第九話 ゼフル平原
序章、第1話と同じ内容です。多少の文言や文章の追加はありますが、読み飛ばしてもらっても構わないと思います。最後の1文だけ読んでください。次の第10話に続きます。
リュークが、「皮袋にもう少し余裕がある」と言っていたのを、「皮袋にまだ余裕がある」と訂正しました(2020年6月3日訂正)
街の外に出てすぐ、おかしなことに気が付いた。
モンスターは疎か、動く物がいない。
正確には、鳥は飛んでいるし小さな虫もいる、さらに遠くを歩く4,5人のパーティーは2組ほど見かけた。
しかし、RPGで言うところの狩るべき対象であるモンスターがいないのだ。
よく、こんな状態でRPG――ロールプレイングゲーム――などと謳ったものだな。
腹ごしらえは済んだばかりだ。体力はある。
しばらく、歩いて回ることにした。
何か採集して、お金になりそうな物がないか、探して回る。
5分ほど平原を進んだところで、岩陰からヒュッと走り出る影が見えた。
こちらと目が合うと、ピタッと動きを止める。
背中を少し丸めて、こちらの様子を窺うその姿は、2本の尻尾があることを除けば、猫以外の何ものでもなかった。
「これって、モンスター?」
2本の尻尾が化物っぽさを、僅かながら醸し出している。
「モンスターだろうなぁ……。やっと、バトルだな!」
俺は、ブロンズソードを鞘から引き抜く。
しかし、4人が戦闘態勢になるや否や、猫はぴゅうっと逃げ出したのだ。
「あ、マテッ」
思わず叫んだが遅かった。
半ば予想できた動きでもあった。
地球の猫なら、こちらと目を合わせつつ、こちらの動きを窺って、スキをついて逃げ出す。
それと全く同じ動きだったのだ。
「尻尾が2本、それ以外は、どこからどう見ても猫でしたね」
ハタカが言う。
10以上も年下の俺たちに相変わらず丁寧語だ。
「嫌だな、あの子を倒さなきゃいけないの?」
マリが言う。
「これは、先行きが不安だな。猫だけではなく、たいていのモンスターは逃げるんじゃないか?」
ブロンズソードを鞘に収めながら、俺は言った。
「あの、グレイヴを持った冒険者が槍を持って行けと言った理由はこれだったのか……」
「どういうことですか?」と、マリが聞いてくる。
「背の低い動物を狩るのに、剣などのリーチの短い武器では振り下ろす間に逃げられてしまう。そこで柄の長い=リーチの長い武器が登場する。リーチの長さで、牽制もできるし、人間ぐらいの身長の高さからでも、上から突き刺して攻撃ができる。場合によっては逃げ道を断ちながら薙ぎ払うこともできる」
「なるほど」
「それにしても、ゲームの最弱モンスターって、普通はスライムだったり、足の付いたキノコだったりするんですけどね。まさか、猫とは……」
「スライム? ゼリーのお化け見たいなの?」
マリが聞く。
「そうだよ」
「それも嫌だな」
「さて、槍は1本しかない。どうやって倒す?」
リュークが聞いてくる。
「正確には、ロングステッキですけどね」
俺は苦笑する。
「営業の仕事でまわっていたときに、お客さんから猫を捕獲する方法について聞いたことがあります」
ハタカが言う。
「どうやるんですか?」
「基本的には捕獲器を使うらしいです。でも、持っていない場合には段ボール箱でも代用がきくとか……。餌やマタタビで釣って、箱に入ったところをさっと蓋を閉めるのだそうです」
「どれも、無いじゃないですか」
俺は、軽く突っ込む。
「そう、そこで人が複数いる時限定の方法もあります。木や岩、建物などの構造物を使って追い込み、退路を断って囲むというやりかたです」
ハタカが話をしながら、地面に落ちている小枝を手に取る。
そのまま、草地の禿げたところに何やら絵をかき始めた。
「そこで、こういう作戦はどうでしょう」
ハタカの言う作戦はこうだった――。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
岩を中心にして
①コウ:岩陰にいる猫を、岩の左から右回りに追い立てる。
●猫は反対に逃げようとする。
②リューク:素早さを生かして①コウとは反対に岩の右から回り込み、手を広げながら●猫の逃げ道を塞ぐ。
●猫は岩に沿うように右回りで逃げようとする。
③ハタカ:④マリと2人で、岩の後ろから左回りに、●猫の進行方向に出てそのまま取り囲む。
右手に槍――本当はロングステッキ――を持って、●猫が囲みから逃げないように道を塞ぐ。
④マリ:③ハタカと一緒に●猫を囲み、ただひたすらにメイスで殴る。
●猫の後ろから①②が追い付いて囲みを固める。そのまま4人で殴る。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「なるほど」
悪くない作戦だ。
3人が同意しさっそく作戦を実行することになった。
大きな岩を見つけたら、俺とリュークが左と右2手に分かれる。
残りの2人も、岩の後ろから右へ、リュークの後を追うように立つ。
4人全員が配置についたのを確認して、俺が岩陰を覗く。
いた! 尻尾2本が見える。
俺は右手を上にあげ、ブロンズソードを左手に持って斜め前に突き出しつつ、時計回りに少し進み脅かすように叫ぶ。
「いたぞ!」
これが合図だ。
一瞬ビクッとした猫は俺と目を合わせた後、反対方向に逃げ出す。
しかし、そっちには向こうから回り込んだリュークが手を広げて待ち構えている。
猫は逃げるスピードを落とさずに、僅かに右の方、岩に沿うように進行方向を変えて逃げる。
その先にはハタカ、マリが待っている。
「そっちに行ったぞ!」
リュークも叫ぶ。
「OK、目視確認した!」
ハタカが答える。
ロングステッキを右手に持って、その方向から猫が逃げるのを防ぐ。
「いや~、来たぁ~!」
マリが叫ぶ。
おい、作戦は大丈夫か?
俺は猫の後を追う。
リュークも追う。
ハタカが猫を突き刺す。
攻撃ヒット。
ポケットに入れているスマホから音声が聞こえてきた。
「キャッツーとの戦闘に入りました。ハタカによる攻撃、ダメージ3」
リュークが猫の後ろ足を狙う。
「リュークによる攻撃、ダメージ3」
「やだ~、猫殴りたくない~。かわいそう~」
マリが叫びながらメイスで殴る。
マリが殴る。
マリが目を瞑りながら殴っている!?
「マリによる攻撃、ダメージ7。ダメージ6。ダメージ7」
よく、あれで攻撃ヒットするなぁ。
「キャッツーを倒しました。獲得経験値2、獲得金25〔メル〕」
マリが一番貢献している。
スマホの画面を見て、戦果を確認すると、倒したモンスターの名前がキャッ2となっている。
2ってなんだ?尻尾の本数か?
この作戦は思いのほかうまくいった。
岩陰に回り込んでも、猫がおらず不発の事も多かったが、猫がいれば9割の確率で倒すことができた。
探索の時間を含めて、平均して1体倒すのに30分。
3時間かけてやっと基本レベル3、スキルレベル2、『解体』スキルを取得するところまでこぎ着けた。
猫の死体を解体し、全ての素材を皮袋に詰める。
「この岩って、さっきも別の猫を倒したところじゃなかったですか?」
ハタカが聞く。
「そう言えば……」
「猫の死体が残っていないですね?」
「本当だ――。蒸発はしないよね、誰かが解体して持って行ったかな?」
たぶん、誰かが持って行ったのだろうという結論になった。
「さて、レベルも上がったし、いったん街に戻りますか?」
俺が聞くと、
「いや、皮袋にまだ余裕があるから、もう1体倒さないか?」
リュークが答える。
さすがに3時間続けていては、体力もなくなる。
ペットボトルの水は3本目がもう少し残っているが、そろそろ足にきている。
ゲームの中ではこういう事はないだろう。
この現実世界では、HP以外に、数値には表せない“疲れ”というものが存在するのだ。
――なかなかハードだなと思う。
マリもヘトヘトだ。
あれだけメイスを振り続ければ当たり前か。
以外にも、おっさんハタカは元気そうだ。
不思議そうに見ていると、こちらの考えを察したのかハタカが言う。
「私は大丈夫ですよ。営業で歩き回って、鍛えていますから!」
なるほど。
俺は、マリに聞いてみる。
「どうする?あと1体いける?」
「がんばります!」
それにしても、リュークも体力ある方なんだな。
きっと、医者になるには、長時間の手術に耐えられる体力がいるんだろう。
マリの返事を受けて、俺は「ラス1頑張りますか!」とリュークに答える。
10分歩き回って、森の近くの岩でやっと最後となる1体を見つけた。
「リュークさん、そっちお願いします。さっきの要領でハタカさんまで追い立てましょう。ここからなら、行けそうです」
「OK」
「あ、ヤバ、森に逃げられてし――」
「クッソ、追うぞ。コウ、2人に声かけて――」
「わかりました」
「――!どうしてこうなった?」
逃げる猫を追い立てて森に入ると、猫の群れに囲まれてしまった。
さらに、今まで見たこともない大型の猫モンスターに退路を断たれている。
誘導されたのか……。
森に入ったのは間違いだったな。
4人で背中合わせになり、それぞれの武器を前に構える。
まさか、バトル漫画でよく見かけるシチュエーションを実演することになろうとは……。
なるほど、「全員、槍を持て」とあの冒険者が言っていたのは、こういうときのためだったのだ。
今さら気付いても、もう遅い。
「何体いる?15体はいるな」
「20体です」
ハタカが即座に答える。
「あれはボスですか?あのボスと合わせて21です」
「あいつをヤレば、他はまた逃げ出すんじゃないか?」
「そう思います。俺がいきます。後ろ任せていいですか?」
俺は、ブロンズソードを掲げてボスの方を向き、一歩前に出る。
「マリ、ちゃんと目を開けて構えろよ」
「もう、大丈夫。さっきまでの戦闘で慣れた。この状況は大丈夫じゃないけど……」
4人の中心を軸にして、回るようにフォーメーションを動かすと、それに合わせて猫達も外円を回るように動き、距離を詰めてくる。
同時にボス猫が一歩下がり20体の猫が前に出てくる。
「くっ、読まれてるぞ!」
「ボスも外円を回りながら動いてるので、塞がれていた退路は開けました。1点突破で逃げましょう」
「それしかないな、ハタカさんが出口の方に向いたら、ステッキを前に突き出しながら突破口を開いてください。マリは周りを殴って蹴散らす。後ろは俺とコウに任せろ!」
「「「了解!」」」
ハタカさんが出口の方に向いてステッキを突き出すのと、猫が一斉に飛び掛かってくるのが、ほぼ同時だった。
さっきまで1体を4人で囲って3回、4回と殴りつけて倒していたぐらいの敵だ。
直前にレベルが上がったとはいえ、1回殴っただけで倒せる相手ではない。
しかもこちらは、現時点で既に体力の消耗が激しい。
幸いだったのは、所詮は猫ということだ。
体が小さいので、1回殴れば後ろに弾き飛ばせる。
しかし、数の暴力には流石に勝てなかった。
5体は倒せただろうか……。
それでも、10体以上まだ残っている。
さらにボスは無傷。
こちらのHPと体力は残り僅か、息が上がって体が動かない。
絶体絶命……。
そう思ったときだった、森の出口の方にいた猫が3体、バタバタバタッと立て続けに倒れる。
そこにいたのは――。
読んでいただき、ありがとうございます。次回、第十話。4人の運命はいかに!?こうご期待ください。