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1▼落下の美学

全6回、1日1話投稿です。

9月27日22時完結

 小山田茜、23歳。主に時代劇で、階段落ちたり、馬から落ちたり、屋根から落とされたり、してました。



(うおっハチッ?えっやべっ何なの?)


 仕事で落っこちてる途中、目の前に蜂が来た。

 驚きから覚める間もなく、カラフルなゴムボールが、目の前に迫る。近くで遊んでいた子供の暴投なのか。

 反射的に体を捩ったが、今度は鳩が突っ込んで来た。


(ええ~っ)


 着地に失敗。打ち所が悪くて意識が遠退く。


(ちょっと!待って!もっかい!やり直しさしてよ)


 根性で意識を呼び戻す。


(えっ?あれっ?階段??)


 木から叩き落とされた場面だったのに。


(何これ?変なデザインの制服?)


 黒い忍装束の、くの一だったはずなんだけど。


(次の現場までの移動がトンでる?頭打ったからな~)


 忍者物が済んだら、人気乙女ゲーム実写版とやらの現場だった。たしか、ゴージャス階段を派手に落ちる仕事の筈だ。


(がっ!頭打った。なんで変な軌道で落ちてくかな!)


 女にはなかなか居ない、落ち方のカッコ良さが評判だったのに。悔しい。

 再び目の前が暗くなる。


(もっかい!もっかい!こんな美しくない落ち方は、認めない)


 再度、覚醒にチャレンジする。



 次にはっきりした記憶があるのは、7歳位だった。

 田舎で魔力暴走を起こし、領主館で保護された孤児としての目覚めだ。


「お嬢ちゃん、お名前言えるかな?」


 優しそうなおじさんが、大きな体を低くして、目線を合わせてくれた。


(うおっ、巨人!)


 ブリュネットに、緑の眼。日本語じゃないけど、何だか理解出来てしまう。


 私、頭打って語学に目覚めたか?これからは、国連通訳官でも目指すかな。でも、それだと、落ちてる暇ないかも。

 却下だね。まだ、道半ばにすら到達してないんだ。先輩方の華麗なる落下術を、盗み尽くしたその先が本番だから。

 通訳とか、やってる場合じゃないなあ。


(取りあえず、名乗るか)


「小山田茜です」


(んっ?私の声変じゃない?声違う?)


「オヤーダカー?珍しいお名前だね。外国人には見えないけれど」


(外国人に見えない?どういう意味かな)


 見回すと、ヨーロッパ風の落ち着いた内装だ。私は巨大なベッドで、半身を起こして座っていた。


(いや、巨大なベッドじゃない。私が小さいんだ)


 おじさんが優しく話しかけてくれるのは、私が子供だからだった。


(なんだ、夢か)


「村では何と呼ばれていたんだい?」

「村?」

「君の住んでいた所だよ」

「え」


 私が住んでいたのは、小金井(こがねい)のアパートだ。郊外ではあるが、村ではない。市だ。


(いや、そう言う事じゃないよね。夢なんだし。夢の私は、ヨーロッパの村人か。落下術には、縁が無さそうだな。つまらん。)


「思い出せないか」

「僭越ながら、申し上げます」


 おじさんの後ろにいた、長身の金髪碧眼イケメンが、急に口を挟んだ。


「何だい」


 おじさんは、大人にも優しい。


「その子は、エルシーと言って、母子家庭でした。母は、貧しいお針子で、先週病気で無くなりました。現在7歳です」


(ふーん、可哀想だな)


 何やら、不憫な子供のようだ。夢なんだから、もう少し景気のよい人生が良かった。階段落ち選手権世界王者とか。


「それで不安定になって、暴走したんだな。可哀想に」

「暴走?」

「それも覚えてないか。無理もない。君の魔力が暴れて、爆発してしまったんだよ」

「ば、爆発?!」


(ちょっとまて、マリョク?)


「マリョクって何?」

「それも知らないのか。可哀想に」


 おじさんは、悼ましそうに私を見た。


「人にはみんな、魔力がある。魔力を操って、魔法を使うんだよ」


 なんか当然のように言ってるけど、夢の世界には、魔法があるんだな。風を操って、見た目だけ痛そうに落ちるとか、楽しそう。


「この子は、領主館で責任を持って育てよう」

「は。では、手続きの書類をご用意致します」

「うん、頼むよ」



 そうして私は、エルシー・エイキンとなった。

 エイキンは、領主の名字である。優しそうなおじさんは、領主だった。ブライト領主セオドア・エイキン卿だ。

 奥方は、メアリーと言う。この人も優しい。


 義理の兄となるロイドは、5つ歳上だ。王都の寄宿学校にいる。まだ会っていないので、よくわからない。

 義理の弟ジョージは、1つ歳下。家庭教師について、魔力制御を習っている。ジョージは、優秀らしい。



 エイキンになってしばらく経った頃に、私も、魔力制御を学ぶことになった。


「お前、暴走起こしたんだって?庶民は、魔力制御も出来ないんだな」


 ジョージは、両親に全く似ていない性格だ。見た目は父親にそっくりなのに。眼が怖い。


「明け方に走り回っているんだって?田舎の奴は、頭おかしいな」


 本当に、嫌な奴だ。領都だって、たいして都会じゃない癖に。

 私は、無視してトレーニングを積む。大人になった時、落下技術者だった頃の感覚が鈍くならないように。


 自分の意識がはっきりしている夢を、明晰夢と言うらしい。詳しくは知らないが。少なくとも、この夢で私は、意思を持って行動することが出来ていた。


 いつ覚めるか解らないけれど、折角なので、エルシー・エイキンとして、行けるとこまで行ってみようと思った。



 夢の私には、膨大な魔力があった。それで、制御が難しいらしい。制御を学び始めた頃には、何回も暴走しかけた。

 一方ジョージは、既に幾つかの入門魔法を使いこなせていた。


「庶民に家庭教師なんか、無駄だよな」


(庶民、庶民煩いわ。クソガキが。転びかたが無様なんだよ。ちゃんと見てたからね)


 この前こいつは、炎の魔法を大きく出しすぎて、慌てた拍子にスッ転んだのだ。全く芸術性の無い、醜い転倒だった。私の敵ではないな。

次回、エルシーとエイキン家の人々


よろしくお願い致します

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