うので、片方の教室入り口で別れる。
昼休みになった。意を決して、悲劇の現場へと向かう。レティシアさんとは、昨日のうちに段取りの確認を済ませている。
階段にたいして正面の廊下から、ご学友達が4人で来る。待ち合わせなのか、王太子さんは、階下のホールに立っている。
ご令嬢方は、邪魔で危険な大階段上を占拠して、立ち話だ。
私は、階段に向かって左、下手からの入り。ややあって、上手から、レティシアさんこと、林梢さん。
1回目と2回目の再現だ。実は、わざと同じ構図にしてみたのだ。だが、この先の展開は、変えてみせる。
「エルちゃん!」
「レティ!」
「あなた方、ちょっと、ごめんあそばせ?」
立ち話令嬢に、レティシアさんが声をかける。レティシアさんは、第1位階貴族のご息女なのだ。立ち話さん達は、貴族とはいえ、位が低い。言われたら、退くしかない。
私は、階段に差し掛かる前に立ち止まる。すれ違えるように、壁際に張り付く。
「なんだい、大声だして」
第1位貴族の嫡男、魔法管理官志望の少年が、嫌みを言ってきた。前回までとは、全く違う展開だ。
「君たち、はしたないね」
天才魔法少年の高い声が癇に障る。彼は3男だが、第1位階貴族の子供だ。
「避けて通れば良いだろう」
剣士の奴が軽蔑しきった様子で断言する。こいつは、第3位階貴族家だ。レティシアさんよりは、身分が低い。
しかし、王太子さんのご学友なので、とても偉そう。
「身分を笠に着て、みっともないね」
それ、魔法剣士の卵野郎に言ってやんなよ。商人君。
あ、君も、金に物言わせてるね。その制服、指定品じゃないよね。高い生地使ってるでしょ。
「そんな連中に構うことないよ。早く行こう」
王太子さんの大声と暴言はいいのか。
今日はまた、随分と攻撃的だ。レティシアさんと仲良くすることによって、何故か、5人のモテ男達からセットで嫌われている。私達が話しかける内容は、お小言とかじゃないのに。
だもんだから、ご令嬢方も、彼らが通りかかると増長する。余計な横やりで、結局立ち話が続行だ。
今は昼休みなので、早く回避してランチにしたい。回避に成功した暁には、レティシアさんとカフェテリアでお祝いランチの予定なのだ。
カフェテリアは、ご学友がやって来た廊下の奥にある。
君達、廊下の入口塞がないで。さっさとどっか行って下さい。
なんて思っていると、一番華奢で小柄な天才魔法少年が、レティシアさんを肩で押した。
女の子に何をするんだ。
管理官志望君が、地味に爪先を引っ掻けて転ばせようとする。
階段の上だろうが。解ってんのか。
商人が、ニヤニヤしながら、レティシアさんすれすれの場所を通る。
セクハラか。
最後に、剣士男が、強引に突飛ばして直進した。
あれは、いかん。
私は、愚行を繰り返す。
床を蹴って、レティシアさんの方へ跳ぶ。
仕方ないよね。体が動いてしまうのだ。
4人の男は、私にも地味な攻撃をする。殺す気なのか。
階段の一番上で、踏みとどまる私。
よかった。何とか回避した。
ほっとしたのも束の間、階下の王太子さんが、魔法を展開するのが見える。
(あいつ……!!)
「レティ!あとは頼んだっ!」
私の魔法は、純白魔法。
すべてを白紙に戻せる魔法。
また、すべてを白い紙に描くように、ありのままに記録する魔法。これは、国家機密だから、5人の愚か者には伝えない。
先生に相談して、レティシアにだけは、『記録魔法』と偽って、一部の能力を明かした。白紙魔法を指導してくれている教諭に、私達が、地味な嫌がらせを受けていることを話したのだ。
王太子さんと愉快な仲間達は、証拠があっても握りつぶされるかもしれない。次第にエスカレートする、嫌がらせ。ぶつかられて怪我をしたり、全力投球のボールをぶつけられたりするようになっていた。
真っ直ぐ私の眼を見て投げつけたくせに、わざとらしく、ごめんねとか言ってくる。
今回は、先生が用意してくれた媒体に、これまでの一部始終が記録されている。
王太子さんの『操り魔法』で階段を落ちる瞬間、レティシアさんを安全な廊下に押しやる。ついでに、媒体を渡す。
「死なないで!」
レティシアさんの手が、虚しく空を掴む。
今の実力では、白紙に戻す魔法を自由意思で起動することは出来ない。恐らく、今までと同様、死んだ瞬間に発動するのだ。
私は、自由の効かない体でまっ逆さまに落ちて行く。
(うおーっ、カッコ悪ぃ!)
不満しかない。
(やり直しー!)
もうすぐ、堅く冷たい床に当たる。受け身取れないから、頭から突っ込むこと必至。痛いんだよ。やだな。
(もっかい落ちて、いいですかーっ!)
完結です
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『そっくりご令嬢の災難』連載開始です。
内容は、本作と全く関係ありません。
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