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第五十二話 極寒の地へ

「まるで、ベネチアみたい!」


 デッキの手すりから身を乗り出すようにしてマリが言う。


 船はゆっくり波止場へと近づいている。

 なるほど、ベネチアのゴンドラのような小舟がいっぱい停泊している。

 さらに建物の間を縫う様に運河の入り口が伸びており、そこからゴンドラが出入りしている。

 ここは地球のベネチアだと思えるぐらいにそっくりだが、明らかに違うのは港街を行き交う人々だ。


 俺たちと同じ姿形の人もいれば、ドルフィーナのようにイルカを人にしたような、あるいは人間の体、身長を2回りも大きくしたような、果ては、全身毛が生えているような、そんな人(?)たちが2本の足で立って歩いている。


「ここは、世界の中心地ともいえる港町。リライシーン。確かに、ベネチアに似てるわね」


 カムトゥルーがマリに答える様に話す。


「色々な種族の人がいるのね」


「あの、背の高い種族が巨人族よ。彼ら用に作られた防寒具が、ちょうどアーマーの上に着こめるの。少し、裾を直す必要はあるけどね」



 ◇◇◇



 上陸後にゲートを開いてリューク、トゥモローと合流し、最終的な準備を整えた。巨人族の服をアーマーの上に2枚も着こんでは、案の定だるまのようになって、これで身動きができるのか不安になるほどだった。


「腹ごしらえもすんだし、今度こそ、行くわよ!」カムトゥルーが皆に呼びかける。


「OK!」「了解」「わかりました」


 他の7人が口々に答える。


「ゲート⑤オープン!」


 ゲートを潜った瞬間に眉毛が凍り付く。

 鼻の奥がキンとなって、軽く痛みを生じる。防寒具のおかげだろうか寒いという感じではない、が、痛い!こんなところで、モンスターと戦うのか?

 それにしても、ここはどこだ?

 リュークも同じことを思ったのか、スマホを取り出して確認を始めた。


「マップ!」



挿絵(By みてみん)



「ここは、フロンザール地方エリアよ」


 幸いなことに吹雪ふぶいてはいない。

 空は、満点の星空。

 !あれは、オーロラではないか?

 光のカーテンのような帯が揺らめいている。思わずマリの方に目をやって、空を見るように合図をする。


「うわぁ!」


 とだけ感嘆の声をもらし、マリは言葉を失っている。


 美しすぎる。

 マリのことではなくオーロラがだ。

 いや、マリも充分美しいのだが……。

 惜しむらくは、ここに2人きりでいないことだ。


「リライシーンとの時差5時間ってところか。向こうを昼過ぎにゲートを潜ったから、朝の8時ぐらいだな。もっとも、極夜でこの時期は太陽なんて登らないがな」


 トゥモローが言う。


「こんなところにモンスターがいるのか?」


 俺が疑問を口にすると


「地球だって、北極や南極に動物はいるじゃない」


 ホープが答えてくれた。

 確かに、北極熊やペンギン、アザラシなんてものがいると聞いたことはある。

 もちろん、実際に北極や南極で見たことは無い。


 そうこうするうちに、そいつに遭遇した。

 動物園でなら見たことのある、白い巨体だ。

 動物の進化って、そんなに大きく外れないのかもしれない。

 ここも、地球も同じような進化をしているようだ。

 少しだけ違う事と言えば、サーベルタイガーのような長い牙がこの白い熊にはあるということぐらいか……。


「ホワイトサーベアーだ!お前たちは下がっていろ!」


 トゥモローがこちらを振り向く。


 お前たちとは、俺たち32組の事を指すのだろう。


「ショルダー!シールドブロック!ダブルウォール!」


「ショートタイム!パーフェクト・ゼ・シールド!」


 ブレイブ、カムトゥルーがそれぞれ補助魔法をかける。

 俺たちは、同心円状に立ち上がった透明の壁の中に避難するように入りこむ。

 透明といっても、モンスターの攻撃を受けるたびに、コィーンと高い音がして白いエフェクトが入る。

 確かにそこに壁があることがわかる。壁の内側から槍や弓、魔法で攻撃するのがセオリーだ。


「ホーミングアイス!」

 先輩たちの攻撃に交じり、ハタカも応戦する。

 が、しかし……。


「ハタカの『ホーミングアイス』による攻撃。ダメージ9」


「氷系の魔法は効かないわよ!炎系はないの?」


 カムトゥルーが叫ぶ。


「ファイヤーアローシャワー!」


「カムトゥルーの『ファイヤーアローシャワー』による攻撃。ダメージ576」


 何という火力!


「誰か!システムカット行けるか?」


 ブレイブがこちらの方を見る。


「俺行きます!」


 俺は慌ててスマホの電源を切り、アダマンシールドとアダマンハルバードを構える。

 ズシリと重いが、何とか動けそうだ。

 アダマンハルバードは槍と斧が合わさった武器で、アダマンタイトで作られている。

 槍の刃の始点、斧と交わる所に真紅眼レッドアイあつらえられている。

 真紅眼にどれだけの効果があるか分からないが、アダマンタイトの武器というだけでも十分だろう。


「喉元を狙え!」


「了解!」


 了解と言ったものの、それなりの重量のある装備を取り回しながら、ピンポイントに敵の急所を狙うのは、なかなか至難の技だ。


「2枚目のウォールが限界値を超えました。ウォールが消滅します」


「うぉぉぉぉ!」


 壁の消滅と同時に前に向かって槍を構えダッシュする。


「うぉりゃぁ!」


「システム外の者による攻撃。ホワイトサーベアーを倒しました。獲得経験値1120、獲得金2050〔メル〕」


「レベルが37に上がりました」


 俺以外の3人のレベルが上がったようだ。


「いいぞ、良い動きだった!」


 ブレイブに褒めてもらえた。

 武具の重さにもそろそろ慣れてきたかもしれない。



 白熊の素材を回収しながらトゥモローが言う。


「本当は、こいつの毛皮を使えば、軽くて丈夫な防寒具ができて、アーマーの上に1枚で済むんだけどな……。今さらだけどな」


 少し想像してみたが、ダルマがシロクマに変わるだけで、大した差は無いように感じた。



 システムカットを4人で回しながら戦闘を繰り返し、レベルが40を超えたころに奴は現れた……。

いつも読んでくださりありがとうございます。

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