第五十五話 俺たちに明日は来るのか
事は雪山を登り始めて4日目に起こった。
雪山と言えど、幸い吹雪くこともなく、例のRPGシステムのおかげでなんの苦もなく、むしろそれが4日も続いたことに緊張感も削がれ、ただ惰性で登っていたのがいけなかったのだろう。
ハッキリ言って気が緩んでいた。
残すところ後1日かなと話をしていた時だった。
俺たちの背後でドザァという音と共に、「うわぁあああああ」という叫び声が上がった。
声のする方に振り返る。
誰かが、滑落した!雪の斜面を流され落ちていく。
トゥモローだった。
「明日真!」
カムトゥルーが慌てて後を追おうとする。
それを、リュークとブレイブが止める。
「いや、無理だって!お前も帰ってこれなくなるぞ!」
極夜と言えど真っ暗闇ではない。
むしろ、光が雪に反射して明るいぐらいだ。
しかし、トゥモローが落ちていった方はここからでは暗くなっていてよく見えない。
助けに行くと、2次災害も起こりそうである。
救出は不可能に思えた。
「だって、明日真が!明日真が!」
馬鹿な、こんなことが起こるなんて。
今まで、8人で行動してきたが、何ともなかったではないか。
それが急にこんなことになるとは……。
ブレイブが冷静な口調で言う。
「スマホだ。スマホで連絡とってみろよ。向こうが無事なら連絡がとれるはずだ!」
「連絡がとれなかったら?」
「そのときは、そういうことだ」
「そういうことって、どういう事よ!」
カムトゥルーがブレイブにくってかかる。
「とにかく、かけてみろよ!」
カムトゥルーは辛そうな顔をして、スマホを手にする。
カムトゥルーのスマホから微かに呼び出し音が聞こえる。
しかし、通話に切り替わる気配はない。
「お願い、出て……」
カムトゥルーが顔を歪める。
「ダメ、繋がらないわ!」
俺は、ふと気になってブレイブに尋ねる。
「GPSのような機能は使えないんですか?」
「RPGだからかな、相手の位置情報を知る手段は敢えて無くしてあるみたいなんだ」
「くそっ、ダメか!」
それから、しばらく俺たちはカムトゥルーの悲愴な叫び声を聞きながら茫然としていた。
俺は、トゥモローに何度かスマホで連絡をとろうと試みたが、始めは聞こえていた呼び出し音も、ついには“電源が切れている状態”というアナウンスにかわってしまった。
カムトゥルーの叫び声が小さな嗚咽に変わったころ、ブレイブが顔を上げた。
「行こう。ここに留まっていても仕方がない。生きていれば会えるだろう」
ブレイブはカムトゥルーに目をやった後、俺たちの方に顔を向ける。
「誰か、カムトゥルーに肩を……」
「大丈夫よ、歩けるわ」
結局、その後すぐに街に戻る事になった。
もちろん『ゲート』に、トゥモローが滑落した場所を記録して……。
翌日、『ゲート』を潜った先は……吹雪いていた。
昨夜から、何度かトゥモローのスマホに連絡を試みたが、一向に繋がる気配はなかった。
もちろん、登山は中止。
あわよくば、トゥモローの救出もと考えていたが、視界は遮られ前に進むこともままならない。
「こんな中で生きていたら奇跡よね」と、カムトゥルーも辛そうな顔をしている。
3日後、足止めと引き換えに数日の休息を得た俺たちは、再び山を登り始めた。
そして、その日俺たちは、この星で最凶で最後の敵と対峙することとなった。
こんどこそ、更新再開します。
そして、もうすぐ終わります。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。