第六話 街の中へ
目標金額達成までの残金を追記(2020年7月12日追記)
ソードマン→ソードマスターに変更(2020年7月25日変更)
銀河鉄道の駅から中世ヨーロッパ風の星に降り立ったような、そんなギャップを感じさせる光景だった。
この駅はこの星パストの文明には不釣り合いだった。
それともう一つ、月(なのか?)は、やはり異様だった。
色といい、大きさといい、形といい。
まるで、地球に土星が落ちてこようとしているような――。
もっとも、土星が本当に落ちてこようとしているならこんなに小さくは見えないだろう。
むしろ土星に地球が飲み込まれるぐらいに感じられるはずだ。
ここが地球ではないことを実感しながら、俺はある考えに思いを巡らせていた。
地球人としてここに連れてこられたのは、俺たちが最初なんだろうか?
駅前の通りを見ると、パラパラと人が歩いている。
どの人も肌の色が少し赤味がかっている。
月の色のせいだろうか? 地球人ではない。
耳が小さく立体感がない、肌に張り付いている感じだ。
こちらを睨みつけて難しい顔で話をしている2人もいる。
歓迎はされてない……? この駅の異様さを考えるとなんとなく頷ける。
どうやらここに連れてこられた地球人は俺たちが最初ではないな。
「俺たちより先に来て、ここに住んでいる地球人を探しましょう」
「え?」と奥田が返す。
研修医は俺の意図をくみ取ったのか、「そうだな」と答える。
通りを、月とは反対の方向へ暫く進む。
そこで、左手にグレイヴ(長い柄の先に剣がついたような槍)、右手にスマホを持った男が足早に通り過ぎるのを発見した。
俺と研修医が示し合わせたかのように走り出し、男を追いかける。
慌てて、後の2人も追いかけてきた。
俺は、言葉が通じることを確信して話しかける。
「すみません、教えてほしいことが!」
男は歩みを止めて振り向いた。
「32組か?」
「32組?」
「お前らの事だよ。半年に1回、列車に乗って運ばれてくる。今年で16年目だそうだ。俺も、ここに10年住んでる。俺は11組だ」
当たりだった。ここに住んでいる地球人がいた。
「情報料は安くねぇぞ、1件につき1万だ。今の、“32組”の件は俺が勝手に喋ったことだ。まけといてやる」
「え?」
「当たり前だろ、ここじゃあ、ただ生活するだけでも命が懸かってんだからよ! 文無しでここに来たわけじゃないだろう。1万なんて安いもんだ」
当てが外れた。
なんでも教えてもらえると思ったのに。
「どうしましょう。何か聞きますか?」
「コウが決めろ。俺たちでは何を聞いたらいいかもわからない。金ならいくらかは出せる」
「1人1万で、4件きいてもいいですか?」
「ええ」「はい」奥田とおっさんが答える。
「では、まず1つ目。RPGシステムにある職業を知っている限り教えてほしい」
「職業1つにつき1万だ」
「なっ、そんな!」
なんて、ボッタクリなんだ! くそ野郎!
もちろん、思っていることを顔に出さないようにして、丁寧にお願いする。
「そこを何とか、1万で全部お願いできませんか?」
「仕方ねぇなぁ、2万で知っているのを教えてやる」
「わかりました。それでお願いします」
「職業についていえば、貴重な情報が他にもあるが、それも含めて3万でどうだ?」
ぐっ! なんてがめつい――。足元見てやがるな。
「それもお願いします」
「じゃあ、トレードよこせ」
「え……っと」
「なんだ、車内でGMに聞いてこなかったのか? 【獲得金】を開け。その中に【トレード】ボタンがある。今のもおまけだ」
当たり前だろ!
「わかった、俺が払っておこう」
研修医が男の前に出る。
「【トレード】で……、相手をリストから選んで……、“リップオフ”さんですか?」
「そうだ」
男がスマホを操作する。
「ふん、“リューク”だな。チャラチャラした名前だ。よし3万、トレード受付完了。俺が情報を話し終わったら、そっちの【最終トレード確認】ボタンを押すんだ。いいか」
「わかった」
「まず、俺が知っている職業は、戦士、シールドアーマー、騎士、ウィザード、プリースト、アーチャー、盗賊、商人、魔獣使い。上級にソードマスター、パラディン、マジックナイト、賢者、アサシン。あと、召喚士なんてのもあるらしい。それから、次。職業は一度決めると上級にはできるが、変えることはできない」
「な! それだけ?」
「馬鹿野郎、焦るな。ここからだ。職業は2つ組み合わせることができる。ステータスとの絡みもあるが、上手に組み合わせると攻守ともに優れたスキルを持たせることもできる」
「なるほど。リュークさん【最終トレード確認】を押してください」
俺は、3万に対して充分な情報が得られたことを研修医に伝えた。
「他はあるか?」
男が聞いてくる。
「ステータスの事だ」
もう、丁寧に話す気にもならない。
「5つあるから5万だな」
「いや、そういう聞き方をしたいわけじゃない。賢者に必要なステータスを教えてくれ。これなら1万でいいだろう?」
「ふん、考えたな。まあいいだろう、トレードよこせ」
「今度は俺が」
そう言ってスマホを操作する。
【獲得金】から【トレード】を選ぶ。
なるほど、近くにいるプレイヤーがリストアップされるのか。
“リューク”、“リップオフ”、“マリ”、“ハタカ”。
“リップオフ”を選んで金額を入力し、【トレード申請】ボタンを押す。
「“コウ”か」
直前まで“コーイチロー”だったプレイヤー名を“コウ”に変更しておいた。
こいつに、本名に近いものを知られたくない。
相手がトレード受付をしたことで、こちらに【最終トレード確認】ボタンが表示される。
2段階になっているんだな。
「賢者に必要なステータスは2つ。集中力とカリスマだ。これは、おまけだ。集中力とカリスマ両方にMPアップのボーナスが付く」
やたらと“おまけ”の好きな奴だ。
本当は教えたいんじゃないのか?
俺は【最終トレード確認】ボタンを押す。
「まいどあり! そういやぁ、これも最後に教えておいてやる。いっぱい弾んでくれたからおまけだ。」
本当に、“おまけ”の好きな奴だ。
教えたいんだろう。ただで、全部教えろよ!
「俺は10年このトゼフルにいて、稼いだのは250万だ。生活していかなきゃならないし、武具の買い替えは半年に1回5万かかる。地球に帰りたきゃこの街から離れるこったな。地球なら10年真面目に働けば1000万は貯まるだろう、割に合わねえよ。ただし、命あっての物種。死ぬなよ……。じゃな、また何かあれば声かけろよな!」
そう言って男は路地の向こうへ去っていった。
意外と悪い奴じゃないのかもしれない。
がめついことを除けば……。
しかし俺はこのとき、この世界の相場を見誤っていた。
そのために、あんな目に会おうとは、このときは知る由もなかった。
「目標金額達成まで残り 999,987,600/1,000,000,000〔メル〕」
街探索まだ続きます。