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第五十三話 機械獣

「れべる不適正者発見!タダチニ排除シマス!」


 そいつは、車のヘッドライトのごとく目を光らせて、ギュイーンギュイーンと音を立てながらやってきたかと思うと、いきなり機関銃を放ち始めた。


 ガタタタタタタタッ!


 ミシンで縫う時の音を、高く大きくしたような感じの音が響く。

 ブレイブと俺が皆の前に立って、アダマンシールドで銃弾をはじく。

 ブレイブいわく、アダマンタイトと言うのは金属ではない。

 まあ、わに甲羅こうらとして背負っていたぐらいだから、生体から生まれるものなのだろう。

 ゴムのような弾力と、金属のような頑強さがあるらしい。

 そうは言っても、アダマンシールドを持つ手には衝撃が響く。

 銃弾がアダマンシールドに当たりにぶい音を立てている。

 まさか、一生いっしょうのうちで銃に狙い撃たれる経験をすることになろうとは……。

 数十分前。



 ◇◇◇



「いいか、ここまで来るとそろそろ機械獣が現れる。準備をしておくぞ」


 トゥモローが話を始める。


「準備って、具体的にどんな準備をするんですか?」


「システムカット、それとフォーメーションだ。正確には調べられていないが、ある一定のレベルに達していないプレイヤーに対して攻撃をしてくる」


「一定のレベルって?」


 相槌あいづちを返すように聴き、俺は先を促す。


「レベル55ぐらいだ。50かもしれない。初めは威嚇射撃いかくしゃげきから入り、逃げるそぶりを見せないと本格的に狙ってくる」


「ゲッ、マジかよ!?」


 これは、リューク。


「威嚇射撃って?」


 マリが聞く。


「マシンガンだ。マシンガンで狙ってくる」


「ウゲッ!」


 再びリューク。


「一定のレベルに達していたとしても、奴には魔法、打撃が効かない」


「魔法、打撃が効かないって、どうやって倒すんですか?隠れてやり過ごすんですか?」


「魔法、打撃が効かないのはRPGシステム上でのことだ。そこで、鉄をも貫くアダマンタイト製の武器、防具とシステムカットのコンボだ。『キュア』だけはシステムに依存しないので、治療要員としてカムトゥルーとマリだけシステムONのままでいく」


「アダマンタイトの防具って銃弾は防げるのか?」


 リュークは銃で狙われることに、やたら反応している。

 まあ、だれだって嫌だろう。


「それについては、ブレイブの方が詳しいかな」


 トゥモローがブレイブの方を見る。


「OK、説明を引き継ごう」


 アダマンタイトの性質上、銃弾を防ぐことは難しくないらしい。

 それでも、鎧の隙間に入るとやはりダメらしく、盾役の2人、すなわち俺とブレイブが先頭に立って銃弾を防ぐことが重要だということだった。



 ◇◇◇



 敵の攻撃は、すでに威嚇射撃の段階は終了している。

 盾を構えて銃弾を防いでいる時点で逃走の意志無しと判断されたのかもしれない。

 今回のパーティーにおいて、“レベル不適正者”とはマリの事を指すのだろう。

 なぜなら、マリとカムトゥルー以外はシステムカット、すなわちスマホの電源を切っている状態だからだ。

 そう考えると、マリをおとりに使ったことになるのか?

 ごめんマリ。

 心の中で密かに謝っておくことにする。


 俺とブレイブの後ろにトゥモローとハタカ、その後ろに続いてリュークとホープ、最後尾にカムトゥルーとマリ、縦2列の陣形だ。

 敵の隙を見て、トゥモロー、ハタカが槍を突き出す。

 ホープとリュークは軽装で敵を攪乱かくらんするのが目的だが、機関銃に狙われている間は身動きができない。

 機関銃の弾が尽きるのを我慢して待つしかない。

 そもそも、機関銃なんてものは1分間も打ち続けられるようなものではないというのはハタカが話していたことだ。

 弾も尽きるし、なにより銃身がもたないらしい。

 ハタカは意外とマニアックな趣味を持っているようだ。


 数十秒我慢すれば、敵の弾は尽きて隙が生まれるだろう。

 その隙をついて攻撃するという作戦だ。

 その数十秒が長い……。

 盾が重い、銃弾を受け続けて手が痺れてきている。


「まだか?長いな。もう1分ぐらい過ぎてるんじゃないのか?」


 俺の隣でブレイブがつぶやく。


「そういえば、奴の攻撃は、マシンガン以外に何があるんだ!?」


 機関銃の音に掻き消されないように大きな声でトゥモローに聞く。


「すまん、わからん。まともに倒したことはない!」


 おいおい、まじかよ。

 本当に銃弾は尽きるのか?

 大きな熊の形をしたロボットの体の中は、モーターやバッテリーが組み込まれていうるだろうが、その部分を差し引いても弾倉の容量はかなり大きそうに思える。

 大きさで言えば、さっきまで倒していた白熊より一回りも大きい。

 そんなようなことを考えていると、機関銃の音がカスカスカスッと空回りする音に変わる。

 尽きた!


「今だ!」


 誰ともなく声を上げる。


 俺の後ろの4人が散開する。

 最後尾の治療役2人を守りながら、俺も攻撃態勢をとる。

 狙うのは奴の動力部分。4本の足だ。

 最悪、倒せなくても動けなくすれば逃げきれるだろうということだった。


 アダマンハルバードの斧部分を奴の右前足の付け根目掛けて、斜め上から振り下ろす。


 グィン!


 何とも言えない音を立てて、ハルバードは奴の右肩に突き立った。

 いける!

 金属を切れている!

 まさに斬鉄剣だ。


 2度目の攻撃を喰らわせると、奴の体が少し傾き始めた。

 と、同時に背中の上の方、機関銃の出ている辺りでベルトコンベアーのような音と共に、カンカンカンという音が鳴り響く。


「おい、何の音だ?」


 それぞれの顔を見合わせる。ハタカが青い顔をしている。


「再装填している?はっ、初めの陣形に戻れ!」


 銃口がホープの方を向いて機関銃が掃射されるのと、俺が奴の右前足を挫くのはほぼ同時だった。


「あぁ!」


 ホープの悲鳴が上がる。

 奴の体の陰になって全ては見えないが、ホープが倒れこむのが目に入る。

 やられたか?

 大丈夫か?

 幸いなことに奴の体は右前足側に倒れこみ、どうあがいても銃口がホープの方を向くことはなくなり、とどめを刺されることは無かった。

 リュークはホープを庇いに入り、同じく機関銃で狙われることは無い。

 奴がもがいている間に、残りの6人で集まり、最初の陣形を取る。そのまま、奴を中心に円を描くように、左後足側、ホープのいる方にじりじりと陣形をずらしていく。


『キュア』の届く範囲に入って、カムトゥルーがホープの治療を開始した。


「大丈夫?」


「ごめんね、足をやられたの。でも、何とか生きてる!」


 まったく、どんな仕組みなのだろうか、横目で見ていると『キュア』の魔法により、生き物が這い出すように傷口から銃弾が出てきて、その直後に傷口を塞ぐ。


「これで大丈夫ね。でも、しばらくは歩けないわよ。リューク、そのまま肩を貸してあげて」


「ああ、わかった」


「大丈夫なんだな!今のうちに、畳みかけるぞ!」


 機関銃の掃射を上手くかわせるように右後足、左前足の順に足を破壊する。

 左後足を残して機関銃を無力化した後、奴の解体作業に入った。


 なんとか、倒したのだ。

「これで、あいつらのかたきはとったぞ」


 トゥモローがポソリと言う。


 この間、カムトゥルー、マリのスマホは一切反応を示さない。

 ようするに、モンスターとして認識していないことになる。

 もちろん、経験値やお金が入ることもない。何のために、誰が持ち込んだんだ?

 明らかに、この星の物ではない。


「こいつの名前は?」


 俺が聞くと、


「名前なんてどうだっていだろう?熊ロボットだ」


 ブレイブが答える。

 いやいや、ブレイブさん、それではあまりにもセンスなさすぎでしょう。


「ロボットベアでいいんじゃないか?」


 リュークがそれを受けて答える。

 まんまだな。

 ブレイブとは気が合うんじゃないのか?

 見ていると、2人で意気投合してロボットベアに決めてしまったようだ。

 もう、何でもいいです。

 好きにしてください。


「ロボットベアの急所はここだな」


 ブレイブが解体を続けながら話す。

 喉の後ろ。

 左右の前足の間。

 動力源と思われる小型の融合炉のようなものがある。

 腹の下に潜り込めば狙えなくはないが、簡単ではなさそうだ。


「少し気になるのは、マシンガンの弾倉が1つしかないことだ。さっき、再装填してたよな?」


「はい、あの音はそのはずです」


 ハタカが答える。


「そこら辺に空になった弾倉が落ちてないでしょうか?」


「見当たらないんだよ」


「ふ~んむ」


 いくつかの疑問は残ったが、俺たちはインベントリに解体したロボットベアを突っ込んで、先に進むことにした。

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