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2▼エルシーとエイキン家の人々

 暴走寸前ばかりしていた私だが、やがて安定してきた。走り込みや柔軟などで付けた基礎体力が、良い結果をもたらしたのだ。領主館での生活が1年に届く辺りから、私は急激に制御が上手くなった。


(魔力も、呼吸とか血液循環と一緒だな。楽しい)


 制御を会得した途端、私は魔力が見えるようになった。先生の魔力は、冷たく研ぎ澄まされている。厳しいが、公正な人だ。

 領主の魔力は、暖かく包み込むようだ。奥方は、柔らかく安心させる魔力だ。


 ジョージ?

 そんな奴いたっけ?

 興味ない。


 まあ、うっかり見てしまったけど。たいした量もなく、堅く意地悪だった。魔力の性質は、性格そのものなんだな。



 因みに、エルシーこと私は、溌剌として健康な魔力だった。小山田茜もだけど、頭はあんまり良くない。

 貴族名鑑だの王国史だの、詰め込まないで欲しい。王国算とか言う、謎の計算方法も苦手だ。


 夢の中の社会制度は、現実社会にある如何なる国とも時代とも違っていた。ゼロからのチャレンジである。こちらの世界で、3歳の子供でも知っているような内容から、全部覚えなければならない。きつい。


「デタラメに走るしか脳がない駄犬め」


 ジョージは、ますます見下してくる。


 でも、今や私の方が魔法出来るから。マナーも得意だった。体で覚える系だからね。

 それが悔しいらしくて、悪口がエスカレートしてきた。


「犬でも勿体無いか。頭の悪いハイイロネズミみたいだな」


 私の髪は真っ直ぐな銀髪だ。眼は菫色。この配色を濁らせると、不潔な害獣ハイイロネズミになるのだ。


(ふん。足腰鍛えないから、すぐ転ぶんだよ)


 それに、デタラメに走っている訳ではない。きちんと計画的・効率的なトレーニング計画を実行している。ルートも、領主館の皆に迷惑をかけない配慮がされた完璧コースだ。


(こいつ、走らせてみるか)


 魔法を駆使して、強制ランニングさせてみたい。一度走れば、私のコースが、いかに素晴らしいかを理解する事だろう。



 ある日、義兄ロイドが、寄宿学校から帰宅した。学年終わりにある、長期休暇との事だ。私が保護されたときは、丁度、新学年が始まった所だったらしい。


「魔力漏れで、母親を病気にしたんだってよ」


 ジョージが、早速嘘を吹き込む。


「たいへんだったな」


 ロイドは、領主夫妻に似て、優しい男の子だった。見た目は母親似で、亜麻色の髪に紫の眼をしている。

 13歳と言えば、思春期の入口だ。そんな時期に突然増えた義妹に、気遣いをしてくれる。器の大きさに感心した。



 休暇の始めに、ジョージが7歳になった。7歳になると、魔力測定を行うそうだ。だいたいその歳までには、魔力制御を覚えるからとのこと。


 測定結果は、国によって証明される。この結果が良ければ、国家魔法使いとしての教育が始まる。

 教育は、無償だ。エリート街道まっしぐらである。


 だが、測定にはお金がかかるので、貧乏人は出来ない。つまり、7歳で保護された私は、測定を受けていなかった。魔力制御が出来なかったので、エイキン家の養子となっても、測定は行われず。



「エルシーも、受けような」


 制御が出来るようになったので、7歳になったジョージと一緒に、測定される運びとなった。


 測定には、母方の祖父母も来た。一目見て、ジョージはこちらの祖母に似たのだと解った。嫁方にも関わらず、領主を婿扱いだ。祖父は、第5位階貴族なのだとか。


 貴族は、第1位階というのが一番偉い。その上には王家の人だけがいる。王家なら赤ん坊でも偉い。この辺は現実社会と同じ。王家だけ特別な敬称がある。王様が陛下で、それ以外は殿下。

 現実社会との共通点が所々にあるから、余計に覚えにくい。


 第5位階は最下位だ。王家以外の貴族の敬称は、須く閣下。

 その下に、郷士(ごうし)と言う地主階級がある。つまり、エイキン家のような田舎領主達だ。敬称は卿。


 母方の祖父母は、私の養子縁組み御披露目会に来なかった。遠方だとか、高齢で馬車が辛いとか、そんな断り状が来ていたと言う。私は読んでいないので、具体的な内容は解らない。特にお祝いも届かなかった。



 先代領主夫妻である父方の祖父母は、もう何年も前に、馬車の事故で揃って亡くなっている。事実上、実質上ともに、一族のトップはブライト領主セオドア・エイキン卿だ。だが、妻の実家は貴族である。その為、娘の嫁ぎ先でも発言権を持っているのだ。


 正式な養子である私を、彼等はエイキン一族と認めない。エイキン一族は、領主夫婦とロイド兄さんを除いて、みな第5位階貴族の言い分を支持している。


 だから、測定を行う魔力館に行っても、私はいないものとして扱われた。


「ジョージ、大きくなったわねぇ」

「測定楽しみだな」

「ロイド兄さま、お久しぶりですわ」

「ジョージは、どの魔法が得意なんだ?」

「兄さま、魔法学園のお話聞かせて」

「ジョージ兄ちゃまのほうが、ちゅてきでしゅわ!」


 一族の子供たちが、わらわらと兄弟に群がる。魔法学園とは、ロイド兄さんが居る寄宿学校だ。キザクラ王子記念王立魔法学園と言うらしい。校章は、緑の円にギザギザがついている。


 今日は、皆正装なので、エリート校のロイド兄さんは、制服着用だ。やたらブレードワークが効いた、ヘンテコな上下である。

 汚れが目立ちそうな白く低い詰襟の上着には、緑の衿章を光らせている。

 子供用の正装もあるのだが、学生は制服を着るらしい。この辺も現実と似ている。


 しかし、変な校章だ。


(カッパの皿みたい)


 隅の方でじっと校章を見ていると、ロイド兄さんと眼があった。兄さんは、にこっと笑ってくれた。


(どっかで見たような服なんだよなあ)

次回、キザクラ王子記念王立魔法学園へ


よろしくお願い致します

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